歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェル達がマルスシティとの通信可能距離まで近付いた時には、すでにシティの戦力が展開していた。
戦前からプラントと技術交流していた火星は、ある程度の戦力を保持していた。
アークエンジェル側が状況を説明し、無人機の排除に協力を要請するより早く、マルスシティ側から通信が送られてきた。
「接近中の船舶に告げる。
直ちに進路を変更せよ!」
「なっ!
我々は、地球から慰問と親善のために訪れたワルキューレ及び護衛のアークエンジェルです。
現在、謎の勢力に襲撃を受けています。
マルスシティに救援を要請します!」
「謎の勢力だと。
私達をバカにしているのか?
相手の機体は、先の戦争でプラントが使用した物だろう。
受け入れの条件は、地球圏の争いを持ち込まない事だったはずだ!」
「状況が分かってないのですか!
地球からの親善目的の船が襲われているんですよ!」
「そちらこそ、分かってないのではないか?
現状では、そちらが自分達の争いに我々を巻き込み、マルスシティを戦場にしようとしている。
そう思われても仕方がない状況だぞ。
親善が目的と言うなら、それは避けるべきではないかね?」
「くっ!」
マルスシティからビームが放たれた。
それは、ワルキューレやアークエンジェルには当たらなかったが、明らかに警告であった。
「我が方の警告に従わず、これ以上接近するなら、我々は自衛権を行使せざるを得ない」
マルスシティからのこれ以上ない拒絶の意思表示だった。
「仕方ないわね。
進路を変更!
マルスシティから離脱します」
「艦長!
我々の戦力だけでは、対処できませんよ。
パイロット達も、いつまでも戦い続ける事は出来ません!」
「それでも!
これ以上近づけば、こちらが撃たれるわ!」
マルスシティに拒絶され、協力が得られなかった以上、アークエンジェルの戦力だけで状況を打開しなければならない。
マリューは、必死に頭を回転させる。
この2年で、マリューは上級士官としての教育も受けて正式にアークエンジェルの艦長職に就いていた。
元々、柔軟な発想力には定評がある。
正攻法ではどうにもならない状況だが、アークエンジェルは前大戦で同じような状況を何度も切り抜けて来た。
絶望するのは、まだ早い。
歴戦の船であるアークエンジェルにとって、孤立無援で強大な敵と戦わなければならない事など、ある意味慣れたものだった。
「駄目です、無人機をワルキューレから引き剥がせない!
いずれ捕まってしまいますよ」
無人機は、愚直にワルキューレを目指している。
こちらからの攻撃には対処するので時間を稼ぐ事は出来ているが、確実に距離を詰められている。
戦術が単純でアークエンジェルの陽動にも反応しない。
その無人機の特性にある考えが浮かぶ。
「面舵いっぱい!」
アークエンジェルが戦域を離脱しても、追跡して来る無人機はいなかった。
「やっぱり・・・」
マリューの中で生まれた考えが確信に変わる。
「ワルキューレに打電!
このまま進み、マリネリス峡谷に入れ。
モビルスーツ隊は、ワルキューレの直衛。
無人機を取り付かせるな!
アークエンジェルは戦域を離脱して、指定のポイントに向かう」
ワルキューレ船長のグレイスもモビルスーツ隊のパイロット達も表示されたポイントを見て、その狙いを理解した。
「了解!
無人機を指定のポイントまで引っ張って行くぞ!」
ワルキューレがマリネリス峡谷に入った。
モビルスーツ隊も、無人機が峡谷内に入るように牽制射撃で誘導する。
このまま、アークエンジェルが待つポイントまで行けば勝てる。
そう信じて進み続ける。
アークエンジェルも指定したポイントに到着し、準備していた。
そのアークエンジェルの前方からワルキューレが姿を見せる。
その後ろに続く無人機達も見えていた。
「モビルスーツ隊は、上手く誘導したようですね。
無人機は全機、峡谷内にいます」
「ワルキューレにそのまま駆け抜けろと伝えて!
