歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
アークエンジェルと別れたファントムペインはプラントに来ていた。
スカーフェイスを母親であるエザリア・ジュールに引き会わせることが目的であるが、そう簡単な事ではない。
エザリアは、ザフト強硬派の一員としてザフトを指揮する立場にあったため、戦後に戦争犯罪の責任を追及され収監されている。
面会も厳しく制限されていて、部外者が簡単に接触できるような状況ではなかった。
かつての身分を捨て、別人のIDを使っているネオ達やMIAによってID自体を喪失しているスカーフェイスでは、手続きの段階で様々な問題が出るのは明らかだった。
正規の手続きを経て、スカーフェイスがイザーク・ジュール本人だと確認されれば息子として面会も適うだろうが、それでは時間が掛かりすぎる。
リベリオンと東アジア共和国との争いも、反抗作戦によってリベリオンが押し返し、最終局面に入りつつある。
ネームレスが大きく動き出すのも近いと予測されている状況で長期間プラントに拘束される訳にはいかない。
故に彼らは、かつての伝手を使うことにした。
現在、プラントの評議会を掌握しているのは強硬派でも穏健派でもない。
クーデターを起こし、終戦への道を切り拓いた穏健派だが、クライシスを引き起こした派閥でもあり、戦後も実権を握り続けるのは地球の市民感情からも得策ではなかった。
そのため、両派閥から距離を取り、現実的な視野とバランス感覚を持っていた中道派へと政権が移された。
終戦時の議長アイリーン・カナーバから中道派のトップであるタッド・エルスマンが、その座を引き継いでいた。
そこで、かつて同じクルーゼ隊で戦っていたディアッカ・エルスマンに頼り、彼の父親である議長に状況を伝えて、特例として面会を許可してもらった。
プラントに上陸したネオ達をディアッカが出迎える。
その顔には喜びが浮かんでいた。
それはそうだろう。
突然、かつての上司から連絡があり、戦死したと聞いていたアスランを伴ってプラントに来ると言う。
その目的が目の前で撃墜され死んだと思っていたイザークと母親を引き会わせるためだと聞いた時は喜びを爆発させてしまっていた。
イザークは、目の前で撃墜された。
アスランとニコルはザフトの公式記録で戦死とされている。
隊長であるクルーゼすら、戦後は消息不明。
ディアッカは、クルーゼ隊の生き残りは自分だけだと思っていたのだ。
「お待ちしていました、隊長。
それにイザーク、本当に生きていたんだな!
良かった、死んだと思っていたんだぞ」
「お前がディアッカか・・・
あいにくだが俺は、」
「記憶がないんだって?
それでも良いさ、生きていてくれたんだから。
覚えてないだろうが、俺たちは互いの背中を預ける相棒だったんだぜ。
忘れたんなら、また一から関係を築けばいいだけだ」
クルーゼやアスランの生存にも喜んでいたが、イザークが生きていた事が1番嬉しかった。
共に戦い、共に成長してきた相棒であり、半身のような存在だった。
失ったと思った時は身体を引きちぎられたような痛みを感じた程だ。
だから、イザークが自分を覚えていない事で嘆きなどしない。
生きてさえいれば、いつか取り戻せるのだから。
「アスラン、お前も生きていたなら連絡くらい寄越せよ。
そうだ!ニコルは?
お前も生きてたんだから、ニコルも無事なんだろ?」
死んだと思っていた者たちが生きていたと言う奇跡が立て続けに起こった事でニコルもそうなんじゃないかと思ったディアッカの言葉はアレックスの心に突き刺さる。
だが、逃げる訳にはいかない。
「ニコルは、死んだよ」
「そうか」
アレックスの返答にディアッカの顔が曇る。
さすがに奇跡のバーゲンセールもそこまで続かないか。
それが戦争というものだ。
開戦当初なら自分たちが死ぬはずないと何の根拠もなく思い込んでいた。
だが、戦いの中で成長し、戦争というものを理解できるようになっていった。
残念だがニコルの死を受け入れようとしていた。
だが、続くアレックスの言葉で状況は一変する。
「ああ、俺が殺した」
その言葉をディアッカは、すぐには理解できなかった。
そして、理解した時、感情を爆発させた。
「なんだと!なんでそうなる!?」
感情のままにアレックスの胸元を掴み上げる。
ディアッカの頭の中にプラントに上がってからのニコルとのやり取りが思い出される。
「あいつは、お前を助けようとしていたんだぞ!
