歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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想い届ける歌

 

 

 

 見舞いに来たのが闇ラクスであり、目の前で生歌を披露してくれると聞いてステラは幼子のように素直に喜んでいた。

 ステラは今も死に向かい続けている。

 その事を知っている者にとって、その様子は人間の残酷さをどうしようも無く突きつけてくるものだった。

 闇ラクスもまた、この幼く、素直な少女の身に科された過酷な運命に心を痛めていた。

 

 やっぱり私は世界を知らなかった。

 この少女だけじゃない。

 シン・アスカも、ホーク姉妹と言う方達も、私なんかよりずっと辛い思いをして、今を生きている。

 

 闇ラクスは、シンやルナマリア達の過去を知っていた。

 護衛として雇うのだから、信用できるのか知るために過去を調べるのは当然の事だ。

 シンもルナマリア達も過去を隠している訳ではないので調べればおおよそ何があったかを知る事が出来た。

 

 闇ラクスは、プラントを出た後、世界を巡り歌い続けてきた。

 その過程でプラントやザフトが世界に刻んだ爪痕を目の当たりにした。

 自分が何も知らずに応援していたザフトが世界からどう思われているのかを知った。

 実際、プラントに住んでいたコーディネーターの評判は崖っぷちだった。

 宇宙に戻った地上軍がクライン派と結びつき、クーデターを起こす事で戦争終結に尽力した。

 戦後、大量の脱走兵を出したが、それはプラント内で戦争犯罪者を厳正に処罰しようとしたために起きた事だ。

 その結果、ザフトは機能不全に陥ってしまう。

 そんな状況下でも恩赦を拒絶し、罪を償うことを選んだ元地上軍の行いによって得られた猶予期間に過ぎない。

 プラントに住むコーディネーターはプランターと呼ばれ、地上のコーディネーターとは明確に区別されていた。

 プランターは、宇宙の化物として駆逐すべき存在なのか?

 今は、その結論を保留されているだけなのだ。

 

 自分もまた、その罪過を背負って生きていかなければならない。

 それが何も知らずに評議会やザフトを支持していた、そして知ろうともしなかった私の罪なのだから。

 

 世界には、戦争によって困窮している人々がいた。

 未だ戦争の傷跡が生々しく残る地球は、そんな人々を全て救えるほど豊かではない。

 より多くを救うため、効率の名の下に切り捨てられていく人々がいる。

 彼らの姿を目にして、自分が感じていた不幸などちっぽけな物だと自覚させられた。

 芸能界に入ると言う夢を諦めた。

 それだって自分で決めた事だ。

 例え、ミーアと言う自分以上の存在がいても、諦めずに挑戦すると言う選択肢もあった。

 それを選べなかったのは、勝ち目の薄い戦いに挑む勇気が自分に無かったからだ。

 最初は、ラクスへの不満から世界に自分の不幸を知って欲しい。

 そんな気持ちで歌っていた。

 けれど、そんな気持ちはすぐに消え去った。

 それでも歌いたいと言う気持ちはどんどん強くなっていった。

 自分は何のために歌うのか?

 歌にどんな想いを込めたいのか?

 その答えを探すために歌い続ける日々。

 闇ラクスとしてデビューする頃には歌う理由は変わっていた。

 傷つきながらも争い続ける世界を、いや、傷ついているから争わざるを得ない世界を変えたいと。

 ラクスやカガリの想いを受け入れたのではなかった。

 彼女達の想いは正しく、美しいものだと認めていた。

 その上で別の道を選んだのだ。

 例え正しくても、白一色で世界を染め上げてはいけない。

 そんな世界になれば、白く染まれない者の心は認めてもらえなくなる。

 誰もが彼女達のような強い心を持てる訳ではないのだから。

 自分とは違うもの、それが間違っていると感じても、その存在を認め合い、共存の道を探す寛容さを持つ事。

 きっと、それが世界を平和にする唯一の方法。

 だから、歌でそんな世界に変えたい。

 

 その頃から闇ラクスの歌に力が宿り始めた。

 聴いた者に自分の想いを受け入れてもらえるような、母の腕の中にいるかのような安心感を感じさせるようになっていた。

 ラクスを否定する歌は変わらない。

 ラクス達が歌う正しい世界で、傷つき、倒れながらも手を差し伸べてもらえない人々のために歌うと決めたからだ。

 正しさだけが全てじゃない。

 人は正しさの奴隷にはなれないのだから。

 

 だから、今、闇ラクスはステラのために全力で歌う。

 確かに彼女は罪を犯し、たくさんの人を傷つけた。

 でも、本当に裁かれるべきは彼女にそうさせた者達だ。

 世界から手を差し伸べてもらえないステラのために、少しでも救いになればいいと想いを込めた歌を紡ぐ。

 その歌で、ステラは確かに救われていた。

 しばらくの間とは言え、歌を聴いた後、ステラの身体を襲っていた苦痛は和らぎ、穏やかに過ごせるようになった。

 それだけではない。

 歌を聴き終わった後、ステラがシンに言ったのだ。

 

