歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェルの艦長マリュー・ラミアス以下、主だったメンバーとの話し合いを終え、会議室から出てきたアズラエル達に声が掛けられた。
「アスラン、ようやく会えましたね。
少し話してもいいですか?」
「ラクス・・・」
アークエンジェルにはラクスも乗っている。
こんな風に接触してくる事もあり得ると分かっていた。
彼女は天然な所があると思われていたが意外と周りの意図を見抜く観察眼を持っていた。
こんなサングラスくらいで誤魔化せるはずもない。
「ふむ、我々はお邪魔みたいですね。
アレックス君、僕らは先に行きますよ」
「アズラエル理事!
私は貴方の護衛ですよ!」
「アレックス、ネームレスとの戦いはこれからますます激しくなるだろう。
話せる内に話しておいた方が良い。
後悔の無いようにな」
「隊長・・・」
「何、護衛なら私もいる。
しっかり話しておきたまえ」
そう言って、アズラエルとネオは先に行ってしまった。
「アスラン・・・」
「アスラン・ザラの名は捨てました。
だから、そう呼ばないでください」
アレックスがサングラスを外した。
素顔を晒してラクスと向き合う。
「では、何と呼べばいいのですか?」
「今は、アレックス・ディノと名乗っています」
「では、アレックスと呼びますね。
私達はきちんと向き合って話す必要があると思います」
「手紙でも書きましたが、俺はもう貴女の下に戻るつもりはありません。
貴女もキラを好ましく思っていたでしょう?
あいつになら任せられる」
「アレックス、キラには既に好きな人がいます。
戦後、私が誰を想って歌っていたか分からないのですか?」
アレックスも婚約者として付き合ってきたのだ。
洗脳が解けた今、思考の制限もない。
ラクスの想いに気付かないはずがなかった。
それでも受け入れることが出来なかったのだ。
「すみません。
俺にはそんな風に想ってもらう資格がないんです」
最後まで自分を救おうとしてくれていたニコルを殺してしまった。
そんな自分が幸せになってはいけない。
ニコルにもらった命を無駄にしない為に戦う。
今のアレックスが生きる理由はそれだけだった。
「戦争は終わったのに、貴方は辛い顔のままなのですね」
そんなアレックスの顔を見て、ラクスは哀しかった。
戦争中は自分の事で精一杯で、アレックスがどれほど辛い思いをしながら戦っていたのか気付いていなかった。
どうして、こんなに傷付いているのか?
その理由もラクスは知らない。
婚約者なのに何も知らなかったと思い知らされていた。
踏み込む勇気を持つのが遅かったのかもしれない。
こんな自分こそ、婚約者と名乗る資格などないのではないか?
それでも知りたいと思った。
アレックスは、どんな痛みを抱えているのだろう。
きっと、すぐに近づく事は出来ない。
でも諦めない。
勇気を持って向き合うと決めたのだから。
なら、後はやり通すだけ。
「決めました。
私は貴方のために歌い続けます。
そして、貴方の優しい笑顔を取り戻してみせます」
「ラクス、何を言っているんですか!
俺なんか放っておいて、貴女自身の幸せを探してください!」
「アレックス、私の幸せを決めつけないで。
私は、自分の幸せを諦めない。
だから、貴方にも諦めて欲しくないんです!」
「ラクス・・・でも、俺は・・・」
「すぐには難しい事は分かってます。
でも考えてみてください。
貴方の傷になっている人は、貴方の幸せを願ってはくれないのですか?」
「ちがう!ニコルはそんな奴じゃない!」
「なら、そのニコルさんの為にも自分の未来を諦めないでください」
ラクスは、アレックスの心にこれほど深く刻まれているニコルと言う存在に嫉妬を覚えてしまった。
私は、これ程まで想ってもらえるようになれるだろうか?