それがなんで!
よりによってお前に殺されるなんて事になるんだ!?」
「俺にだって分からないさ!
どうして、あんな事をしてしまったのか。
気付いた時には、あいつを殺してしまっていたんだ!」
アレックスは、目に涙を浮かべながら真っ直ぐに見つめ返してくる。
まるで断罪を求めているかのように。
そんな姿にディアッカは、怒りをぶつける事も出来なくなった。
「ちくしょう!」
掴んでいたアレックスの胸ぐらを乱暴に振り払う。
心の中の怒りは消えていない。
それでも、アレックスを殴ろうとはもう思えなかった。
「もう良いだろう。
俺は、お前たちを覚えていない。
だが、こいつが何の理由もなく仲間を撃つような奴じゃない事くらいは分かる。
付き合いの長いお前なら、俺なんかよりも良く分かっているはずだ」
そんな、スカーフェイスの仲裁で熱くなった感情を抑える。
「そうだな、分かっているさ。
正気ならそんな事をするはずないって事くらい」
「ディアッカ・・」
「すまなかったな、アスラン。
お前が洗脳されていた事は、ニコルから聞いてはいたんだ。
事態は、俺が思ってたより深刻だったんだな。
俺がニコルを手伝えていれば」
「お前のせいじゃない。
当時、中道派を動かして強硬派の、父上の真意を探っていたと聞いている。
あの時、洗脳に打ち克てなかった俺の責任だ」
アレックスの顔には悲壮な覚悟が見える。
ニコルを殺してしまった事で一生降ろすことのできない十字架を背負ってしまったのだろう。
そんなアレックスを痛ましげに見つめるディアッカの視線に気付き、言葉を続ける。
「大丈夫だ。
死ぬつもりはない。
ニコルに救ってもらったこの命、投げ捨てるなんて真似は出来ない。
俺は、まだ死ねないんだ」
「そうか、お前の戦争は、まだ終わってないんだな」
ディアッカは、アレックスの様子からこれからも茨の道を歩いていくのだと悟った。
誰でもいい、いつかアレックスの心を救ってくれる存在が現れる事を願った。
「どうやら、収まるべきところに収まったようだな」
それまで黙って見守っていたネオが場をまとめようと話し出す。
状況が最悪の方向に向かうようなら仲裁に入るつもりだったが、どうやら部下達は自分の想像を超えた成長をしていたようだ。
部下の成長に喜びを感じられるとは、自分も変わったものだ。
そう思いながら指示を出していく。
「ディアッカ、君はイザークを案内してやってくれ」
「えっ、隊長達は来ないんですか!?」
「親子の再会に部外者が立ち合うのは無粋だろう?
正規の面会ではないから君が同行する必要はあるが、我々は邪魔なだけだ」
「では、その間、どうするつもりですか?」
「アレックスには別で仕事がある。
私は、そうだな、古い友人にでも会ってくるつもりだ」
「友人ですか?」
「もっとも墓場に入ってしまったがね」
「そうでしたか」
ディアッカは、常に仮面を被り、他人に対して壁を作っていた上司に友人と言ったほのぼのとした関係の人物がいたのかと驚いていたが、続く言葉で流石に不謹慎だったかと気まずくなった。
「ああ、人生の墓場ってやつにな」
ネオの言葉にディアッカは、そう言えばこう言う人を食ったような性格だったと思い出した。
以前のような陰湿さはなくなったようだが、不謹慎なのは隊長だと思わずジト目になってしまう。
アレックスの件で重くなってしまった空気を軽くするための隊長としての気遣いは、誰にも気付かれることはなかった。
プラントに作られた監獄の一室にエザリアはいた。
彼女はザフトを指揮、監督する立場にあったがパトリックのように非人道的な研究に関わってはいなかった事、穏健派のクーデターに協力したことなどから扱いは悪くはなかった。
しかし、彼女にとってそんな事はさほどの意味もない。
愛する息子を失った事でザラ派の間違いに気付いたが、間違いを正した今、喪失感だけが残っている。
息子を偲びながら、ここで静かに罪を償っていた。
いつの日か償いが終わり、自由の身になったとしても、おそらく修道院にでも入り、ひっそりと生きていくだろう。
そんな彼女の部屋に誰かが近づいて来た。
誰だろうか?
