歌姫カガリのマクロス風SEED世界 作:ソロモンは燃えている
カナード・パルスを筆頭としたユーラシア連邦軍がトゥルーザフトの左翼と戦闘を開始した頃、時を同じくして右翼にも突入してくる部隊があった。
ユーラシア軍が督戦隊をしていた元ザフトの懲罰部隊である。
督戦隊と言っても戦わなければ後ろから撃つなどといった行為はしていない。
する必要がないほど彼らの戦意は高かった。
地の底まで落ちたプラントのコーディネーターの評価をさらに決定的なものにしようとするトゥルーザフトの行動に対する怒りと憎しみがあった。
それ以上にプラントに残してきた家族の未来を守るために戦いへと身を投じていた。
宇宙各地に散っていた彼らは後方で集結し、ユーラシアの部隊と元ザフトの部隊へと再編成を終え、戦場に突入していったのだ。
その中にはファントムペインの姿もあった。
ここが正念場だな。
懲罰部隊の指揮を取るのはアンドリュー・バルトフェルド。
戦争犯罪に問われることのなかった彼だが、少しでもマシな未来を目指すために軍に残り、元地上軍のまとめ役のようなものをしている。
バルトフェルドの目には、トゥルーザフトがプラントの未来を握り潰そうとする化け物に見えていた。
コーディネーターこそが世界の覇権を握るべき存在だと声高に叫ぶ者達。
前大戦でも滅ぼせなかったコーディネーター至上主義の亡霊共め!
プラントの未来、お前達に潰させはしない!
そんな静かな闘志を燃やすバルトフェルドの心には常にアイシャがいた。
戦後、バルトフェルドはアイシャと結婚した。
バルトフェルドが独身だったにも関わらず砂漠の虎の愛人などと呼ばれていたのは魔性の雰囲気からくる色気ゆえか。
妻となっても変わらず戦場で支えようとするアイシャだったが妊娠したことが分かったため、説得してプラントに残してきた。
彼もまた、大切な家族のために戦う男だった。
「バルトフェルド隊長、部隊全体の指揮は任せます。
我々は遊撃にあたる」
そんなバルトフェルドに傭兵として参戦しているファントムペインの隊長から通信が入る。
「・・・君が指揮した方が良いのでは?
元特務隊のラウ・ル・クルーゼ君」
「何のことやら。
私の名は、ネオ・ロアノークですよ」
「ふん、君の部下達はずいぶんと懐かしい顔ぶれだ。
何より、聞き覚えのある声にそんな悪趣味な仮面で顔を隠すような男はそう多くはないよ」
「この部隊を今まで引っ張ってきたのは貴方です。
たとえ、そのクルーゼであったとしても、私の出る幕などないでしょう」
「君ほどの男にそう言ってもらえるのは光栄だ。
正直、クルーゼと言う男は何を考えているのか分からない不気味なところが嫌いだった。
でも、君のことは好きになれそうだ」
「私こそ、過分な評価をしていただけて光栄ですよ。
平和のために命を賭けた英雄殿」
「歯を食いしばって進もうとしていた若者達に背中を押されただけさ。
イザークが生きていて良かった。
彼らの事を頼む」
「出来る限りの事はしますが戦場に絶対はない。
ですが、彼らなら生き抜いてくれると信じています」
「そうだな。
僕も信じるとしよう」
元地上軍を中核としたザフト部隊がトゥルーザフトの右翼とぶつかる。
行動を共にしていたファントムペインは、そこで因縁のある偽アスラン達と戦うことになる。
望む未来を手にするために引くことの出来ない戦いが始まった。
ユーラシア連邦軍とザフト部隊が参戦したことで数の上では優位に立ったが無人機の存在は大きく、戦線は膠着状態に陥っていた。
それは、統合軍にとって先行きの明るい状態ではない。
いち早く状況を理解し、指摘したのはアークエンジェルの副長ナタル・バジルールであった。
「何とか膠着状態にまで持ち直しましたがそう長くは持ちませんよ。
最も脅威となっている無人機には疲労や集中力の低下などはありませんが、こちらはいつまでも戦い続けることは出来ません!」
弾薬や推進剤などの補給に戻る僅かな時間では疲労の回復など望めない。
一方で無人機には時間経過によるパフォーマンスの低下は存在しない。
今は戦線を維持できているが、いずれ再び押し込まれるだろう。
「理事、ローレライ・システムでトゥルーザフトの戦意を低下させられませんか?」
また子供達に頼らなければいけないのか。
そんな不甲斐なさを感じながらもマリューが打開策を模索する。
「無理ですよ。
カガリさん達の歌が闇ラクスと同じ効果を持つかは未知数。
何よりデータの蓄積が無いので味方に影響が出ないようにするような細かい調整は不可能です」
トゥルーザフトの有人機を無力化できても味方まで無力化してしまっては意味がない。
無人機の脅威はそのままだからだ。
現状、統合軍のローレライ・システムは闇ラクスのサウンド・ウェーブを逆位相でぶつけて相殺することしか出来ないものだった。
「くっ、戦況を変えるための後一手が足りない」
その一手がなければ、いずれ戦場の天秤が傾き負けることになる。
