歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
その日、全世界に向けて緊急会見が行われた。
会見の席には東アジア共和国の代表と非理事国同盟の盟主が座っている。
彼らの口から和平合意が成立したと説明された。
この二人が並んでいる時点で、この戦争に関する交渉に何らかの進展があっのだと誰もが思っていた。
だが、あれ程激しく争っていた両者の和平がこんなにもあっさりと成立するとは誰も予想していなかった。
南京での戦いで負けた東アジアが大幅に譲歩したのか?
いや、東アジアは何より面子を重んじる性質がある。
そう簡単に譲歩など出来ないはずだ。
東アジア共和国の代表の顔も屈辱を感じているようには見えなかった。
まだ、講和の条件などは発表されていない。
リベリオン側が譲歩して東アジアが受け入れられるような条件で纏まったのか?
会見の冒頭で和平成立の宣言を受け、続くであろう講和の詳細に世界が注目した。
しかし、始まったのは詳細の説明ではなかった。
それは、非理事国同盟の盟主『イブラヒム・カーン』によるロゴスの告発であった。
「今回の戦争、我々が望んで行ったものではありませんでした。
いえ、今回だけではありません。
人類は、戦争を忌むべきものとして避けるための努力を続けてきました。
それでも、今日に至っても戦争はなくなっていない。
何故でしょうか?」
突然、別の話が始まって、会見を見ていた民衆も戸惑うばかりだ。
それでも話は続いていく。
「それは、戦争を望む者達がいるからです。
彼らは何もないところに火種を作り、燃料を注ぐ事で争いを引き起こす。
そして、我々に囁き続けてきたのです。
戦え、戦わない者は臆病者だと。
古から存在し、戦争によって富を独占し続けてきた存在。
世界に戦乱と破壊を撒き散らす者達。
その名は、軍産複合体『ロゴス』」
カーンが話していることは、陰謀論者がよく口にする事だった。
昔から武器商人などは、死の商人として嫌われてきた。
彼らは戦争で私腹を肥やしていると。
まさか、この会見でそんな事が話されるとは誰も予想していなかった。
この時点では、民衆の反応も冷ややかなものだった。
確かにロゴスには、死の商人として世界の戦争を牛耳っていると言う噂はあった。
しかし、それはあくまで都市伝説や陰謀論者が話す根拠のない絵空事でしかない。
東アジア共和国と和解するために悪いのは全てロゴスだと責任を押し付けているだけではないのか?
そう疑う者も多かった。
「突然こんな話をされて、戸惑う方も多いでしょう。
しかし、なんの証拠もなくこんな事を言っているのではありません。
彼らが何を望み、考え、この戦争を引き起こしたのか?
その答えを示す、明確な証拠を手にしたのです」
開示される証拠の数々。
証言や状況証拠といった曖昧な物ではない。
それは、カーンの話が事実であると示す、確かな物的証拠だった。
ブルーコスモスの盟主『ロード・ジブリール』が東アジア共和国軍に送り込んだ部隊に非人道的な作戦を行うよう指示する命令書。
リベリオンと東アジアの戦争に対して反戦論が盛り上がらないように各メディアに情報操作を指示するロゴス幹部の通信記録。
そして、自分達以外の経済基盤を徹底的に破壊し、その後にロゴスが完全に経済を支配する新たな
彼らが、世界は自分達の手で支配されるべきだと本気で考えているとしか思えない物ばかりだった。
「東アジア共和国も平和を願う思いは同じ。
ロゴスの卑劣な罠に掛かり、リベリオン及び非理事国同盟と戦争状態に陥ってしまった事は痛恨の極み。
今後は手を取り合い、共に世界の敵ロゴスと戦う決意です」
こうして、リベリオンと東アジア共和国は対ロゴス大同盟を結成した。
