歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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逃れた者達、逃れられなかった者達

 

 

 

 アークエンジェルが峡谷を出て、包囲網の一角に向けて動き出す。

 ワルキューレは、アークエンジェルの後ろに付き従っている。

 

 彼らの動きを察知した無人機達も包囲を維持したままワルキューレを堕とそうと距離を詰め始めた。

 そして、射程距離にまで近づいた時、再び戦闘が始まった。

 

「ローエングリン、てーーーーー!」

 

 アークエンジェルからローエングリンが放たれる。

 しかし、峡谷のような限定された空間でもなく距離もあったため、無人機達が散開したことで撃墜する事は出来なかった。

 

「続いて、ゴットフリート照準、てーーーー!」

 

「バリアント、撃て!」

 

 元より、ローエングリンで無人機を撃墜できるとは考えていなかった。

 アークエンジェルから、更なる攻撃が放たれる。

 その攻撃も無人機を捉えることは出来ない。

 それでもいいのだ。

 狙いは無人機達の陣形を乱す事なのだから。

 

 事実、アークエンジェルが攻撃を加えた包囲網の一角は、回避のために陣形が崩れていた。

 そこにモビルスーツ隊が飛び込んでいく。

 

 トールのモンスターは、アークエンジェルの甲板に陣取り砲撃で無人機の陣形を乱しつつ、モビルスーツ隊の援護を行なっている。

 その火力はやはり凄まじく、アークエンジェルの火力と相まって無人機達の陣形を掻き乱していた。

 

 キラが最初に無人機達の中に飛び込み戦闘を開始する。

 ホワイトセイバーは、キラの専用機として調整されている。

 キラが得意とする高速機動戦闘に特化した機体になっていた。

 この2年でモビルスーツの研究、開発が進み、次世代の機体が量産されるようになっている。

 ホワイトセイバーは、現時点における最新鋭の機体だった。

 ヤキンの時とは性能が違う。

 

 そして、キラ自身も地球圏のトップエースの一人に数えられるほどの腕を持つまでに成長していた。

 火星の空に白い軌跡を描きながら無人機達を次々と堕としていく。

 二つ名の通り、白き雷光が火星の空を疾っていた。

 無人機達の動きは、キラ以上に速い。

 しかし、パターン化され、柔軟性のない動きしか出来ない事が判明している。

 今の無人機は、数が少なければキラのようなトップエースにとっては然程の脅威ではなかった。

 

 そんなキラを援護するのは、4機のドラグーンを搭載する専用のエグザスパックを装備したムウのサンダーボルトだ。

 ドラグーンで援護しながら、キラの空けた穴を更に広げていく。

 

 イレブンとフレイも互いの背中を守りながら無人機を落としている。

 恋人として、パートナーとして、互いを理解し合っている事がよく分かる連携で撃墜数を稼いでいた。

 

 一般的な腕のパイロット達で構成された部隊であったなら、無人機達の動きに対応できずに蹂躙されていただろう。

 だが、アークエンジェルのモビルスーツ隊は、トップエースと言えるほどのパイロット達が揃っていた。

 

 また、いくら無人機が多数とは言え、包囲網を敷いた事で局地的な密度は薄くなっている。

 アークエンジェルとモビルスーツ隊の攻撃で、包囲網の一角が十分に乱れたと判断したマリューが指示を出す。

 

「今よ!ワルキューレ、火星の大気圏離脱を開始!」

 

 マリューの指示に応えて、ワルキューレがアークエンジェルを追い越し、上昇を開始する。

 陣形が乱れた無人機達の上空を進んでいく。

 

 もちろん、無人機達がそのまま見送る事はない。

 周辺の無人機達がワルキューレを追いかけていく。

 アークエンジェルとモビルスーツ達は、その無人機達に攻撃してワルキューレの離脱を援護するが、多少の時間稼ぎにしかならない。

 地球よりは小さいとは言え、火星の重力を振り切ろうとしているのだ。

 民間船の出力では、加速は遅々として進まない。

 このままでは、大気圏を抜ける前に追いつかれてしまう。

 無人機達も分かっているのだろう。

 加速してワルキューレに群がっていく。

 

 その姿を見て、マリューは更なる指示を出す。

 

「モビルスーツ隊に帰投指示。

 180度回頭、上空に向けてローエングリン発射!

 同時に出力全開、一気に大気圏を離脱する!」

 

 無人機達がワルキューレに群がったため、がら空きになった空域に向けてローエングリンを撃つ事でポジトロニック・インターフェアランスを起こし加速を開始する。

 

 宇宙へと向けて加速しているアークエンジェルの窓からカガリがワルキューレを見ていた。

 無数の無人機に取り付かれて、破壊され、爆発の中に消えていく姿を。

 父、ウズミの形見であるワルキューレが失われる姿を見ながら、強く握りしめていたカガリの拳をそっと包み込むように手が添えられる。

 カガリが視線を向けると心配そうに見つめるラクスが寄り添ってくれていた。

 

「ありがとう、ラクス。

 ワルキューレを失う事は辛いけど、お父様との思い出はずっとここにある」

 

 カガリが胸に手を当てて、そう言って微笑む。

 

「だから、大丈夫だ」

 

