歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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暴発の東アジア

 

 

 

 その日、テレビ会議が行われていた。

 それ自体はよくある光景だが、参加者は錚々たる顔ぶれであった。

 世界経済に大きな影響力を持つロゴスの主要メンバーによる会議だ。

 彼らが会合を持つ時、世界経済は大きく動くと言われている。

 しかし、今回の議題は経済についてではなかった。

 いや、最終的には経済的な問題に行き着くのだが政治的、軍事的な議題が取り上げられていた。

 彼らは巨大な軍産複合体を率いる者達だ。

 その影響力は政府や軍にも及ぶ。

 

「皆様方も今の政治情勢が思わしくないことは理解されているでしょう。

 かつて地球連合に参加していた南アフリカ統一機構や南アメリカ合衆国も不穏な動きをしている。

 あのリベリオンに勝手な事を許しているから世界は混乱しているのです」

 

 今回の会合の発起人であるロード・ジブリールがロゴスのメンバーに問題提起を行なっている。

 

 南アフリカ統一機構も南アメリカ合衆国もプラント利権を持たない非理事国だが政治的思惑で地球連合に属していた。

 南アフリカ統一機構は、政治的対抗勢力であるアフリカ共同体に対して優位に立つために。

 南アメリカ合衆国に至っては北米の影響力が強いために追従する形で参加していた。

 彼らは、プラント利権が解放されるのなら自分達であるべきだと主張し始めた。

 同じ陣営で血を流した彼らにとって当然の権利だと考えていた。

 特に北米の裏庭扱いされていた南米は、反大西洋連邦感情が強い。

 南米の暴発を避けるために難しい舵取りを迫られていた。

 

「状況は理解している。

 だが、どうしろと言うのかね?」

 

「さよう、非理事国の主張にも一定の理はある。

 プラントの暴走を防げなかった管理者責任を否定する事はできん」

 

「やはり、ある程度の利権を開放しなければ理事国としての正当性を失ってしまう」

 

「それをすれば南アフリカと南米が黙っていないだろう?」

 

「彼らの不満を抑えるには差をつけるしかないが、そうすれば非理事国達が満足できる規模には到底ならない」

 

「我らとて余裕があるわけではない。

 開放できる利権にも限度がある」

 

 経済が縮小してしまっている今、出来ることは限られてくる。

 会議は踊る、されど進まずと言った様相を呈していた。

 

 その議論を進めたのは、やはりこの男だった。

 

「皆様は優しいですね。

 何故、我々が非理事国連合やリベリオンに気を使わねばならないのです?

 あの戦争で人類の敵と必死に戦っていた我らに協力しなかった者達に」

 

「そうは言っても、我々にも体面というものがある。

 事は社会的な信用に関わるのだぞ」

 

「我々が手を汚す必要はありませんよ」

 

「ほう」

 

「現状に不満を持っている者達の背中をほんの少し押してやるだけで良いのです。

 彼らが何をしようと我々の預かり知らぬ事。

 違いますか?」

 

「悪くない。

 しかし、そう上手くいくかね?」

 

「ご心配なく、状況を制御するために手のものを潜り込ませる準備は出来ております」

 

「そうか、では君に任せよう。

 頼んだぞ、ジブリール」

 

「ええ、お任せ下さい」

 

 会議が終わり、ジブリールは直ぐに部下へと指示を出す。

 

「ラース君、ロゴスへ話は通した。

 君たちは作戦計画通り行動したまえ」

 

「はっ、了解しました」

 

 全てを思惑通りに進めることが出来たジブリールの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。

 

「ふっ、これで世界は再び動く。

 いや、私の手で動かすのだ」

 

 そんなジブリールに使用人が声を掛ける。

 

「計画通りですね。

 さすがはジブリール様です」

 

「当然だ。

 私はいずれ組織のトップに立ち、世界の全てを支配する男なのだからな。

 お前達にも動いてもらうぞ。

 アズラエルが我々の事を嗅ぎ回っている。

 偽情報で奴の手足となって動いている者達を誘き出し、始末するのだ」

 

「かしこまりました。

 では、末端に指示を出しておきます」

 

 ネームレスのメンバーであった使用人も部屋を出て、ジブリールが一人になる。

 

「アズラエルめ、使い物にならなくなっただけでなく我らに噛みつこうとするとは身の程をわきまえぬ男だ。

 だが、あの男が見出した歌の力は確かに有用だ。

 お陰で組織の計画も随分と前倒しに出来たのだから感謝してやろう。

 『シャロン・アップル計画』

 この計画を遂行するためには、まだまだ血が流れる必要がある。

 我らの理想のために世界には踊ってもらう」

 

 ネームレスもまた、大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 東アジア共和国が突如として非理事国連合の弾圧を開始した。

 リベリオンは統合軍の傘下に入る事なく軍事行動を行い、その戦力を背景に政治的意思を押し通そうとするテロ組織である。

 そのリベリオンを支持する国家はテロ支援国家と見做さざるを得ない。

 それが表向きの理由であった。

 

 

