歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
歌で敵を無力化し、ユニウスセブンの落下を阻止した闇ラクスの力は世界に衝撃を与えた。
かつて歌で戦争を終結に導いた二人の歌姫ですら出来なかった事を成し遂げたのだ。
闇ラクスの歌声は、希望の歌姫と呼ばれる彼女達を超える力を持っている。
ユニウスセブン落下を阻止し、世界を救った救世主と讃えられた。
彼女を象徴として戴いているリベリオンの名声は高まるばかり。
それは彼らを組織した非理事国連合の発言力が高まると言う事でもあった。
彼らは、理事国に対して地球経済回復の為の応分の負担を求めた。
彼らの主張には一定の理があった為、世論にもそれなりに支持されていた。
プラントと理事国の争いで世界の経済は傷付いたのだからプラントの暴走を抑えられなかった理事国にも管理責任がある。
非理事国が負った損害に対して、理事国は道義的責任があると主張したのだ。
理事国側は対応に窮していた。
非理事国側が言っている事も分かるのだ。
だからと言ってプラント利権を手放す事も出来ない。
それは返って経済の回復を遅れさせてしまう。
自分達が経済回復の主軸となり、その恩恵を世界に広げていく事で非理事国の経済問題も解決する方向で交渉していた。
非理事国は、それでは経済的に支配されると反発。
大規模な作戦が失敗したばかりでトゥルーザフトがしばらく動けないと予測されているため、両者の緊張が高まる事に歯止めが掛からなかった。
世界が二つに別れて緊張が高まっている状況の中、ミネルバは地上に降りて、しばしの休暇を取っていた。
プラントの警備からモビルスーツ強奪犯の追跡、ユニウスセブン落下阻止作戦と休みなく働き続けて来た。
この辺で休養を取り、隊員をリフレッシュさせるべきだと上層部も判断した。
シンも艦を降りてディオキアで羽を伸ばしていた。
ルナマリアに一緒に街へ出ようと誘われていたが何とか逃げる事が出来た。
彼女達が嫌いなわけではないが、以前ショッピングに付き合わされた時に散々な目に遭っていた。
長時間付き合わされた上に荷物持ちとして散々こき使われたのだ。
出来れば遠慮したいのがシンの本音だった。
街中を散策しながら、久しぶりの一人の時間を満喫する事にした。
街をぶらつきながら考えるのは闇ラクスの事だった。
戦場で感じたあの感覚は何だったのだろう?
まるで闇ラクスの歌が俺の力を引き出してくれていたような。
今まで感じたことのない、集中が何処までも高まっていくような感覚。
誰にも負けない。
それこそ、あのファントムペインのパイロット達にすら届くんじゃないかと思えた。
闇ラクスの歌を聴きながらシミュレーションをしてみたりもしたが、あの時の感覚を再現する事は出来なかった。
実戦ではないからか?
それとも音楽データでは駄目なのか?
理由は分からないが、そう簡単にはモノに出来ないようだ。
シンの目に諦めはない。
自分はもっと強くなれる。
その道が示されているんだ。
なら、後は自分を信じて歩くだけだ。
力を求めていた。
それは、確かに復讐のため。
しかし、仲間や大切な何かを守る為の力でもあった。
「力は、ただ力だ
何のために、どう振るうのかは俺次第」
サトーのようにはなりたくない。
相手の名前は知らずとも、シンはそう思っていた。
関係ない人達にまで怒りを向けるような復讐は間違っている。
そこまで考えて、シンの表情が緩む。
自分が間違った道を歩こうとすれば止めてくれる仲間がいる。
オズマ隊長やルナマリア達の顔が脳裏に浮かぶ。
「特にルナは、世話を掛けさせるなって言いながら殴ってでも止めてくれそうだな」
(父さん、母さん、マユ、俺は大丈夫だよ。
いい仲間達に恵まれたんだ)
気が付けば街の外れにまで来ていた。
目の前には海が広がっている。
その絶景にシンも目を奪われた。
せっかくの休暇なのだから楽しまないと損だと思い、景色を楽しむ。
そんなシンの視界に妙なものが映った。
花畑で少女が踊っている。
笑顔で楽しそうに。
周りが見えないほど夢中になっている。
何故そう判断したのか?
