歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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この話では、アスランの設定に改変があります。


マスターピース

 

 

 

 イザークとエザリアが再会を果たしていた頃、ファントムペインに同行してプラントに来たラクスが偽アスランとの会合場所である音楽ホール跡地で待っていた。

 相手の出方を伺うため、アレックスは姿を隠し、影から護衛している。

 

 まもなく、待ち人が現れる。

 どうやら、相手は一人ではなく、同行者を伴っているようだ。

 護衛のアレックスが警戒を強める。

 しかし、その同行者の顔を確認した時、そのまま姿を潜め続ける事が出来なかった。

 

「ニコル!?」

 

 アレックスは、姿を隠していた物陰から身を乗り出し、声を上げてしまっていた。

 

 一方、ニコルと呼ばれた同行者も困惑していた。

 もともと、ラクスが一人で来るとは思っていなかった。

 護衛がいるのも想定内だ。

 しかし、ここでアスランそっくりの人物が出てくるとは思わなかった。

 

「あの顔、彼もA計画の生き残りでしょうか?

 でも、彼は僕を知っている様子」

 

「そんなバカな!

 あいつは確かに死んだはずだ・・・俺が殺した。

 コックピットを貫いた感触を、今もはっきりと覚えている」

 

 偽アスランは、アレックスの存在を感じ取っていた。

 だから、アレックスが姿を現しても驚く事はなかったが、ニコルに対する反応から思い違いをしていた事を悟った。

 アレックスを自分と同じ立場の存在だと思っていたが、それならニコルにあんな反応はしないはずだ。

 ニコルと共に戦い、その最後を知る人物。

 そんな存在の心当たりは一人しかいなかった。

 

「そうか、お前が俺達の最高傑作《マスターピース》か」

 

「アスラン、マスターピースって、まさか!」

 

「ああ、あいつが本物のアスラン・ザラだ」

 

「マスターピース?

 どういう事だ!

 お前は、ザラの名を利用しているだけの偽物じゃないのか!」

 

「どうやら、何も知らないらしいな。

 お前に真実を知る覚悟があるか?」

 

 偽アスランの様子から、あまり楽しくない話になる事だけは分かる。

 しかし、顔や声だけでなく口調や仕草まで本物にしか見えないニコルを前にして聞かないという選択肢はなかった。

 偽アスランもアレックスの覚悟を感じたのか話を続ける。

 

「そうか、なら教えてやる。

 全ては、ある男の夢から始まった」

 

 ジョージ・グレンの告白によって起こった空前のコーディネートブーム。

 それは、同時に人類に大きな闇をもたらしていた。

 コーディネート技術は、完璧な結果を保証するものではない。

 コーディネート失敗への不満。

 中には、瞳の色が違うなどと言う些細な理由で子供を愛せない親もいた。

 その問題の解決策として、自らの子を最高のコーディネーターにしたいと望んだユーレン・ヒビキが出した答え。

 それが不安定な環境の母胎ではなく、人工子宮を使った完璧な遺伝子調整。

 

「ヒビキ博士のスーパーコーディネーター計画によって、コーディネーターの未来は確定した。

 知れば誰もが望むだろう。

 彼のようになりたい、彼のようでありたいと」

 

 コーディネーターの究極。

 生まれ持った遺伝子の優劣によって全てが決まる世界。

 そんな世界で、誰が未知の遺伝子組合せを試そうなどと思う?

 子にそんな不利を背負わせる親などいない。

 世界は理想の1へと収束していく。

 

「彼の計画を知り、コーディネーターが向かう未来を察した者達が立ち上げた計画。

 それがQ《クイーン》計画とA《エース》計画」

 

「「クイーンとエース?」」

 

 アレックスとラクスが目を見合わせる。

 

「察しがいいな。

 そう、Q計画はラクスを、A計画は俺達を生み出した。

 やがて生み出されるスーパーコーディネーターをK《キング》としたコーディネーター社会を支配するために。

 K《頂点》すら含めた全てのコーディネーターを統制するクイーン。

 そして、そのクイーンを守る騎士《ナイト》として、限りなくK《理想》に近いエース」

 

「そのエースとして作られたのが俺だと?」

 

「その通りだ。

 最も理想に近かったお前が選ばれ、他は失敗作として破棄された。

 どうして俺だけが生かされたのか?

 その理由もパトリックの死と共に闇に消えた。

 俺の遺伝子発現率はかなり理想に近かったから予備として残されたのか?

 それとも、あんな男にも妻への情があったからなのか?」

 

「妻への情?」

 

「A計画で生み出された多数の子供達。

 その中で、パトリックの妻、レノア・ザラが産んだ子供が俺だ。

 俺の遺伝子発現率がもう少し高ければ、あるいはお前の発現率が低かったら、俺がアスラン・ザラだった世界もあったのかもしれないな」

 

「俺が、母上の子ではなかっただと」

 

 アレックスの中で母との思い出が甦える。

 心から愛し、慈しんでくれていた。

 自分が、そんな母から生まれた存在ではない。

 信じたくはなかった。

 しかし、偽アスランが偽りを言っているわけではないと理解してしまっている。

 同じ境遇で生まれたからなのか、偽アスランとの間で感じる繋がり。

 そこから伝わって来るのだ。

 偽アスランが事実を言っていると。

 

 アレックスの心は限界に近い。

 これ以上、アレックスに任せはいけないと言う思いでラクスが前に出る。

 

「エースの事は分かりました。

 では、クイーンは?