アレックスの心の傷を抉ってしまったかもしれない。
それでもいい、そのニコルと言う方もアレックスの幸せを願っていると思い出してくれたのだから。
一歩づつ、ゆっくり進んで行こう。
アレックスを残し、ガーディー・ルーへ帰るシャトルに乗り込むためにハンガーへと入ってきたアズラエル達にキラが近づいて来た。
「アズラエルさん!」
「やあ、キラ君。
カガリさんの様子はどうです?」
「ようやく落ち着きました。
今は、少し眠っています」
「そうですか、やっぱりショックだったんでしょうね」
「カガリは、グレイスさんを信じてましたから」
「彼女は、カガリさんの側で歌を聞き続くてきました。 残念ながら洗脳などの可能性は低いでしょうね」
「どうして、世界はこんなにもカガリを傷つけるんでしょうか?」
「定められた運命とは言いたくないですね。
これから先も辛い戦いが待っています。
キラ君、カガリさんを頼みましたよ。
彼女を支えるのは、君にしか出来ない事でしょうから」
「・・・どうして、アズラエルさんは僕らに良くしてくれるんですか?」
「そんな事ですか。
僕はカガリさんのファンですけど、君の事も気に入ってるんです。
だから、君達の関係を応援しているだけですよ。
もっとも、この艦の人達も同じみたいですけど」
そう言ってアズラエルはシャトルに搭乗していった。
見送ったキラはアズラエルに感謝していた。
今回のように厄介な情報を持ち込むこともあるが、もっと余裕のない時に発覚していればカガリがゆっくり心を休める猶予も無かったかもしれない。
戦後、オーブに帰国して両親にカガリを紹介した事でとんでもない事実を知った時も助けてくれた。
あの時が僕とカガリの間に起きた一番の危機だったかもしれない。
アズラエルさんが居なければ、カガリとの関係も今とは違ったものだったと思う。
思えば、前大戦からずっとアズラエルには世話になっていた。
不思議だな、ブルーコスモスの盟主なんて立場にいた人がコーディネーターの僕やイレブンさんにこんなにも良くしてくれるなんて。
いつか、この恩返しが出来ればいいんだけど。
キラはそんな風に考えていた。
シャトルのシートに座ったアズラエルもキラとの会話を思い出していた。
キラは感謝しているようだが、アズラエルは居心地の悪さと後ろめたさを感じていた。
キラとカガリの仲を応援しているのは善意だけではなく、打算もあるのだ。
スーパーコーディネーターであるキラとナチュラルのカガリが結ばれる事はブルーコスモスの掲げるナチュラルへの回帰とも合致する。
もし、キラの相手がコーディネーターであったなら妨害側に回っていたかもしれない。
僕の善意なんてその程度のものなんですよ。
アズラエルは、自分の行動を偽善だと考えていた。
しかし、その自己評価は偽悪的なものだと言えた。
確かにブルーコスモス思想にとって都合が良いものではあったが、それなら相手はカガリでなくても良いのだ。
それでも困難の多いカガリとの仲を助けていたのは、キラの幸せを考えての事。
スーパーコーディネーターとしてではなく、キラ個人として見ていたから。
キラの性格や人となりを知って、人間として好感を持っていた。
それが、アズラエルの判断にどれほど影響を及ぼしているのか本人も自覚していなかった。
後から、見送りのために着いてきたラクスとアレックスがシャトルに近づく。
「アスラン!」
そこにはアズラエルを見送ったキラがいた。
サングラスを外したアレックスを見間違うはずもなく、久しぶりの親友との再会に驚いていた。
「キラ、アレックスと呼んでくれ」
「うん、分かったよ。
久しぶりだね、アレックス」
キラも前大戦時、アスランの様子がおかしいと感じていた。
フリーダムのパイロットの文字通りの命懸けの献身で正気に戻った時もその場に居合わせたのだ。
その後、ジェネシスを破壊するために自爆して戦死した事になっているがアズラエルから生きている事だけは聞いていた。
もっとも大切な者を自分の手で殺してしまったアスランはどれほど傷付いているだろうかと心配していた。
どうやら、ようやくラクスとも話せたようだ。
彼の様子から、アレックスとして戦っている今も前を向けているとは言い難い状態のようだ。
すぐには立ち直れないだろう。
でも、ラクスがいる。
