歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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チェイシング

 

 

 

 星の海を行くミネルバ。

 その一角にあるホールのソファーにシンが座っている。

 その耳には、イヤホンが装着されていた。

 

「何、また闇ラクスの歌を聴いてるの?」

 

 そんなシンにルナマリアが話しかける。

 

「悪いかよ」

 

「別に悪くないわよ。

 彼女の歌、私も好きだし」

 

 そう言ってシンの隣に座る。

 

「想いを掬い上げてもらえない人達の為の歌・・・

 まるで私達の為に歌ってくれてるように感じるもの」

 

「何しに来たんだよ、お前は」

 

「訓練生時代から変わらないわね。

 その一人で悩もうとする癖」

 

「悩んでなんかない!」

 

「バレバレよ。

 インパルスのパイロットに選ばれた事が納得いかない?」

 

 少し前の事。

 ファングのモビルスーツ隊の隊長オズマ・リーからシンがインパルスのパイロットに指名されていた。

 

「なんで俺なんですか?

 隊長の方が腕だって上なのに・・・」

 

「お前が一番適性があるんだよ。

 データ上はな。

 それに、若い方が新しい機体に早く慣れる事が出来るだろう」

 

 オズマは、そう言ってシンに機体を預けたが彼は歴戦のパイロットだ。

 新しい機体だって、彼ならすぐに使いこなせるはずだ。

 新人で、まだ未熟な俺を死なせないために性能のいい機体を使わせようとしているのだろう。

 そんな風に気を使われた事を不満に思っていた。

 

「まったく、素直じゃないわね。

 私とメイリンに専用機がある事に悔しがってたじゃない。

 せっかく専用機に与えられたんだから、不貞腐れてるより使いこなす努力をした方が建設的よ」

 

「それは分かってるよ。

 だけど、インパルスは隊長が使った方が確実に戦力になるはずだ」

 

「隊長がその方がいいって判断したんでしょ。

 隊長には、専用にチューンされたヅダだってあるんだから、全体の底上げを狙ったのよ」

 

 ミネルバやミネルバに配備されているモビルスーツ『ヅダ』は、戦後、非主流派の企業が集まって組織された『ファクトリー』によって開発、製造されたものだった。

 

「それとも自信がない?

 今、追いかけてるのは新型を強奪して、すぐに使いこなして脱出に成功した凄腕達だものね」

 

「そんな事ないさ!

 奴らとの搭乗時間に差はほとんどないんだ。

 なら、俺は負けない!」

 

 どうやら、シンに発破をかけることは成功したようだ。

 シンの眼に前向きな光が宿る。

 

「なら、インパルスの調整を手伝うわ。

 奴らに追いつくまで時間がないんだから」

 

「ああ。

 それと、ルナ・・・ありがとう」

 

 元気付けられた事が恥ずかしいのか、小さく礼を言うシンの姿にルナマリアがニヤリと笑う。

 

「貸し一つよ。

 絶対に返してもらうから」

 

「わかった。

 利息付きで返してやるよ」

 

 

 

 シン達がインパルスの調整を行なっている頃、ブリッジでは艦長とオズマが話していた。

 

「奴ら、何処の勢力だと思う?」

 

「さあ、今の段階ではなんとも。

 強奪時に使われた機体はダガーの改造機のようでしたが、PMCや傭兵に多数、払い下げられていますから」

 

 旧式機のダガーは、民間にも多数流れている。

 前大戦で破壊されてジャンク屋に回収された物も考えれば特定など不可能だった。

 

「何処の勢力にせよ、ああも鮮やかに奪って行ったんだ。

 手強い相手なのは間違いない。

 期待しているぞ、トライン艦長殿」

 

「私は雇われ艦長ですからね。

 給料分の仕事はしますよ」

 

