歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
ステラ救出の最終ラウンドです。
最後に衝撃の事実が明かされる!
デストロイが動き出し、攻撃を再開したことで離脱を余儀なくされたインパルス。
暴走モードに入ったデストロイが自爆するまでの猶予は10分。
操作も受け付けず、脱出する事も出来ないステラが諦めかけた時、シンが叫ぶ。
それは、ステラの死の運命を否定し、新たな未来を切り開かんとする咆哮。
諦めかけたステラの心に希望の火が灯る。
残り時間9分
「ステラ、怖い思いをさせてしまうけど、俺を信じて耐えてくれ!」
「うん、ステラ、シンを信じる!」
デストロイの攻撃を躱しながら、再び接近するインパルス。
クロスレンジに飛び込んだインパルスのビームサーベルがデストロイの腕を切り裂く。
出鱈目に暴れるデストロイの四肢を破壊することで動きを止め、ステラを救出しようとしているのだ。
遠距離からのビームはリフレクターによって無効化されるため、近接格闘戦に持ち込まなければダメージを与えられない。
デストロイが暴れているため、一撃離脱に徹っしざるを得ない上に巨大ゆえの分厚い装甲に阻まれ、なかなか損傷を与えられない。
それでもシンは諦めない。
残り時間8分
そんなインパルスを後ろから追い抜いていく機体が二つ。
「カオス!アビス!」
カオスとアビスは、そのままデストロイへと向かっていく。
もはや敵味方の区別すら付いていないのかデストロイの攻撃は彼らにも向けられていた。
「ステラを助けるんだろ?」
「なら、僕達も協力するよ!」
カオス達からの通信を聞いて、ディオキアでの一幕を思い出す。
まるで兄妹のようだと思ったほど仲が良く見えた。
あの時は、まさか彼らがエクステンデッドだとは知らなかった。
過酷な運命を背負わされながら、互いに信頼し、今も助けようと危険に飛び込んでくる姿を見て、シンもスティング達を信じた。
インパルスが、カオスが、アビスが並んで戦っている。
戦場で敵対していた者達が、ステラを助けると言う一つの目的のために共闘しているのだ。
それは、奇跡のような光景だった。
残り時間7分
カオスとアビスの参戦を見たオズマ隊の面々は、胸の奥から熱い何かが込み上げてきていた。
「隊長、私達も行きましょう!」
ルナマリアがシンを援護しようと主張する。
カオスとアビスに先を越されたが、シンを助けるのは仲間である自分達の役目だ。
そんな想いが込められていた。
「落ち着け、俺達には母艦の拿捕と言う役割がある」
オズマは冷静に状況を判断していた。
隊長機を撃墜され、エクステンデッド達も全員離反した。
自艦を守る機動兵器を全て失ったのだ。
離脱、あるいは友軍と合流するために撤退するだろう。
逃がしてしてしまえば、ステラを治療する術を手に入れることが出来ない。
そうなれば、ステラを救出しても生命を繋ぐことは不可能だ。
「でも、時間がないですよ!」
ショーンの叫びも状況を的確に表していた。
シン達が行おうとしているのはデストロイの撃破ではなく無力化だ。
当然、後者の方が難しく、デストロイの耐久力も相まって遅々として進んでいない。
このままでは間に合わない。
「母艦は、後で見つけ出して捕まえればいいじゃないですか!
今、ステラさんを助けられなければ何の意味もなくなってしまいますよ!」
メイリンの叫びでオズマも決断した。
エクステンデッドを失ったことで、母艦が再び自分達の前に姿を見せる可能性は低いだろう。
逃せば、拿捕できる可能性は限りなく低いと分かっている。
それでも、世界の果てまで追いかけることになろうと必ず見つけ出してやると決意した。
「そうだな、ステラを助け出せなければ意味がない。
これより、オズマ隊もシンの援護にあたる!」
「「「了解!」」」
残り時間6分
オズマ隊が参戦したことで6機のモビルスーツがデストロイに群がる。
ターゲットが分散された事で攻撃密度が低下し、肉薄して攻撃できる機会も増えてきた。
それに伴いデストロイの損傷も増える。
多数の機体からの攻撃に晒され、ダメージを警告するアラートがコックピットに鳴り響いている。
それでも、ステラの顔に恐怖はない。
シンを信じているからだ。
シンだけではない。
スティング達が、シンの仲間達が自分を助けるために戦ってくれている。
失敗すれば死ぬことは理解している。
素の性格が臆病で死を恐れていたステラだが、心はとても穏やかだった。
みんなの想いが歌に乗って伝わってくる。
私は、助からなきゃいけない。
ステラは、生まれて初めて未来への希望を抱いていた。
残り時間5分
デストロイの四肢へのダメージは蓄積されているが、同時に時間も残り少なくなってきた。
シン達にも焦りが出始める。
強固な装甲と巨大ゆえの耐久力は、シン達の想像を遥かに上回っていた。
デストロイを速やかに無力化するには重要部位《バイタル・パート》、つまり胴体部分のコックピットに近い場所を攻撃しなければならない。
それは、本来の歴史においてベルリンの地でフリーダムが行った事だ。
ステラの生命を危険にさらす事を意味する。
「くそっ、このままじゃ間に合わない!
