歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
東アジア共和国が東南アジアや中東に電撃的に侵攻。
多くの地域を勢力圏に収めてしまう。
その地で多くの悲劇が引き起こされていた。
大戦時は、ザフト相手に押され続けていたため戦争犯罪が問題となることは少なかった。
しかし、蹂躙できる弱者を前にしたことで隠れていた残虐性が解き放たれてしまったのだ。
彼らは占領地で圧政を敷き、力で持って支配する。
当然、搾取され、命の危機すら感じている現地の住民達は一刻も早い解放を願った。
レジスタンスとして活動する者も多く、治安は急速に悪化していった。
ミネルバが赴いたのはそんな戦場の一角だった。
すでに幾つかの警戒拠点を潰しながら移動を続けている。
ミネルバでは、パイロット達を集めて作戦前のブリーフィングが行われていた。
「リベリオンもかなりの戦力を地球に降下させたらしい。
闇ラクスも降りて来ているそうだ」
「ですが、現時点で非理事国側の態勢は整ってません。
反転攻勢の準備が終わるまで、共和国の攻勢を防いで時間を稼ぐ必要があります」
「でも拍子抜けだな。
直ぐに大規模な戦闘があると思ってた」
「そうね、私達がやったことってモビルスーツもいない小さな監視所をいくつか潰しただけだものね。
せいぜいトーチカがあったくらいかしら」
「おいおい、勘違いするなよ。
まだ、前哨戦すら始まってないからな」
「次のミッションは、現地ゲリラを援護するための前線基地に対する牽制攻撃です」
「牽制かよ、地味だな」
「シン、油断するなよ。
基地にはモビルスーツも配備されている」
「ゲリラの偵察で少なくとも2個小隊、8機のウィンダムが確認されています」
「数だけならこちらの2倍の戦力だ。
さらに増えることも考えられる。
俺たちの役目は、後方に回り込んだゲリラが基地を破壊するまで敵モビルスーツを引き付けること。
無理に相手を撃墜する必要はない」
「でも、俺達ならこれくらいやれますよ」
「地上戦は宇宙とは勝手が違う。
慣れない内は無理するものじゃない」
「お姉ちゃんも無理はしないで。
ドラグーンと違って、ウルズ達は地上でも使えるけど重力とか空気抵抗で宇宙の時ほど自由に動かせないよ」
「了解です、隊長。
メイリンも心配しないで。
無理なんかしないわ。
シンも分かったわね?」
「分かってるよ、ルナ。
無茶はしません、隊長」
「ああ、それでいい。
戦場は東南アジアから中東にかけて広範囲に及んでいる。
俺たちは各地でミッションを遂行していくことになるだろう。
先は長いぞ」
ブリーフィングを終え、パイロット達は作戦開始を待つ。
東南アジア、密林地帯
密林の上空をモビルスーツが飛び交っている。
ミネルバが東アジア共和国の偵察部隊に攻撃を仕掛け、前線基地の戦力を誘引し、交戦を開始した。
モビルスーツ隊を誘い出し、敵基地の戦力は手薄になっている。
作戦は順調に進んでいると言えた。
ある一点を除いて・・・
「くそぉ〜、相手は8機じゃなかったのかよ!」
「3倍はいるじゃない、ゲリラの偵察部隊は何を見てたのよ!」
前線基地から出撃したモビルスーツの数は事前の想定を遥かに超えた28機に及んでいた。
その圧倒的な数の暴力によって、ミネルバとそのモビルスーツ隊は防戦一方に追い詰められている。
「お喋りしてる暇はない!
二人とも口じゃなく、手を動かせ!
それに言っただろう、少なくとも8機だと」
「だからって3倍は想定外過ぎるだろ!」
「いくらゲリラの情報精度が低くてもこれ程ズレるものじゃない。
おそらく、最近になって増強されたんだろう」
「なんで、重要でもない前線基地の一つにこれ程の数のモビルスーツが?」
ミネルバの甲板で迎撃しているショーンの疑問にアーサーが答える。
「監視拠点をいくつも潰している有力な部隊の存在が確認されたから・・・ですかね」
「それって、奴らの狙いは俺達ってことですか!」
「それ以外にこれ程の戦力を投入する理由が思い浮かばないですから」
「基地の常駐部隊ではなく、俺達みたいな手を焼きそうな戦力を潰すための遊撃部隊って訳か!」
今、襲いかかっている部隊は数だけではない。
各地で抵抗の中心となっている戦力を潰すために派遣された部隊なのだ。
比較的練度の高い部隊でもあった。
「まずいですよ。
敵の戦力が多過ぎます。
この状況でゲリラが基地を攻撃したら、」
「敵の一部が基地へ救援に向かうのを阻止できないか。
そうなればゲリラ部隊は・・・」
「ええ、蹂躙されて全滅でしょう」
「だが、俺達の戦力では如何ともしがたい」
作戦失敗がオズマの頭を過ぎる。
ゲリラが状況を察知して、早期に撤退してくれれば損害は少なくて済む。
だが、圧政によって東アジア共和国に対する憎悪を溜め込んでいるゲリラが理性的な判断を下せるだろうか?