 ミネルバ艦長アーサー・トラインは、元ザフトの士官だった。

 ザフトが解体された際に職を失い、PMCに再就職していた。

 もともと軍務に熱心ではなく、それ故に戦争犯罪にも関わっていなかった。

 周りの評価もやる気がなく、頼りない男と言うものだった。

 しかし、いざ雇ってみると評価は一変した。

 仕事の成果が給料に直結するPMCと言う職場において、非常に優秀な能力を見せた。

 頑張っても給料が変わらない軍では、その能力を発揮する意欲が湧かなかっただけのようだ。

 ザフトで出世すれば給料も上がるが、その分、責任や政治的なしがらみが生まれ、自由を失う事を嫌って平凡な士官を演じていた。

 トラインにとって、ザフトでの出世はそれほど魅力的には見えなかったのだ。

 彼にとって、今のポジションは居心地の良いものだった。

 

「隊長もやられないでくださいね。

 奪われた新型の性能はかなりのものです。

 貴方がやられたら負けですよ」

 

「何、大丈夫さ。

 まだまだ、うちのひよっこ共のお守りをしなきゃいけないしな」

 

 ミネルバは、新型モビルスーツを強奪した不明艦を追跡していく。

 幸い、速力で優っているようで、もうすぐ交戦可能距離まで詰めることが出来そうだった。

 

 

 

 特殊部隊『ピースメーカー』母艦『ジョン・ドゥ』

 プラントが独自に開発していたモビルスーツを強奪し、離脱に成功した艦である。

 彼らも、追ってくるミネルバの存在を探知していた。

 

「どうやら、追手が掛かったようだな」

 

「プラント駐留軍でしょうか?」

 

「理事国がプラントの防衛に精鋭を使う訳がない。

 動きの遅い軍ではないだろう。

 おそらく、プラントが契約していたPMCか傭兵と言ったところか」

 

「確認された艦はこれだけです。

 今回の任務は無事に終わりそうですね」

 

「油断はいけないな、イアン・リー少佐。

 相手は単艦で追跡任務を引き受けたんだ。

 それだけ腕に自信がある部隊と言う事だぞ」

 

「申し訳ありません、ラース大佐」

 

 イアンは、自分達が精鋭の特殊部隊である事に慢心していた事に気付かされた。

 

「奴らの艦の方が速い。

 このままでは追いつかれてしまうな」

 

 ラースと呼ばれた男は、宙域図を見ながら考え込んでいた。

 

「この先にデブリ帯がある。

 そこで仕掛けよう。

 リー少佐、艦は任せたぞ」

 

「大佐も出られるのですか?」

 

「ああ、相手の戦力が分からん以上、出し惜しみは作戦失敗に繋がりかねない」

 

「では、あの者達も・・・」

 

「当然、使うさ。

 せっかく、ジブリール氏が用意してくれた戦力だ。

 遊ばせておく理由はない」

 

 その言葉にイアンの顔が曇る。

 あの様な年端もいかない子供達を戦場に立たせる事に納得している訳ではない。

 しかし、自分達は軍の汚れ仕事《ブラック・オプス》を請け負う特殊部隊。

 表立って誇れる仕事ではないが、国を守るためには必要な存在だ。

 彼らの様な、人間の負の側面も見てきた。

 平和を守ると言う事は、綺麗事だけでは済まないものなのだ。

 せめて、彼らが無事に帰れるように艦を動かす。

 それが自分に出来る事だ。

 そう思い、イアンは戦闘準備を進めていく。

 

 特務艦ジョン・ドゥの進路をデブリ帯へと向ける。

 追ってくるミネルバを誘い込み、デブリと言う障害物を利用して奇襲を掛けるために。

 

「ブランドン・ラース、ペイルライダー出るぞ!」

 

「ステラ・ルーシェ、ガイア行きます!」

 

「スティング・オークレー、カオス出る!」

 

「アウル・ニーダ、アビス出るよ」

 

 ラースに続き、ガイア、カオス、アビスが出撃。

 そこにダークダガー隊も続く。

 追ってくるミネルバを迎え討つために。

 

 

 戦いの時は近づいていた。

 シン達にとっては、初めての実戦となる。

 彼らの牙は、待ち受ける敵を喰い破る事が出来るのだろうか?






原作のミネルバには、モビルスーツ隊の隊長的なポジションの大人がいなかったですね。
指揮官がいないモビルスーツ隊って編成は何だったのだろうかと思います。
次回から、いよいよシンの初陣です。
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