僕も親友として出来るだけの事はしたいと思う。
全てを無くした訳じゃないんだといつか分かって欲しい。
「アレックスは、戦後もずっと戦っていたんだね」
「お前達だって戦っていただろう。
海賊やザフトを脱走した者達と」
「うん、でも戦争は終わったと一区切りは出来ていたよ。
アレックス、君の中では、まだ戦争は終わってないみたいだ」
「そうかもしれない。
でも、立ち止まるとその場から一歩も動けなくなるかもしれない。
ニコルに救ってもらったのに、そんな無様を晒すのは耐えられない。
だから、止まれないんだ」
「そっか。
アズラエルさんは、ネームレスが本格的に動き出すのはしばらく先だって言ってたけど、それまではどうするの?」
「最近、昔の仲間と再会したんだが、彼をプラントに連れていくと約束しているんだ。
ネームレスの動きが活発化する前に済ませておきたい。
だから、これからプラントに向かう予定だ」
そこでラクスが会話に入ってくる。
「まあ、プラントに向かうのですね。
なら、私もご一緒させてくれませんか?」
「ラクス!いきなり何を」
突然の提案にアレックスが困惑する。
「実は最近、招待状をいただきましてプラントに行きたいと思っていたんです。
ですが、宇宙の治安が悪化した事で護衛もなしで向かうのは難しくて。
ついでに乗せていってくれませんか?」
「ついでって言われても・・・」
アレックスが乗っているのは軍用特務艦だ。
気安く民間人を乗せるような艦ではないと思ったが、ラクスはアークエンジェルで戦場に乗り込んで歌っていた事を思い出し、そんな事を気にしてないのだろう彼女をどう説得したものか悩む。
キラも突然プラントに行くと言い出したラクスを心配そうに見つめている。
「大丈夫ですよ、二人とも。
プラントは理事国の管理下です。
少し前にモビルスーツ強奪事件があって騒がしかったようですが今は安定しているそうですし」
「貴女は、自分の立場が分かっているのですか?」
「なら、アレックス。
貴方がプラントで護衛をしてくれませんか?
招待主は、貴方も気になっている人でしょうから」
「どう言う事です?」
「相手は、トゥルーザフトの代表です」
「!!偽アスランか!?」
これには、アレックスとキラも驚愕した。
アークエンジェルにいるラクスに招待状を送った偽アスランも大概だが、その誘いに乗ろうとするラクスの大胆さに言葉が出ない。
「危険ですよ!
何を考えているんですか!」
ようやく再起動して止めようとするアレックス。
だが、ラクスは身の危険を感じていないようだ。
「向こうも私に危害を加える気はないでしょう。
自分のテリトリーではなく、理事国の管理下にあるプラントを会合場所に指定したのですから」
「信用できません!
相手はテロリストなんですよ!」
「偽アスランは、何か別の思惑で動いているように思うんです。
頂いたメッセージからもコーディネーター至上主義と言った思想は感じられませんでした」
アレックスは、なんとかラクスを説得しようとするがラクスの意思は堅かった。
そこに別の声が加わる。
「良いでしょう。
同乗を許可します。
理事には私から話を通しておきますよ」
シャトルの搭乗口でアレックスを待っていたネオだった。
どうやら、彼も話を聞いていたらしい。
「隊長!」
「アレックス、君も分かっているだろう?
ネームレスの思惑は分かってきたが偽アスランとの繋がりは不明のまま。
奴の目的を探るのは必要な事だ」
「ラクスを囮に使うと?」
「向こうも秘密裏に接触を求めてきた以上、プラントで騒ぎを起こすつもりはないだろう。
君が影から護衛をしていれば滅多な事もなくなる。
違うかな?」
「それは、そうですが」
隊長のネオが乗り気な事でアレックスの勢いが削がれる。
アレックスにも分かっていた。
今も各地で統合軍と小競り合いを繰り返しているトゥルーザフト。
その代表として担ぎ出された偽アスランは、ネームレスの用意した駒なのか?
それを探っておかなければ、今後、闇ラクスと対峙した時に思わぬ不覚を取るかもしれない。
ラクス自身が望んでいるのだから、囮にする事も気にしないだろう。
「わかりました。
ラクスの身の安全は、私が守ります」
「頼りにしてますね、アレックス」
こうして、ラクスは一度アークエンジェルを離れてプラントに向かう事になった。