やるしかないのか」
時間が来れば自爆によってステラの生命は失われてしまう。
ならば、何処かのタイミングでステラの生命をチップにしたギャンブルを決断しなければならない。
必ず助けるって言ったのに、結局、最後は運頼みかよ!
ステラが俺を信じて恐怖に耐えているのに。
自分の弱さが嫌になる。
あきらめないで!
その時、闇ラクスの歌が再び変わった。
それは、地に膝を付き、運命に屈しようとしていた戦士を励まし、再び立ち向かう勇気を与える歌。
大切な者の生命を運命なんてものに任せるな!
自分の手で未来を掴み取れ!
その歌がシンの背中を押してくれる。
ああ、闇ラクスの歌があれば、俺はどこまでも強くなれる!
集中が研ぎ澄まされていくのが分かる。
そうだ、諦めてたまるか!
今度こそ、自分の手で守るために力を求めたんだ。
ステラを助ける!
シンの中で何かが弾けた。
残り時間4分
周りで戦っていた仲間達からも分かるほど明確にインパルスの動きが変わった。
ほんの少し操作をミスっただけで地面やデストロイに激突しかねない程の速度を出しながら、全ての攻撃を紙一重で躱していく。
その凄まじい機動でデストロイを圧倒し、攻撃を一点に集中させる事で左腕を破壊していた。
「ゾーンに入ったか!」
オズマの中に希望が蘇る。
この状態になったシンは、何時だって奇跡を起こしてきた。
だが、そこで気を緩めたりはしない。
むしろ、シンをサポートするために更に踏み込んでいく。
部下に頼りっぱなしなんて情けない真似は出来ないからな。
オズマにも大人としての意地があった。
その動きに他の仲間達も追従する。
左腕を失っても激しく抵抗するデストロイ。
しかし、今のシンを止めることは出来なかった。
インパルスの激しい連撃を受けて、今度は左脚が破壊される。
片脚でその巨体を支えることが出来ず、仰向けに倒れたデストロイ。
ステラを助けるためにシンがデストロイのコックピットに向かう。
残り時間3分
デストロイも足掻きを見せる。
コックピットへと向かってくるインパルスに取り付かせてなるものかと倒れたままインパルスに砲門を向ける。
今、デストロイは地面を背にしている。
コックピットに取り付くための侵入経路は限られてしまう。
残り時間は少ない。
ここで手間取るわけにはいかないと突き進ませるがビームの網によって進路が塞がれようとしていた。
インパルス単独であれば接近を阻止されていただろう。
だが、ここにいるのはインパルスだけではない。
仲間達の砲撃がデストロイの武装を破壊していた。
デストロイは左腕を破壊され、それ以前にも四肢を攻撃されてダメージを負っていた。
これまで砲撃を防いでいたリフレクターは、両腕部飛行型ビーム砲シュトゥルムファウストと背面のフライトユニットの先端に内蔵されている。
3つのリフレクターの内、2つが破壊またはダメージによって使用不能に陥った事によって味方の攻撃が届いたのだ。
「シン、行きなさい!
ステラちゃんを助けるんでしょ!」
仲間達の攻撃でコックピットまでの道は開かれた。
ルナマリアの声に応えるようにインパルスが飛び込み、ついにコックピットに到達する。
残り時間2分
インパルスの手がデストロイの露出したコックピットに添えられる。
「ステラ、インパルスの手に乗ってくれ。
こっちのコックピットまで運ぶから!」
シンの呼びかけに応えてステラがコックピットから出ようとするが、デストロイが最後の抵抗を見せる。
残った右腕でインパルスに殴りかかってきたのだ。
デストロイには、その巨体に相応しいパワーがある。
その剛腕で殴られれば、インパルスなど簡単に吹き飛ばされてしまう。
最小限の動きで回避するか?
どちらにしても一度デストロイから離れてしまう。
そして、このまま腕を振り切られてしまえば機体はうつ伏せになり、コックピットが塞がれて脱出できなくなる。
そうなってしまえば、ステラの救出は絶望的だ。
くっ、どうする?
どうすればいい?
思考を加速させるが打開策が出てこない。
まるでステラは渡さない、自分と共に滅びるのだと言う意志があるかのようにデストロイの拳がインパルスに迫る。
その時、インパルスの前に2機のモビルスーツが割り込む。
カオスとアビスがデストロイの腕に組み付いていた。
2機がかりでデストロイのパワーを抑え込んでいるのだ。
「うおおおおぉぉぉ!
何をしている、時間がないぞ!」
「ぐぅぅぅ!
早くステラを助けろよ!」
カオスとアビスのお陰でステラを救出する時間的猶予ができた。
残り時間1分
「カオス、アビス、ありがとう!
ステラ、今の内に早く!」
「うん!」
ステラがコックピットの裂け目から飛び出して、インパルスの手に乗る。
その手を胸のコックピットまで持っていき、ステラを乗り込ませた。
「ステラ、シートの後ろに!
