歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ブランドン・ラース大佐が率いるピースメーカー隊は、東アジア共和国軍に所属し、リベリオンに多大なる損害を与えていた。
また、その戦闘は強引かつ非人道的なものが多く、リベリオン及び非理事国同盟から怒りと憎しみを向けられるようになっていた。
それでも、如何に彼らとてずっと戦い続けているわけではない。
むしろ、作戦行動時以外は穏やかな日常を過ごしていた。
その日も、スティングやアウルは、他の隊員達とバスケに興じていた。
そこだけを見ると家族のような良好な関係を築いている風通しの良い部隊に思える。
とても子供に非人道的な作戦を行わせているようには見えなかった。
ステラもまた、普段は自由に過ごしている。
彼女は天然な所があり、いつもあちこちにフラフラしている。
周りもそんな彼女の性格を知っているため気にもしていなかった。
その日もステラはジョン・ドゥの中を勝手気ままにぶらついていた。
特に目的地がある訳ではない。
気の向くまま、足の向くまま艦内を進んでいく。
だから、それは偶然だった。
いや、ステラはいつも艦内を歩き回っていた。
なら、いつかは起きる必然であり運命だったのかもしれない。
たまたま通りかかった部屋からラースの声が聞こえてきた。
ステラにとってラースは大切な家族であり、命令を聞かなければならない信頼できる上官と感じるようにマインドコントロールされていた。
だが、その感じ方は人それぞれであり、ステラには子供っぽい所があった。
何をしてるんだろう?
こっそり近づいて驚かせてみようかな?
そんな風に考えて扉を開けて、そっと中に入る。
どうやら、ラースは奥のスペースで誰かと通信をしているようだ。
部屋に入った事でより鮮明に声が聞こえるようになった。
「ロドニアでの作戦は無事に終わりました。
予定通り、アズラエルに情報が届くでしょう」
「了解した。
こちらも順調だ。
ステラ達に暴れてもらって、着々とヘイトを集めている」
「そうですか、それは重畳。
時期が来るまで継続し、出来るだけ憎悪を煽ってください」
「了解している。
しかし、だいぶ派手にやったな。
ここまでする必要があったのか?」
「アズラエルは切れ者です。
中途半端にすれば怪しむかもしれませんから」
「それでこれか。
ロドニア・ラボの連中も気の毒に。
施設は壊滅、人員は全滅か?」
「あの施設の役割はもう終わっていました。
不要になったものの有効利用ですよ」
不要になったものか・・・
それは施設のみではなく人員も含まれているのだろうな。
言葉使いは丁寧なのに何の感情もこもっていない。
人員すら作戦に託けて物のように淡々と処分したか。
相変わらず不気味な程に冷徹な男だな。
ラースにとって通信相手のプライドは、上司でもあったが何を考えているのか分からない不気味な存在でもあった。
通信中、少しでもプライドの意図を読もうと集中していたため、通信ルームの外でステラが自分達の話を聞いていた事に気付かなかった。
「ロドニアのラボが壊滅?
それじゃあ、みんなはどうなったの?」
ラース達の通信内容は、ステラに衝撃を与えていた。
本来、自分を強化人間に改造したラボなど楽しい所ではない。
しかし、ステラ達はエクステンデッドにされる過程で記憶を調整され、研究者達を親として慕うようにされていた。
ステラ達にとって、ロドニア・ラボは家族が、親や兄弟達が居る場所なのだ。
実際には自分達を実験動物にした外道な科学者と自分と同じ被験者達の事だが。
被験者達は同じ被害者であり、兄弟と言えるかもしれないが成功体であるステラ達以外は生き残っていなかった。
全ては記憶の中にしか存在しない幻想でしかないが、ステラにとっては大切な実家のような物なのだ。
「確かめに行かなきゃ」
ステラは部屋を出て、ガイアのあるハンガーへと向かった。
ジョン・ドゥ、ハンガー
「何だ、ガイアが動いている」
「おい!なにをしている!
出撃するなんて話は聞いていないぞ!」
ステラがガイアに搭乗し、カタパルトへ向かう。
出撃予定がないため、当然カタパルトの出口は閉鎖されている。
「カタパルト・デッキは閉鎖されている。
出られないんだ!機体を戻せ!」
整備員達の制止の声に耳を傾けず、ガイアは無理矢理出ようとシャッターに向けて砲を構える。
「まずい、撃つ気だ!
おい、危険だ!退避しろ!」
整備員達が状況に気付いて逃げまどう中、ガイアのビームがシャッターを撃ち抜き穴を開ける。
ガイアは、出口が出来たとばかりにその穴から飛び出していく。
そのまま4足の獣形態となり、目的地に向けて一直線に走り去っていった。
ガイア脱走の報告を聞いたラースは怒り狂っていた。
「どう言う事だ!
なぜ、勝手な行動をゆるした!
ガイアは何処に向かっている?!」
「わかりません。
突然ガイアが動き出しまして、制止の声も聞かずに・・・ガイアはリベリオンの勢力圏に真っ直ぐ向かっているようです」
部下の報告を聞き、ラースの中で様々な疑問が浮かぶ。
どう言うつもりだ?
我々を裏切り、リベリオンに投降する?
まさか、ゆりかごがなければ生命を維持できない。
何より記憶の最適化をしているのだ。
メンテナンスを担当している科学者からも異常は報告されていない。
では何処に向かっている?
そこまで考えて、ラースは気付いた。
あの方向にはロドニアがある。
まさか、先程の通信を聞かれていた?
