歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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シンパート再開です。


南京炎上

 

 

 

 ピースメーカー隊

 

 ジョン・ドゥに帰還した時点で瀕死の状態だったステラは、すぐにゆりかごに入れられて調整を受けていた。

 

「ラース大佐、どういたしましょう?

 スティング達の記憶からステラの事はもう消してしまってますよ」

 

 エクステンデッドのメンテナンスを担当する技術者もステラが戻ることはないと判断していたため、ラースからの指示に従い、処置を終えてしまっていた。

 スティング達の記憶は、もう戻らない。

 このままでは、ステラとの間で認識の齟齬が出来てしまう。

 

「こんな事ならスティング達の記憶を消さなければ、いや、今更か。

 ステラの記憶からもスティング達のことを全て消しておけ」

 

「了解しました」

 

 これで互いに見ず知らずの相手だと認識する。

 今までのような連携は期待出来なくなるが、やむを得ない。

 だが、さほど問題にはならないだろう。

 後は、存分に暴れてもらい、その末に討たれるだけなのだから。

 ラースも、この部隊の役割が終わりに近づいている事は理解していた。

 

「ガイアの代わりとなる戦力を補充しなければならないな。

 使い捨てとは言え、せっかく戻ってきたのだから有効活用しなければ」

 

 ジブリールがその要請に応えてデストロイを送る事になる。

 また、ラースのその呟きは、意外と地獄耳だったイアン・リーに聞かれていた。

 それが、彼の心に更なる葛藤を生む事になる。

 

 

 

 ジブリール邸

 

 ロゴス幹部とジブリールの会合が再び行われていた。

 前回とは状況が違うため、ロゴスの老人達にいつもの余裕はなかった。

 利権を守るために東アジア共和国にリベリオンを潰させるはずが反転攻勢によって押し返されているのだ。

 このままでは東アジアが負けて利権を奪われるのではないか?

 彼らの中には、そんな焦りが見える。

 

「ジブリール、どうなっておるのだ?

 ずいぶんと苦戦しているではないか」

 

「話が違うぞ!

 君の計画ではリベリオンなど既に壊滅させている予定ではなかったのか。

 お前の手のものは何をしている!」

 

「ご安心ください、皆様。

 既に手は打っています」

 

「この状況で安心など出来るものか!

 確かに闇ラクスの力を甘く見ていたのは我らも同じだ。

 しかし、奴らに態勢を立て直す猶予を与えてしまったのも事実。

 正直、我々は君の手腕に疑問を抱かざるを得ない」

 

「そうだ、いったいどんな手を打ったと言うのだ!」

 

「彼の地にデストロイを送りました」

 

「なっ、あれを使うと言うのか!」

 

「ええ、その名の通り、全てを破壊してくれるでしょう」

 

 ロゴス幹部達が押し黙った。

 彼らも巨大可変モビルスーツ『デストロイ』のスペックは把握している。

 それがもたらす破壊の規模は想像を絶するものになるだろう。

 闇ラクスの居る本隊さえ壊滅させてしまえば、リベリオンなどどうとでもなる。

 

「なる程、確かにあれを使えば状況は好転するか。

 もうしばらくは君に任せても良かろう」

 

 ロゴス幹部達もデストロイを投入する事に驚いてはいたが、その使用を躊躇ったりはしない。

 戦場となっているのが自らの勢力圏だったなら話は別だっただろうが、戦場となっているのは東アジア共和国だ。

 デストロイがどれほど破壊を撒き散らそうが気にする者は居なかった。

 これで事前の予定通りに修正されると安堵し、今回の会合は終わった。

 

「まったく、文句や不満ばかりでうるさい老人達には困ったものだ。

 まあ、それも後少しの間だけ。

 新たな世界への扉を開く時は近づいている。

 それまでは、我が世の春を楽しませてやろうではないか」

 

