歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
闇ラクスが乗るパラスアテナは、ミネルバが守ってくれる。
他のモビルスーツも隊長達が抑えてくれている。
みんな、俺がステラを助ける事に集中できるように力を尽くしてくれているんだ。
だからステラ、必ずお前を救ってみせる!
シンのインパルスが後ろを気にせずに前へと突き進んでいく。
そこに一切のためらいはなく、仲間達への信頼だけがあった。
デストロイから激しい攻撃を受けるが、仲間の想いを背負ったシンの動きは、今まで以上の冴えを見せていた。
多数のビームを躱しながら突き進んでいくのは、先程までと変わらない。
しかし、インパルスの動きは攻撃を躱す度に変化していく。
デストロイから放たれるビームが少しずつインパルスを掠めるようになってきた。
それは、デストロイの攻撃がインパルスを捉えつつあるのか?
そうではない。
むしろ逆だ。
無駄をなくし、動きが洗練されていく事によって、よりギリギリの回避が可能になっているのだ。
直撃の瞬間に機体を分離させて回避すると言う曲芸じみた機動すら実現している。
シンは確信していた。
もう落とされることはない。
後は、ステラを助けるだけだ。
戦場の流れが変わった事をラースは感じ取っていた。
「ちっ、まさかデストロイを単騎で抑えるとは。
あのパイロットを子供だと思ってみくびっていたか?」
デストロイは、その巨大ゆえに小回りが効かない。
出来れば自分達が直衛となって、その欠点を埋めて押し切りたいところだが、オズマ達を相手に膠着状態に陥ってしまい決め手に欠けている。
状況を大きく変える事が出来ない。
「東アジアの戦力は当てにならない。
一度、引くべきか?
いや、エクステンデッドには闇ラクスの歌に対する耐性があるはず。
少々、無茶をするべき局面か」
ステラ達は、性格も戦闘用に調整されているため、常人よりも闘争心を長く維持できる。
故にローレライ・システムの影響下でも、より長く戦闘が可能なのだ。
なにより、ピースメーカー隊の任務は最終段階に入っている。
リスクを承知でラースが踏み込んでいく。
ラースだけではない。
アビスとカオスも、生きて帰ることを考えずに攻めろと指示されたことでより苛烈な攻勢を掛けてきた。
もちろん、そんな事をすれば被弾も増えるのだが、それだけオズマ隊の被弾も増える。
攻勢に出た事で精神的なイニシアチブを取ることにも成功していた。
オズマも守勢に回ってしまったことで苦しい状況に陥ってしまったことは理解していた。
闇ラクスの歌があるため、時間が経てば勝てると思い、積極性に欠けていたのだ。
成長し、無人戦闘機を巧みに使えるようになったノルンを中心に対抗していたが押し切られる可能性が出てきてしまった。
「くっ、まずいぞ!
シンがあれだけ頑張っているのに、隊長の俺がこのざまか。
情けない」
「隊長、しっかりして下さい!
このまま、シンの足手纏いになるなんて嫌よ!」
「そうですよ、ウルズ達をもっと上手く動かして見せますから!」
「俺も同じ気持ちですよ、隊長」
部下達の心は折れていなかった。
その成長を頼もしく思う。
「部下に背中を押されるか。
情けないままでは、いられないな」
オズマもまた、リスクを背負う覚悟をした。
このまま闇ラクスの歌に頼った戦いを続ければ負けると判断したのだ。
「メイリン、ウルズ達の攻撃を敵の隊長機に集中させるんだ。
多少の損傷は覚悟で奴を落とす!
