歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
宇宙に様々な光が疾る。
撃ち出されるビームが飛び交い、モビルスーツのスラスターの炎が交差していく。
戦場は宇宙へと移っていた。
カーンの告発から地上では反ロゴスの風が吹き荒れた。
あまりに明確な証拠があったため、東アジア共和国だけでなく統合軍からも一部の者達が離反していた。
ジブリールを始め、ロゴス幹部のほとんどが死ぬか逃走した事でロゴスの罪は明らかだと言う見方が世界の主流になってしまう。
居場所が判明しているのは月の統合軍本部にいるアズラエルのみとなり、リベリオンは宇宙へと上がり月本部にアズラエルの引き渡しを要求。
ロゴスの罪は裁判で確定した訳ではないが、限りなく黒に近い状況だ。
証拠も全世界に公開されている。
もし、いるのがロゴス幹部であったなら統合軍も超法規的措置を取り引き渡していたかもしれない。
だが、アズラエルには他の者達とは異なり決定的な証拠がなく、不確かな状況証拠のみだった。
アズラエルは、前大戦で地球のコーディネーターを保護する流れを作った事で彼らからの支持を集めている。
プラントとの戦争で果たした貢献も大きい。
国家としての主権云々がなくても、明確な証拠もない状態で引き渡すのはためらわれた。
しかし、ブルーコスモスの前盟主であり、国防産業理事としてロゴスにもかなりの影響力がある者が白のはずがないと判断していたリベリオンもかなり強硬な態度に出る。
こうして大西洋連邦とユーラシア連邦を中核とする統合軍とリベリオンと東アジア共和国の対ロゴス大同盟の間で緊張は高まり、引き渡しの期限を過ぎた事で武力衝突に発展してしまった。
リベリオン旗艦:パラスアテナ
闇ラクスが戦場を複雑な思いで見つめていた。
「この戦いは、本当に必要だったのでしょうか?」
アズラエルがロゴスのトップと言ってもいい立場であったとは言え、彼だけはカーンも決定的な証拠を掴めなかった。
ラクス達と歌でぶつかる機会を欲していたが、このようなやり方で正しかったのか迷いがある。
「ロゴス幹部達は、そのほとんどが死ぬか姿をくらませてしまいました。
彼らに法廷に立つ気はないでしょう。
ロゴスの罪を世界に示した以上、法の下で決着を付けなければならない。
そのためにアズラエル氏を法廷に立たせる必要があるのです。
確かに証拠は見つけられませんでした。
彼は、この問題に関わっていなかったのかもしれない。
けれど、彼の所属している組織が行なっていた事、彼の立場では知らなかったこともまた罪。
それが、カーン代表の考えです」
艦長の口からリベリオンの行動方針が語られる。
人類が新たな一歩を踏み出すには、この問題と向き合い、何らかの決着を付ける必要がある。
すでに状況は動き始めている。
ならば、私も覚悟を決めよう。
より良い未来を掴むために、彼女達に想いをぶつけなければ。
「わかりました。
前線に向かいましょう。
アークエンジェルの姿も確認されているのでしたね?」
「ええ、確認されています。
しかし、彼女達が本当に出てくるとお考えですか?
闇ラクス様の奇跡に対抗できるとは思えませんが」
「来ますよ。
私には分かります。
彼女達の歌声には力がある」
「例えそうでも、統合軍にローレライ・システムはありませんよ」
「今までは、そうですね」
「情報が漏れたとは聞いてませんが」
「あれだけ戦場で使ってきたのです。
いつまでも独占し続けることは出来ないでしょう」
「歌による奇跡は期待するなと言われるのですか?」
「負けるつもりはありません。
ですが、今までの戦場とは違うものになる気がします」
闇ラクスを乗せたパラスアテナが戦場を征く。
その歌声を戦場に響かせるために。
アークエンジェル
ブリッジにアズラエルの姿が見える。
身柄を要求されている当人が戦艦に乗って前線に出ているのだ。
周りのブリッジクルーも呆れた視線を向けている。
しかし、理由もなくこんな場所にいるのではない。
統合軍内から離反者が出ている以上、本部にいても安全とは限らない。
何より、アークエンジェルに搭載された新機能のアドバイザーと言う仕事もあったためブリッジに入ることとなった。
「理事、本当に大丈夫なのですか?」
「さあ?
出来るだけのことはしましたよ。
後は、ぶっつけ本番ですね」
カガリとラクスは、すでに統合軍版ローレライ・システムが設置された部屋で待機している。
闇ラクスの歌を打ち消し、ネームレスのコード・ローレライを頓挫させる。
そのために歌う準備が整えられていた。
「カガリ、大丈夫ですか?」
「ああ、心配かけたな。
いつまでも塞ぎ込んではいられないさ」
ラクスの問いにカガリは笑顔を見せるが、そこに以前のような明るさは感じなかった。
最も信頼していたグレイスが実は裏切り者だった。
それを知った時に受けた精神的なショックはまだ抜けてないようだ。
出来れば休ませてあげたい。
闇ラクスは、その名が示す通り自分と因縁のある相手。
私が止めなければ。
ラクスが集中を高めていく。
そして、状況は動き出す。
「前線にパラスアテナを確認!