アイリーンがたまに顔を見に来てくれる以外は、彼女の下に誰も来なくなって久しい。
「エザリアさん」
部屋の外から聞こえてきた声は聞き覚えがあった。
確かエルスマン議員の息子だったと記憶している。
今や議長となった彼の息子が何の用だろうか?
「はい、何でしょうか?」
「貴女に会わせたい人がいます。
面会用の部屋まで来てくれませんか?」
エザリアに心当たりはなかった。
今の自分に会いに来るのはアイリーンくらいだ。
彼女ならディアッカが連れて来るような事はない。
困惑しながらも、断る理由も、逆らう意思もないエザリアは強化ガラスで外部と隔てられた面会用の部屋へと移動する。
部屋に入った彼女の視界に入ってきた光景を最初は理解できなかった。
ガラスの向こうに二人の人物がいる。
一人はエルスマンの息子だ。
彼とは面識もあり、ここに収監されてからも何度か会っている。
問題は、彼の隣にいる人物。
何年も会っていないが間違うはずもない。
見た瞬間に分かった。
ああ、息子だ!
イザークが生きて、ここにいる!
心がそう理解し受け入れた時、エザリアは走り出し、ガラスの壁に縋りついていた。
「イザーク!
生きて、生きていてくれたのね」
涙を流し、崩れ落ちそうになりながらもスカーフェイスに向ける顔には喜びと愛情が満ち溢れていた。
そんな彼女の様子にスカーフェイスが前に出る。
「貴女がエザリア・ジュール・・・私の母親」
「イザーク?」
「私は戦場で傷を負い、記憶を失っているのです」
「そうですか」
エザリアの顔に哀しみが浮かぶがすぐに消え去る。
だからどうした。
イザークが自分を覚えていない事は確かに悲しい。
だが、そんな事はイザークが生きていてくれた事に比べれば些細な事に過ぎない。
エザリアの顔には、母としての安堵と喜びしか見えなかった。
「不思議だ。
私は貴女を覚えていないのに、貴女の顔を見ているだけで胸が暖かくなる感じがする。
心の中のずっと奥の部分が貴女を覚えているみたいだ」
スカーフェイスは今、ようやく自分がイザーク・ジュールなのだと思えた。
アレックス達から得た情報で頭では理解していた。
しかし、そこには実感が伴っていなかった。
エザリアから向けられる限りない愛情を感じている。
自分の胸の中から湧き上がる親愛の情が確かな家族の絆を感じさせていた。
イザークがガラス越しにエザリアと手を合わせる。
自分はこんなにも愛されていたんだな。
後ろで見守ってくれているディアッカも、目の前の彼女も、自分が生きている事をこれ程に喜んでくれている。
アフリカの地で目覚めてから、何かを求め続けていた心がようやく満たされていた。
こうして、短い時間ではあったが母親との再会を果たしてスカーフェイスはイザーク・ジュールへと戻った。
傭兵のスカーフェイスはもういない。
アレックス達は約束を果たした。
なら、次は自分の番だ。
傭兵としての契約だけではない。
かつての仲間、イザークとして共に戦うと心に決めていた。
スカーフェイスの記憶は戻っていませんが、自分がイザークであると受け入れることが出来ました。
今後は、イザークとして生きていくでしょう。