 現在、統合政府及び統合軍で影響力が強いのは大西洋連邦とユーラシア連邦の2カ国である。

 共に前大戦で戦果を上げた事で軍事的存在感を高め、政治的にも強い影響力を持つに至った。

 更にこの2カ国は戦争時に上手く協力関係を構築する事に成功し、互いの国民感情も大幅に改善、蜜月関係と言ってもいい情勢であった。

 対照的に大戦で確たる戦果を上げる事が出来ず、存在感を示せなかった東アジア共和国の影響力は相対的に低下している。

 東アジア共和国は、その現状に不満を持っていたが影響力の強い2カ国の関係が良好である以上、有効な手を打つ事は出来なかった。

 もちろん、国家に永遠の友情は存在しない。

 今は良好な関係でも、いずれ互いの国益がぶつかり関係が悪化する事もあるだろう。

 たとえ同盟国であっても潜在的な敵国として戦争プランを策定しておく事など国としては当然の備えである。

 だが、現時点においては当面の間、この友好関係は続くと分析されていた。

 東アジア共和国は、現状を打破するために戦果を上げる事で力を見せ付け、存在感を高める機会を求めていた。

 小国の寄せ集めでありながら自分達の核心的利益であるプラント利権を犯そうとしている者達は、非常に都合の良い存在に思えた。

 東アジア共和国の上層部は、非理事国との交渉において一切の譲歩を見せないどころか相手を非難して決裂させた。

 その果てに非理事国連合に対する武力行使が始まったのだった。

 

 突然始まった紛争に同じ理事国である大西洋連邦とユーラシア連邦は困惑した。

 大西洋連邦は南米に、ユーラシア連邦はアフリカにプラント利権の開放に関する交渉を持っていた。

 東アジア共和国は、汎ムスリム会議と赤道連合と交渉する事になっていた。

 大西洋とユーラシアの2カ国は、東アジア共和国の性質から利権の開放に後ろ向きで交渉は難航するだろうと予測していたが、このあまりに早い暴発は流石に予想外だった。

 この事態にオーブやスカンジナビア王国などプラント利権を要求しなかった国家が非難の声明を発表。

 また、前大戦でプラントから供与される利益と地域内覇権を狙い親プラント政策を推進していた事でプラント利権の要求を行えなかった大洋州連合も非理事国側を支持した。

 特に赤道連合が落とされれば勢力圏が接するようになるため、大洋州連合は軍事も含めた全面的支援を行なっていく事になる。

 

 この事態の急変において、大西洋とユーラシアの動きは鈍かった。

 ロゴスが手を回した事でメディアが報じるニュースは抑制されたものにされていた。

 あくまで両国間の問題であり、口出しする事は内政干渉に当たると言われれば国民の感情も盛り上がらなかった。

 自国はプラント理事国としての責任を果たそうとして、地政学的にも政治的にも近い勢力と利権分配の交渉をしている事で国民の自尊心は満足していた。

 理事国としての責任を果たそうとしない東アジア共和国の行いに眉を顰めるものの、それ以上に強い行動を政府に求める動きにはならなかった。

 

 

 東アジア共和国に電撃的に侵攻され、非理事国連合側は多くの土地を奪われてしまった。

 国力的にも東アジア共和国が圧倒的に有利な状況に非理事国連合はリベリオンに救援を要請。

 更にPMCや傭兵など戦力をかき集めて抵抗しようとしていた。

 

 

 

 ファング:ミネルバ

 

 今回の東アジア共和国の暴挙は、オズマ隊にも影響を及ぼしていた。

 

「東アジアの連中にも困ったものだな」

 

「そうですね、連中の頭の中を理解できる気がしません」

 

「俺達にも出動の命令が来ている」

 

「相手は東アジアですか?」

 

「ああ、俺達ファングは非理事国系の資本で運営されてるからな。

 本社の意向だけじゃなく、俺達の心情的にも東アジアに雇われたくはないだろう?」

 

「確かに、シン辺りは特に反発しそうですね」

 

「リベリオンも駆けつけるだろう。

 今回は共闘する事になる」

 

 オズマの頭に闇ラクスの歌が過ぎる。

 あの歌を戦場で聴き続ければ戦闘不能に陥ってしまう。

 だが、リベリオンの兵士達やシンは戦い続ける事が出来ていた。

 特にシンは逆に動きが良くなっていたくらいだ。

 

「味方として戦場に立てば、奇跡の歌姫の加護を受ける事が出来るのかな?」

 

「あの歌には驚きました。

 味方には悪影響がないみたいですし、理事国との戦力差を埋めるためには有効でしょう。

 使わない理由がないですよ」

 

 短い休暇を終え、ミネルバは再び戦場へと戻っていく。

 非理事国達の声に耳を貸さない大国の傲慢さを見せる東アジア共和国への反骨心を抱いて。

 

 

 

 ちょうどその頃、アークエンジェルが火星から地球圏に帰還。

 統合軍本部に火星での異変を報告するも地球圏の情勢が不安定化している事もあり、火星への対処は棚上げされる事になってしまった。

 火星で確認されたゴーストは、その性能が大幅に低下していた事とワルキューレを放棄する必要があったとは言えアークエンジェル単艦での離脱に成功している事から火星に落ち延びたザフト勢力の脅威は低いと思われたのだ。

 火星とは距離があり、大規模な戦力を送ることも難しい。

 それは、火星からも同じ事が言える。

 火星の問題は情勢が安定してから解決すれば良いと判断された。

 アークエンジェルのクルー達は、この決定に不安を感じていたが反論の為の根拠もなく従わざるを得なかった。






各勢力と世界情勢の説明回が終わりました。
ほぼ全ての勢力が出揃ったので、後は物語を回していけると思います。
闇ラクスとシン達、ステラ達の絡みが続く事になります。
アークエンジェル組の活躍はもう少し後になる予定です。
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