 ジブリールが先程までの通信相手に対する侮蔑を浮かべていた。

 世界を変えるために自分で行動を起こすことの出来ない老害共。

 彼の中でのロゴス幹部の認識はそんなものだった。

 敵対しているとは言え、世界を変えるために行動しているアズラエルの方がよほど高く評価していた。

 

 そんなジブリールに使用人から報告が入る。

 

「ジブリール様、ピースメーカー隊が無事にデストロイを受領しました」

 

「ルシフか、エクステンデッドを一体失ったそうだが作戦は予定通り行えるのか?」

 

「失ったと思われていたエクステンデッドも復帰し、戦力に問題も無く、作戦は可能だと報告を受けています」

 

「ふむ、では、最初の贄は何処になる?」

 

「東アジア共和国は、現在リベリオンの攻勢によって押し込まれています。

 それによって、南京で今まで押さえつけてきた少数民族を中心に東アジアから離反しようとする動きがあります。

 もちろん、東アジアがそんな事を許すはずがありません」

 

「南京か・・・」

 

「ジブリール様?」

 

「いや、面白いものだなと思っただけだ。

 あそこは西暦時代の世界大戦で大虐殺が起きたとされる場所だ。

 もっとも、本当にそんな大規模な虐殺が有ったかは眉唾物だがね。

 しかし、今回は実際に起きる。

 それ程デストロイには驚異的、いや破滅的な火力がある」

 

「それが、どうして面白いと思ったのですか?」

 

「君は、言霊と言うものを知っているかね?

 かつて彼の地を統治していた政府は、再構築戦争前までは殊更、虐殺の被害者だと叫び続けていたらしい。

 まるで、その言葉に導かれるかのように虐殺の舞台に選ばれたようではないか」

 

「なるほど、運命的な何かを感じますね」

 

「では、ラース君に作戦開始の指示を出せ。

 ピースメーカー隊の最後の任務となる。

 新たな世界への扉を開くための仕上げと言ったところか」

 

「かしこまりました」

 

「それと、約束の日も近い。

 あれの準備も進んでいるのだろうな?」

 

「・・・もちろん順調でございます」

 

「ならば良い。

 ルシフ・プライド、君のような部下を持てた事は幸運だったよ」

 

「身に余る光栄です。

 過分な評価に見合うよう、これからも努めてまいりましょう」

 

 ネームレスの陰謀は次の段階へ進もうとしていた。

 

 

 

 ピースメーカー隊

 

「ラース隊長、なんで新型をあの女に与えるんだ?」

 

「そうだよ、あんなぽっと出の奴になんて」

 

 先程受領したデストロイのパイロットにステラが指名されたと聞いてスティング達が不満を言いに来たようだ。

 

 やはり、こう言った面倒が起きるか。

 

 ラースにとっても予測していた事態だ。

 それでも部下に不満をぶつけられるのはイラついてしまう。

 それまで従順で手間が掛からなかっただけに余計にそう感じていた。

 ラースが心の苛立ちを押さえ込んで冷静にさとす。

 どうせ長くはない。

 この後は、壊滅するまで戦い続けるだけなのだと自分に言い聞かせて。

 

「それが一番効率が良いのだよ。

 お前達には乗り慣れた機体があるだろう?」

 

 ガイアを失ったステラにデストロイを任せるのが最も部隊の戦力増強に繋がる。

 この二人もその位の事は理解している。

 ステラとの間に信頼関係があった時なら問題など起こらなかった。

 だが、今の彼らにそんなものはない。

 

「ちっ、機体を失ったマヌケが新型をもらえるなんて」

 

「あんな奴より、僕の方がよっぽど上手く扱えるのに」

 

「黙れ!俺の言う事が聞けないのか?」

 

 それでも不満を言い続ける二人にラースが切れた。

 殺気すら漏れているラースに二人もそれ以上は愚痴を続けられなかった。

 

「わ、分かったよ、隊長。

 俺達が悪かった」

 

「うん、もう文句なんか言わないから」

 

「分かったなら下がれ。

 次の作戦も近い、準備を怠るなよ」

 

 力尽くで二人を黙らせたラースが次の作戦に向けて指示を出す。

 スティング達も不満には思っているが調整を受けているため、この程度で逆らうような事もない。

 退室して、出撃の準備を進めるためにそれぞれの機体に向かった。

 

 こうして、ピースメーカー隊は南京へ出撃。

 南京で東アジア共和国から分離独立しようとしていた親リベリオン派を街ごと焼き払ってしまった。

 

 

 

 リベリオン旗艦『パラスアテナ』

 

「なんですって!

