歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
シンの離脱後、サトーの乗るゲイツを相手にルナマリアとメイリンが戦っている。
「むっ、動きが変わった?」
ネオの戦いを目の当たりにした事でルナマリア達の戦い方が変わっていた。
メイリンは、無人機達の動きに戦術的な意味を持たせようとしている。
今までは、ただ速い動きに任せて相手を倒そうとしていたが、次の動きの布石となるような動きをさせたり、3機を連携させて相手を追い込むような動きなどを取り入れ始めていた。
まだまだ拙いが格段に対処しづらくなっている。
ルナマリアも無人機達の動きに合わせて動く。
時に無人機から相手の注意を外すために囮となる。
自分達は姉妹ならではの連携が取れていると思っていた。
だが、ネオの動きを見て、井の中の蛙であったと思い知らされた。
ネオは、ドラグーンに複雑な動きをさせながらアレックスとの連携も問題なくこなして見せた。
メイリンと分業する事でノルンの操縦に専念できているルナマリアが遠く及ばない動きだった。
無人機の動きからメイリンが成長しようとしているのが分かる。
姉として妹に負けるわけにはいかない。
メイリンが無人機の動きに意味を持たせようとしている。
なら自分は、その意味を読み取り、それを活かす動きをする。
ホーク姉妹は、戦術面での成長を始めていた。
そこにソード・シルエットに換装したシンが戻ってくる。
インパルスを勢いよく飛び込ませ、サトーのゲイツに接近戦を仕掛ける。
シンもまた、アレックスの戦いを見て参考にしていた。
もちろん連撃の速さは及ばない。
主武装の対艦刀『エクスカリバー』は隙が大きい。
その攻撃と攻撃の間を埋める為に副武装を活用していく。
アレックスに比べれば、まだまだ隙は多いが確かな成長をみせている。
シンとルナマリア達の前に流石のサトーも撃墜は時間の問題に思われた。
そこに別のゲイツが救援に現れる。
2対2になった事で再び戦いは拮抗する。
「無事か?サトー」
「スズキか、ありがたい!」
共にユニウスセブンで家族を失い、復讐のために戦う盟友の助けを得て、シン達に対抗していく。
成長し始めたシン達は、専用機の性能もありエース級のサトー達でも手を焼くようになっていた。
シン達の戦いも激しさを増していく。
そんな彼らの前でユニウスセブンが突如二つに割れた。
作戦開始からいくつものメテオブレイカーを撃ち込んだ事でついに破壊に至ったのだ。
二つに割れたユニウスセブンの一つは地球への落下軌道から外れていく。
「ユニウスセブンが・・・割れた!」
「やったの?」
目の前で起きた現象の規模の大きさに呆然とするシン達。
「気を抜くな!
まだ、半分残っている。
もっと細かく砕かなければ地球に被害が出るぞ!」
オズマの叱咤で我に帰る。
残りのメテオブレイカーを起動させるために戦闘を再開する。
しかし、彼らの奮闘もここまでだった。
ファントムペインの二人を抑えられ、シン達もサトー達に拘束されている。
そんな中でメテオブレイカーを守りきれず、徐々に破壊されていた。
「くっ、メテオブレイカーの数が足りない。
ここまでか!」
オズマは、状況を冷静に把握して絶望を感じていた。
ユニウスセブンは、未だに危険な質量を維持して地球への落下を続けている。
戦う事は出来る。
しかし、巨大な質量を持つ物体を破壊する手段がないのだ。
もうすぐ阻止限界点に達する。
統合軍にも絶望が広がっていく。
それでも諦めない者がいた。
「何をしてるんだ!
今あるメテオブレイカーだけでも起動させないと!