「シン、ステラ布教手伝ったよ。

 スティングとアウルと一緒に聴いてた」

 

 それは、ディオキアで交わした約束だった。

 

「ステラ、記憶が戻ったのか!?」

 

「うん、シンの事、思い出した」

 

 シンがステラとディオキアでの思い出話に花を咲かせる。

 その様子を見て、闇ラクスが安堵と喜びの表情を浮かべながら部屋を出ていく。

 

 

「闇ラクス!」

 

 リベリオンの本部へ戻るためにミネルバから出ようとしていた闇ラクスに追いかけてきたシンが声を掛ける。

 

「どうしました?」

 

「いや、お礼を言ってなかったから。

 ステラを救ってくれてありがとう」

 

「私がしたくてした事です。

 それに、私の歌はきっかけに過ぎません。

 それだけ、ステラさんにとってあなたが大切だったと言う事。

 あなたがステラさんを支えていたからですよ」

 

「そんな事、ないです。

 ステラを助けたいのに何も出来なかった。

 あの時だってそうだった」

 

「あの時?」

 

「オーブで父さん達がザフトのディンに銃を向けられた時、通りに出てディンの注意を引き付けていれば、みんな今も生きていたかもしれない。

 だけど、怖くて、足が竦んで動かなかった」

 

 俺は臆病者の弱虫だったんだ。

 

 そう自分を責めるシンを闇ラクスが優しく抱きしめる。

 

「私はあなたじゃないから気持ちは分かるとは言えないけれど、あなたが生きていてくれて私は嬉しい」

 

 闇ラクスの腕の中で、シンは安らぎを感じていた。

 自分の心の傷を癒してくれている。

 不思議だ。

 こんなにも自然に俺の心に寄り添って、包み込んでくれるなんて。

 元プラント市民だった事を気にして、距離感を掴めずにいたのが嘘のようにあっさりと闇ラクスを受け入れていた。

 だからこそ、このまま癒される訳にはいかない。

 

「ごめん、俺にはそんな風に思ってもらう資格はない。

 自分の弱さを受け入れられなくて、復讐のために戦っているんだ。

 本当に罰したいのは、家族を守れなかった俺自身なのに!」

 

「あなたは間違ってない。

 復讐を望むのは、それだけ亡くした家族を大切に思っていたからでしょう?」

 

「闇ラクス・・・」

 

「ごめんなさい。

 あなた達の過去は聞いているの。

 何も知らずにザフトを支持してた。

 知ろうとも思わなかった私こそ、こんな事言う資格なんてない。

 私もあなたに断罪されるべき人間の一人なんだから」

 

「違う!俺が復讐したいのは、ただそこにある誰かの幸せを理不尽に奪おうとする奴らに対してだ!

 あんたはそうじゃないだろう」

 

「やっぱり、あなたは優しいですね」

 

 そう言う闇ラクスの顔の方が優しさを湛えていた。

 そんな闇ラクスの顔を見ながら、シンは自然に思っていた。

 闇ラクスを守ろう。

 任務だからじゃない。

 俺自身がそう望んでいるからだ。

 元プラント市民だったなんて、もう気にしない。

 そんなわだかまりに拘って大切なものをなくしたら、それこそ自分を許せなくなる。

 

 

 その日から、闇ラクスは時間が許す限りステラの所に通い、歌うようになった。

 闇ラクスの歌のおかげでステラの苦痛は和らぎ、穏やかに過ごせている。

 けれど、ステラの身体が治った訳ではない。

 今も身体は崩壊を続け、死に近づいている。

 もう、ベッドから起き上がる事も難しくなってきていた。

 

 リベリオンも、もうステラを裁判にかけようとはしていない。

 裁判が終わるまでステラの身体が持たないのが明らかだからだ。

 ベッドから動く事もままならない少女を法廷に立たせる方が外聞が悪い。

 東アジア共和国の非道を責めるのは、ステラの検査結果と映像データで行われた。

 もちろん、東アジア共和国は捏造だと否定。

 和平に向けた譲歩を引き出す事は出来なかった。

 

 それから、さらに数日が経った。

 ステラは、もういつ死んでもおかしくない。

 ベッドから身体を起こす事すら出来ず、治療の目処も立っていない。

 そんな状況に、シンはある決断をしようとしていた。

 目の前で家族を殺され、守れなかったトラウマを持つシンに、守ると誓った少女をこのまま死なせる事は出来なかった。

 それでも独断専行などしなかった。

 シンには間違えば叱ってくれる、そして信じて頼ってくれと言ってくれる仲間が居るのだから。

 隊長であるオズマに相談し、ミネルバの主要メンバーで話し合った。

 

 ステラを元いた艦に返す。

 彼らはステラをパイロットとして長期間、作戦行動させていた。

 なら、あの艦にはあるのだ。

 ステラを救う術が。

 

 ステラを死なせたくない。

 そんなシンの嘆きにミネルバの仲間が応えた。

 

 ステラを抱えたシンがインパルスで出撃する。

 東アジア共和国の勢力圏に向かい、ガイアが使っていた周波数でパイロットを返すと通信を送る。

 

 シンが指定した引き渡し場所で待っていると見覚えのあるモビルスーツが接近してきた。

 あの部隊の隊長機、ペイルライダーだった。

 インパルスとペイルライダーの中間でシンはラースと向かい合う。

 

「あんたが隊長か?」

 

「ああ、そうだ」

 

 ラースは、相手が子供と言っていいほど若いパイロットだった事に驚いていたが、冷静に返す。

 

「ステラは返す。

 だけど約束してくれ!

