長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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幾つもの顔を持つ大盗賊

 

 

 「───アハハハッ! そりゃ災難やったなぁ! アステル!」

 

 その日の夜。宿屋の食堂で葡萄酒(ワイン)片手にシェリルが高らかに笑う。

 

 「笑い事じゃないわよ。シェリル」

 

 膨れて地鶏のテリーヌを口に放りこむアステル。しかし昼間より顔色が良くなり、食欲もあるシェリルに内心ほっとした。

 

 「しっかし。噂はほんまやったんやな。〈誰でも一日王様体験〉。アステルの女王様姿、ウチも見たかったわぁ」

 「あたしもぅ~~!」

 「俺も」

 

 タイガとマァムはロマリア名物料理、地鶏ももの炭火焼きを食べながらアステルを見た。

 

 「なかなか似合ってたぞ」

 「スレイは黙ってて」

 

 しれっと言うスレイ。それに噛みつくアステル。

 

 「……その話は取り合えず置いといて。戻ってきた王様から私たちに依頼があるの」

 「またこのパターンかい。んで、今回は?」

 「シャンパーニの搭を根城にしている大盗賊カンダタが盗み出した国宝〈金の冠〉を取り戻してきてくれって。もし取り返してくれたら、ロマリアも私を勇者と認め、ポルトガへの関所の通行を許可する……って」

 

 アステルの言葉にスレイは琥珀の目を細めた。

 

 「無理してポルトガに行かんでもいいんちゃう?」

 

 ブスくれた顔でシェリルは葡萄酒を飲み干した。それにアステルは困ったように笑う。

 

 「シェリルたらっ。家に帰りたくないだけでしょ。もう」

 「う~~~っ……」

 「これから先、自分達の船が必要になるんだから。ポルトガ行きは避けられないよ」

 

 「船が手に入る宛はあるのか?」と、タイガ。

 

 「うん。前もって王様がポルトガの王様と連絡を取り合って、造船依頼を出してくれてたみたいなの。ここに紹介状も、ほら」

 

 アステルは〈うさぎのしっぽ〉が付いた腰ベルトのポーチから書簡を取り出して見せた。

 

 「にしても、カンダタ……か。幾つもの顔を持ってるって、有名な奴やで」

 

 シェリルは地鶏をひょいと口に入れる。

 

 「幾つもの顔?」

 「お顔がいっぱぁ~~い?」

 

 アステルとマァムが首を傾げる。ちゃうちゃうと、シェリルは笑いながら手元のグラスに酒を注ぐ。

 

 「大まかには三つ。

 ある時は悪徳業者や、あくどい事して稼いどる富豪からしか金盗まんと、盗んだ金は貧しい人にばら蒔く、人は決して傷付けない義賊の顔。

 また、ある時は盗みに入ったうちのもん全員殺ってもうて、盗みを働く凶悪な顔。

 また、ある時は人を騙したり、人をおかしくする薬や誘拐した人を奴隷として売り捌く卑劣な顔。

 ……けど、どれも同一人物がやったと思えへんくらい、やり方がばらばらやねん」

 

 酒をぐいっと飲み干し、ぷはぁっと息を吐く。

 

 「……そこらへんの事情は、ウチより盗賊ギルドに入ってるスレイの方が詳しいんちゃう?」

 

 一同、スレイに注目する。

 

 「……まあ、ほぼシェリルの言う通りだ。そして実際に、カンダタ本人が起こしたわけじゃない盗みや騒動も幾つかある。奴は有名だからな。自分の犯罪に箔を付けようとカンダタの名を騙る下っぱな奴もいるし、計画的にカンダタに大罪を被せようとする輩もいる」

 

 「カンダタは自分の名前騙られて、平気なの?」

 「基本は放置だな。……ただし。目に余る行為をやり過ぎたら、カンダタ本人がそいつを潰しにかかる。カンダタの仲間の盗賊も一緒になって……徹底的にな」

 

 その時のスレイの目つきは今まで見た中でも、一番冷たく鋭かった。

 

 (……もしかして、スレイは)

 

 アステルは気付いた事は口に出さず、かわりの質問をスレイにぶつけた。

 

 「スレイは今回の盗みはカンダタ本人の仕業だと思う?」

 

 アステルの問いに、スレイの表情が少し和らいだ。

 

 「ここまで豊かで、国民の税金を賭け事に使う王の所に盗みに入るのなんて、奴はなんとも思わないだろうが……ただ」

 「ただ?」

 「盗んだ物に違和感がある。黄金で出来た冠とはいえ、足のつきやすい国宝なんかを盗んだのが腑に落ちない」

 「黄金は溶かして形変えられるやん?」

 「そんな手間選ぶくらいならただの金貨か、宝飾品を狙う奴だ」

 「じゃあ、本人じゃない可能性も拭えないわけだ」

 

 タイガがパンを頬張る。

 

 「ああ……だが、もし、カンダタ本人ならオレが説得してみる」

 「大丈夫?」

 

