歌姫カガリのマクロス風SEED世界   作:ソロモンは燃えている

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ネオ・デスティニー・プラン

 

 

 

 リベリオンが撤退したことで統合軍も戦闘を停止、本部へと帰還していた。

 

「アズラエルさん、私には闇ラクスがネームレスの手先とは思えません」

 

「そうだな、私達とは視点が違うだけで目指す未来は同じように感じたよ」

 

 二人の歌姫が敵軍の歌姫に悪意を感じなかったと話す。

 

「うん、護衛部隊も心から闇ラクスを信じてるみたいだった」

 

 キラも戦場で感じ取った相手パイロットの意思を思い出していた。

 怒りや憎しみで戦っているわけではない。

 彼は、僕とは違う脇役だって言ってたけど、そうは思わない。

 大切な人を守るために戦って、その人が目指す未来が良いものだと信じていた。

 僕と同じだ。

 ただ、少し道が違うだけ。

 僕が主人公なら、君だって主人公だよ。

 

「闇ラクスと嬢ちゃん達の歌の影響か相手の意思がなんとなく感じられた。

 あんな、キラより若い奴らがどんな想いで戦っているのか分かっちまうのはやりずらいな」

 

「ええ、俺達が相手をした奴らは普通のナチュラルじゃないみたいでした」

 

「やっぱり、そんな感じだったか?」

 

「はい、俺と同じように人の悪意によって生み出された存在だと思います」

 

「だからって、負けるわけにはいかないじゃない!

 イレブンを失いたくないもの。

 私は戦場でためらったりしないわよ」

 

「分かってる、俺もフレイを一人にしない」

 

「イレブン・・・」

 

「はいはい、イチャつくのは後にしてください」

 

 二人の世界を作り始めたイレブン達をバッサリ切ってアズラエルが話を戻す。

 

「つまり、闇ラクスも周りの護衛部隊もネームレスの一員ではないということですね」

 

「そう思いますが、そんな簡単に納得するんですか?」

 

「僕は歌については門外漢ですからね。

 専門家の意見を信じますよ」

 

「闇ラクスの歌は、例えるなら夜の闇だ。

 安心して眠れるよう優しく包み込んでくれる暗闇。

 疲れた体と心を癒して、再び立ち上がるための歌」

 

「あの歌では、ネームレスが望むような結果にはならないと思います」

 

「そうですか、闇ラクスの行動がネームレスの思惑から外れたのか。

 それとも・・・我々が掴んだコード・ローレライの情報そのものがブラフだったのか」

 

「アズラエルさん?」

 

「以前、ファントムペイン以外にも情報提供者がいると言っていたでしょう?

 今、彼らに探りを入れてもらってるんです。

 闇ラクスの周辺にネームレスが潜んでいるのは間違いないはずですから。

 上手くいけば、今度こそ奴らの尻尾を掴めます。

 ネームレスの実態も少しは見えてくるはず」

 

「なら、やっぱりここで理事の身柄を向こうに渡すわけにはいきません」

 

「僕もそれは勘弁ですよ。

 この情勢では何を言っても無実を信じてはもらえないでしょうから」

 

「戦いたくはないけど、引くこともできない」

 

「もう少しだけ耐えてください。

 少しずつピースはそろってきているんです。

 少なくともリベリオンそのものが敵ではないと分かったのは前進ですよ」

 

 

 一方、リベリオンでも戦闘後に新たな動きが出ていた。

 

 リベリオン司令部

 

「アズラエルは、闇ラクスの歌を利用して、何かよからぬことを企んでいる者達がいると疑っているようだ。

 その者達に陥れられる危険があると」

 

「何を、情勢が悪いからと言い逃れをしているだけでしょう!」

 

「だが、心当たりがないわけではない。

 闇ラクスを連れてきたのも、ローレライ・システムを提供してくれたのも貴方だ。

 事情を聞かせてもらえますかな?

 ハロルド・スロース殿」

 

 その場に呼ばれていた闇ラクスの付き人ハロルドは、余裕の笑みを浮かべている。

 

「もちろんです。

 我々としても疑惑を持たれたままという状況は避けたい。

 誤解しないでもらいたいのですが、我々は怪しげな宗教団体ではありません。

 これまで表立って動いてこなかったのは、我らの活動を知られればそう思われる可能性が高かったからです」

 

「宗教団体だと?」

 

「ええ、我々の行動原理を分かりやすく言うと救世主待望論ですから」

 

「救世主・・・」

 

「胡散臭いですよね。

 でも、あなた方は既に闇ラクスと言う存在を知っている」

 

「彼女が救世主だと?」

 

「そうであってほしいと思っています」

 

「だが、彼女は・・・」

 

「彼女の力はインプラントによって得たもの。

 所詮は紛い物に過ぎない、ですか?」

 

「むっ」

 

「あなた方はSEED理論というものをご存知ですか?」

 

「一時期、学会を騒がせた理論だな」

 

「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子。

 我々の目的は、その因子を研究し救世主を人為的に作り上げること。

 運命や偶然などに頼らず、人類の未来を掴み取るために。

 その成果が闇ラクスであり、ローレライ・システムです」

 

「戦場で敵軍の闘争心を消す力は大したものだ。

 だが、それで世界が救えるのか?」

 

「人類の歴史は戦争の歴史と言っても過言ではないほど争い続けてきました。

 今は小さな歌声でも、やがては地球全体に、更に宇宙へと響かせることが出来れば、人類の過剰な闘争心を和らげ、戦争のない世界へと変わるでしょう」

 