ショーンとルナマリアは、それまで何とかカオス達を抑えてくれ」
「「「了解!」」」
アビスとカオスのパイロットも強化人間だと判明している。
なら、命令を出す者を排除すれば動きが鈍るかもしれない。
なにより、彼らも身体を改造された被害者だ。
出来れば救いたいと思う。
なら、落とすべき相手は一人しかいない。
オズマ隊のフォーメーションが変わった。
3機の無人戦闘機がオズマのヅダに付き従うかのように動く。
ショーンのヅダとルナマリアのノルンは、互いに背中を守りながらアビスとカオスの攻撃を凌いでいる。
いかにショーンとルナマリアが連携しようと、この状況は長く持たない。
その僅かな時間で局所的に作った優位を活かしてラースのペイルライダーを落とさなければいけない。
オズマもメイリンも焦りを抑える。
心は熱く、されども頭は冷静に。
オズマ達もまた、ペイルライダーに苛烈な攻勢を仕掛けていた。
「むっ、奴らも勝負を仕掛けてきたか」
相手の動きが変わり、自分が狙われている事にはすぐに気付いた。
だが、自分も七大罪の名を継承した〝憤怒〟のラースだ。
こちらに戦力を集中させたと言うことは、カオスとアビスに対する備えは薄くなる。
どちらが先に敵戦力を落とせるかという勝負に負けるわけにはいかない。
「強気の攻めでイニシアチブを取り戻そうという狙いだろうが、分の悪い賭けだと教えてやろう」
部隊としての総合力では、エクステンデッドを擁するラース達が勝っている。
その差を埋めていたのが無人戦闘機達だ。
それを全て自分に振り分けてきた以上、カオスとアビスに対抗することは出来ない。
そして、自分の機体であるペイルライダーは速度に優れた機体だ。
そう簡単に落とされたりはしない。
勝算はピースメーカー隊の方が高い。
ラースは、そう判断していた。
事実、無人機の援護を失ったショーンとルナマリアはカオス達に押し込まれている。
落とされるのは時間の問題だと思われた。
だが、この戦場には戦力差を覆す奇跡が存在している。
闇ラクスの歌声だ。
確かに彼女の歌声に即効性はなく、戦闘用に調整されたエクステンデッドから闘争心を奪うのは容易ではない。
しかし、闘争心を奪うのが目的ではないとしたら?
ステラが捕虜としてミネルバにいた時、闇ラクスの歌を聴き、記憶を取り戻していた。
その後も苦痛を和らげるために闇ラクスの歌を何度も聴かせてもらったのだ。
それは、ステラに闘争心を低下させる以外の効果をもたらしていた。
「ステラ、もうやめるんだ!
君は、こんなことしちゃいけない!」
「あ・・・ああっ!・・うう」
ステラの頭の中から何かが溢れ出ようとしている。
戦場に響く、シンの想いを伝えようとする歌が奇跡を起こす。
ついにデストロイの攻撃が・・・止まった。
「シン?」
「ああ、そうだよ。
俺だ!」
インパルスが動きを止めたデストロイの前にゆっくりと近づいていく。
オズマ達から激しい攻撃を受けているラースもデストロイの動きが止まったことに気付いた。
「何をしている人形共、さっさと敵を倒せ!」
ラースの命令にスティング達が顔をしかめる。
如何にエクステンデッドでも、こうもあからさまに道具扱いされれば不満も抱く。
ゆりかごで調整されればリセットされるが、逆に言えば不満が溜まれば反逆の危険があると言うことだ。
ラースの命令は、デストロイのステラにも聞こえていた。
何も知らなかった頃のステラなら従っていただろう。
しかし、ステラは思い出していた。
シンの温かさを、闇ラクスの優しさを
今なら、ジョン・ドゥで感じていた絆が虚構であったと理解できる。
そんな中でも本物の絆は存在していた。
同じ境遇を持ち、兄妹のように育った兄のような仲間達。
彼らがこんな風に道具として扱われている状況に黙ってはいられなかった。
「スティング、アウル、もうやめて!」
ステラの叫びは、本来ならばスティング達には届かなかっただろう。
エクステンデッドの精神に施された調整は、それほど甘いものではない。
ステラが記憶を取り戻せたのは、幾つもの要因が重なって起きた奇跡のようなものだ。
だが、思い出してほしい。
この場には、ステラを救うために人の想いを繋げる闇ラクスの歌声が響いている事を。
「闇ラクスの歌を聴いて!
