歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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新章開幕しました。


怒りの日

 

 

 

 その日、ザフトによるオーブ侵攻が行われた。

 少年は、家族と共にシェルターに向けて走っていた。

 その途中で、妹が落とした携帯が路地に滑って行ってしまった。

 

「俺が取ってくる。

 父さん達は先に行ってて!」

 

 そう言って、少年は路地に入っていった。

 妹の携帯を拾い、通りに戻った少年の目に飛び込んできた光景。

 上空にいるディンが銃を構えている。

 その銃口の先には、少年の家族が居た。

 

 ディンによる銃撃が行われた後、少年の家族の姿は無かった。

 

 少年には、目の前の光景が理解できなかった。

 

 父さん達は、何処に行ったんだ?

 

 ついさっきまで家族が居た場所を呆然と見ていた。

 周りでは、カガリがザフトを挑発して自分を狙わせようとしている。

 しかし、少年の目や耳には入っていなかった。

 少年は見つけてしまったのだ。

 紅く染まった血溜まりの中で、小さな手が落ちているのを。

 少年は、その手を拾い上げて理解した。

 家族は、もう居ないんだと。

 

「うわあああぁぁぁぁ!!」

 

 少年は、第3放送局へ向かって飛んでいくディンを怒りと憎しみの籠った瞳で見上げていた。

 

 

 

 暗い部屋の中で、少年はベッドに座りながらテレビを見ている。

 画面の中では、カガリがザフトやプラントへの復讐を否定していた。

 

「なんでだよ・・・なんでオーブは、アスハは仇を取ってくれないんだ!」

 

 俺は、目の前で家族を殺されたのに。

 なのになんで、この国は俺の想いを掬い上げてくれないんだ。

 少年の中でザフトやプラントへの怒りと憎しみが、そしてそれと同じくらいオーブへの失望が広がっていた。

 それでも、最初の頃はまだ良かった。

 周りも自分と同じようにオーブ政府の対応が許せないと憤っていたのだから。

 

 

 だが、その動きも追悼式典で変わった。

 国民の多くがアスハの理想を認めるようになってしまった。

 復讐を叫んでも、哀しい顔でいつかきっと乗り越えられると諭されるようになった。

 

 違う、そうじゃないんだ!

 家族が奪われたのに、なぜ奪った者達と笑い合う世界を望めと言うんだ!

 

 奪われた痛みを知るからこそ、奪う側になるな。

 未来のために乗り越えて行くんだ。

 そう、周りは言う。

 それは、正しくて崇高な行動なのだろう。

 物語の中の主人公なら、その言葉を受け止めて前に進んでいくんだと思う。

 でも、俺は違う!

 アスハの言う事は、きれい事にしか聞こえなかった。

 家族を奪った奴らがのうのうと生きている。

 そんなことは許せない。

 奴らに報いを与えたい。

 心が復讐を望み、荒れ狂っているようだ。

 それでも、子供に過ぎない自分には何も変えられない事も理解してしまっている。

 

 

 高台の丘で海を見ながら絶望していた。

 連合もオーブと歩調を合わせて行動している。

 プラントを滅ぼすために戦っている勢力がない。

 ブルーコスモスのテロリストになる事も考えた。

 しかし、すぐに意味がない事に気づいて止めた。

 テロを起こす事しか出来ない者達では、大したことは出来ない。

 それに、俺が憎いのはプラントのコーディネーターだ。

 地球のコーディネーター達じゃない。

 八つ当たりがしたい訳じゃないんだ。

 このまま、心の中の激情も時と共に薄れていき、家族が奪われた事も過去になって行くのだろうか?

 心が諦めの色に染まりはじめた時、男に声を掛けられた。

 

「君も、オーブの決定に納得できない想いを抱えているのかい?」

 

「あなたは?」

 

「すまない、私と同じに見えてしまってね」

 

「いえ、たしかにアスハの決定には不満を持ってます」

 

「私たちがいくら不満を持とうと、この流れは変えられない。

 私達の想いが掬い上げられる事もないだろうね」

 

「俺は、どうしたらいいんでしょうか?

 このまま、家族の事を過去になんかしたくないのに」

 

「私にも分からないよ」

 

 少年を見る男の目は優しかった。

 

「君も、私と一緒に来るかい?

 プラントに対して厳しく対応する必要があると考えている人達もいる。

 そんな人達から誘いを受けているんだ」

 

「それ、テロリストじゃないですよね?」

 

「ははっ、そんな短絡的な人達じゃないよ。

 情勢を変える事が出来るようになるまで、秘密裏に準備を進める考えらしい。

 どちらかと言うと革命家かな?」

 

「わかりました。

 どうせ、このままじゃ埋もれていってしまうだけで何も出来ない。

 でも、気に入らなかったら抜けますよ?」

 

「それでいいよ。

 向こうも強制は出来ないからね」

 

 こうして、俺は彼らの手を取った。

 オーブを出た後、連合の方針に反発する財閥が運営する民間軍事会社の訓練施設に入った。

 そこで自分の手で仇を討つための力を求めた。

 戦争は終わったけれど、すべてが解決した訳ではない。

 Nジャマーで大きな経済的打撃を受けている地球の企業には、プラントを許せないと考えている者達も多いと聞いた。

 多くの火種も残っている。

 平和は、次の戦争のための準備期間に過ぎないと学んだ。

 いつか復讐の機会が来ると信じて、訓練を受けている。

 やっぱり俺は、物語の主人公の様にはなれないな。

 自分でもそう思う。

 それでいいとも思っている。

 誰もが主人公のように強くはなれない。

 復讐を捨てられない弱さも自分なんだ。

 

