歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ファントムペインが撤退して、戦闘は終結。
敵味方問わず、誰もがそう判断していた。
そんな状況で多数のミサイルが飛来した。
戦闘が終わったと思い、緊張を緩めていた者達はすぐには対応できない。
次々と被弾し爆発していく。
どんな状況でも一定以上の警戒レベルを保っていた男達。
ネオ、アレックス、スカーフェイスの3人以外は、ろくに対応できずに落とされていく。
余りにも多いミサイルは、そのまま地上のラボにも着弾して爆発する。
「多数の戦力に囲まれている。
どうやら罠だったようだな。
私達ごと施設も破壊して証拠隠滅を図るつもりか」
周囲に伏せていた戦力が動き出し、一斉に攻撃を開始した。
それが、このミサイルの雨の正体だった。
警護対象のラボごと葬り去ろうとするミサイルの雨に何故かスカーフェイスの心が苛立つ。
そんなスカーフェイスに包囲している部隊から通信が繋がる。
「スカーフェイス、騙して悪いが、お前にはここでファントムペインと共に死んでもらう。
ここから先の世界に、お前達の存在は必要ない」
その言葉にスカーフェイスは、最初から裏切るつもりだったのだと理解した。
ラボの研究データを狙った襲撃計画がある事を掴んだ。
その襲撃犯からラボを守ると言う依頼その物がブラフだったと言うことか。
スカーフェイスは、心の苛立ちを鎮め、冷静に状況を分析する。
長く傭兵をやっていれば、こうして嵌められる事もある。
単独での離脱は不可能。
なら、取れる手段はそう多くはない。
スカーフェイスは、先程まで本気で殺し合いをしていた機体に通信を繋げる。
「どうやら、依頼人に裏切られたようだ。
俺は今、自分をフリーランスと認識している。
この状況を切り抜けるために共闘といかないか?」
「なっ!この声は、まさかお前は!」
アレックスは、通信機から流れてきた声に驚愕していた。
聞き覚えがある。
だが、それは2年前の大戦で失われたはずの声だったのだから。
「お前は俺の過去を知っているのか?!
共闘する理由が増えたな。
是が非でも生き残って、話を聞かせてもらうぞ」
スカーフェイスには2年前より以前の記憶がない。
気が付けばアフリカの荒野を彷徨っていた。
身元が判るような物も所持していなかった。
記憶を失っても戦闘技術は身体が憶えていたようで治安が悪化していたアフリカでも身を守る事に困る事はなかった。
その内、腕っ節を見込まれ依頼が来るようになった。
生きていく糧を得るために傭兵を始めるのは自然な流れだった。
スカーフェイス自身は憶えていないが、彼はビクトリアで撃墜されコックピット内で気絶していた。
戦闘終結後に意識を取り戻し、コックピットから脱出したが怪我がひどく、そのまま戦場で力尽き、再び意識を失った。
そんな彼を現地の住民が発見し、保護した。
彼の姿からザフトのパイロットである事は明白だった。
ビクトリアで使用されたトールハンマー。
これは、命中精度が非常に悪く、ミサイルは広範囲に着弾していた。
それは、当然、ビクトリア基地のみに留まらず周辺の町や村にも被害は及んだ。
ちょうどザフトに対するヘイトが高まっていた時期だった。
状況から彼がビクトリアを防衛していた地上軍なのは確かだろう。
しかし、怒りと憎しみに囚われた住民にそんな冷静な判断が出来るだろうか?