有史以来、初めて戦争を根絶するために行われる聖戦の開始が宣言されたのだった。
反ロゴスの動きが世界中に広がっていった。
これまでの都市伝説じみた陰謀論ではなく、具体的な証拠によってその罪が白日の下に晒されたのだ。
その衝撃的な告発が世界中の民衆を動かし、一部では暴動にまで発展してしまう。
司法や警察が健全に機能している国では、民衆がロゴス幹部の邸宅を襲撃して殺人の罪を犯さないように、またロゴス幹部が私刑によって殺されないように逮捕、拘束に動いた。
その際にロゴス幹部が雇っていた警備部隊と警察との間で銃撃戦が起こり多数の死傷者を出すに至る。
ロゴス幹部もその混乱の中で命を落とす者、逃げおおせて姿を隠す者など大人しく罪を認めて司法に身を委ねる者がいなかったことでロゴスこそが世界の敵だと言う印象がますます強まっていった。
月の統合軍本部にいたアズラエルは、その動きを見て苦々しい表情を浮かべる。
なるほど、これがネームレスが書いたシナリオですか。
次は、ロゴス幹部やジブリール君を影から操っていた黒幕として大西洋連邦の国防産業理事である僕の身柄を要求するといったところでしょうね。
僕は、あの明白なる運命とやらに関わってないですから証拠なんて出てこない。
大西洋連邦としても証拠もない状況で引き渡すなんて事をすれば国家としての主権に関わる。
その後の展開はありきたりだ。
世界の敵である僕を匿う大西洋連邦や統合軍は悪だと言って、正義の名の下で行う実力行使。
かくして、リベリオンと統合軍は本格的な武力衝突に発展する訳ですか。
ジブリール君は、完全に踊らされていたみたいですね。
そう、カーンが開示した証拠のほとんどがジブリール邸を制圧して押収したものだった。
ロード・ジブリールは、その際に起きた銃撃戦に巻き込まれて死亡している。
その野心やコーディネーターに対する憎しみをネームレスに利用されて、用済みになったら切り捨てられたのだとアズラエルは判断していた。
リベリオンの本隊が南京でデストロイと戦っていた頃、時を同じくしてジブリール邸でも戦いが起きていた。
非理事国同盟の特殊部隊がジブリール邸に襲撃を掛けていたのだ。
ジブリール邸の警備は厳重だった。
いかにジブリール財閥のトップやブルーコスモスの盟主などと言う肩書を持っていようと民間人の自宅の警備としては過剰な戦力が配置されていた。
すぐに激しい銃撃戦が発生する。
そんな屋敷の一室でロード・ジブリールが銃撃音を聞きながら部下であるプライドから報告を受けていた。
「どうやら、カーンはこちらの思惑通りに動いたようだな」
「はい、彼らは激しい銃撃戦の末にこの屋敷を制圧し、そこで数々の証拠を手にするでしょう」
「ふっ、それが用意された物だとも知らずにな。
自らの正義を確信した奴は、我らのために踊ってくれるだろう」
自身の屋敷が襲撃されているにも関わらず、それが予定通りだと落ち着いているジブリール。
汎イスラム会議の議長にして、リベリオン設立でも中心的な役割を果たしたカーンに情報をリークし、この襲撃を誘発していた。
ロゴス幹部達を破滅させ、あのアズラエルを窮地に追い込むための証拠を用意して待っていたのだ。
「アズラエルの部下として動いていたと思われるのは不愉快だが、まあ良かろう。
私は、ロード・ジブリールではなくなるのだから。
ルシフ君、私の死体の用意は出来ているな?」
「もちろんです」
「よろしい。
今日、私は死ぬ」
プライドの返事に満足げな表情になるジブリール。
ロード・ジブリールと言う存在は死ぬ。
そして、私は
誰にも知られる事なく人類の歴史をコントロールしてきた名前すらない組織。
そのトップに立つ者が通ってきた道だ。
ロード・ジブリールと言う存在が死ぬ事で、誰も私の正体に至れなくなる。
人間以上の存在として、世界を導いていくのだ。
パン!
