長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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新たな指針

 

 

 アステル達はエルフの女王から貰った〈目覚めの粉〉の袋を、村長と商人が見守る中、ノアニールの村の中心部で開いた。

 すると、金色に輝く粉は袋から飛び出すように空高く舞い上がり、村中に降り注いだ。やがて金色の粉は消え、暫くすると人々の(まなこ)がぱちりと開いた。

 

 「ん?」

 「あら?」

 「なんで?」

 「今、夕方じゃなかったか?」

 「太陽が昇ってる?」

 「うわあっ! 家がボロボロ!?」

 「屋根に穴がっ!?」

 「二階の床が腐って抜け落ちてお客様が落ちてきたあ!!」

 「きゃーっ! 買い物籠の食材が! 石みたいに腐ってるぅ!?」

 「なんじゃこりゃ! せっかく刈り終えた雑草が延び放題じゃーっ!!」

 「池が腐って毒沼にーーっ!!?」

 「店の品物がーーーっ!!!」

  

 

 「ほあ~。ぱにぃーくっ……」

 

 マァムの言葉にアステル達、村長、商人は苦笑うしかない。

 

 「まあ。修繕に必要な物資や食糧はカンダタが十二分に用意してくれたでな。なんとかなるじゃろう」

 

 村長が溜め息交りに言う。

 

 「カンダタさん凄いねぇ」

 

 両手を組み感動するアステル。

 

 「多分、ロマリア城で盗んだ金品で用意したんだろうな」

 

 スレイがぼそりと漏らす。

 

 「え、」

 「まあ、自国民の為に使われたんやから問題ないやろ」

 

  頭の後ろで手を組んでシェリルは言う。

 

 「……いいのかな?」

 「問題ないなぁ~~~い!!」

 「案外〈金の冠〉に気を取られて、他に盗まれた物には気づいてないかもしれんぞ?」

 

 マァムはもちろん、タイガも特に気にしない。

 

 「皆さん」

 「あ、はい?」

 

 アステル達は商人とその隣りに立つ村長を見た。

 

 「皆さんが戻られる前に村長と話し合ったのですが、今回の事は今暫く伏せておこうと思うのです。……ですから、皆さん。どうかこの件は黙ってて頂けないでしょうか」

 「え?」

 「十年はやはり重すぎます。村の外に出れば気づくでしょうが、それまでは……。それと、今頃うちの家内も目覚めているでしょうが……息子の件を告げるのは……。今はまだ、駆け落ちしたままにしておきたいのです」

 「本来なら村を挙げてお礼させて頂きたい所なんじゃが、不義理な真似になるが……本当に申し訳ない」

 

 頭を下げる二人にアステルは首を振った。

 

 「そんなの気にしないでください」

 「むしろ今からが大変やろ? 村を立て直さなあかん」

 「俺達はカザーブの酒場の女将の伝言を、その妹さんに伝えられたらそれで充分だ」

 「……しかし、誤魔化せるのか?」

 

 村を眺めながらスレイは言う。

 

 「村が荒れとるのは魔物の奇妙な術のせいって事にして、あとは適当に惚けとくわい」

 「わたしも歳を取っとりませんので、村長の話にうまく合わせます」

 

 村長と商人は苦笑いを浮かべて答えた。

 

 「それと、お礼のかわりと言っちゃなんですが。シェリルさん、良かったらこいつを貰ってくれませんか?」

 

 そう言って商人はシェリルに先端部にそろばんがついた杖のような物を差し出した。薄紫の光沢がある杖を見てシェリルの目が輝く。

 

 「これって! 〈魔法のそろばん〉やん! ええんか!?」 

 「ええ。わたしは接近戦はどうも苦手で、魔道士の杖ばかり使ってますから。御守として持っていたのですが、シェリルさんなら使いこなせるはず」 

 「そんなので戦えるのか?」

 

 スレイの言葉に、シェリルはにぃんまりと笑い振り返る。

 

 「こいつは鉄の槍よりも高い威力をもつ商人専用の武器なんや! けど、作り手が少ないからあんま流通しとらんねん! 丁度鉄の槍無くしたとこやったから助かるわぁ!」

 

 魔法のそろばんに頬ずりするシェリル。

 

 「……そうか」

 「う……っ。ごめんね、シェリル」

 