彼がザフトの一員だとバレれば、せっかく助かった命が奪われるかもしれない。
だから、パイロットスーツや認識票など身分を示す物を処分していた。
回復してジブラルタルに行けば身分証なども再発行してもらえるだろうと思って。
彼が意識を取り戻したのは、タイミング悪く、彼を保護し、手当した者が不在の時だった。
状況が分からず、意識もはっきりしない中で、軍人としての本能からか、その場を離れ、町を出ていった。
ようやく意識がはっきりしたのは町からかなり離れてからだった。
こうして、アフリカ最強と呼ばれる傭兵の誕生へと繋がった。
物語は現在へと戻る。
自分の過去を知るためにさっきまでの敵と協力してこの窮地を切り抜ける。
これは、スカーフェイスにとって決定事項となっていた。
相手もあれ程の実力を持っているのだ。
状況判断も的確に行えるはず。
スカーフェイスはそう確信していたが、アレックスには肝心な時にヘタレてしまい流される悪癖がある。
「えっ、まさか、死んだと聞いていたのに・・・」
思ってもいなかった状況に頭がハツカネズミになっていた。
このままでは危機的状況で時間を無駄にしていただろう。
しかし、ここに部下の性格を熟知し、如何なる状況下でも冷静な判断を下せる頼れる上司がいた。
「スカーフェイス、君の提案を受け入れよう。
アレックス、気になる事もあるだろうが、まずは状況回避が先だ」
「隊長、そうですね。
見たところ全周包囲で戦力の偏りはなさそうです」
「一角に切り込んで、そのまま包囲の外側に脱出するのが定石だな」
「では、北東の方角に切り込む事にしよう。
ガーディー・ルーとの合流地点は、そのすぐ先だ」
アレックスの戦力分析からスカーフェイスが最善手を提案する。
それを受けてネオが具体的な作戦行動を示す。
まるで昔からチームを組んでいたかのようなスムーズな意思疎通だ。
「聞いていたな。
私達が先頭に立って切り込む。
生き残りたくば、全力で着いてこい!」
「「「了解!」」」
ネオが生き残っている部下達に指示を出す。
「お前達も、もう雇い主に義理立てする事もないだろう?
俺はこいつらと行く。
お前達も好きにしたらいい」
スカーフェイスも同じ任務に就いていた警備部隊の生き残りに声を掛ける。
同じ任務を請け負っただけで仲間と言う訳ではないが切り込む戦力は多い方がいい。
警備部隊のパイロット達も自分達の命を使い捨てにされた事は分かっている。
ここで座して死を選ぶなどあり得ない選択だ。
「俺たちも着いていく。
このまま殺されてたまるかよ!」
ラボの警備部隊をも取り込んだネオ達は、包囲の一角に向かって突撃をかける。
敵からの攻撃は絶え間なく続いている。
すでにラボがあった施設は崩壊し、炎に包まれていた。
中にいた者達は全滅だろう。
証拠の隠滅は終わったとばかりに攻撃がファントムペインに集中し始めた。
これまで以上の密度でミサイルが向かってくる。
直撃コースのミサイルだけを撃ち落とし、あるいは斬り払い、速度を落とす事なく突き進んでいく。
先頭を行くネオ達3機に付き従っている者達の中には、向かってくるミサイルの雨に怯み速度を落としてしまう者もいた。
そんな者達から被弾し、撃墜されていく。
高速で突き進んで来る物と速度を緩め、その場に留まった物。
どちらが攻撃を当てやすいかと言う事だ。
戦場では臆病風に吹かれた者から死んでいくと言う言葉もあながち間違ってはいないのだ。
そして、ついに包囲網の一角に飛び込むことに成功した。
一度、敵陣の中に入り込んでしまえば今度はファントムペインが有利になる。
敵はフレンドリーファイアを避けるために射角が制限される。
対してファントムペイン側は、周り全てが敵なのだ。
目に付いた相手を撃てばいい。
それでも一般的には囲んでいる方が有利なのは間違いない。
では何故、包囲側がファントムペインを追い詰めることが出来ていないのか?