3人で一緒に聴いた歌だよ!」
「闇ラクス?」
「3人で一緒に?」
今のスティング達にそんな記憶は残っていない。
にも関わらず、その声は自然と彼らの心に入ってくる。
二人の意識が、今まで気にも留めていなかった歌に向けられた。
「二人共、思い出して!」
「「ううっ!」」
スティング達が頭を押さえ、カオスとアビスの動きが鈍る。
奇跡の歌姫と呼ばれる闇ラクスの歌声が再び奇跡を起こした。
いや、それは歌による奇跡ではない。
闇ラクスの歌は、トリガーに過ぎなかった。
ステラ達の間に本物の絆がなければ何の意味も持たなかっただろう。
ゆりかごによってスティング達の中からステラの記憶が消されていても、彼らの心が、魂が覚えていた。
その絆が今、記憶を甦らせる。
「「ステラ!!」」
「二人共、思い出した?」
「ああ、全部、思い出したよ」
「ごめんな、忘れてて」
「ううん、ステラもさっきまで忘れてたからお相子だよ」
ゆりかごで調整される度に記憶をリセットされ、道具として使われてきた事を自覚できるようになった今、3人にラースの命令を聞く意思はなかった。
デストロイ、カオス、アビスが動きを止めた事で戦況が一気に動き出す。
オズマ隊がラースのペイルライダーに総攻撃を仕掛けたのだ。
「おのれ、まさか人形共に反逆を起こさせるとは!」
流石のラースも、この戦力差を覆すことは出来なかった。
そう時を置かずにコックピットを撃ち抜かれ、ペイルライダーは爆散し、彼は戦死した。
後は、母艦を拿捕するだけ。
オズマ隊の面々は、ステラ達が戦いを止めた以上、母艦の拿捕もそう難しい事ではないと思っていた。
そんな戦況を監視している者がいた。
その顔は、先ほど戦死したはずのラースのものだった。
「人形が死んだか。
だが、これで終わりではないぞ。
デストロイを奴らに渡すわけにもいかないからな」
そう言って男は手に持っていたスイッチを押す。
「デストロイ、暴走モード起動」
その瞬間、デストロイの目が紅い光を放つ。
デストロイが突然動き出し、再び攻撃を始めた。
その動きは、碌に照準も付けていないようなデタラメなものだった。
とにかく、周りに破壊を撒き散らす。
そんな悪意を感じさせた。
「どうして!
ステラ、やめるんだ!」
「シン、どうしよう。
止められない!」
コックピットにアラートが鳴り響き、ステラの操縦を受け付けなくなっていた。
ディスプレイには、無慈悲な現実が映し出されている。
自爆まで10分
デストロイの暴走モード。
それは、外部からの操作を受け付けなくなり、限界まで周囲を攻撃し続け、その果てに自爆すると言うものだった。
「シン、自爆まで10分だって。
ステラ、死ぬの?
悪いこと、いっぱいしたから・・・」
インパルスとの戦闘で切り裂かれた事でコックピットは露出している。
だが、脱出は出来ない。
こんな高さから落ちれば、エクステンデッドと言えど確実に死ぬ。
シンのインパルスに空中で受け止めてもらう事もデストロイが暴れ続けていて近づくことも出来ないため不可能だ。
ステラの中で諦めが広がっていた。
今まで自分が行ってきた事が、どれほど許されない罪だったのかを今のステラは理解できてしまっている。
この結末が自分の今までの行いに対する裁きなのかな?
そんな風に思っていた。
「諦めるな!
俺は、こんな結末なんて認めない!」
そんな結末をシンが認めるわけがなかった。
シンにステラの命を諦めると言う選択肢はない。
どれほど困難な状況でも最後まで足掻くと決めていた。
ステラを救うための戦いは、ついに最終ラウンドに入った。
次が南京での戦いの大詰めです。
はたしてステラの運命は!?
次回もお楽しみに。