「ええ、カガリが強いのは分かってます。

 でも、無理はしないでください。

 ちゃんと、後でキラに甘えてくださいね」

 

「なっ、なにを言ってるんだ!」

 

 思わず顔を赤くするカガリ。

 恋人が出来ても、奥手で純情なのは変わらないようだ。

 そんなカガリの様子にラクスも微笑みを浮かべる。

 

 自分達は、歌で世界を変えようと2年前の戦争を全力で駆け抜けた。

 その結果、私たちの歌は世界に大きな影響力を持つに至った。

 そして今回、無人機はワルキューレを、私達を狙っていた。

 これからも平穏な人生は歩めないだろう。

 だからこそ、カガリには、こう言うささやかな幸せを大切にして欲しい。

 そして、自分も幸せになるためにアスランときちんと向かい合いたい。

 遠くから見守られる事など望んでない。

 時に傷付く事があっても、側で寄り添っていて欲しいのだ。

 

 アークエンジェルは、火星の重力を振り切り、宇宙へと上がった。

 無人機の追撃から逃れるため、そして、火星の異常事態を統合政府に届けるために進路を地球へと向けた。

 

 

 

 アークエンジェル離脱後

 

 研究所のモニターには、ワルキューレの反応消失とアークエンジェルが離脱した様子が映し出されている。

 

「アークエンジェルがワルキューレをあっさりと見捨てましたか。

 歌姫達は、アークエンジェルに移っていたのでしょうね」

 

 ワルキューレを撃墜したが、肝心の歌姫達を取り逃してしまった。

 それなのにライトマンの声には、怒りや苛立ちは感じられなかった。

 

「ここで排除できるのが理想だったんですが、まあ想定内ですね。

 今回の戦闘データによってAIの戦術思考は洗練されたものになる。

 ゴーストはいずれ、人では決して勝てない存在になる。

 次に会う時が、歌姫達の最後です。

 さあ、計画の第2段階に移行しますか」

 

 ライトマンは、無人機達に更なる指示を出す。

 新たな指令を受けた無人機達が、再び行動を開始する。

 

 

 

 マルスシティ・火星政府

 

「どうやら、アークエンジェルは逃げ延びたようだな」

 

「はい、しかしワルキューレは沈んだようです」

 

「船を囮にしたのだ。

 護衛対象は、アークエンジェルに移動済みだろう」

 

「よろしかったのですか?

 アークエンジェルが地球圏に帰還すれば、我々の対応も報告されますが」

 

「問題ないさ。

 アークエンジェルと問題を起こしたのは、火星に落ち延びてきたプラントの残党だ。

 我々は、中立を守っただけに過ぎない」

 

「地球がそれを認めますか?」

 

「認めざるを得ないさ。

 あのライトマンとか言う男は、地球圏に噛み付くつもりだ。

 それに組織もそろそろ動き出すだろう。

 火星に大きな戦力を送る余裕などなくなる」

 

 全て予定通りに終わった。

 ライトマンは、これから地球に向かう。

 地球圏で再び争乱が起こるだろうが火星には関係のない事だ。

 地球圏が乱れている間に火星は静かに地盤を堅める。

 火星が飛躍するためには、地球には混乱していてもらった方が都合がいい。

 地球の植民地ではない。

 火星が地球と対等な立場を得る。

 

 そんな未来を想い描いていた男に急報が入る。

 

「プラント残党勢力の部隊が進路を変更。

 マルスシティに向かって来ます!」

 

「何だと!

 ライトマンとは不可侵条約を結んでいるはずだ!」

 

「駄目です、通信が繋がりません!」

 

「どう言うつもりだ、ライトマン!」

 

 火星には、ある程度の戦力があった。

 しかし、彼らに実戦経験はない。

 自給自足体制が確立されるまでは、生きていくので精一杯だった。

 軍事力の増強や訓練に取り組めるような余裕が出来たのはつい最近なのだ。

 地球との戦いで役に立つような規模ではなかった。

 だから、ライトマンもわざわざ手を出す理由がないはずだった。

 火星の軍人達の練度は、それほど高いものではない。

 彼らは、無人機の動きに対応できず、マルスシティの戦力は壊滅し、占拠されてしまった。

 

 

「ネオ・デスティニープラン開始の狼煙は上がった。

 このプランは、人類救済の為の最終的解決策。

 火星の皆さんも、救うべき人類なのですから」

 

 無人機によって制圧されていくマルスシティの様子を見ているライトマンは満足そうにしている。

 

「欲望を捨て、世界の為に自らの能力を使う理想の世界。

 君達は、その最初の一歩に選ばれた」

 

 この日、マルスシティは無人機の手に落ち、人々は洗脳されることになった。

 一部の者達は、かつて無人機を制御するために使ったブレイン・ネットワーク・システムに改造され、地球圏侵攻のために無人機を運用、整備する無人艦隊に搭載された。

 いや、艦の制御や運用を行う為に人間の脳を使っているのだから厳密には無人艦ではない。

 ライトマンは、同じ失敗をするつもりはない。

 彼らは艦を制御する為の閉じたネットワーク。

 歌を聴く耳を持った生体CPUは存在しない。

 歌が届かない機械の軍勢が地球圏に向けて侵攻を開始しようとしていた。






これで火星編は終了です。
次回からは、地球圏のシン・パートになります。
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