ローエングリンα照準」
アークエンジェルには、改修によってローエングリンが搭載されていた。
それも、ドミニオンに搭載されていた試作段階の物ではない。
より小型、高出力化した上、大気圏内で使用しても汚染がない改良型であった。
アークエンジェルは、ローエングリンのエネルギーをチャージして待っていたのだ。
ワルキューレとアークエンジェルがすれ違う。
アークエンジェルの前には、もう無人機達しかいない。
彼らは、峡谷内と言う限られた空間しか無い場所にいる。
「敵無人機、すべて射程内に収まってます」
「ローエングリン、撃てーーーー!」
アークエンジェルからローエングリンが放たれる。
いかに無人機が高機動を誇ろうと、峡谷内の限定された空間ではまともな回避は出来ない。
ワルキューレを狙い、襲いかかって来た無人機は、ローエングリンの一撃によって殲滅された。
ライトマンが見つめるモニターの中でワルキューレを襲わせた無人機達の反応が消滅した。
「ふむ、十分な戦力を当てたつもりでしたが、これでも切り抜けますか。
さすがは、アークエンジェルと言った所ですね」
襲撃が失敗に終わったにしては、ライトマンの声は落ち着いていた。
まるで、これも想定内だと言うかのような態度だ。
事実、彼にとっては想定内の事であった。
全戦力で襲撃させた訳ではなかった。
むしろ、襲わせたのは戦力のほんの一部に過ぎない。
では、なぜ全戦力を投入しなかったのか?
それは、万が一にもワルキューレを逃がさないためだった。
最初に出した戦力があまりにも多ければ、マルスシティに向かう事なく逃げの一手を選択していただろう。
そうなれば、取り逃してしまうかもしれない。
そのくらいには、アークエンジェルの戦力を脅威と見做していた。
故に戦力の大部分を使って包囲網を形成させていたのだ。
すでに包囲は完成している。
どうやら、無人機を殲滅した後、何処かに姿を隠しているようだが、包囲網を狭めていけば発見は時間の問題だ。
「Nジャマーの出力は切った。
動き出せば、すぐにレーダーで捕捉される。
しかし、いつまでも隠れてはいられない。
ワルキューレの命運はもう尽きていますよ」
ライトマンが打った手が、アークエンジェルとワルキューレを追い詰めつつあった。
アークエンジェルとワルキューレは、峡谷の中で身を潜めていた。
Nジャマーの反応が消えた事で周辺の様子がレーダーで確認できるようになっていたが、状況はかなり不味いものであった。
無人機と思われる多数の機影が包囲網を形成していた。
その包囲網は、時間と共に狭まって来ている。
このままでは、いずれ見つかってしまう。
これだけの戦力差では、逃げる事も出来ずに殲滅されるだろう。
「これ程の規模の戦力に火星政府が気付かないはずがないわ。
その上で地球圏の争いを持ち込まない事を条件に付けていた。
最初から私達を受け入れるつもりはなかったのね」
「これは、火星政府の裏切りですよ!
報告を上げて問題にしなければ」
「火星側からは、ザフト残党との争いに見えた。
そう主張するでしょうね。
それに、報告を上げるにしても、まずは生きて帰らないと」
自分達は今、完全に包囲されている。
地球に帰還するためには、これを突破しなければならない。
それもワルキューレを守りながらだ。
難しい戦況に頭を悩ませている中で、沈黙していたカガリが発言する。
「ワルキューレを守りながらでは難しいだろうが、アークエンジェルだけなら逃げられないか?」
「カガリさん、私達は民間人を見捨てたりはしません」
「分かっている。
ワルキューレを放棄して、アークエンジェルに移乗すると言う事だ」
「でも、ワルキューレはウズミさんの・・・」
「お父様の形見でも、みんなの命には変えられないさ」
「カガリさん・・・」
その会話にグレイスも加わる。
「あの無人機達は、ワルキューレだけを追いかけ続けていたわ。
放棄するなら、自動操縦で囮にしましょう」
「そうだな、グレイスは船の設定を頼む。
マリュー艦長、みんなの命を守るためにワルキューレを使ってくれ」
無事に脱出するために父親の形見の船を使い潰す。
必要だからと簡単に決断できる事ではない。
何でもない風を装っているが、形見の船を失う事が辛くない訳がない。
私達が躊躇わないように配慮してくれているのだ。
なら、その心に応えない訳にはいかない。
必ず無事に帰す。
それが、護衛である私達のすべき事だ。
すぐにワルキューレを使った脱出のための戦術が話し合われる。
歌姫の覚悟に応えるための戦いが再び始まったのだ。