歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

95 / 126
異なる道

 

 

 

 宇宙に歌姫達の歌声が響く。

 それぞれの想いを乗せて、互いにぶつけ合っていく。

 それは、新たな変化を引き起こした。

 

 

 アークエンジェル:ブリッジ

 

「闇ラクスのサウンド・ウェーブ、増大していきます!」

 

 統合軍にとって悲報とも言える報告が入った。

 

「なんですって!」

 

「くっ、まずいですね」

 

 カガリ達が、まさか歌で負けるなどとは思ってなかったため動揺が疾る。

 このまま押し切られてしまうのではと不安に思うが、報告は更に続いていく。

 

「いえ、対抗するかのようにラクスさんのサウンド・ウェーブの出力も上昇、さらに・・・ここに来て、カガリさんの出力も安定し始めました!」

 

「これは、まさかミックス・アップ?」

 

「理事、ミックス・アップとは?」

 

「スポーツの試合なんかじゃ良くあることです。

 実力が近い者同士のスタイルが噛み合った時、互いの潜在能力を引き出し合い、試合中に成長していく現象の事ですよ」

 

「それが、カガリさん達と闇ラクスの間で起きていると?」

 

「そうとしか考えられないでしょう?」

 

 

 パラスアテナ:ローレライ・システム制御室

 

「闇ラクスとカガリ、ラクスの出力が増大しつつある。

 どうやら、期待通りの結果が得られそうですね」

 

 データを見ながら笑みを浮かべている男。

 闇ラクスの付き人、ハロルド・スロース。

 彼は、プラントで後に闇ラクスとなる少女を見出し、付き人として彼女の成長を手助けしてきた。

 闇ラクスの喉に埋め込んだ機械もローレライ・システムも、彼が何処からか用意したものだった。

 

「我らが支配する新たな世界のために必要なデータを取らせてもらいますよ」

 

 

 様々な思惑が交錯する中、歌姫達は歌い続ける。

 

 やっぱり、あの二人は本物だった。

 喉に機械を埋め込んで、ずっと訓練してきた私にあっという間に対応してしまった。

 

 悔しい気持ちもある。

 インプラントした機械は、歌声に力を与えるのと引き換えに喉に凄まじい負荷を強いてくる。

 すでに喉は限界に近付いている。

 時折り血を吐くこともある。

 歌い手としての時間はもう長くはない。

 それどころか寿命さえ削ってしまっているだろう。

 そこまでしても彼女達に対して優位に立てた時間は僅かだった。

 つくづく自分が凡人なんだと思い知らされる。

 

 それでもいい。

 いや、凡人だから伝えられる想いがある!

 

 しっかりしろ、私!

 ここが生命の燃やし所よ!

 

 シンやルナマリア達の戦いを見てきた。

 ステラ達、エクステンデッドがその境遇に負けずに前を向いて歩き出した姿も見た。

 みんな、生命を燃やすように生き抜こうとしている。

 だから、私は歌う。

 これが私の戦いだから。

 

 彼女達が天才だからこそ足りないものがある。

 天才と凡人では歩く速さが違う。

 背中を押しても、誰もが貴女達に付いていける訳じゃない。

 凡人には凡人のペースがあり、時にはしゃがみ込んでしまう事もある。

 

 私が歌える時間は残り少ない。

 これから先は貴女達に託すしかない。

 だから、凡人(わたしたち)の想いを知ってほしい。

 

 

 闇ラクスの生命すら削って奏でる歌声は、ラクス達に確かに届いていた。

 彼女達は、自分の想いを歌に乗せて世界に、誰かに届けるために歌ってきた者達だ。

 歌声に想いを乗せる。

 誰にでも出来る事ではない。

 だが、ここにいるのはそれが出来る一流の歌姫達だった。

 

 一流は、一流を知る。

 

 歌に自分の想いを乗せることが出来るラクス達に、闇ラクスが歌に託した想いを感じられないわけがない。

 

 前だけを見据えて進む、貴女達の姿は正しく美しい。

 それでも、時には後ろを振り返ってみてほしい。

 しゃがみ込んでいる人も道を逸れている人もいるでしょう。

 でも、責めないで。

 彼らも、彼らなりに前へ進もうとしているの。

 貴女達と同じ速さで、同じ道を歩くことが出来なくても、前へ進もうとする彼らを否定しないで。

 

 

 ラクスは、闇ラクスの歌に込められた想いに涙が溢れてきた。

 闇ラクスとなった少女の夢は、私の不用意な行動で踏み躙ってしまった。

 なのに、彼女の歌から負の感情は感じられなかった。

 むしろ、私を肯定してくれている。

 そして自分と違う想いを否定しないでほしいと訴えてくる。

 その想いに応えたい。

 彼女が思ってくれているほど自分が優れているとは思えない。

 それでも、彼女に恥じない存在でいたい。

 そんな想いを歌にして返していく。

 

 

 カガリの目の前で行われている歌合戦。

 それはまるで対話のようだった。

 いや、互いの想いをぶつけ合うそれは対話そのものだ。

 自軍を勝たせるためと言う当初の目的は、ラクス達の頭からは消えているだろう。

 

 戦いに勝つために

 

 そんな歌を兵器のように利用する作戦に必要だと頭では理解していても心が拒絶していた。

 出力が安定しなかったのはグレイスの事が心に影を落としている事だけが原因ではなかった。

 

 闇ラクスは、歌を利用しようとする存在ではなかった。

 その事に安堵すると同時に敵は別に存在すると確信していた。

 歌を兵器として利用しようとする者達がいる。

 そいつらが私達が歌で争う構図を描いたんだ。

 カガリは歌を愛していた。

 歌の道に進む切っ掛けだったグレイスが裏切っていたと分かっても、歌への想いは何も変わっていない。

 だから、こんな風に歌を利用しようとする者達は許せない。

 奴らの好きにさせないために、私の想いをラクスと闇ラクスに知ってほしい。

 カガリもまた、歌合戦という対話に飛び込んでいった。

 