しっかり捕まっていろよ」
ステラがシンの指示に従い、シートの後ろで身体を固定させる。
ついにステラの救出に成功、後は離脱するだけだ。
デストロイの自爆に巻き込まれないためにインパルスを離脱させる。
デストロイの腕を抑えていたカオス達もインパルスに続いて離脱を始めた。
残り時間0
離脱する3機の背後で一際大きな爆発が起きる。
それは、デストロイの巨体を完全に破壊するほどの威力だった。
少しでも救出が遅れていれば、あの爆発の中でステラの生命は失われていただろう。
だが、もうそんなIFはない。
ステラは、シンと仲間達の手で救い出されたのだから。
「シン、良かったわね。
大切な人を守れて」
シンの心の傷を知るルナマリアが優しい目を向けていた。
「そうだな。
だが、これで終わりじゃない。
母艦を見つけ出して、捕まえなきゃいけないからな」
オズマが次の目標を見据える。
延命手段を手に入れなければ、せっかく助けたステラ達の生命が零れ落ちていくのだ。
「隊長、その必要はないみたいですよ」
ショーンが指し示す方向には、ステラ達の母艦ジョン・ドゥがいた。
デストロイを失った事で決定打を無くした東アジア共和国軍は撤退を開始している。
このまま戦闘を継続しても、闇ラクスの歌でジリ貧になるからだ。
そんな状況にも関わらず、撤退も、友軍との合流もせず、むしろこちらに近づいてきていた。
「どう言うつもりだ?」
ジョン・ドゥに自艦を守る戦力はない。
そんな自殺行為とも言える行動にオズマは戸惑っていた。
そんなオズマ隊に向けてジョン・ドゥから通信が繋がる。
「こちらは、特務艦ジョン・ドゥ艦長、イアン・リー少佐。
我々は、リベリオンへの投降を望む」
イアンは、ステラ達の扱いに心を痛めていた。
しかし、自分が任務を放棄しても別の誰かが行うだけ。
だから、ステラ達が生き残れるように全力を尽くす事しか出来なかった。
しかし、ラースのここで使い捨てると言う発言を聞いて、機会があればステラ達を解放する決意をしていた。
ラースが戦死し、ステラ達が記憶を取り戻したことで離反した時、ついにイアンも動いた。
部隊の一部を動かし、ゆりかごの管理をしていた技術者達を拘束。
ステラ救出を邪魔しないよう離れた場所で様子を見ていた。
そして、ステラの救出が無事に終わった事を確認して、ゆりかごを引き渡すために投降を申し出たのだ。
「イアン・リーだと。
その声、まさか、あのイアンなのか?」
オズマが珍しく動揺した様子を見せる。
「ファングのオズマ隊。
名前を聞いた時はまさかと思ってましたが、やはり貴方でしたか、兄さん」
「「「兄さん!」」」
敵艦の艦長のまさかの発言にオズマ隊の面々が驚愕の叫びを上げる。
「イアン、なぜお前がそんな艦に乗っている!」
「それを貴方が言うのか!
貴方が汚れ仕事が嫌で家を飛び出したから私が貴方の分までしなければならなくなったのに!」
リー家は、代々軍の汚れ仕事《ブラック・オプス》を担ってきた。
誇れる仕事ではないが、誰かがやらねばならない仕事でもあった。
国を守ると言うことは、綺麗事だけでは済まないのだから。
オズマは、そんな家業を嫌って家を出て、傭兵になっていた。
彼の代わりに家業を継いだのが弟のイアン・リーだった。
彼は、非道な任務に精神をすり減らしながらも倫理観を維持していた。
自分なら、少しでも犠牲が少なくなるように立ち回れる。
それは、自分の心を守るための防衛行動だったのかもしれない。
それでも、そこに意味はあった。
「なぁ、艦長の処遇、なんとか軽くしてくれないか?」
スティングがそんな事を言い出した。
彼も、自分達がしてきた事を覚えている。
今までの罪を裁かれるのも仕方ないと思っている。
「艦長だけは、俺達のために何かと気に掛けてくれていたんだ」
「うん、僕も艦長だけは嫌いじゃないよ」
アウルもそれに続く。
「そうなのか?」
「艦長は、優しいよ?」
シンの問いにステラも同じ答えを返した。
「いや、私は艦長として責任を取らなければならない。
この艦が行ってきた事の責任は、全て私にある。
だから、スティング達には寛大な処分をお願いする」
そんなイアンの申し出をオズマが受けた。
「分かった。
投降を受け入れよう。
出来るだけ彼らの処分が軽くなるように俺からも頼んでおく」
「感謝します、兄さん」
こうして、ジョン・ドゥはオズマ隊に投降し、当初の予定通りゆりかごを手に入れた。
ステラ達を含めたジョン・ドゥの乗組員達の扱いについては議論が紛糾していたが事態は急変することになる。
南京での戦闘から数週間後、リベリオンと東アジア共和国との間で和平が成立した。
世界は、この電撃的な講和に衝撃を受けたがその和平会見で行われた告発による衝撃はその比ではなかった。
オズマはイアンの兄でした。
クライシスの被害が軽減された事で、イアンの兄も生き残れた設定です。
次回、物語は新たな展開に突入します。