 興奮するシェリルにたじろぐスレイに、謝るアステル。

 地底湖での戦いで、アステルの中等閃光呪文(ベギラマ)は妖しい影と共にスレイのアサシンダガーとシェリルの鉄の槍を燃やした。素材が特殊なアサシンダガーの方は無事だったが、鉄の槍は溶けて使い物にならなくなってしまったのだ。

 

 「おおきに~っ! 大事に使わせてもらいます~~っ!!」

 

 ぺこぺこお辞儀するシェリルに、商人は嬉しそうに頷いた。

 

 「それから、そのカザーブの酒場の女将さんの妹ってのは、多分宿屋んとこの若夫婦だと思います」

 「若、夫婦……?」

 

 アステル達は首を捻る。

 ……カザーブの酒場の女将はそれなりに歳を取っていたような。

 アステル達の様子に村長はふふっと笑い、

 

 「皆さん、村の者は十年時間が止まっておるぞい」

 「おお、そうか!」

 

 タイガがぽんっと手を打ち合わせた。

 

 

 アステル達は商人に宿屋の若夫婦を紹介してもらい、酒場の女将の伝言を伝える。そして今度は妹から姉へ手紙を渡して欲しいと頼まれてしまった。

 村中が修繕や後片付けでてんやわんやしているので、邪魔にならぬようアステル達は早々に出発する事に決めた。

 村の入り口で村長と商人はアステル達に深々と頭を下げる。

 

 「本当にありがとうございました」

 「このご恩は決して忘れませぬ。皆さんの旅のご無事を祈っとりますじゃ」 

 「それじゃ、お二人ともお元気で 」

 「さいなら~~」

 「ばぁいばぁ~~~い!!」

 

 村長と商人はアステル達の姿が見えなくなるまで見送り続けた。

 

 

* * * * * * *

 

 

 「わざわざ手紙までありがとうね」

 

 カザーブに到着したアステル達は、早速酒場の女将に妹の手紙を届けた。

 

 「いえ、妹さんもその旦那さんも元気でしたよ」

 「ぴっちぴちの二十代~~もごっ」

 

 マァムの口をシェリルの手が塞ぐ。

 

 「二十代……? 妹はアタシと二つしか違わないよ?」

 「きっ……気にしないで下さい!」

 

 アステルは口元を引き釣らせながら、両手を左右にパタパタ振る。女将は手紙の封を開け、目を通す。そして首を傾げた。

 

 「どうかしたんですか?」

 

 女将の様子にアステルが問いかける。

 

 「いや、ね? 十年近くご無沙汰だったってのに、この子ったら連絡をとるのは一ヶ月ぶりですねって、書いてんのよ?」

 「書き間違えたんじゃないのか?」

 

 あわあわしているアステルの頭に手を置き、スレイがしれっと言った。

 

 

 

 これで残るは〈金の冠〉をロマリア王に届けるのみだ。

 カザーブの村の入り口でアステルは、緊張した面持ちで仲間に振り返る。

 

 「みんな。私そろそろルーラを試してみたいんだけど……協力してもらっていい?」

 

 たちどころに目的地に移動する瞬間移動呪文ルーラ。

 

 「おっ! ついにやな?」

 

 シェリルにアステルは頷く。

 

 「うん。海を越えた移動はまだ無理でも、同じ大陸の移動ぐらいは出来ると思うの」

 

 「やってみるといい。成功すれば今後の移動に役に立つ事間違いないからな」と、スレイ。

 

 「俺、実はルーラって呪文は初めてなんだ」

 「バシルーラと大して変わらないぞ? 地面に叩きつけられないだけで」

 「あ~っ……あれ、地味に痛かったなぁ」

 

 スレイの言葉にタイガはその時の事を思い出し顔を顰めた。 

 

 「じゃ、皆手を繋いでね?」

 

 アステルはすぐそばのスレイの手を掴み、もう片方の手は駆け寄ったマァムが掴む。そしてそのマァムの手をタイガが掴んだ。

 

 「………」

 「スレイ? どうかした? 」

 

 繋ぐ手をスレイが無言で見下ろす。アステルは首を傾げた。

 

 「……いや、別に」

 「素直に喜んだらえ~~んちゃうのぉ? これが本当の両手に花や」

 

 シェリルはスレイの手を掴み、くぷぷぷと笑った。

 

 「……自分で言うな」

 「? じゃあ、いくよ! ───ルーラ!」

 