それは、少女が踊りながら徐々に崖に近づいているからだ。
このままでは海に転落してしまう。
「おい、あんた、危ないぞ!」
シンが大声で危険を知らせるがダンスに夢中な少女には届いていない。
向こうの崖まで距離がある。
どんなに急いでも間に合わないだろう。
シンの中で焦りが生まれる。
目の前で少女の命が危険に晒されている。
それは、妹を守れなかったシンのトラウマを刺激する光景だった。
そして、予想通り少女が崖から落ちてしまった。
海に落ちた少女が海面に顔を出すが手足をバタつかせている。
溺れているのだ。
「やっぱり落ちた。
しかも泳げないのかよ!」
シンが崖から海へと飛び込む。
少女の下へと泳ぎ、背中から少女の身体を支えて陸地まで引っ張って行こうとするが溺れている少女が暴れて上手く行かない。
「落ち着いてくれ!
君は死なない。
俺が助けるから!」
「ステラ、死なない?
助けてくれる?」
シンの言葉が届いたようで少女は暴れるのをやめた。
大人しくなった少女を連れて陸地まで泳ぎ着いた。
何とか無事に救助できた。
少女を助ける事が出来て嬉しかったが、同時に妹の事がトラウマになっているシンにとって少女の行動は黙っていられないものだった。
「何を考えてるんだ、死ぬ気か?
もっと周りを見て行動しろよ!」
「死ぬ・・うぅ、ステラ、死ぬの?」
少女が目から涙を溢れさせている。
よく見れば身体も震えている。
その姿にシンはキツく言い過ぎたと後悔した。
崖から落ちて溺れるなんて目に遭ったばかりなのだ。
怖い目に遭って怯えている少女に強く詰め寄るなんて何をしてるんだ。
「ごめん、言い過ぎた。
君は死なないよ」
服も濡れて身体が冷えている。
崖の上に登る道を探すにしても、まずは服を乾かして身体を温めなければ。
幸い、軍事訓練の中でサバイバル術も習得している。
焚き火で暖をとれば直ぐに元気になるだろう。
「大丈夫、俺が守るから。
安心してくれ」
「ステラを守ってくれるの?」
「ああ、君はステラって言うんだね。
俺はシン。
約束するよ、君を無事に家族の下に帰すって」
「シン、ありがとう」
その場から少し離れた場所にあった洞窟で火を起こし、身体を温め、服を乾かしていた。
シンは、ステラと二人きりの状況に気恥ずかしさを感じていた。
最初に話した感じでは幼い印象を受けたが焚き火にあたり静かにしている彼女は、自分とほとんど変わらない年頃なのだと感じさせた。
ルナマリアやメイリンと二人で過ごす事もあったが仲間としての感情が先立つのか、こんな風に緊張するような事はなかった。
服が乾くまでどう時間を潰そうか悩み、いろいろ話題を振ってみたがどうも話が弾まない。
自分は、女の子の相手をするのに向いてないんだなと実感した。
まさかショーンを尊敬する事があるなんて。
いつも軽い調子で女の人達との会話も弾んでいた。
その上、美人の婚約者までいるらしい。
結局、手持ち無沙汰になりイヤホンを着けいつもの闇ラクスの歌を聴いていた。
「何、してるの?」
そんなシンにステラの方から話しかけてきた。
(ああ、そうか。
自分だけ歌を聴いて時間を潰そうとするなんて、気が利かないな、俺は)
「ごめん、歌を聴いてたんだ。
ステラも聴くか?
