歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
脱出艇がアークエンジェルの格納庫に固定される。
ハッチが開き中から少女が出て来る。
その少女は不安げに周りを見渡し見覚えのある顔を見つけ嬉しそうに飛びつく。
「あなた、サイの友達ね!
サイもこの艦にいるの?」
ストライクから降りて脱出艇を見ていたキラは、ほのかに憧れていた女の子に抱きつかれて動揺してしまう。
「う、うん・・サイもミリィ達もいるよ」
「ホント!ねぇねぇ凄いのよ、カガリが居るの!
サイにも教えてあげなくちゃ!」
フレイはまるでとっておきの秘密を話しているかのようなはしゃぎ様だ。
実際、彼女の話している内容は重要な事だった。
脱出艇の方を見ると出て来る人々の中にテレビで見たカガリが居る。
彼女はキラを見て、さっきのフレイと同じように地面を蹴って向かってくる。
「君が脱出艇を拾ってくれたモビルスーツのパイロットなのか?」
「そうだけど」
「えっ、あなたがモビルスーツの?」
「ありがとう、お陰で私たちは助かった。
一言礼を言いたくて声を掛けたんだ」
アークエンジェル・ブリッジ
「まさか坊主が拾ってきた脱出艇に、世界の妖精カガリ・ユラが乗ってたとはね」
「世界で最も有名な歌姫でオーブの国家元首の娘。
とんでもないVIPを乗せることになったわね」
「脱出艇を受け入れたのは正解だったと思います。
推進部が壊れて漂流していたんです。
オーブの救援艦が来る前に軌道から外れて流されていたら、生存は絶望的だったでしょう」
「まだわかりませんよ。
この艦が堕とされれば意味がありません」
「ではどうしろと言うの、ナタル」
「私は、キラ・ヤマトに引き続きストライクに乗ってもらう事を具申します」
「あなたは中立国の民間人がストライクに触れるのに反対じゃなかったかしら」
「私もアスハ嬢の重要性は認識しています。
彼女を無事オーブに引き渡すために出来ることは全てするべきです」
「確かにモビルスーツが2機使えるなら、色々選択肢が増えるな」
「フラガ大尉、俺は反対です。
あいつは素人ですよ。
今まで生き残れたのもストライクの性能のおかげです」
「もともとGのパイロット達に教導する予定だったお前さんが教えれば、それなりに戦えるようになるんじゃないか?」
「しかし」
「あの坊主もオーブ国民だ。
あの歌姫を守るためなら戦ってくれるんじゃないか?」
「・・・艦長達にヤマトについて報告があります」
「どうしたんだ急に」
「前回の戦闘でヤマトはイージスのパイロットと通信していました」
「それは!あの少年がスパイだったと!?」
「いえ、イージスのパイロットが地球軍を抜けるよう説得していたようです」
「つまり昔の知り合いか、それも戦場で説得しようとする程の」
「おそらく友人だったのでしょう」
「ストライクに乗れって事は、かつての友人と戦えって言うことか」
「それで、キラ君はどう答えていたの?」
「断っていました。アークエンジェルには友人が乗っているからと」
「今の友人を守るためにかつての友人と戦え・・とは言えないな」
「フラガ大尉、まずはキラ君にその意志があるか確かめましょう。
話はそれからです」
こうしてキラが呼ばれ、協力を要請することになる。
「お断りします、僕の役目はソキウスさんに合わせてOSを調整することだったじゃないですか!」
「確かにさっきは自分からストライクに乗ったけど、それはOSの調整がまだだったからです」
キラは戦う事を拒否していた。
ストライクのOSを書き換えてソキウス少尉が使えるようになれば、お役御免だと思っていたからだ。
マリュー達自身がそう言っていたではないか。
キラは裏切られたような感覚を覚えていた。
この状況下でコーディネーターである自分に戦わなくていいと言ってくれたマリュー達をそれだけ信頼し始めていたのだ。
「決まりですね、覚悟がないなら足手まといだ。
ストライクには俺が乗ります」
「仕方ないわね、キラ君OSの調整には協力してくれるということでいいかしら?」
「えっ、それでいいんですか?」
「カガリさんって言うVIPが居るから戦力は多い方がいいけど、中立国の民間人に強制は出来ないもの」
キラにOS調整の準備を指示して、艦長達は今後の方針を決めるため会議を続ける。
「さてどうするか、襲撃がないって事は向こうもこっちをロストしてるんだろう」
「ヘリオポリスの残骸の熱源に紛れてますが、エンジンを吹かせば直ぐに発見されますよ」
「月基地まで全力で逃げてみるか?
かなりの高速艦なんだろ、この艦」
「向こうにも高速艦のナスカ級がいます。
逃げ切れるかどうか」
「普通なら降伏も選択肢なんだがな」
「地上軍ならまだしも、宇宙軍相手では」
「だよねぇ、相手はクルーゼだしな」
「私はアルテミスへの寄港を提案します」
「ユーラシアの要塞か」
「今取れる最も現実的な航路です」
「いいんじゃないか。
カガリ・ユラはクライシス後の活動でユーラシアでもかなりの人気だ。
オーブの民間人の保護も期待できる」
「オーブの避難民の皆さんに説明しましょう。
上手くいけばアルテミスで保護してもらえると」
「それで、オーブの避難民達の様子は?」
「脱出艇の中でカガリさんが歌ってくれてたようで、だいぶ落ち着いているわ」
「さすが希望の歌姫だな。
漂流して自分の命も危ないって時に他人のために歌えるなんて」
「では、アルテミスまでサイレントランを行なうことにします」
オーブ避難民達は、自然とカガリが代表となって説明を聞いている。
キラ達学生組も一緒に聞いている。
「やだ、また戦闘になるかも知れないの?