オズマもそれほど期待は出来ないと考えていた。
自分達も多数のウィンダムに集られて、全滅の危険すらあるのだ。
彼ら自身に切り抜けてもらうしかない。
オズマとアーサーの会話を聞きながらシンは自分の弱さを嘆いていた。
フォース・シルエットで出撃し、戦場を飛び回っているが相手の数が多過ぎて思うように相手を撃墜できず、数を減らすことが出来ないでいた。
モビルスーツ黎明期とは違い、すでにビーム兵器は標準化されている。
実弾兵装が一般的だった時のストライク程の優位はない。
例え専用機であろうと直撃すれば撃墜の危険があるため回避を優先せざるを得なかった。
それでも、ミネルバは善戦していたと言える。
これ程の数の差があるにも関わらず、未だに被撃墜ゼロであり、僅か数機とは言え逆に撃墜もしているのだから。
それは、機動力のあるフォース・インパルスが前に出て相手を撹乱している事が一つ。
もう一つはメイリンの活躍によるものだった。
戦場を飛び交う無人戦闘機ウルズ、ベルザンディー、スクルドの3機が数の劣勢を埋めている。
大気圏内で自由度が落ちているとは言え、その回避能力は有人機とは一線を画する。
ウィンダム達の攻撃は無人機達を捉える事が出来ず、翻弄されていた。
それでもジリジリと追い詰められている。
アーサーは撤退のタイミングを伺っていた。
当初の作戦目標であるゲリラによる基地破壊まで相手戦力を拘束する事は不可能。
ならば、ゲリラの攻撃が始まり、敵の注意が基地に向いた時に撤退する。
支援するはずだったゲリラを囮に逃げる。
格好の悪い事だが躊躇するわけには行かない。
格好つけてもゲリラと共倒れになる未来しかないのだから。
自分達は正規軍ではない。
傭兵契約しているPMCなのだから、任務達成が不可能になったのなら損切りするのが当然だった。
そしてゲリラによる基地攻撃が始まったのだろう。
敵部隊の一部が基地の方向に撤退していく。
それでも20機近いモビルスーツが残っている。
ミネルバから撤退指示が出される。
それも容易な事ではないが数が減った事で確実に敵部隊からの圧力は低下している。
ミネルバは、モビルスーツ隊と連携して撤退する事が出来るタイミングを模索していた。
敵部隊からの圧が低下した事で周りを見る余裕が出来たシンの目に密林の中にある村の様子が入ってきた。
それは悲惨な光景だった。
村の建物は全て焼け落ち、辺りには様々な物が散乱していた。
その中には子供の物だったであろう汚れた人形などもあった。
空には、それを成したであろう東アジア共和国のウィンダムが飛んでいる。
その光景は、目の前で家族をザフトのディンに上空から撃ち殺されたシンのトラウマを抉った。
シンは、大した武器もないのに東アジア共和国に抵抗するゲリラ達に自分を重ねていた。
俺と同じだ。
彼らの憎しみを理解できる。
そんな彼らを見捨てて自分だけ逃げるのか?
シンの中で反骨心が激しく燃え上がる。
シンの中で何かが弾ける。
思考がクリアになり、戦場のすべての動きがスローになる。
宇宙で感じた、あの時と同じ感覚。
今なら、あのアレックスと同じように動ける。
最後までメテオブレイカーの護衛部隊を守り続けていた姿が甦る。
ああ、仲間は絶対に見捨てない!
「うおおおおぉぉぉ!!」
スロットルを全開にして、ウィンダムの群れの中に突っ込んでいく。
「シン!?」
「あのバカ!
無茶はするなって言っただろう!
戻れ!」
突然のシンの行動に仲間達は驚き、戸惑う。
その後に見せたシンの動きに言葉を失う。
凄まじい速度で切り込み、ウィンダムを撃墜していく。
その動きは、宇宙でアレックスと偽アスランが見せたスーパーエースの領域に踏み込んでいると感じさせるものだったのだから。
「何が切っ掛けか分からんがゾーンに入ったようだな。
シンを援護して撤退するぞ!」
「「「了解!」」」
オズマとショーンのヅダが残っていたミサイルを撃ち出す。
ルナマリアとメイリンのノルンがウルズ達を突っ込ませてシンの援護に回る。
仲間達からの支援を受けたシンの殲滅速度は更に上がっていった。
圧倒的な速度で斬り結び、一方的に相手を撃墜していく。
速度を緩める事なく攻撃を躱し、そのまま攻撃して相手を捉える超攻撃的な戦闘機動。
それは状況を瞬時に把握する情報処理能力と完璧に機体をコントロールする精密操作が要求される。
普段のシンでは届かない領域の動きだった。
「ミネルバ、ソード・フライヤーを射出しろ!」
「えっ?