少しでもダメージを与えれば大気圏で砕けるかもしれない」
アレックスが鼓舞する。
戦場の誰よりも激しく戦いながら、諦めずにメテオブレイカーを操作する部隊を援護してすらいる。
その姿に諦めに支配されつつあった周りの兵士達の心に光が戻る。
その不屈の闘志に応えるかのように歌が流れ始めた。
「何、この歌?」
「これは、闇ラクス?」
戦場に流れる歌。
それは2年前を彷彿とさせる。
戦争を止めるために歌った二人の少女。
彼女達の行動で歌は特別な意味を持ちつつあった。
激しい戦闘で気付かなかったが、戦場に新たな艦隊が近づいてきていた。
闇ラクスの歌は、その艦隊から流れてきているようだ。
「統合軍にはもう動かせる部隊はないはず。
あれは何処の部隊だ?」
その疑問に答えが返される。
「我々は反統合政府組織『リベリオン』
地球を守るためにここにいる。
統合軍に通告する。
兵を引け、邪魔をするならトゥルーザフトごと撃つ!」
艦隊からメテオブレイカーと共に多数のモビルスーツが出撃する。
その姿から、彼らの目的がユニウスセブンの破砕であることは本当なのだろう。
トゥルーザフトも標的を彼らに変えた。
こちらにはもうメテオブレイカーがない。
新たなメテオブレイカーを持ち込んだ彼らをトゥルーザフトが最優先で排除しようとするのは当然の判断だった。
統合軍もリベリオンとの共闘を選択しようとしていた。
リベリオンも地上で問題にはなっていた。
統合政府のやり方に反発した地球連合に参加していなかった非理事国の連合体が立ち上げた組織だ。
エイプリル・フール・クライシスで世界の経済は壊滅的なダメージを負った。
その上で大規模な戦争が行われた。
理事国はプラントと言う利権を取り戻したが、非理事国は何も得るものがなかった。
プラントと理事国の争いで、ただ失うだけだった。
その上で、統合政府はDSSDの業務を引き継いで宇宙開拓に大きな予算をかけていた。
人類存続のため、リスクは分散させなくてはならない。
統合政府の主張も理解は出来る。
大量破壊兵器が使用される大戦争が起こったのだ。
人類滅亡も現実の問題として考えなくてはならない事は非理事国も分かっている。
それでも、まずやるべき事は傷付いた経済を回復させる事だ。
彼らはプラント利権の解放を要求した。
小さくなったパイを皆で分け合って、この危機を乗り越えようと言うのだ。
利権を持つ企業達は、それに応えなかった。
彼らも自社の従業員達を養わなければならないのだ。
経済と言うパイが縮小している今、利権を手放す事は出来なかった。
それに利権を分散させれば力を失う。
自分達が主導して経済を動かした方が回復も早い。
ロゴスには、それが可能なだけの影響力とノウハウがあった。
効率だけを考えれば、それは正しい判断だ。
しかし、それは理事国が世界経済を完全に掌握する事を意味する。
非理事国に受け入れられる未来ではなかった。
彼らへの反発が高まり、リベリオン設立へと繋がった。
その経緯から統合軍もリベリオンを敵性組織と認識していたが、状況が状況だ。
敵の敵は味方という言葉もある。
統合軍もリベリオンと連携しようと動き始めた。
しかし、リベリオンとの共闘は実現しなかった。
リベリオンから再び闇ラクスの歌が流れ始める。
それは、戦場に大きな影響を与えた。
それは2年前、歌姫達が歌った時以上に明白な異変をもたらしていた。
「なんだ、この歌は・・・心がざらつく。
思考にノイズが混じる」
最初は、それほど影響はなかった。
リベリオンとの戦闘も問題なく行えていた。
少し心に違和感を感じる程度。
歌に気を取られ、集中力が乱されているのか?
そんな風に思っていた。
その僅かな違和感に最初に気付いたのは偽アスランだった。
「この感じ、まさか、闇ラクスの歌声はラクス・クラインと特性まで同じものなのか?」
(だとしたら不味い。
コーディネーターでは闇ラクスには勝てない)
その偽アスランの懸念は現実のものになる。
時間と共にパイロット達に不調が出始めた。
苦痛を感じているわけではない。
むしろリラックスしているのだ。
戦場でリラックスしてしまう事が何を意味するのか?