闇ラクスの歌が流れています」
「サウンド・ウェーブも検出!」
「どうやら、始まったようですね」
アズラエルと共に乗り込んでいた技術スタッフの報告で状態が動いた事を認識した。
「東アジアが向こうに付いたことで戦力差はほとんどなくなっている。
このまま闇ラクスの自由にさせていればジリ貧ね」
「では?」
「ええ、ローレライ・システム起動。
カガリさん達に歌合戦が始まると伝えて」
「了解!」
アークエンジェルもまた、パラスアテナがいる戦域へと向かう。
ついに光と闇の歌姫達が対峙する時が訪れた。
戦場に闇ラクスの歌が響く。
それは、リベリオンの兵士達にとって勝利を約束してくれる福音であった。
しかし、今回はいつもとは異なる様相を呈していた。
別の歌声が割って入ってきたのだ。
ある意味、この世界で歌を特別なものとした二人の歌姫のものだった。
「どうですか?」
アズラエルがスタッフに状況を確認する。
「闇ラクスのサウンド・ウェーブと干渉を確認。
拮抗しています!」
「拮抗ですか?
二人掛かりなら圧倒できると思ったんですが。
闇ラクスの実力がこれ程とは」
「いえ・・・ラクスさんの出力は安定しているのですが、カガリさんの出力が・・・」
「・・・不安定なんですね?」
「・・・はい」
やはり、まだ本調子ではないですか。
それでも、二人掛かりで互角とは予想外でした。
歌い手としては、単独でなら闇ラクスの方が上手と言うことですか。
戦場で性質の違う二つの歌がせめぎ合い、打ち消しあっていた。
闇ラクスの歌は、母の腕の中のような安らぎを与える安息の歌。
ラクス達の歌は、明日へと歩みを進めるために背中を押す希望と勇気の歌。
歌として、どちらが正しいとか優れているというものではないがサウンド・ウェーブによる精神への影響を防ぐことには成功していた。
歌姫達が競い合っている一方で、戦場ではそれぞれの騎士団達が矛を交えていた。
アークエンジェルのモビルスーツ部隊とミネルバのオズマ隊が戦闘を開始する。
シンのインパルスとキラのホワイトセイバーが交錯を繰り返し、宇宙に二重螺旋の軌跡を描き出す。
共に高速戦闘を得意とする者同士。
周りとは一線を画した速度域での戦闘へと発展していく。
「くっ、これが白き閃光と言われるエースの実力か。
今の俺なら勝てると思っていたんだけどな」
激しい戦闘を繰り広げながら、互いに決定打を与えられない状況に自分が思い上がっていたと理解させられたシン。
タイプこそ違うが、相手はファントムペインのアレックス並の実力を持つと認めざるを得なかった。
それでも、闇ラクスは俺が守る!
シンの強い意志が集中を高めていく。
一方でキラもこれほど苦戦するとは予想していなかった。
「いったい何者なんだ?
この感じ、まるでアスランを相手にしているみたいだ」
シンの戦闘スタイルはアスランに酷似している。
激戦を潜り抜けてきたことで実力もトップエースの領域に入っている。
シンは、キラを相手に互角に戦えるまでに成長していた。
それが、キラにアスランと戦っているかのような錯覚を感じさせていた。
それでも、前大戦とは違う。
あの時と違い、機体性能はほぼ互角。
なら、絶対に負けない!
アークエンジェルにいるカガリを守るためにここにいるのだ。
キラも強い意志を持って戦闘に集中していった。
互いに自分が守ると誓った歌姫の歌を背に受けながら戦う二人。
彼らの間で不思議な感覚が生まれていた。
相手の意志を感じられるような、共感現象とでも言うべきか。
歌姫達が発するサウンド・ウェーブの影響か、それとも彼女達の歌の力によるものなのか。
確かなことは分からない。
ただ、互いの意志をぶつけ合いながら戦っていく。
「闇ラクスの歌で闘争心を奪えば、確かに戦争は無くなる。
その世界は、平和なのかもしれない。
でも、それは人の意志を殺す!
箱庭の世界だ!」
「そんなことはない!
闇ラクスの歌は、世界から弾かれた俺達みたいな奴を認めてくれる歌だ!
無理に世界と共に進んでいくことはない。
ゆっくり休んでいいんだって言っているだけだ!」
「そうやって歩みを止める事が正しいとは思えない」
「俺はアスハのようには出来ない。
過去に囚われていると言われればそうなんだろう。
それでも、俺は自分の意思でこの道を選んだんだ!」
二人の戦いは、更に激しさを増していく。
戦場で戦っているのは二人だけではない。
彼らの仲間達も互いに戦闘を行っていた。
ルナマリアとメイリンのノルンがムウの相手をしている。
無人戦闘機を駆使して戦うがエグザスパックのドラグーンを前に苦戦を強いられていた。
「ファントムペインのロアノークさん以外にもドラグーンをこれほど使いこなせる人がいたなんて」
メイリンは、自分が成長していると思っていた。
いや、実際成長している。
無人機の動きは洗練され、複雑な軌道を描く。
その動きには戦術的な意図も込められている。
並のエースでは、なす術もなく撃墜されてしまうだろう。
それでも、ムウが操るドラグーンに押されてしまっている。
ノルンは複座型だ。
一人で敵わなければ、二人で協力すればいい。
ルナマリアが無人機の動きからメイリンの意図を感じ取り、それに合わせた動きが出来るようになっていた。
ムウは、ドラグーンを自在に操るだけでなく味方との連携も考えた位置取をしている。
指揮官としての適性も高いことが分かる。
仲間達のためにムウを自由にはさせておけない。
ルナマリアも無人機と連携してムウに攻め掛かる。
「クルーゼ以外にも、これほど自立起動兵装を使いこなせる奴がいたのか。
これは、周りの援護をする余裕はなさそうだな」
ルナマリア達の動きは、ムウを唸らせるほどのものだった。