歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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新たな歌姫

 

 

 

 カガリ達が火星でのライブの為に地球圏を出発してしばらく経ったころ、一人の歌姫がデビューした。

 それは、ラクスと同じ顔、同じ声を持つ女だった。

 だからと言って、ラクスの物真似で売り出した訳ではない。

 むしろ、ラクスを否定する歌を歌っていたのだ。

 彼女は、ミーア・キャンベルの存在によって歌手の夢を一度は諦めた。

 どれ程、自分が上手くラクスの歌を真似ようとミーアには敵わない。

 それが理由だった。

 それも仕方ない事だ。

 ミーアは、ラクスのもう一つの顔だったのだから。

 

 ラクス・クラインを最も完璧に演じられるのは、ラクス・クラインだ。

 ラクスには、ラクスのような声があり、ラクスのような感情を表現できる。

 本人以上にラクスとシンクロ出来る存在などいない。

 

 ラクスの行動によって夢を踏み躙られた。

 それでも、ラクスは世界に受け入れられて光り輝く存在になっている。

 誰も、世界も、私の絶望を認めてくれない!

 

 闇ラクスと名乗る、その歌姫の歌は、光によって虐げられる影があると歌い上げる。

 世界への反逆の歌だった。

 

 

 当初は、闇ラクスの存在に世界がざわついたものの、すぐに落ち着いた。

 歌で世界への不満をぶち撒けるのは、目新しいものではない。

 もともと、ロックなどは、そう言う歌なのだ。

 闇ラクスは、一定の層から絶大な支持を受けていた。

 世の中に不満を持っている者達だ。

 

 統合政府も黙認していた。

 自分達を否定するような歌でもあるが、歌の内容が気に入らないからと弾圧する訳にもいかないからだ。

 それに、ちょうどいいガス抜きにもなると思われていた。

 

 プラントが起こしたクライシスによる経済的損失は莫大なものになる。

 戦争が終わり、Nジャマーキャンセラーによってエネルギー危機も解消されたが、経済の回復はまだ途上の段階だ。

 連合が戦時特権を認めていたため増長したジャンク屋連合が離反し、宇宙海賊になった事も世界経済に暗い影を落としている。

 広い宇宙の全てを統合軍が守れる訳ではない。

 海賊から身を守るため、民間の商船は民間軍事会社《PMC》に頼らざるを得ない状況だ。

 それが、更なるコスト高を招いている。

 

 そんな事を引き起こしながら統合政府に参加した事で実質的な独立を獲得できたプラントへの不満。

 プラントに対して妥協し、手緩い対応をした旧連合各国への不満。

 経済が痛手を受けたために減少した予算の中で、宇宙移民に予算をかける統合政府への不満。

 

 闇ラクスの歌は、それらの受け皿になっていた。

 歌に熱狂して、不満やストレスを発散してくれるならそれでいい。

 彼らは、勢力としては少数派だ。

 行動が過激になり、暴動を起こせば、その時に鎮圧すればいい。

 そう考えていた。

 

 たかが新人の歌手一人に目くじらを立てるのも大人気ない。

 油断があったと言われればそうなのだろう。

 彼らは忘れていた。

 カガリとラクスと言う歌姫達が、世界にどれ程の影響を与えて来たのかを。

 

 いや、それを油断と言うのは酷だろう。

 カガリ達が、どれ程の覚悟で歌っていたのかを知っているのだ。

 そんな真似が出来る存在などそうそう居ない。

 

 ただ、闇ラクスがその滅多に居ない例外だったと言うだけなのだ。

 世界はまだ、闇ラクスの覚悟を知らない。

 

 

 闇ラクスの歌に希望を見出した者たちが、少しずつ彼女の下に集って行った。

 統合政府も見逃していた。

 好きなアーティストの歌に盛り上がるファン達。

 そんな風に認識していたのだ。

 

 

 これら一連の流れは、ネームレスの暗躍によって誘導されていた。

 PMCの皮を被って、今の世界に不満を持つ者たちを集め武装化させる。

 闇ラクスの歌で、その不満をぶつける具体的な方向性を与える。

 水面下で深く静かに行動する事で、誰にも悟られずに反統合政府勢力を組織する事に成功していた。

 

 カガリ達の歌で洗脳と言う手段を使えなくなったとは言え、はるか昔から誰にも存在を認識されずに世界の流れを操作してきた組織だ。

 こうして作り上げた駒を世界と言う盤上で動かす。

 

 彼らに対抗できる指し手は、とても少ない。

 彼らの存在を知り、対抗すべく様々な手を打っている人物。

 アズラエルすらも、まだ組織の動きや狙いを掴めていなかった。

 

 

 

 ワルキューレの護衛として供に火星へと向かっているアークエンジェル。

 キラは、格納庫で自機の調整を行っていた。

 アークエンジェルに搭載されているモビルスーツも、この2年で新型に置き換わっていた。

 キラには、VMS-07『ホワイトセイバー』が与えられていた。

 純白のモビルスーツであった。

 

「やっぱり、キラ君には白が似合いますね」

 

 そう言って、アズラエルがキラの為に特別に用意していた。

 

 その他の機体も最新鋭の量産機VMS-06『サンダーボルト』が配備されている。

 トールの『モンスター』も改修が施されて性能向上型となっている。

 戦後2年が経過しても、アークエンジェルは変わらず最高戦力の一つに数えられていた。

 

「うわぁ、やっぱりタイピング早いな」

 

「あっ、カガリ!