 コーディネーターを支配するなど、一体どうやって・・・」

 

「声だ。自分でも薄々気付いているのだろう?

 強い身体、高い知能、都合の良い免疫系、コーディネーターは生命の根幹たる部分が似通っている。

 瞳や髪の色などといった外見的なバリエーションの違いでしかない。

 故にたった一つのプロトコルで全体を統制し得る」

 

 それは、アリやハチのような女王が支配する昆虫の世界。

 

「だが、闇ラクスと言うイレギュラーが現れた。

 彼女の歌は、我々コーディネーターだけでなくナチュラルにも強制力を持っていた。

 それを元に貴女の歌声も調べさせてもらったが、2年前のある時期から貴女の歌声にも明らかな変化が見られた」

 

 その言葉にラクスも心当たりがあった。

 カガリと出会い、その影響を受けた時期だ。

 自分でも歌の質が変わったと感じていた。

 

「おそらく、今の貴女の歌声は、闇ラクスと同様に人類全てに影響を与える事が出来る。

 それを踏まえた上で聞きたい。

 人類のクイーンとなり得る貴女は、どんな未来を望む?」

 

 ラクスの答は決まっていた。

 闇ラクスが行おうとしているコード・ローレライ。

 逆らうことの出来ない、従順な人形のような者達の中心にいる自分。

 そんな未来など望まない。

 

「今日と変わらない明日を。

 人々が自分の意思で歩き、前へと進み続ける世界を望みます」

 

 自分が人の醜い欲望から生み出されたと知っても明るい明日を望むラクスの姿は、偽アスランには眩しく見えた。

 

「強いな。こんな現実を知っても世界に希望を持っていられるのか」

 

「強い訳ではありません。

 ただ、私には世界もそんなに悪くないと思わせてくれる素敵な友人達がいるだけですよ。

 それに、そんな現実にどうして私が付き合わなければいけないんですか?」

 

「「えっ!」」

 

「アレックスに昔の優しい笑顔を取り戻してほしい。

 そんな個人的な理由で歌っている私は、クイーンなんて柄じゃありません」

 

 そんなラクスに偽アスランも毒気を抜かれてしまった。

 

「なるほど、貴女を排除する必要はなさそうだ。

 個人的には、貴女の未来が幸せであってほしいと願っているよ」

 

「ありがとうございます。

 でも、そんな貴方がどうしてトゥルーザフトなどにいるのですか?

 とてもトゥルーザフトの思想に共感しているとは思えませんが」

 

「俺にも望む未来がある。

 そのために必要だからこの地位《トゥルーザフトの代表》にいるのです」

 

「そうですか」

 

 偽アスランからも暗い想いを感じた。

 彼も自分の出自という重い過去を背負っている。

 その姿は、アレックスと重なって見えた。

 

 聞きたい事は聞いたという態度で立ち去ろうとする偽アスラン達をアレックスが慌てて引き止める。

 

「待て!まだ、ニコルの事を聞いていない」

 

 二人は、そういえばそれがあったなと思い出し、アレックスに向き直る。

 

「そっちのニコルは、俺から見ても偽物とは思えない。

 いったい何者なんだ?」

 

 ニコルが偽アスランを見る。

 偽アスランが頷きで応えた。

 どうやら、自分の好きにしろという事のようだ。

 

「まず言っておきますが、僕はニコル・アマルフィじゃありません。

 僕の名は、ニコル・レプリカ」

 

「レプリカ・・・まさか、クローン?

 いや、それなら年齢が合わない。

 だが、生まれた時に作られていたなら・・・」

 

 その名前からおおよその事は推測出来ているようだが、流石に完全な正解には至れない。

 別に説明する義理はないのだが、誤解されたままではスッキリしないので、事実を話す事にした。

 

「クローンではありません。

 この世界には、カーボンヒューマンという技術があるんです。

 複製した身体に保存されていた人格と記憶をインストールして作られた存在。

 それが僕です」

 

 そんな技術があること自体が驚きだが、それより気になるのは、

 

「どうしてニコルの人格が保存されていたんだ?」

 

「組織の思惑なんて知りません。

 おそらく、パイロットと音楽家の両方の素養を高いレベルで兼ね備えていたから、でしょうか?」

 

「いったい何処の組織がそんな事を・・・まさか、ネームレス!?」

 

 そんな、人道に反する事を平然と秘密裏に行う組織。

 アレックスの頭に最初に思い浮かんだのは、やはりネームレスだった。

 

「貴方も迂闊ですね。

 その名は、一部の者達しか使っていない。

 かつてのアスラン・ザラが、今はファントムペインのパイロットですか」

 