あ、そうか、もうエネルギーが」
戦闘開始から前線で飛び回り、今も全開で動き続けているインパルスのエネルギーは危険域に迫っていた。
シンの要求にミネルバのブリッジクルーも状況に気付く。
「ソード・フライヤー射出!」
アーサーの指示でソード・フライヤーが射出される。
一旦離脱してきたインパルスがパーツごとに分離して、ソード・フライヤーとドッキングする。
空中での流れるような動きによる換装。
攻撃を当て、撃墜できるような隙などなかった。
シンのインパルスが換装した事を契機としてウィンダム達は撤退を開始した。
物凄い勢いで自分達を撃墜していたインパルスが換装した。
おそらくエネルギーも補充されていると思われる。
ならば、これ以上の戦闘は全滅もあり得る。
ウィンダム達はそう判断していた。
撤退していくウィンダムを見ながら戦闘は終わりだとオズマ達は安堵していた。
だが、そんなオズマ達を後方から追い抜いていく影が一つ。
シンのソード・インパルスだった。
「なっ、シン、何をしている!
撤退命令が出ているんだぞ。
戦闘は終わりだ!」
オズマの叱責も聞こえていないのか更に加速してウィンダムを追っていく。
「隊長、追いかけましょう!
今のシンとなら敵を全滅させることも可能なはずです」
「バカを言うな!
シンのあの状態がどれだけ保つか分からないんだぞ!」
「えっ?」
「脳のリミッターが外れて、スペックを超える能力を引き出してるんだ。
長時間は脳が持たない。
その上、集中が切れれば、それまでの負荷が一気に襲ってくる」
「それじゃあ・・・」
「ああ、集中が切れた時、シンは撃墜される」
「それなら、なおさら追いかけなくちゃ!」
「それが仲間を危険に晒す事になってもか?」
「た、隊長?」
「俺達PMCは正規軍じゃない。
それぞれが譲れない何かを芯にして戦っているんだ。
思い出せ。
お前は、何のために戦っている?
それは、シンのために捨てていい物なのか?」
ルナマリアは後部座席のメイリンを見る。
妹の命も危険に晒す事になる。
ルナマリアを見つめ返すメイリンの目は優しかった。
大丈夫、姉さんを信じてるから。
そんな想いが伝わってくる。
「・・・確かに私達には譲れない目的があります。
でも、ここで仲間を見捨てれば、きっと届かない。
そう思うんです。
それに、私自身が嫌なんです。
仲間を見捨てるような人間にはなりたくない!」
「そうか・・・
ミネルバ、全速前進!
あの暴走バカを叱りに行くぞ!」
オズマの命令にミネルバが前進を開始する。
「隊長?」
「俺達は譲れない何かのために戦っている。
でもな、仲間のためになら命くらい張ってやるさ」
「そうだぜ、俺だってゲイルに助けられた。
あの時だけじゃない。
その前から助けたり、助けられたり。
仲間ってのは、そういうもんだろ」
「もちろん、死ぬつもりはない。
シンを助けて生きて帰るぞ!」
「「「了解!」」」
東アジア共和国、前線基地
突然、ゲリラによる攻撃に晒された事で基地は混乱に陥っていた。
先日、遊撃部隊が到着し、この辺りを荒らしまわる敵部隊を殲滅するために出撃させた。
自分達が狩る側だと認識していたのだ。
油断していた所に攻撃を受けたため、右往左往して有効な手を打てないでいた。
だが、そこにモビルスーツ隊の一部が帰還してきた事で状況が変わる。
モビルスーツという圧倒的な戦力が基地防衛に加わった事で今度はゲリラ側が劣勢に立たされてしまう。
それでも、ゲリラ側も引けるような状況ではなかった。
すでに基地へ攻撃してしまっている。
ここで引いて逃げ延びる事が出来たとしても、報復でいくつ村が焼かれか分からない。
基地機能さえ潰せば、ここら一帯から撤退させる事が出来る。
役目を果たせなかったミネルバを罵りながらも諦める事なく戦闘を続けていく。
激しい戦闘が続く中、ゲリラにとって更なる凶報が入る。
それは、更に多数のモビルスーツが帰還してきた事だった。
その総数は、偵察によって掴んだ情報を遥かに超える。
自分達が得た情報は間違っていたのだ。
モビルスーツ隊を引きつける事が出来なかったミネルバを罵っていた事を恥じていた。
おそらく後続の部隊はミネルバを撃退してから駆けつけたのだろう。
ミネルバは雇われたPMC。