 心配げに伺うアステルにスレイは笑う。

 

 「オレは裏切ったりしないぞ?いや、こんな事言う方が怪しいか?」

 「せやで~~」

 「あ~や~し~ぃ」

 

シェリルとマァムが茶化す様にジト目でスレイを見る。

 

 「まあ、なるようになるさ」

 

 タイガがまだ不安げな顔をしているアステルの背中を叩いた。

 

 「それに……あいつがわざわざ居場所を教えてるのも……まるで……」

 

 スレイはそっと呟いた。

 

 

* * * * * *

 

 

 明朝、アステル達はロマリアを発つ。目指すのはまず、山を越えた先にある村カザーブ。

 カンダタが根城にしているシャンパーニの搭はそのカザーブから更に西に旅をした先にあるという。

 山道の険しさにアステルとマァム、シェリルは音を上げそうになる。加えて襲ってくるロマリア地方の魔物達はアリアハン大陸とは比較にならない程の強さ、厄介さだった。

 大蛙の見た目に強い毒性を持つ進化系〈ポイズントード〉は、隙あらば毒の泡を吹きかけて来る。

 蠍蜂(さそりばち)を真っ青にした〈キラービー〉は、集団行動の習性はそのままに、こちらも人を痺れて動けなくさせる毒をその尾の針に宿していた。

 死んだ野生動物の生への執念がバラモスの魔力に反応し蘇った〈アニマルゾンビ〉は、腐った体で人の動きを鈍らせる遅緩呪文ボミオスを唱え隙が出来た所をおそいかかる。

 大の大人を真っ二つに出来る程の大きなハサミを持ち、仲間を引き連れて現れる〈軍隊蟹(ぐんたいがに)〉はとにかく甲羅が固く、攻撃がなかなか通じない。しかも蟹の癖に横歩きではなく前歩きをして来る。蟹の癖に。

 極めつけが決まって野営中を狙って奇襲をかけてくる、人の血を……特に若い娘の血を狙う〈蝙蝠男(こうもりおとこ)〉。只でさえ少ない睡眠時間を削られて相当参った。しかもこいつは、呪術封印呪文マホトーンを唱え、アステルの攻撃呪文、マァムの治癒呪文の封印をしにかかる。戦闘を終えても暫く呪文が使えず、戦闘後皆の傷を癒せないマァムはいじけてしまう。

 

 幾日もの夜を山で過ごし、一行はやっとの思いでカザーブの村についた。山間の小村カザーブは取り立ててなにかあるわけでもない、長閑(のどか)な村だった。

 昼頃に到着した一行は、脇目も振らず宿屋に向かい、昼食も取らずにベッドで一眠りにつく。次に目を覚ました時には、部屋の窓の外は夜の帳が下りていた。

 

 宿の浴場で汗と汚れを落とし、さっぱりとなると、アステル達は情報収集がてら酒場で少し遅めの晩御飯を取りに出掛けた。

 酒場はカザーブではここだけのようで、店主の男とその妻の二人で切り盛りしているようだ。客が込み合う時間帯は過ぎたのか、それとも普段からこんなものなのか。客は(まば)らだった。

 

 「あ~……まだ眠い」

 シェリルは目をしばたたかせて、出されたおしぼりで顔を拭く。

 「シェリルぅ~オヤジくさぁ~」

 「ほっといてんか~」

 

 キャハハと笑うマァム。アステルは出された水を一口……のつもりが美味しくて全部飲み干してしまう。自覚してた以上に喉が乾いていたようだ。

 

 「お代わりいるかい?」

 

 女将が水差しを片手にアステルに尋ねた。

 

 「いただきます」

 「しっかし、ロマリアからなにしにここへ?」

 「と「特にあてはないさ。修行の旅の途中なんだ。バラモス退治の為のね」

 

 「盗賊カンダタに会いに」というアステルの言葉を被せるように、タイガは笑顔でそう言う。

 

 「え……?」

 「タイガに合わせろ」

 

 狼狽(うろた)えるアステルに、隣に腰掛けるスレイが言葉短に囁く。

 

 「バラモス……? なんだい? そいつは。魔物か何かかい?」

 

 魔王の名前は一般的には広まってはいない。眉を顰め、首を傾げる女将。

 

 「そっ……そうなんです。でも、そいつはとんでもなく強くて。だからもっと腕を磨きたくて」

 

 引き攣った笑みを浮かべて、アステルはおかわりの水を受け取った。

 

 「へぇ。あんたらみたいな可愛い綺麗な女の子達が魔物退治を生業としてるのかい? 凄いねぇ!」

 

 アステルは肩を縮こまらせて自重し、シェリルは苦笑し、マァムはへへ~っと笑う。

 

 「しっかし。ここらの魔物は本当に強いなぁ。あんたらは大丈夫なのか?アリアハンのように王国兵が駐在して村を守ってるのか?」

 

