長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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一章 旅立ち
謁見


 

 

 「よくぞ参った! 勇者オルテガの息子よ!」

 「怒りますよ。王さま」

 

 玉座の間に響き渡るアリアハン国王ステファンの朗々とした声に、その御前に跪き、顔を伏せた旅装束姿の少女は可愛らしくも凛とした声で突っ込んだ。

 

 「冗談じゃ。……しかしのぅ、アステルよ。いくら勇者オルテガの子だからとはいえ、そなたは娘。魔王討伐の旅になど……」

 「女扱いは無用です」

 「矛盾しとるぞ。アステル」

 

 これまた即座に突っ込むアステルに、壮年の王は立派な顎髭を撫でながらこれ見よがしに溜め息を吐いた。

 少女の父を親友だと言うこの王は、父亡き後、彼女を実の娘と等しく想い今日まで見守ってきた。おちゃらけたその態度も、どこか不貞腐れて寂しげに感じて、顔を伏せたアステルは眉を下げて困ったように頬笑むも平坦な口調で言った。

 

 「真面目にしてください」

 「うむ。では真面目にしようかのう。

 ……よくぞ参った! 勇者オルテガの娘アステルよ!!」

 

 そこからですかと、アステルは脳内で突っ込む。

 本当に困った王様だ。

 

 「(おもて)を上げよ」

 

 その言葉にアステルは顔を上げる。

 少女はその声と同じく、可愛らしくまだ幼さが残る顔立ちだった。

 特に印象的なのは大きな瞳。

 瑠璃色のそれは、角度や光り加減によっては晴れた日の海、夏の空、花のと多彩な青を秘めている。

 魔族との戦の末、ギアガ火山にて志半ばに散った勇者オルテガも、これと同じ目をしていた。

 少女を見下ろす王の眼差しに憂愁の色が帯びる。

 

 「……父の後を継ぎ、旅に出たいというその決意に変わりはないか?」

 「はい。王さま。どうか旅立ちの許可をお与えください」

 

 長い年月を越え、同じ場所、同じ出立ち、同じ姿勢で再び揺るぎなき青を向けられた王は(かぶり)をふり、嘆息する。「蛙の子は蛙か」ぽつりとそう漏らしながら。

 

 「……アステルも十六歳の成人(おとな)となった今、これ以上は口出しすまい。そなたの願い、しかと聞き届けたぞ」

 「ありがとうございます」

 

 礼を述べるアステルに王は表情を固く引き締めた。

 

 「そなたが倒すべき敵は魔王バラモスじゃ」

 「……バラモス」

 

 その名を低く呟き、アステルは床に着いた拳に力を込める。

 

 「世界のほとんどの人々は今だ魔王の名前すら知らぬ。だが、このままではやがて世界はバラモスの手に……。それだけはなんとしても食い止めねばならぬ。アステルよ、魔王バラモスを倒してまいれ!」

 「はいっ!」

 

 「……〈勇者の証〉をここに」

 

 王の言葉にずっと側に控えていた大臣が、額環(サークレット)の乗ったベルベット張りの台座を恭しく差し出す。王は立ち上り、額環を手にすると壇上を降り、アステルの前に立つ。屈んで彼女にそれを見せた。

 瑠璃の玉を中心に彫り柄装飾が施された銀の環。

 

  ────〈勇者の証〉。

 

 だが、自宅の暖炉の上に飾られている肖像画の父がしているそれとは、違う色をしている。

 

 「オルテガは太陽のような陽気な男じゃったからな。それに見立てて、金環に紅玉(ルビー)をあしらえたのじゃが、そなたには暗黒の世に終わりを告げる暁の明星であって欲しいと願いを込めて銀環に、(ぎょく)はそなたの瞳に近い色を選んだのじゃが……どうかのう?」

 「凄く……綺麗です。私には勿体ないくらいです」

 

 頬を僅かに染め、額環に見蕩れるアステルに王は目を細めた。

 先程の決意と宣言に嘘偽りはないだろう。

 だが、彼女はやはり娘なのだ。

 剣を携え、男のように飾り気のない装束で身を包もうとも、美しいもの、可愛らしいものに憧れ、反応する年頃の娘なのだ。

 

 (────旅立たせたくない)

 

 揺らぐ己に喝を入れるように王は声に力を込めた。

 

 「世界の平和、亡き父の宿願。魔王討伐を志す勇敢なる娘アステルに〈勇者の証〉を授ける!」

 「慎んでお受けいたします」

 

 王の手により、アステルの額に〈勇者の証〉が乗せられた。

 額環に金属の冷たさは不思議と感じず、すぐに肌になじんだ。

 

 

 「………魔王討伐にあたり、勇者アステルに別命を下す」

 

 王が玉座に腰かけるのを待って、今まで沈黙を守っていた大臣が口を開いた。

 

 「アリアハン大陸、東の果てにある誘いの洞窟の〈旅の扉〉の封印を解放せよ」

 「〈旅の扉〉……? 歴史の授業に出てくる、あの?」

 

 首を捻るアステルに、王が続ける。

 

 「そうじゃ。〈旅の扉〉は今も作動しておる。昨今は船旅も命懸けになってきたからのう。あれは遠く離れた西大陸のロマリア王国近辺と繋がっておる。この国はもう鎖国はしておらんし、陸路からの唯一の移動手段である〈旅の扉〉の封印を解いて欲しいのじゃ」

 「封印を解く手掛かりは……?」

 「うむ。それが城のどこにも記述や文献が残っておらぬのじゃ。恐らくご先祖は封印を解く気はなかったんじゃろうなぁ」

 

 王の言葉にアステルは少し落胆する。

 

 「アリアハンを過去の大戦の戦火から守ったその封印は、とても強固なもの。並みの衝撃ではびくともすまい。封印を解く方法を、なんとか見付け出して欲しい」

 

 大臣の言葉にアステルは頷いた。

 

 「では 行け。勇者アステルよ!」

 「はい!」

 

 王の号令にアステルは立ち上がり紫紺の外套(マント)を翻して、玉座の間を後にした。

 

 

 

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