 こっちに来てたんだ」

 

「ああ、移動中は特にする事もないしな。

 ほら、新型の調整、お疲れ様」

 

 そう言って、カガリがキラにドリンクを渡してくる。

 

「ありがとう、ちょうど休憩にしようと思ってたんだ」

 

 二人は、格納庫を出て休憩室に入り、ソファーに並んで座った。

 キラが受け取ったドリンクに口をつける。

 その様子をカガリが優しい目で見つめていた。

 

 そんなカガリの視線に気付いて、キラも優しい微笑みを返す。

 二人の顔が近づき、唇が重なる。

 キラ達は、戦後、すぐに恋人のような関係になっていた。

 統合軍でパイロットをしているキラとオーブを拠点に歌姫として活動しているカガリは、あまり二人の時間を過ごせなかった。

 だから、二人でいられる時間を大切に過ごすようにしている。

 アークエンジェルとワルキューレのクルー達も二人の仲を応援している。

 彼らに幸せになってほしいと思い、この航海の間も二人の時間が取れるように気を使ってくれているのだ。

 

 唇が離れた後、カガリがその頭をキラの肩に乗せる。

 二人の間に穏やかな空気が流れる。

 

「戦争していた時は、とにかく前に進む事に夢中でこんなにのんびりした時間を過ごせるようになるとは思ってなかった」

 

「カガリが好きな歌を歌える世界にたどり着いたんだ。

 まだ、いろいろ問題も残ってるけど、カガリは僕が守るよ」

 

「ありがとう、キラ」

 

 

 

 アークエンジェル内、食堂

 

「カガリは、キラの所に行きましたわ」

 

「そう、あの二人は順調そうね」

 

 カガリと共にアークエンジェルに来たラクスとパイロットのフレイが話していた。

 

「それより、問題はラクスの方よね。

 あのヘタレからは、連絡ないの?」

 

「ええ、アスランからは戦後に一度手紙が届いただけで、それからは音信不通です」

 

「まあ、生きてるのはアズラエルさんから聞いてたけど、本人が手紙で伝えてきただけマシになったのかしらね」

 

「もう、君の下には帰らない。

 キラと幸せになってくれ。

 なんて、アスランらしいですけど」

 

「ホント、女心が分かってないわね。

 手紙一つで終わらせようなんて失礼よ!」

 

「ふふっ、私も直接会ってちゃんと話をするまで終わらせるつもりはありませんよ」

 

「もう見限っちゃえばいいのに。

 あの男にラクスはもったいないわよ」

 

「そう言わないでください。

 アスランにもいい所はいっぱいあるんです」

 

「分かってるわよ。

 キラと親友だったんだもの、ヘタレなだけじゃないんでしょ」

 

 フレイは、少しむくれている。

 煮え切らないアスランの態度に苛立っているようだ。

 男らしく、ラクスに会って、はっきりさせればいいのに。

 フレイは、意外と男らしくサバサバした性格だった。

 生来の性格なのか、パイロットをしている内にそうなったのか分からないが、恋愛に関して年下なのに頼れる姉御的な立ち位置になっていた。

 宇宙海賊がいつ襲ってくるか分からない旅路だが、平穏な時間を過ごしながら火星へと向かっていく。

 

 

 火星は、どんな場所なのだろうか?

 過酷な環境だと聞いている。

 そんな場所に、戦争中は余裕がなく支援物資も十分に送れなかった。

 危機的状況を耐え抜くのも一つの戦いだっただろう。

 火星も戦争と関係ない場所ではなかったのだ。

 地球圏で始まった愚かな戦争を火星の人達はどう見ていたのだろうか?

 あまり良い感情を持っていない事は分かっている。

 火星政府は統合政府に参加していない。

 今回のツアーも、火星に地球圏の諍いごとを持ち込まないと言う条件で受け入れられた。

 カガリ達の歌で地球と火星の間にある溝が少しでも埋まれば良い。

 統合政府の思惑はそんな所だろう。

 しかし、カガリ達には関係ない。

 ただ、心を込めて歌うだけだ。

 今までもそうだったように。

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