 

 

 プラント

 

 戦後、プラントは厳しい立場に立たされていた。

 大量の脱走者と戦争犯罪者を出し、ザフトの運用は不可能になってしまった。

 戦争犯罪者に恩赦を与えて赦すことも考えたが、冷静になれば、それが悪手だと理解できた。

 そんな事をすれば、プラントは何も変わっていないのかと世界各国から不信の目を向けられていただろう。

 兵士達が、プラントの立場を守るために恩赦を拒絶してくれたことで救われた。

 彼らの行いのお陰で、プラントの評価は首の皮一枚で繋がっていた。

 

 そんなプラントの中で、微妙な立ち位置にいる者達もいた。

 クライシス以降、地球で反コーディネーター感情が蔓延した時期に迫害から逃れるためにプラントに上がったコーディネーター達だ。

 プラントやザフトがやらかしてきた事とは関係ない、開戦後に移民した者たち。

 だが、地球から逃げ出し、プラントを頼ったのも事実だ。

 元からのプラント市民とも地球連合とも微妙な距離がある。

 彼らは、どの陣営からも仲間や同胞と言った関係を築けないでいた。

 

「まるでコウモリの童話みたいね」

 

「どうしたの?お姉ちゃん」

 

「なんでもないわ、メイリン」

 

 ルナマリアとメイリンのホーク姉妹も、そんな移民達の一部であり、自分達が寄って立つ場所を見失っている者達だった。

 彼女達の父親は、自分たち姉妹のためにプラントの市民権を求めてザフトに志願した。

 そして、戦場で戦死したと伝えられていた。

 彼女達は、そんな父親の想いを無駄にしないためにプラントの市民として生きていこうと考えていた。

 

 今日は、彼女達の父親の事でどうしても話さなければならない事があると言う者と会いに来ていた。

 この出会いが彼女達の運命を変える事になる。

 

 

「どうも、私はエルスマン議員の下でザラ派を探っていた者です。

 その調査で判明した事実をどうしても貴女達に伝えなければと思い連絡させてもらいました」

 

 約束の場所に現れた男は、そう言って話し始めた。

 ザラ派が行っていた強化人間の研究について。

 ホーク姉妹の父親の様な、開戦後にプラントに渡って市民権を求めてザフトに志願した者達が被験者にされていた事。

 その研究内容があまりにも非人道的であったため、ごく一部を除いて公開されずに封印される事が決まっていた。

 このままでは、遺族達が何も知らずに生きていく事になる。

 それは、あまりに不誠実だと思い、こうして話に来たのだと男は言う。

 

「そんな、お父さんがそんな目に。

 本当の事なんですか?」

 

「私も嘘であればいいと思います。

 ですが、こんな悪趣味な冗談を言うような趣味はありません」

 

「許せない!

 お父さんをそんな目に遭わせた奴はどうなったんですか!?」

 

「研究者の消息は不明です。

 逃亡したザラ派に紛れてプラントを出たのではないかと思われます」

 

 研究所の所在を突き止め、踏み込んだ時には証拠は全て処分されていた。

 調査の過程で得た断片的な情報と不確かな証言のようなものしかない為、法的に裁くことも難しいと言う。

 

「なら、私の手で復讐してやる!」

 

「ザフトに入る事はお勧めしません。

 機能不全に陥っていて、解体されるのも時間の問題でしょう。

 世界からの目も厳しいですから、再軍備がいつになるか分かりませんよ」

 

「なら、連合軍に入って・・」

 

「それも難しいでしょう。

 連合軍は、良くも悪くも真っ当な軍組織です。

 自由に動ける訳ではないです。

 仇を討つために勝手な行動が許されるとは思えません」

 

「じゃあ、どうすればいいのよ?」

 

「民間軍事会社に入るのはどうでしょう?

 傭兵としてなら、自己責任ですがある程度自由に動けますよ。

 ちょうど伝手もあるので、紹介しましょうか?」

 

「お願いできますか?」

 

「ええ、先方には話を通しておきます」

 

「お姉ちゃん、待って。

 私も行くわ!」

 

「ダメよ!

 メイリン、貴女はプラントで待ってて。

 お父さんの仇は、私が取るから」

 

「勝手に決めないで!

 私だって、お父さんをそんな目に遭わせた人達の事、許せないよ!

 それに、私の知らない所でお姉ちゃんが死んじゃうかもしれないのに、プラントで待ってるだけなんて耐えられない」

 

「・・・メイリン」

 

「二人でしっかり話し合ってみては?

 これが私の連絡先です。

 後悔しないよう、しっかり考えてくださいね」

 

 そう言って、男は帰って行った。

 

 姉妹で話し合った。

 妹に復讐のために手を汚して欲しくない。

 そう思って止めようとした。

 メイリンの意思は、思いの外強かった。

 何度もぶつかって、喧嘩した。

 これまで姉妹喧嘩なんてした事なかった。

 それは、メイリンがいつも譲ってくれていたからたと気付いた。

 そんなメイリンが、今回は絶対に引かない意思を示している。

 置いて行っても、きっと一人でも行動するだろう。

 なら、側で守れるよう連れて行った方がいい。

 そう思ってルナマリアは折れた。

 

 こうして、ホーク姉妹は民間軍事会社に入り、訓練を受ける事になった。

 その訓練施設でオーブ出身の少年と出会い、反発し合いながらも共に腕を磨いていく事になる。







ストックは無いので、不定期更新になります。
SEED編で頑張りすぎたので、マイペースで更新していきます。
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