俺の好きな歌なんだ」
そう言って、イヤホンの片方をステラに渡す。
二人で歌を聴きながら過ごせばいい。
シンは、そう軽く考えていた。
どうやらステラは、闇ラクスの歌を初めて聴いたようだ。
最初はびっくりしていたが、直ぐに闇ラクスの歌を気に入ったようで楽しそうに聴いていた。
自分が好きな曲を他の人が気に入ってくれるのは嬉しいものだ。
聴かせて良かった。
シンの心は幸せを感じていた。
妹を守れなかったシンにとって、溺れ掛けたステラを助け、音楽を聴かせて楽しませた事は、心の傷を癒す事に繋がっていた。
妹を幸せに出来なかった事の代償行為ではあるのだろう。
だが、それで前を向けるのなら、それは悪い事ではない。
辛い事をそうやって乗り越えていく事が生きるということなのだから。
服が乾き、身体も温まった事で、二人は崖の上に戻る道を探しに出発した。
幸い戻る道も見つかり、街へと無事に帰って来れた。
ステラの家族とも連絡が付いて迎えに来てくれていた。
「あっ、スティングとアウルだ」
「ステラ、何してたんだよ。
あんま、心配させるな!」
「何にせよ、無事で良かった」
ステラの安心した笑顔を見る事が出来て良かった。
無事に家族の下に帰すと言う約束を守れた事に安堵していた。
「ステラが世話になりました。
あいつは、どうもぼんやりしていて、一人だと帰ってこれたか。
感謝します」
スティングと呼ばれた青年がお礼を言ってきた。
「いえ、気にしないでください」
シンは苦笑して応える。
真面目で責任感のある長男と言った感じだ。
向こうで戯れあっている青年は、お調子者の次男。
そして、ステラは甘えん坊の末っ子って感じかな?
勝手にそんな風に思っていた。
「シン、ありがとう」
ステラが帰る前に礼を言いに来た。
少し話した所、どうやらステラ達もディオキアにはバカンスで来ているらしい。
自分もディオキアの者じゃないと知って、もう会う機会もないとステラが寂しそうにしていた。
「ステラ、これやるよ」
そう言ってシンがステラに闇ラクスの歌が入った携帯プレーヤーを渡す。
「いいの?シンの大切な物なのに」
「予備があるから大丈夫さ!
自分の好きな歌が他の人も好きでいてくれるのは嬉しいんだ。
布教ってやつだよ」
「わかった。
スティングやアウルと一緒に聴く。
布教、手伝う」
ステラのズレた答えに思わず笑ってしまう。
「ああ、頼んだ」
車に乗り込んで帰っていくステラ達を見送った。
「さて、俺もミネルバに帰るか」
シンに見送られたステラ達は、自分達の母艦へと向かう。
「ステラ、楽しかったのか?」
「うん、楽しかった♪
ステラ、シン好き」
「そうか・・・良かったな」
彼らはエクステンデッド。
連合軍の暗部が創り上げた強化人間だ。
艦に戻れば戦場へと向かう事になる。
だが、今だけは日常を楽しむ普通の子供達のように見えた。
ピースメーカー母艦ジョン・ドゥ
「スティング達が戻りました」
「そうか」
「その、ステラが街で一般人と接触したようです」
「リー少佐、その報告は必要か?
揺籠で調整すれば彼らの記憶はリセットされる。
その一般人の事など直ぐに忘れるだろう」
ラースの言葉にイアンの表情が曇る。
子供達に対する扱いに思うところがない訳ではないのだ。
彼らは定期的に調整を受けなければ生命を維持できない。
そして、その度に記憶が最適化される。
経験を積み、現状に不満を抱くようになれば反乱の危険がある。
だから、命令に従う状態を維持するために記憶を定期的に消去しているのだ。
「そう思い詰めるな。
ロドニアのラボで反乱が起きた事もある。
これは必要な処置なのだよ」
「理解はしています」
「ブロックワードも外してやった。
まったく研究者達にも困ったものだ。
あんな日常会話で使うような言葉を選ぶとは」
「確かに簡単に恐慌状態になられては困りますが」
ラースの言葉にも心は晴れない。
彼らを縛る鎖の必要性。
それは反乱を起こすような環境だと認めているようなものなのだから。
子供達をそんな環境に置いている事に、そんな環境から解放してやる事が出来ない自分の無力さに気持ちが沈んでしまう事は止められなかった。
(せめて、少しでも長く生きられるように戦場で助けになる。
それくらいしかしてやれない情けない大人で済まない)
必要な事だと汚れ仕事を担ってきたイアン・リーの心に少しずつ澱みが溜まっていた。
一時の休暇が終わった時、世界は再び動き出す。
シンとステラの出会いは、どんな未来に繋がっていくのか?
彼らが戦場で出会う時、新たな運命が始まる。