 アステルは脳裏にロマリア王都を思い浮かべ、〈力ある言葉〉を言い放つ。アステル達の足元に風が巻き起こり、一行は空高く舞い上がった。

 もの凄い速さで空を駆ける。アステルを中心に発している光の膜のお陰か空気抵抗もなにも感じない。苦労して越えた山々もひとっ飛び。ロマリア王都を見下ろしながらゆっくりと下降し、着地した。

 

 「せっ……成功!」

 

 アステルは、はあ~~っと長く息を吐く。シェリルが「お疲れさん!」と彼女の肩を叩いて(ねぎら)った。

 

 「はあ~~……凄いもんだな。何日もかかった道程があっという間だ」

 

 タイガはロマリア王都の街門を見上げた。

 

 

* * * * * * 

 

 

 「───よくぞ〈金の冠〉を取り戻してくれた! 余はそちを誠の勇者と認めようぞ!! アステルよ!!!」

 

 ロマリア王城、玉座の間にて〈金の冠〉を手にほくほくとするロマリア王。

 

 「ありがとうございます」

 

 アステル達は御前に膝まずき、頭を垂れている。

 

 「しかし、そなたには勇者だけでなく王としても素質もあるようじゃな。余は見ておらなんだが、アステルの女王としての働き見事だったらしいのぅ。皆褒めておったぞ。どうじゃ? もう一度王になって……「その御言葉だけで充分でございます」

 

 アステルはにっこりと王に最後まで言わせなかった。

 

 「ふむ……では勇者の仲間達よ。そちらの中で王には「「「我らはその様な器ではございません」」」

 

 打ち合わせしたかのようにスレイ、シェリル、タイガの声が綺麗に重なった。

 

 「だったらあたしがなモゴっ」

 

 シェリルの手がぱんっとマァムの口を塞ぐ。

 

 「ふむ。欲のない者達よのう。……つまらん」

 

 王は玉座から乗り出した体を戻し、臣下に〈金の冠〉を預けた。

 

 「王様。それでは我々にポルトガへの関所の通行を許して下さいますか?」

 「うむ。良いぞ。……通れるようにしてくれればな」

 

 「「「「は?」」」」

 

 王の言った言葉が理解出来ず、アステル達は揃えて間の抜けた声をあげてしまう。しかし王はそれを特に気にせず、話を続ける。

 

 「関所といえど、それは太古の昔の事じゃ。アリアハンの〈旅の扉〉と同様、無用な争いを防ぐ為に特殊な魔法がかかった扉で閉鎖されておる。その扉を開ける唯一の鍵はイシス王家が保管しとるのじゃが……。船があるからポルトガに行くのに困りはしとらんが、出来たら陸路も解放したい所なんじゃが……のう?」

 

 含みのある言葉と視線に、アステルは睨み付けたい気持ちと文句を言いたい気持ちをぐっと堪える。

 

 「……わかりました。それでは私達がイシスに赴き、鍵を受け取って参ります」

 「おお! 行ってくれるか! さすがは勇者アステル。頼もしいのう!! ……ところで本当に王になるつもりは「それでは早速イシスへと向かいます」

 「だからぁ、あたしがなるモガっ」

 

 シェリルが再びマァムの口を手でぱんっと塞いだ。

 

 「───ああ。そう言えば」

 

 王が思い出したように言う。

 

 「イシスにはあの勇者オルテガが魔王の元へ辿り着く手懸りを求めに行ったと聞いておるぞ?」

 

 アステルは目を見開いた。

 

 「父さっ! ……失礼しました。父がですか?」

 

 ロマリア王は首肯く。

 

 「余が王位に就く前の話じゃが、先代イシス王に助言を賜ったそうじゃ。あそこはアリアハンに次ぐ歴史ある国じゃからのう。……どうじゃ? 少しはやる気が出たじゃろう?」

 

 ロマリア王はにやりと笑った。

 

 「……なるほど。カンダタが言ってた悪知恵が働くってのはこういう事か」

 

 顔を付したまま、ぼそりと呟くタイガ。

 

 「……遊び人だが、馬鹿ではない、と」

 同じく、スレイ。

 「なんでこの王様で国が傾かんのか、少しだけわかった気ぃするわ」

 

 じたばたするマァムの口を押さえながら、シェリルは呟いた。

 

 

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