そうなれば守りたいものが蹂躙され、未来への希望が消えてしまう。
それでも、この場で出来ることはその時を少しでも遅らせるために抵抗する事だけだった。
前線で戦うパイロット達も、迫り来る敗北の気配を切実に感じていた。
今は対処できる。
だが、疲労による反応速度、集中力が低下していく事は避けられない。
勝利へのか細い道、それはトゥルーザフトの有人部隊を可能な限り速やかに殲滅して押し切れるだけの戦力差をつけること。
頭では分かっていても容易なことではない。
トゥルーザフトのパイロット達はコーディネーター至上主義に酔いしれる愚か者だが、自らを優秀だと思える程度には高い能力を有している。
その上、信頼関係が必要な人間同士での連携は稚拙だが無人機を利用するのは上手く、仲間との連携で対処しようともなかなか決定打を与えられない。
中央ではアークエンジェルのモビルスーツ部隊が獅子奮迅の活躍をして戦線を支えている。
その働きに応えるためにも、今のうちに優位を確立しようと両翼で中核となっているエース機を落とすために自軍のエースをぶつけようとしていた。
敵陣を切り裂いて進むアレックスの前に偽アスランのREイージスが立ちはだかる。
隣にはブラックライダーがいる。
アレックスには、その機体のパイロットがニコル・レプリカだと言う確信があった。
ニコル・レプリカは、オリジナルとは違うと言っていたが偽アスランを見る目は大切な仲間に向けるそれだった。
俺の隣にいてくれたニコルと重なる。
いや、迷うな!
俺はアイツの死を無駄にしないためにネームレスを壊滅させるまで死ねないんだ!
「うおおおおおおーーーー!」
アレックスが偽アスランへと切り掛かっていく。
トゥルーザフトの代表である偽アスランを討てば士気を下げることが出来るはず。
将棋やチェスのように相手の王を取れば勝ちが決まるわけではないがその影響は小さくはない。
「アスラン・ザラか!?」
偽アスランも自分を殺すと言う意志を感じ、迎え撃つ。
すぐに激しい戦闘が開始される。
それは、スーパーエース同士の別次元の戦いだった。
並の兵士では手を出せない次元の戦いに介入しようとする機体が一つ。
ニコルのブラックライダーだ。
彼もまた、この戦いに着いていけるスーパーエースの一人だった。
このままでは2対1の不利な戦いを強いられる。
だが、その介入は更なる介入によって防がれた。
ニコルは、自身に向けて放たれたビームを回避し、攻撃してきた敵を確認する。
その正体は、イザークのブルーライダーだった。
「アレックス、背中は任せろ」
「イザーク、すまない。
任せた!」
アレックスは、ニコルの相手をイザークに任せて偽アスランとの戦いに集中する。
偽アスラン、何か一つボタンのかけ違いがあれば自分がそうなっていたかもしれない存在。
だからこそ、コイツは俺が撃たなければいけない!
トゥルーザフトが目指すのは俺が否定した未来。
コイツを撃って、俺の望む未来へと進むんだ!
一方、ニコルとイザークも対峙していた。
「お前がニコル・レプリカか。
アレックスの邪魔はさせん。
俺が相手だ!」
イザークもニコルの存在をアレックスから聞いていた。
だが、ニコルのコピーのような存在でも別人だ。
敵対するなら容赦はしない。
傭兵として培われたドライな現実主義でニコルに切りかかる。
「えっ、これはライダー系の機体?
なんでこんなものがファントムペインに流れているんですか!」
偽アスランのお目付け役として長く活動していたため、地上の動向に疎く、自陣営の機体がファントムペインに使われている事実に動揺してしまう。
それでも偽アスランを支えてきたエースだ。
一瞬で動揺を鎮め、戦闘に意識を切り替える。
「理由なんてどうでもいい。
敵ならば撃つ。
それだけです!」
ペイルライダー計画で作られたバリエーション機同士の戦いが始まった。
「ひゅ〜、アスランもイザークもやるなぁ」
イザークとの再会を機にファントムペインに加入したディアッカがザクに乗って、彼らの戦闘を見ていた。
さすがに量産機であの戦いに入っていくのは難しい。
だからこそ、
「おっと、アイツらの邪魔はさせないぜ!」
彼らの戦いに介入しようと接近する無人機達を牽制する。
当然、攻撃を受けた無人機達はディアッカに標的を変更してきた。
「あ、まずっ!」
なんとか近づけまいと弾幕を張るがその脅威的な動きで回避されてしまう。
無人機の攻撃がディアッカを捉えようとした時、虚空から突然ビームが疾り、無人機を捉える。
突然の攻撃に損傷を受けた無人機達は散会し、距離を取る。
「ディアッカ、単独で無茶をするな」
「ありがとうございます。
助かりました、隊長」
ネオのドラグーンによる攻撃だった。
「敵エースは、アレックス達に任せる。
我々は、群がる無人機達に対処するぞ」
「了解です!」
アスラン、イザーク、頼んだぞ。
ディアッカは、ネオと共に無人機を近づけないように立ち回る。
因縁のある相手との戦いに横槍を入れさせないために。