 南京が!?」

 

 南京が焼き払われたと言う報告はリベリオン上層部を驚愕させていた。

 それは闇ラクスも例外ではなかった。

 そもそも、南京はリベリオンに占領されていた訳ではない。

 確かに住民の一部には、リベリオンに組みしようとする動きがあったが、まさか街ごと焼くとは思わなかった。

 

 南京が燃えている事に気付いた偵察部隊が記録して持ち帰った映像に映る街の惨状。

 かなり広範囲に徹底的に破壊されている。

 どれ程の怒りや憎悪があればこんな事が出来るのだろう?

 人間とはこれほど残酷になれるものなのか。

 リベリオン幹部達も東アジアの苛烈さに背筋が寒くなる。

 

「南京を攻撃した部隊は撤退しています。

 おそらく補給のために戻ったのだと思われます」

 

「ここまで街を破壊しながら、再度の攻撃があると?」

 

「攻撃していたのはボギー1のようです。

 可能性は高いかと」

 

「奴らか!」

 

 リベリオンは、ピースメーカー隊をボギー1と呼称し、敵視していた。

 自軍に大きな損害を出しているだけではなく、戦場で汚い手を平然と行うのだから、彼らへの心象は最悪であった。

 

 その情報に闇ラクスも顔をしかめる。

 ステラを返した部隊が再び惨状を作り上げたからだ。

 こんな事をあの純粋な少女にさせている。

 部隊を指揮する者を許せないと思うと同時に、ステラを救いたいと強く想う。

 俺が止めてみせる!

 そう言っていたシンを思い出していた。

 

 なら、私の歌でシンの想いをステラに届ける。

 

「リベリオンは南京へ進出。

 被害者を保護し、再度の攻撃から守ります!

 いいですね?」

 

「貴女がそうおっしゃるなら否はありません」

 

 闇ラクスは、リベリオンの中で絶大な影響力がある。

 それは、今回のように自分の意思を通すことが出来るほどだ。

 しかし、闇ラクスはこの状況に不安を感じていた。

 自分だって間違うのだから、あまり絶対視をしないでほしい。

 事あるごとにそう言っているのだが、戦場で戦力差を覆す歌という奇跡が彼女を神聖視させていく。

 

 だが、止まるわけには行かない。

 あの惨状を引き起こした部隊の前に立って歌わなければならないのだから。

 非道な事をさせられているのにステラは純粋で心を閉ざしている様子はなかった。

 なら、確実にマインドコントロールかそれに類する処置がされているはず。

 かつての大戦でカガリの歌によって洗脳が解けたと言う噂が流れた事がある。

 今の自分の歌なら同じような事が出来るはず。

 ステラにシンの想いを届けて正気に戻すために、最も危険な戦場で歌う覚悟を決めていた。

 

 自らの喉に埋め込んだ機械によって得た力。

 これがあの歌姫達が見ている世界か。

 身体を改造してようやく対等なステージに立つ資格が手に入る。

 闇ラクスは、自分が凡人であると自覚していた。

 その自覚があるからこそ、ここで死ぬ訳にはいかない。

 

「シン、貴方ならステラさんを止めてくれる。

 信じていますよ」

 

 ステラを救い、さらにその先に行く。

 私は、彼女達の前で歌うまで死ねない。

 彼女達に私の想いをぶつけるまでは。







デストロイによって廃墟にされるのは南京になりました。
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