 ステラは、戦っちゃいけない人だ。

 だから、暖かくて、穏やかな、彼女がいるべき優しい世界に帰すと」

 

「分かった、約束しよう」

 

 その返事を受けて、シンがラースにステラを渡す。

 

「ステラの身柄、確かに受け取った」

 

 そう言って、ステラを抱えて帰還するラースの後ろ姿をシンは鋭い瞳で睨みつけていた。

 

 

 帰還したシンをミネルバの仲間達が出迎える。

 

「どうだった?向こうの隊長は」

 

「やっぱり信用できない、胡散臭い奴でした。

 ステラを優しい世界に帰せって言ったら、あっさり約束してくれた。

 ためらう素振りすらなかった」

 

「約束を守るつもりはなさそうだな。

 シン、分かってると思うが、奴らはまた彼女を戦場で戦わせるだろう」

 

「はい。

 その時は、また俺がステラを止めます!

 何度だって。

 守るって約束したから」

 

「任せたぞ。

 俺達は奴らの母艦を拿捕する。

 彼女を治療法ごと奪還するって訳だ」

 

「でも良いんですか?そんな勝手なことして」

 

「良いんだよ、俺達は傭兵みたいなもんだ。

 リベリオンには戦利品だって言い張るさ」

 

「ふふっ、いいですね、それ。

 私も認めるように口添えします」

 

 突然の声に驚いて、声の方を見ると闇ラクスが来ていた。

 

「あ〜、闇ラクスさん・・・」

 

「大丈夫ですよ、オズマ隊長。

 あなた達の行動は、リベリオンでも問題になりかけてましたが私が許可した事だと言って抑えました」

 

「だから、捕虜を勝手に返したのにリベリオン側から何も言って来なかったのか」

 

「そう言う事です。

 ステラさんを取り戻す時には、私も協力させてください。

 シンの想いがステラさんに届くように全力で歌います」

 

 そう言って、朗らかに笑う闇ラクス。

 ミネルバのクルー達は、頼もしい味方が出来たと喜ぶ。

 そんな中、シンは複雑な表情を浮かべていた。

 シンは、闇ラクスの付き人から彼女の声に関する秘密を聞いていた。

 

「ステラの生命を諦めてくれだって?!」

 

 闇ラクスがステラのために歌うようになって、すぐに彼女の付き人がシンにそう言ってきた。

 

「ええ、彼女は助かりません。

 僅かな時間、苦しみを和らげる事しか出来ない。

 そのために闇ラクスの時間を使わせないでいただきたい」

 

 それは、ステラを安楽死させろと言う意味だった。

 

「ステラの生命を何だと思ってるんだ!

 残り僅かでも、それでも穏やかに生きてほしいと思うのがいけないのかよ!」

 

 怒りのままに相手の胸ぐらを掴む。

 その勢いも次の言葉で止められてしまう。

 

「そのために闇ラクスの生命が削られていてもですか?」

 

「なっ、どう言う事だ?」

 

「闇ラクスの声は普通じゃない。

 その歌声は、戦場で戦う者達の闘争心すら消してしまう」

 

「それは、リベリオンの旗艦に・・・」

 

「もちろん、闇ラクスが乗るリベリオン旗艦、パラスアテナに搭載されている特別な装置『ローレライ・システム』があっての事。

 しかし、ローレライ・システムは、歌い手の声の特性を増幅しているだけ。

 歌声に特殊な波長の周波数が含まれていなければ意味がない」

 

 そこで知らされた。

 闇ラクスがその特性を得るために喉に機械をインプラントしている事を。

 異物に対する拒絶反応と喉にかかる負担。

 そんな苦痛を薬で抑えながら歌っているのだ。

 闇ラクスにとって歌うと言う事は、文字通り生命を削る行為だった。

 

 そんな話を聞かされたシンは、闇ラクスにあまり歌ってほしくはなかった。

 しかし、歌うなとは言えない。

 それは、闇ラクスの覚悟に対する侮辱になる。

 それでも、シンは出来るだけ闇ラクスに頼りたくなかった。

 シンが闇ラクスに心配そうな視線を向ける。

 そんなシンをルナマリアが不機嫌そうに見つめていた。






ミーアとなるはずだった少女が原作でのラクシズ思想に対するアンチテーゼとしての歌を歌っています。
シンは、仲間の助けを借りてステラを救うために行動しました。
シン・パートは、ここで一旦終了です。
次回からはアークエンジェル側の話になります。
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