戦うために思考を割く事が出来なくなるのだ。
戦えるような精神状態ではない。
このままでは、完全に戦えなくなってしまう。
そこで偽アスランは、別の違和感に気付く。
統合軍の動きもおかしくなっている。
リベリオンに合わせて我々を撃とうとしていた統合軍も動きが鈍くなっていた。
(何故だ?
ラクスの声と同じなら、コーディネーターにしか効果はないはず。
一部はコーディネーターでも、統合軍の主体はナチュラルのはずなのに)
戦場にいる、リベリオン以外の兵士達は戦闘力を、いや、戦闘する意欲を失いつつあった。
その顔に恐怖や苦痛はない。
闇ラクスの歌声に包まれて恍惚とした表情すら浮かべている。
それはまるで、船乗り達を歌声で惑わし死へと誘うセイレーンのようだった。
闇ラクスの歌が流れる戦場でシンは戦い続けていた。
シンも相手のサトーもラクスの歌の影響は感じていた。
それでも、復讐を望む心が怒りの感情を高めて戦意を維持する。
「何故だ、闇ラクスの歌は反逆の歌。
反体制派である我らトゥルーザフトの味方であるべきだろう!」
「ふざけるな!
彼女の歌がお前らの為なんかであるものか!」
サトーの言葉は、シンにとって許せないものだった。
闇ラクスの歌はシンの心を認めてくれた。
家族を奪われて復讐を望む心。
その心を誰にも掬い上げてもらえない孤独。
世界への絶望に共感してくれた。
自分の心のままに生きる事を諦めなくていい。
そんな風に背中を押して、支えになってくれた歌。
そんな彼女の歌が地球に八つ当たりするような連中のための存在であってたまるか!
シンの中で何かが弾けた。
集中力が極限まで高まる。
もう闇ラクスの歌で阻害されない。
いや、むしろ集中力を高める助けとなっている。
インパルスを加速させる。
闇ラクスの歌の後押しを受けたシンは、これまで不可能だった速度で機体を動かす。
既に集中に難が出始めているサトーは、一気に劣勢へと立たされてしまう。
「おのれ、私が、娘のために戦う私がこんな所で!」
恨み言を続けるサトーに、シンが静かに言う。
「あんたは娘の復讐のために地球を壊そうとした」
「私が間違っていると言うつもりか!
違う、間違っているのは世界の方だ!」
「なら、オーブで家族を殺された俺が復讐のためにお前を殺すのも間違っちゃいないよな!」
シンが更に苛烈に攻め始める。
コックピットの中でサトーは理解していた。
自らを追い詰め撃墜しようとしているモビルスーツから発される少年の声に。
復讐《正義》のために戦っていたのは自分だけではなかったのだと。
いや、自分の行いはただの八つ当たりだった。
こんな世界は嫌だから壊してしまえ。
そんな幼稚な考えだった。
目の前のパイロットは、声から年端も行かない少年だろう。
だが、復讐をするべき相手を見定めていた。
誰彼構わず傷付けようとした自分が恥ずかしくなる。
彼の復讐は、しっかりと前を見据えている。
一歩も前に進めなかった自分とは違う。
彼の心が前へと進むためのものなのだ。
インパルスのエクスカリバーがゲイツを捉えた。
両断され爆発する機体の中でサトーは、名も知らぬ相手パイロットに感謝していた。
間違ってしまった自分を止めてくれた。
(もういいんだよ、お父さん)
「すまなかった、マリ・・・」
爆発に包まれて死ぬ寸前に娘に会えた気がした。
最後の瞬間、彼の心は穏やかさを取り戻していたのだ。
その後、トゥルーザフトは完全に戦闘行動が出来なくなる前に撤退した。
ユニウスセブンはリベリオンのメテオブレイカーで破砕され、地球に被害はほとんど出なかった。
闇ラクスを象徴として戴くリベリオンは、世界を救った実績を提げて統合政府と対峙する。
より正確に言えば、理事国達と対立するようになる。
地球は、理事国陣営とリベリオン陣営に別れて争う、内乱状態に陥っていった。