この船に乗った方が危なかったんじゃ」
「それじゃ宇宙で漂流してた方が良かった?」
「そうじゃないけど」
「それにこれから向かう味方の基地がフレイ達をオーブに送ってくれるかも知れないって話だろ」
「私達だけ?サイ達はどうなるのよ」
「俺達は地球軍の機密に触れてしまったから、然るべき場所に着くまで拘束されているんだ」
「それってあのモビルスーツのこと?
それならあのキラって子だけでいいじゃない。
あの子がパイロットなんでしょ?
なんでサイ達まで」
「フレイ!」
「だってサイ・・・わかったわよ」
ヘリオポリスの学生組に多少のゴタゴタがあったが避難民達はおおむね冷静に話を聞いていた。
「あの、私カガリ・ユラのライブに来たプラント市民なんですけど。
ザフトの方に民間人がいることを伝えて保護してもらうとか、戦いを避けることは出来ないんですか?」
自分はプラント市民だと告げた少女に周りの避難民達の目が冷たくなる。
コロニー内で暴れ回り、ヘリオポリスを崩壊させたザフトはプラントの軍隊なのだから。
「あなたは?」
「ミーア・キャンベルです」
「ミーアさん、あなたにとって辛い事かも知れないけど、ザフトに降伏は出来ません」
「何故ですか?」
「ザフトが捕虜を取らないからです。
世界樹での戦いで戦闘不能になった艦や世界樹から脱出出来なかった兵士達が降伏しようとしたけど。
そのまま撃沈されたか、放置されて酸素切れで窒息死することになったわ」
「そんな、ザフトがそんな事を・・・」
プラントでは地球軍の捕虜の話など聞いた事がない事に気付き、ミーアの顔が悲しみに曇る。
「では、本艦はこれより行動を開始します。
キラ君はストライクのOSをソキウス少尉用に書き換えてね」
そこでまたフレイが口を挟む。
「ちょっと待って、あの子がパイロットなんでしょ」
「フレイ止めろよ、キラは地球軍じゃない」
「私たちを守るために乗ってくれてただけなんだから、ソキウスさんに引き継げばもう戦わなくていいのよ」
「何言ってるのよ、私見たわ。
ソキウスって人もう1つのモビルスーツに乗ってたじゃない。
そっちには誰が乗るのよ!」
「それは・・・でもキラは軍人じゃないし」
「でもモビルスーツは2つあって、その子は動かせるんでしょう?
なんで私達を守るために戦ってくれないの!」
「そこまでにしよう」
言い争いをしている学生組にカガリが仲裁に入る。
フレイはオーブ国民ならカガリを守る為に戦うべきじゃないかと主張するが、カガリはそれを否定する。
誰の命も大切だから、私の為に捨てていい命など一つもない。
だから戦わなくていいと言うカガリ
友人達ですら、さっきの戦いで僕に戦って欲しいと言う目を向けてきたのに、なんでこの女の子は僕の欲しい言葉をこんなに自然に言えるんだろう。
マリューさん達も無理に戦う必要はない、覚悟がないなら戦うなと言ってくれていた。
なんて強くて、かっこいい人達なんだ。
キラの心にこの人達を死なせたくない、そんな想いが芽生え始めた。
友人達に行ってくると声をかけて、部屋を出た艦長達を追いかける。
ストライクに乗って守るために戦うと伝えるために
「キラ君、本当にいいの?死ぬかも知れないのよ」
「戦うのは怖いです。
でも、カガリは僕が欲しい言葉を言ってくれた。
そんなカガリを守りたいと思ったんです」
「イージスとも、戦う事になるかもしれないのよ」
「えっ!」
「前回の戦闘で通信を繋げた時、イージスのパイロットと話しているのを聞いた」
「昔の友達なんだろ、半端な覚悟じゃ辛くなるぜ」
「それを知ってて、スパイとか疑わないんですか?」
「ふん、スパイならもっとそれらしく振舞うものだ。
君のようなお粗末なスパイなどいない」
自分から戦うと言い出した事は、艦長達にとっては好都合だろうに僕の事情を気遣ってくれるなんて。
(やっぱりかっこいいなぁ、この人達も)
「戦いたい訳じゃないけど、守りたいと思ったから。
後悔はしたくないんです」
「そうか、なら当てにしてるぜキラ」
フラガ大尉に初めて名前で呼ばれて、仲間として認められたようでなんだか嬉しかった。
キラはストライクのOSを調整するために格納庫へと向かう。
次の出撃でもっと動けるように、守れるように・・・
アークエンジェルは月基地の方向にデコイを射出し、最小限の制動で進路をユーラシアの要塞アルテミスへ向けた。
捕虜の扱いについては、原作でも描写がなかった事とエイプリルフールクライシスで10億を超える死者を出しているのにバレンタインの悲劇の被害者として振る舞い続けていた事を考えると、これくらいの事はしそうかなと思い、この設定にしました。
そもそも、原作でもヘリオポリスの時点で、重爆撃装備でコロニー内に突撃する前に建前でも降伏勧告を出してないですから。