 

 歌姫達が歌で行う対話。

 互いに理想とする想いがある。

 譲れない部分もある。

 でも、指摘され、変わらなければいけないと思わせられる部分も確かにあった。

 リスペクトし合い、譲るべき部分は認め合う。

 そうやって互いの溝を埋めていく。

 

 

 そんな歌に引っ張られるかのように、互いの騎士団達の戦いも想いをぶつけ合う形へと変化していく。

 

 シンのインパルスとキラのホワイトセイバーの戦いは激しさを増していく。

 有利な位置を得るための限界ギリギリの加速、相手の予測を上回ろうとする戦闘機動、分厚い防御を貫くために持てる戦技の全てを注ぎ込む攻撃。

 これほど激しくぶつかり合いながら、そこに殺意も憎しみもなかった。

 競り負ければ撃墜され死ぬことになる。

 そんな戦いでありながら、相手と分かり合うためのコミニュケーションのようでもあった。

 

「アズラエルさんは、明白なる運命(あんなこと)に関わるような人じゃない!」

 

「関わってないなら、堂々と裁判に出てくればいいじゃないか!

 そうすれば、こうして戦う必要もなかった!」

 

「その動きの中でアズラエルさんを嵌めようとしている者達がいる。

 君達がそいつらの一味じゃないことは分かってるけど、裏でそんな動きがある以上、引き渡すことは出来ない」

 

「どうして、そこまで庇う。

 無実を証明すればいいだけじゃないか!」

 

「世界はもうロゴスを信じない。

 この状況では、無実の証明なんて無理だ」

 

 想いを伝える歌が響く中での戦闘でシンとキラは、互いの想いを感じ取っていく。

 シンは、キラのような人が信じているならアズラエルは無実なのかもしれないと思う。

 それでも、世界がこの疑惑の解明を求めている以上、戦いを止めるわけにはいかない。

 相手の想いを理解しながらも、立場の違いから戦わざるを得ない。

 

 キラも闇ラクスがネームレスの手先だとはもう思っていない。

 おそらく、彼女の歌を利用されているだけだろう。

 戦いたいわけじゃないけど、止めるために戦わなければならない。

 

「闇ラクスの歌を利用している者達がいる。

 彼女の歌を止めないと世界が大変な事になるんだ」

 

 シンにもキラの想いが分かる。

 悪意から闇ラクスを止めようとしているのではないと。

 シンだって本当は、闇ラクスに歌ってほしくない。

 生命を削りながら歌っていることを知っているから。

 

「あんたが出鱈目を言ってるとは思わない」

 

「ならっ」

 

「でも、止められないんだ!

 彼女の覚悟を知っているから」

 

 シンが更に激しく斬りかかる。

 

「くっ、どうしてそこまで」

 

「本当は解っている。

 アスハは正しい選択をしたって」

 

「君は、何を?」

 

「復讐を否定して、辛い思いを乗り越えながら世界を変えようと進んでいく。

 凄いと思うよ。

 でも、俺は復讐を捨てられない」

 

 キラは、その言葉から相手が元オーブ国民だったのだと理解した。

 

「俺は彼女ほど強くはなれなかった。

 復讐なんて正しくないのは分かってるのに」

 

「それなら」

 

「誰もがあんな風に強くなれるわけじゃない!

 自分の想いを世界に認めてもらえない辛さが分かるか?!

 たとえ正しくても、白一色で染まった世界はイヤなんだ!」

 

 それは、シンの魂の叫びだった。

 

「それも分かるけど、前に進まなくちゃ世界は変わらない」

 

 明るい未来を望むなら、そこに立ち込める暗雲を晴らすために行動しなければならない。

 その場に立ち止まって何もしなければ、もっと何も出来ない。

 そんなキラの想いも、覚悟も伝わってくる。

 

「強いな。

 あんたみたいな奴を主人公って呼ぶんだろう。

 どんな困難を前にしても、乗り越えて、正しい選択をする。

 本当にかっこいいと思うよ」

 

「君にだって出来るはずだ」

 

「そうじゃない。

 俺は主人公にはならない。

 そんな選択をしたんだ」

 

 脇役でもいい。

 世界に認められなくても、俺は俺の道を歩いていくと決めた。

 たとえ主人公の言葉でも、闇ラクスの歌が世界を悪い方向に進ませるなんて信じない。

 

「もういいだろう。

 目指す未来がそんなに違うわけじゃなくても、俺達は違う道を進んでいる。

 あんたがアスハ達を信じているように、俺達は闇ラクスを信じてるんだ」

 

 

 シンの想いを感じて、闇ラクスの顔に微笑みが浮かんでいた。

 彼が信じてくれている事実が心に喜びを溢れさせる。

 

 

 それでも、この時間は終わろうとしていた。

 

「ごふっ」

 

 闇ラクスが吐血する。

 ラクス達の歌と張り合うために全力で歌っていたことで喉が限界に来ていた。

 

「闇ラクス様!」

 

「大丈夫です。

 ですが、少し無理をしすぎたみたいですね」

 

 

 闇ラクスの喉が限界に達したことで、リベリオンは一時撤退を決定。

 

 後退していくシン達を見送りながら、キラ達の心にも迷いが生まれていた。

 

 このまま戦っていいのだろうか?

 彼らは自分達とは違う道を進んでいるが、決して悪とは言えなかった。

 何と戦わねばならないのか。

 ネームレスの実態が分からないことをもどかしく思っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。