馬鹿な、ロドニアまでどれほど距離があると思っている。
その上、たどり着くためにはリベリオンの勢力圏を抜ける必要がある。
ガイアなんて目立つ機体で見つからずに移動なんて出来るはずがない。
すぐに発見され、撃墜されるだろう。
この段階でステラを失うか。
ちっ、私の失態だな。
この事態は自分の通信が盗み聞きされていた事に気付かなかったから起きたのだと確信していた。
そこに騒ぎを聞きつけたスティング達が駆け付けた。
「ラース隊長、何があったんですか!
ステラはどうしたんですか?」
「何も問題はない。
少し所用があってね、ステラに出てもらった」
「ステラだけだと心配。
俺も出た方がいい?」
「何、心配はいらないさ。
すぐに戻ってくる」
何とか言いくるめて二人を下がらせた。
そんなラースに部下が声を掛ける。
「よろしかったのですか?
おそらく、ステラはもう・・・」
「ああ、ステラは戻らないだろう」
「では、二人には何と説明を?」
「ゆりかごで調整すれば良い。
ステラの事は全て忘れさせろ」
あっさりとステラを諦め、損切りを行う。
人一人の存在を抹消する決断が、あまりにも軽く行われた。
そこに人間的な感情は一切感じられなかった。
プライドを不気味だと感じていたが、ラースもまた同類のようだ。プライドに対する感情も同族嫌悪のようなものだったのだろう。
ミネルバは、闇ラクスの護衛任務を任されるようになり、リベリオン本隊と行動を共にするようになっていた。
戦場において闇ラクスの歌声は圧倒的猛威を振るっていた。
前線では、リベリオンのヅダと東アジア共和国のウィンダムが激しい戦闘を行なっているが、闇ラクスが居る戦域では時間と共に東アジア側の戦闘意欲が失われ撤退を余儀なくされる。
もちろん、戦場のど真ん中で堂々と歌っている闇ラクスは真っ先に狙われる。
何度も精鋭部隊に襲撃されているが、その都度シン達が迎撃し、返り討ちにしていた。
その働きによってリベリオンのミネルバに対する信用も更に高まっていた。
そんなミネルバのハンガーでシンが相変わらず闇ラクスの歌を聴いていた。
しかし、その顔には複雑な表情が浮かんでいる。
そんなシンにルナマリアが声を掛ける。
「随分、辛気くさい顔してるじゃない。
せっかく闇ラクスの護衛を任されて近くにいれるのに嬉しくないの?
あれだけ歌を聞いてたんだからサインくらいもらいに行くのかと思ってたわ」
「俺はそんなんじゃない。
その辺のミーハーと一緒にするなよ!」
シンは、闇ラクスの歌が好きだった。
自分の想いを誰も掬い上げてくれない。
自分が間違っているのか?
復讐を望むことは、それ程までに悪い事なのか?
そんな風に絶望しかけた事もある。
そんな時にいつも支えてくれたのが闇ラクスの歌だった。
たとえ誰にも認められなくてもいい。
自分らしくあることを否定しないで、あるがままを受け入れてくれる。
そんな、母の腕に抱かれているような安心感を与えてくれる歌。
だからこそ、闇ラクスには複雑な感情を抱いていた。
闇ラクスが元プラント市民だったからだ。
シンの故郷であるオーブを焼き、目の前で家族を殺したザフト強硬派。
彼らが主流派となり権力を握れたのはプラント市民に支持されていたからだ。
強硬派が行ってきた罪を知っていて支持した訳じゃないのは分かっている。
だから、シンも彼らにまで復讐しようとは思っていない。
それでも強硬派に権力を与えた元プラント市民に対しては嫌悪が先立ってしまう。
闇ラクスに対する感謝と嫌悪が混ざり合い、どう対応していいのか分からなくなってしまったのだ。
「闇ラクスが元プラント市民だから?」
「ルナ・・・」
「それくらい分かるわよ。
あんた、私達が移民組だって知るまで散々噛みついてきたじゃない」
「うっ、それは悪かったって謝っただろ」
「すぐにとは言わないけど気持ちの整理は付けておきなさいよ。
いつまでも闇ラクスに対してぎこちない態度でいる訳にもいかないんだから。
私達は護衛なのよ?」
「・・・ああ、分かってるよ。
まさか、こんな風に関わるなんて思ってもいなかったから戸惑ってるだけだ。
すぐに何時もの俺に戻る」
「期待してるわ。
あんたはもう、このミネルバのエースなんだからね」
「何を言ってるんだ。
俺なんてまだまだだし、それならルナ達だって」
「ノルンの力はメイリンと二人での物よ。
今は、あんたが戦力の中心になってる。
そのくらい自覚しときなさい」
自分が中心か
復讐の為に力を求めた自分がそんな立場に立っていいのか?
そんな思いもあった。
でも、それだけ力があると認められていると言う事でもある。
大切な仲間を守りたいと思っているのも本当なんだ。
なら、俺は間違っちゃいないよな?
そう思いながら相棒であるインパルスを見上げた。
その時、突然アラートが鳴り響く。
「何よ、これ」
「分からないけど、とにかく機体に乗って待機するぞ!」
シンとルナマリアは、それぞれの機体に乗り、ブリッジに状況を確認する。
「ブリッジ、このアラートは何なんですか?」
「シンか!
ガイアが単独でこちらに向かってきている。
他の戦力は確認できていないが、すぐに対応できるよう準備してくれ」
「ガイアが!
わかりました。
インパルス、出撃準備に入ります!」
「こちらルナマリア、ノルンの準備も始めます。
メイリンを呼んでください!」
「了解した。
二人ともそのまま準備を進めてくれ。
すぐに出てもらう事になるだろう」
ガイアと接敵まで後わずか。
この戦いでシンは、新たな運命を知る事になる。