それは、先頭を突き進む3人のスーパーエースが見せる桁外れの突破力によるものだった。
相手を包囲殲滅する鶴翼の陣において、相手を攻撃する両翼ではなく、相手の攻撃を受け止め、足を止めさせる本陣にこそ精鋭が必要とされる。
相手の足を止めてこそ、両翼を閉じて一方的に有利な状況を作り出せるのだ。
相手の突進を受け止めきれずに突破されれば脆くも崩れ去る。
それが包囲陣形と言うものだ。
3人の中で最も突進力のあるアレックスが前に出て、得意とする近接格闘戦と近接射撃を駆使して敵陣に穴を開けていく。
ネオが後方から的確な援護射撃を行い、アレックスが開けた穴を更に広げる。
スカーフェイスは遊撃に回り、時に前に出てアレックスと並んで戦う事で部隊としての突進力を高め、時に後方に下り後続が進む道を確保するために支援に徹する事で全体の損耗率を引き下げている。
3人の連携によって、敵を確実に殲滅するための包囲陣は薄く脆い壁にされてしまった。
彼らによって包囲陣は食い破られ、ついに最奥まで到達。
包囲網の外側への脱出に成功した。
こうなってしまえば、包囲側の有利など完全に吹き飛んでしまう。
包囲のために戦力を分散させたため、追撃に割ける戦力は少ない。
その少ない戦力も正面突破された事で陣形がズタズタにされてしまっている。
とてもまともな追撃など出来る状態ではなかった。
こうして、ファントムペインは窮地を切り抜け、ネームレスの情報を持ち帰る事に成功した。
ファントムペインの母艦、ガーディー・ルーへと帰還後、ファントムペインとスカーフェイスの間で話し合いが持たれた。
過去の記憶を失っていると言うスカーフェイスに分かる範囲で情報を提供。
元ザフトの赤服で、本当の名はイザーク・ジュールである事。
アレックスとはアカデミーの同期であり、同じ部隊で戦っていた事。
ビクトリアでの戦闘でMIA認定されていた事。
そして、プラントに母親であるエザリア・ジュールがいる事
それらを聞いたスカーフェイスは、ファントムペインに協力を申し出た。
ネームレスは、俺を裏切り、殺そうとした。
まともな傭兵は信用を何より大切にする。
故に信用を裏切った者には報いを与えなければならない。
そう話し、ネームレスとの戦いに参加する意思を示した。
報酬としてプラントにいる母親と引き合わせる事も要求してきたが、かつての仲間として元から行うつもりだったため、問題なく協力関係を結べた。
ラボの防衛に当たっていた部隊の生き残りも同じような理由でファントムペインに加入。
新たな戦力を加えて、アズラエルの下へと帰還するのだった。
某所
ファントムペインを包囲し殲滅するための部隊を指揮していた者が通信を行なっている。
「すまん、任務は失敗、奴らを取り逃してしまった」
「すでに報告は受けています。
あまり気にする必要はありません。
罠を食い破った相手が見事だったのです」
「しかし、組織の情報が奪われてしまった。
こんな失態は初めての事だろう?」
「そちらも問題ありません。
情報の流出は予定通りの事です」
「そうか、偽情報を掴ませたんだな」
「いえ、一部を除き、情報そのものは本物ですよ」
「どう言う事だ?
むざむざと情報を奪われるような真似をしたのか?」
「グリード、君も憶えておくといい。
情報を選別して与える事で、相手に望む行動を取らせる事が出来ると言うことを。
アズラエルに踊ってもらうには必要な事だったのです」
「なら、なぜ俺にファントムペインを攻撃させた?
奴らの殲滅に成功していれば、アズラエルに情報は届かないだろう」
「それならそれで別の手を打つまでです。
情報が容易く手に入れば、疑念が生じる。
逆に苦労して手に入れた情報は価値があると信じてしまう。
人間とはそう言うものですよ」
「なっ、アズラエルの行動をコントロールするために全て計算ずくだったと言うのか!」
「ええ、その通りですよ。
そこでの君の任務も終わりです。
帰還してください」
「・・・ああ、了解した」
通信を終えたグリードは、通信相手の有能さに畏怖すら感じていた。
「そこまで考えて手を打つか。
恐ろしい男だな、ルシフ・プライド。
さすが俺たち実動部隊の長、傲慢の名を継承した男だ」
七大罪の名を継承した者達は皆、一癖も二癖もある者達だ。
そんな連中を従わせているのは伊達ではないと言うことか。
だが、俺は強欲のジャック・グリード。
いずれ全てを奪ってやる。
グリードは、その名に相応しい野望を心に秘め、帰還していった。
元クルーゼ隊の3人が揃いましたが、全員が偽名という事態w
もたらされたネームレスの情報で物語は更に加速していく予定です。