自らが創る、新しい世界へと思いを馳せていたジブリールの体に衝撃が走る。
見下ろすと胸から血が流れているのが見えた。
振り返れば銃を構えるプライドの姿。
「がふっ!
ルシフ・・・なにを・・」
「ご自分で言ったではないですか。
私は死ぬと」
背後からルシフに撃たれたジブリールが崩れ落ちるように倒れる。
それでも力を振り絞り顔を上げる。
視線の先には無表情で見下ろすプライドがいた。
「ルシフ・・・裏切ったか・・」
「いいえ、裏切ってなどいません。
全ては予定通りなのですから」
「なん・・だと?」
「あなたは所詮、使えなくなったアズラエルの代わり。
代用品でしかなかったのですよ。
一時とは言え、我らのトップになれると本気で信じさせてあげたのです。
いい夢が見れたでしょう?」
「おのれ・・ルシ・・」
そこで、ジブリールは力尽きた。
冷たくなっていくジブリールの体を感情のこもらぬ目で見下ろすプライド。
「ロード・ジブリールは、襲撃者との銃撃戦に巻き込まれて死亡。
処分できなかった証拠によって、ロゴスの野望が明るみになる。
貴方の死こそが新たな世界への扉を開く鍵だったのですよ」
こうして得た数々の証拠を元に東アジア共和国との講和が実現した。
東アジア共和国は、リベリオンと共にロゴスの影響が強い大西洋連邦とユーラシア連邦に対しロゴスメンバーの引き渡しを要求。
その中にはアズラエルの名前もあった。
両国は内政干渉にあたると拒否。
彼らに罪があるなら自国で裁くと返答。
これにより、二つの陣営が対立する構図が出来上がる。
世界は、再び二つに別れて争おうとしていた。
この世界の何処か
ネームレスの中枢が世界の動きを見つめながら話し合っている。
「ルシフは上手くやったようだ。
これで、ようやく計画が動き出す」
「しかし、全てが計画通りという訳でもない。
デストロイは自爆したがエクステンデッドとゆりかごはリベリオンの手に渡ってしまった」
「それについては、むしろ好都合ですよ」
「そうなのかい?」
「闇ラクスは予測を上まわる成長をしたが、ローレライ・システムの出力は未だ十分ではない。
カガリやラクスと競わせミックスアップを引き起こして、能力を成長させる必要がある」
「そのためにリベリオンを統合軍にぶつけるのでしょう?」
「彼女達を守るアークエンジェルの歌姫の騎士団に対抗するには、闇ラクスの護衛戦力では足りない。
顔の割れていない七大罪を何人か派遣する予定だったが、エクステンデッド達が戦力差を埋めてくれるなら手間が省けると言うもの」
「光と闇の歌姫の騎士団による戦いか・・・面白そうな見せ物ね」
「しかし、本当にシャロン・アップル計画は上手くいくのか?
闇ラクスの歌でも必要な出力に届いていない。
成長しても、期待ほど歌が力を持つとは限らないが」
「世界の歴史は、我々の計画通りに推移してきた。
だが、ジョージ・グレンが地球外生命体の痕跡を発見した。
あれで、世界は夢や浪漫といったものに目を向けるようになってしまった」
「同じ失敗はしないよ。
僕らは世界を手に入れるんだ」
「そのために必要な器はもうすぐ完成する」
「約束の時がきた時、邪魔が入らないように人類全てを効率至上主義で統一させる。
そのために何度も戦争を起こしてきたのだ。
戦後の復興ほど効率優先を正当化できる機会もないからな。
ここで失敗は許されない」
「ここは、カガリ・ユラ・アスハを信じようじゃないか。
僕らに歌の持つ力を認めさせた彼女を」
「闇ラクスの数値は、すでに本物を上回っている。
カガリが勝つとは限らないのでは?」
「どちらが勝とうと関係ない。
彼女達が互いに高め合って、シャロン・アップル計画に必要なデータが取れれば用済みになるのだから」
ネームレスの暗躍は続いていく。