「なるほど、確かに詳しく知らなければ怪しい宗教団体に思えてしまうな。

 アズラエルが誤解するのも無理はない」

 

「だが、情勢が奴に厳しいのも事実だ。

 交渉は続けるが引き渡しに応じる可能性は低い。

 リベリオンには、引き続き軍事的圧力を掛けてもらわねば」

 

「では、そのように。

 スロース君もご苦労だった。

 下がっていいぞ」

 

「はい、それでは失礼します」

 

 リベリオン司令部の面々に背を向けて退室するハロルドの顔には禍々しい笑みが浮かんでいた。

 だが、誰もその表情に気付く者はいなかった。

 

 

 統合軍とリベリオンは、立場の違いから再びぶつかると予想された。

 しかし、その予想を覆し、更なる混迷を引き起こす事態が発生する。

 

 

 その日、トゥルーザフトが再び全世界に向けて声明を発した。

 しかし、映像に映っているのは代表である偽アスランではなかった。

 

「やあ、皆さん。

 今日は世界にとって素晴らしいニュースをお届けしようと思う。

 もう人類が明日滅ぶのではないかと不安を感じることもない。

 この私、クリス・ライトマンが人類の最終的救済策としてネオ・デスティニー・プランを採択します」

 

 その後、コミカルな映像でネオ・デスティニー・プランの概要が流される。

 欲望があるからこそ人類は争う。

 他者より上へ、他者より豊かに

 その果てしない欲望が人類を滅ぼそうとしている。

 全ての人類が欲望を忘れ、種全体の調和のために行動できるようになれば素晴らしいユートピアを築くことができる。

 さあ、迷いも不安もない世界に行こう。

 

 

 ライトマンは、非人道的な実験を行い学会を追放された科学者だ。

 その上、プラントで更に非道な研究にも関わっていた疑惑を持たれている。

 そんな者が掲げるよく分からないプランに賛同する国など存在しない。

 

 だが、ライトマンはそんな事など気にも留めていなかった。

 プランが実行されれば拒否するという自由意志などなくなるのだから。

 

「ドクター、どうしてこんな声明を?

 プランに賛同する国など出てくるわけがない。

 何の意味もないと思いますが」

 

「おや、アスラン君。

 いや、偽アスラン君と言った方がいいかな?」

 

「私には、もうアスラン以外に名乗る名はありません」

 

「では、アスラン君と呼ばせてもらうよ。

 意味ならあります。

 世界に向けて宣言することで自分自身の意志をより強固にできた。

 後はやり抜くだけです」

 

「そうですか。

 では、私も同志として全力でサポートさせてもらいましょう」

 

「ふふふ、頼りにしてますよ。

 私のプランが成功するにせよ、失敗するにせよ、どちらであろうと君の望みは叶うでしょうから」

 

「・・・私の思惑を見抜いていましたか」

 

「もちろん秘密にしておきますよ。

 我々は同志ですからね」

 

「ありがとうございます。

 それでドクター、これからどう動くのですか?」

 

「まずは統合軍本部を落とします」

 

「統合軍本部?」

 

「組織が研究していた技術にプランを効率的に実行できるものがあったんです。

 その技術を使うために必要なパーツがそこにあるんですよ」

 

 いや〜、プランにとって最大の不確定要素だと思っていた彼女達がプランを成功させるための最後の鍵になるなんて。

 運命なんてものが本当にあるんじゃないかと思えてしまいますね。

 彼女達の歌が洗脳を解いて自由意思を復活させてしまうなら、まず最初に彼女達を洗脳してプランを手伝ってもらえばいいじゃないですか。

 彼女達には、自由意思を消す歌を歌ってもらいましょう。

 

「分かりました。

 トゥルーザフトの全軍を集結させ、月の統合軍本部に進軍します」

 

「全体の指揮は任せますよ。

 私は、ゴーストの調整を万全にしておかなければいけませんから」

 

 ライトマンが立ち去った後、それまで沈黙していたニコルが口を開く。

 

「いいんですか?アスラン

 あんなのを引き入れるなんて」

 

「俺の目的を達成させるには都合がいいからな。

 それに、あんなのを野放しにしておく方が危ない。

 それくらいなら目の届くところに置いた方がまだ安心できるだろう?」

 

「奴が作り出した無人機の性能は驚異的です。

 もしかしたら本当にプランを成功させてしまうかもしれませんよ」

 

「だからトゥルーザフト全軍を集結させるんだ。

 統合軍も分散させていた戦力を集中させることができるようになる」

 

 状況を的確に判断できるならリベリオンもライトマンのプラン阻止に動くだろう。

 

「これでも奴を阻止できなければ、それが運命だったと思うしかないな」

 

 偽アスランの言葉にニコルの顔が曇る。

 

 組織の最終目標を考えればライトマンのプランが成功しても構わないと判断するかもしれない。

 プラン成功後に少し修正を加えればいいだけなのだから。

 組織が積極的にライトマンの支援に動かないことを祈るしかない。

 

 

 こうしてライトマンの無人機部隊を加えたトゥルーザフト全軍が統合軍本部に向けて動き出した。

 様々な思惑が交差し、複雑さを増す情勢。

 望む未来を手にするのは誰なのか?

 世界は新たなステージへと進んでいく。

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