 そんなものいないのは、村についた時から気づいてたが、敢えてタイガは訪ねる。タイガの言葉に女将は露骨に顔をしかめた。

 

 「あのろくでなしの王さまはこんな田舎の事なんか気にも留めていないよ。その、アリアハンって国の王さまの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいさ」

 「……だろうな。なんてったって国民の税金で豪遊するような王だからな」

 

 スレイが(本当の事だが)、王を貶めるような事を言う。アステルはロマリアの民にロマリア王の悪口を言っても大丈夫なのかとヒヤヒヤするが、女将は気にするどころか、頭を振って溜め息を吐く。

 

 「他の国の人にまでそれがバレるなんて……嘆かわしいったらないよ」

 「だったら、村の人たちだけで魔物から村を守ってるんですか? それに盗みを働く盗賊団もここら辺で出るって聞きました」

 

 アステルの言葉に女将はにかっと笑う。

 

 「ああ、カンダタの一味かい? 奴らはここら辺では悪さはしないさ。買い物はちゃんと金払うし、時々この村の自警団に魔物との戦いの稽古なんかつけてくれたりするしね」

 「おい。料理出来てんぞ」

 

 今まで黙っていた旦那が口を開いた。

 

 「あいよ」

 

 女将が香ばしい湯気の立ち昇る料理を次々テーブルに運んでくる。久々のまともな料理に皆目を輝かせる。

 

 「きゃあんっ!」

 

 マァムは大きく口を開き、一口でハーブ入りソーセージを食べた。

 

 「んぅおいしぃ~~!」

 

 リスのように口に入るだけ詰め込む。

 

 「本当! それにいい香り」

 「このトマトリゾットもいけんで! ゆっくり食べれるまともなご飯~~!」

 

 おいしい、おいしいと若い娘に褒められ旦那も満更ではなかったらしい。素っ気ない態度が若干薄れた。

 

 「……娘さんよ。修行か腕試しかなんか知らんが、ここから西の搭には近づくなよ。いくら大人しいからって、奴らの縄張りに入っては無傷ではすまんだろうからな」

 「そうだね。どうせ修行で行く先決まってないなら、そっちよりこの村から更に北に行った所にあるノアニールって村に行ってくれよ」

 

 「ノアニール?」と、シェリル。

 

 「妹夫婦が暮らしてんだけどね、ここ十年近く音信が途切れてんだよ。魔物もここら辺の奴より強いから、気軽に立ち寄れなくてね」

 

 女将の頬に悩ましい影が差す。

 

 「今は予定にないが、ノアニールに行く事があれば女将さんらの事、伝えておこうか?」

 

 タイガの言葉にぱっと女将の顔が明るくなった。

 

 「そうしてくれると助かるよ。こっちは元気にやってるからって伝えておくれよ」

 

 女将が頼んでいない麦酒(ビール)をタイガの前に差し出した。

 

 「ああ。(うけたまわ)った」

 「あっ! ずるい! ウチも!!」

 「はいはい!」

 

 ごねるシェリルに女将は苦笑して、彼女の前にも麦酒(ビール)ジョッキを差し出した。

 

 

* * * * * *

 

 

 「カンダタはここら辺の地域では、軽く英雄扱いだな」

 

 宿に戻る道すがら、タイガが口を開いた。スレイも考え込んでいる。

 

 「話を聞いてスレイはどう思った?」

 「……正直、本人の可能性が濃くなった。だが、よけいにカンダタが〈金の冠〉を盗んだ理由もわからなくなった」

 「どういう事?」

 

 アステルがスレイに尋ねる。

 

 「お節介なあいつが村の自警団に戦いを指導するのはわかる。そして、今やこの村は自力で魔物に対抗出来るようになっている。ならもう、ここの地方には特に留まる理由がないはずだ」

 「ん~確かに。普通やったらお宝持って、さっさと国外逃亡するとこやな」

 

 酒で頬が少し赤く染まっているシェリルが腕を組んで唸る。

 

 「……まるで誰かが捕まえにやってくるのを待ってるみたい……」

 

 アステルの言葉に皆が一斉に彼女を見た。アステルはわたわたと慌てる。

 

 「ごめん。変な事言ってるよね」

 「いや、オレもそう思った」

 

 スレイは顎に手を当てる。

 

 「その方がしっくりくる。〈金の冠〉はただの誘き寄せる為の餌だ」

 「誘き寄せるって、ロマリア王国をか? 何の為に?」

 

 シェリルの問いにスレイは頭を振った。

 

 「それはわからない」

 「まあ、結局は会わないとなにもわからないって事だな」

 

 タイガは片手に作った拳を、もう片手の平に打ち込むように合わせる。

 

 「────明日、準備出来たらすぐ出発。シャンパーニの搭に向かおう」

 

 

 アステルの言葉に皆頷いた。

 

 

 

 







本作のカンダタはゲームのカンダタとは全くの別人です。この辺りからゲームシナリオに準ずるオリジナル展開が始まりますのでご了承ください。
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