 どうやら、自分の不用意な発言で今の身分もバレてしまったようだ。

 しかし、それは向こうも同じ事。

 ニコルの発言は、自分がネームレスの関係者だと認めているようなものだった。

 

「くっ、偽アスランもネームレスの手先だったのか」

 

「いいえ、違いますよ。

 アスランは、組織の一員ではありません。

 僕は、アスランの監視役として派遣されました。

 組織の思惑を超えて暴走するようなら、彼を殺すためにね」

 

 どうやら、偽アスランとトゥルーザフトは、ネームレスにとってもどう動くか分からないイレギュラーのようだ。

 とは言え、監視役を受け入れる程度には繋がりがあるのも事実。

 ネームレスと偽アスランの間には、ある程度の利害の一致があると言う事だ。

 

「なら、偽アスランの思惑とはなんだ!?」

 

 そこで、これ以上の追求は許さないと偽アスランが話を遮る。

 

「これ以上、話す事はない。

 だが、お前達がそう気にすることもないさ。

 トゥルーザフトは、もうじき、その役割を終えるのだから」

 

 そう言って今度こそ立ち去る偽アスラン。

 それに続くニコル。

 

「僕は、今のアスランに従うだけです。

 それが任務ですから」

 

 どこか暗い想いを抱えて戦っている偽アスランと彼に付き従うニコル・レプリカ。

 その姿はどこか、かつての自分達に似ていた。

 

「ニコル、偽アスランのために死ぬつもりか?」

 

「止めてください。

 僕はオリジナルとは違う。

 ニコル・アマルフィは、貴方のために生命を投げ打ったのかもしれない。

 でも、僕はそんな事しません」

 

 そう言い捨てて、今度こそ偽アスランに続いて立ち去っていく。

 偽アスランの背中を追いかけながら小さく呟く。

 

「そうだ、僕は自分の生命を犠牲になんてしない。

 アスランと僕の敵を全て、喰らい尽くせばいいんだ」

 

 生き残るために敵であるもの全てを滅ぼす。

 それは、前大戦でザフトが陥っていた思想。

 偽アスランとニコル・レプリカの未来には、どんな運命が待ち受けているのだろうか?

 これ以上の対話を完全に拒絶した二人の背中を、ラクス達は見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 その頃のネオ

 

「久しぶりだね、ラウ。

 いや、今はネオと呼ぶべきかな」

 

「そちらも元気そうで何よりだな、ギル」

 

「お久しぶりです、ネオ」

 

「ああ、レイも久しぶりだな。

 身体は大丈夫か?」

 

「はい、ネオの治療データのお陰で問題なく生活できてます」

 

「それは良かった」

 

「性格は破綻していたが、その頭脳だけは確かな男だったからね」

 

「ライトマンの消息は?」

 

「すまないが、相変わらず掴めていない」

 

「となると、やはり火星か」

 

「火星?」

 

「アークエンジェルの報告で火星で無人機に襲われたとある」

 

 あの狂人が地球の目が届かない所で力を蓄えている。

 未来に一抹の不安を感じるが、今は地球圏の問題に対処するしかない。

 

「それはそれとして、議員を辞めた後、結婚したのだったな」

 

「ああ、タリアと元鞘に収まった」

 

「おめでとうでいいのか?」

 

「いいと思うよ。

 彼女は私が思っていた以上に強かだった」

 

「彼女は、私にも良くしてくれます」

 

「レイも正式に家族になったんだったな。

 おめでとう、君も普通の幸せを手にしたんだ」

 

「ありがとうございます」

 

 ギルバート・デュランダルは、戦後、政権を中道派に移譲する過程で議員を辞職していた。

 その後、遺伝子による適性診断の会社を立ち上げ、小さいながらも順調に売り上げを伸ばしていた。

 そこにザフト解体で職を失ったタリアが転がり込んできたのだ。

 彼女は息子を養うためにギルの会社で働き始めたが、すぐにギルにアタックを開始。

 結局、タリアに落とされて結婚することになった。

 

 彼女は、子供を作るために別の男と結ばれたのでは?

 どうやら、その相手とは子供を作るだけの割り切った関係だったようだ。

 親権や子供との面会などの条件は最初から合意済みだったようで円満に離婚していた。

 欲しかった子供が出来たから、後は愛する人と結ばれるだけ。

 そんな彼女のバイタリティの高さに押し切られてしまった。

 

 そして、タリアとの結婚を機にレイも正式にギルと養子縁組をして息子になった。

 今は、レイ・ザ・デュランダルである。

 彼は、ライトマンが残した治療法のお陰で寿命の問題がなくなり、普通の子供と同じように生きることが出来るようになった。

 最初は戸惑ったものの、少しずつ普通の人生というものを受け入れていった。

 最近では、ギルを父さん、タリアを母さんと呼べるようになってきた。

 タリアが産んだ子を弟として面倒も見ている。

 そこには、幸せな家族の姿があった。

 

「この幸せを守るためにも、ネームレスとの戦いは負けられんな」

 

 自分でも柄じゃない事を考えながら、ネオは悪くない気分だった。







カーボンヒューマンって便利な設定ですよね。
次回からは、再びシン・パートに戻ります。
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