間違った情報を掴まされた以上、命を賭けて最後まで戦う義理はない。
後続の部隊をしばらく引き受けてくれただけでも感謝しなくては。
最後くらい恨み言を言いながらではなく、誇り高く戦って死のう。
銃を取った時から死ぬ覚悟は出来ている。
ゲリラ達の目には、絶望的な状況下でも最後まで戦い抜く覚悟が見えた。
しかし、状況はゲリラ達が思っていたものとは違う方向に向かった。
帰還してきたウィンダムの後ろからインパルスが追ってきていたのだ。
先に基地に戻っていた部隊と合流したウィンダム達とインパルスとの間で乱戦が始まる。
単騎のインパルスが多数のウィンダムを圧倒し始めた。
ゲリラ達は、上空のインパルスの戦いを見ながらこれが本物かと驚愕していた。
自分達はアマチュアだった自覚させられた。
モビルスーツがないからではない。
例え同じモビルスーツを持っていたとしても同じ様には戦えない。
そう思わせるほどシンの動きは、素人から見ても分かるほど速く、激しかった。
次々とウィンダムを撃墜し、このままシンの圧勝で終わるかに見えた。
見上げるゲリラ達もそう信じていた。
ウィンダムも残り数機といった所で突然インパルスの動きが悪くなる。
故障か?
そう思わせるほど動きが不自然に乱れている。
ついにシンが集中を保てる限界に達したのだ。
これまでの戦闘で蓄積された負荷がシンの脳を襲う。
集中力が切れた所に疲労と頭痛が襲う、最悪のコンディション。
そこに襲い掛かるウィンダム達。
インパルスには多数の仲間が撃墜されている。
そんな憎い相手が晒した隙を見逃すほど彼らは優しくはなかった。
シンの命に手が掛かりかけていた。
ウィンダムのビームサーベルがインパルスのコックピットを捉えようとした時、そのウィンダムを別方向からのビームが撃ち抜く。
仲間達がシンを死の淵から救った。
「た、隊長!
それにみんな、ミネルバも!」
シンにも自分が勝手な事をした自覚がある。
集中力が高まった状態の全能感から何でも出来ると思い上がってのスタンドプレー。
その結果が返り討ちにあって死ぬところだった。
「なに鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるのよ。
仲間を助けに来るのは当たり前でしょ!」
「シン、お姉ちゃんはずっと心配してたんだよ」
「メイリン、余計なこと言わないで!」
「二人とも、戯れ合いはそこまでだ。
取り敢えず、今は任務を終わらせようか」
「シンがかなり減らしてくれたからな。
ウィンダムは、後6機か。
これくらいは俺達で片付けるぞ!」
「「「了解!」」」
オズマ達が散開し、ウィンダムに襲い掛かる。
ミネルバ側の戦力は、モビルスーツ3、無人戦闘機3
数の上では互角。
なら、この状況でオズマ隊が負けることはあり得ない。
戦力の面でも精神的な面でも優位はこちらに傾いているのだから。
結局、東アジアのモビルスーツ部隊は全滅。
基地も破壊され、作戦は完全な形で成功した。
作戦後
ミネルバに戻り、インパルスから降りたシンの前にオズマが立つ。
「疲労と頭痛でだいぶ辛そうだな」
「はい、正直、立ってるのもキツイです」
「なら、手早く済まそう」
そう言ってオズマがシンを殴り飛ばす。
「何で殴られたか分かるか?」
「俺が勝手な行動をしたから・・・」
「違う!
確かに命令違反は重大な隊規違反だ。
だが、それ以上にお前は仲間の命を危険に晒した!」
オズマの言葉にシンは驚きの表情を浮かべる。
「今回はたまたま、お前の限界が来るまでに勝つことが出来た。
だが相手に十分な戦力が残っていたら?
俺達は全滅していた」
「それなら俺を見捨ててくれれば、」
「バカやろう!」
オズマがもう一度殴る。
「お前には、俺達が仲間を見捨てるような奴に見えていたのか?」
「すみません。
バカなことを言いました」
「分かったならいい。
これからは、俺達をもっと信じて頼ってくれ。
暴走して突っ込む前にな」
「ありがとうございます、隊長」
そこでシンの限界がきて気を失った。
オズマに抱き止められたシンの目からは涙がこぼれ落ちていた。
シンには、叱ってくれる大人が必要だったのではないかなと思ってます。
ファーストへのリスペクトから2回殴られてもらいました。