長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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鍵を求めて《童歌》

 

 

 

 「なんや! イヤミったらしいおっさんやったなぁ!!」

  

 玉座の間を出て開口一番、シェリルは言った。

 

 「シェリルってば……っ」

 

 アステルは慌てて玉座の間の入り口に立つ守衛を見たが、守衛は知らん顔をしてくれていた。どうやら、聞き逃してくれるようだ。

 あの男は女王の血族にあたるらしいが、女王ほど人徳があるわけではないらしい。

 

 「別にだ・れ・がっ! とは、ゆーてへんのやから大丈夫や」

 

 アステルの宣言の後、カリスという貴族は〈魔法の鍵〉を手に入れたら宮殿に戻るようにと更に条件を付けてきた。

 アステルがピラミッドから〈魔法の鍵〉を持ち帰れなければ、彼女を勇者と認めた女王の面目を潰せると踏んだのだろう。

 

 「でも、みんなに相談せずに勝手に決めちゃって、ごめんなさい」

 

 「アステルは後悔しているのか?」と、タイガ。

 

 「してない。だからごめん」

 

 アステルはキッパリと答えた。それを聞いたタイガとシェリルは、にかっと笑う。

 

 「まあ、国の宝とやらを預かるんだ。それ相応の力量を俺達が示して黙らせればいい」

 「そぉや。あんの偉そうなおっちゃんに一泡吹かせたろ! それに心配せんでも、ウチらにはちゃーんと発掘のプロがおるんやしな! ……なあ? スレイ?」

 

 シェリルが隣に立つスレイを見た。

 しかし、返事が返ってこない。

 スレイは固い表情のまま足元をじっと見詰めていた。

 

 「スレイ?」

 

 アステルがスレイの腕に触れ呼び掛けると、はっと顔を上げ、そして仲間達を見た。

 

 「………ああ。すまない。なんだ?」

 

 スレイは心配そうに見上げるアステルの頭をわしわしと掻き撫でる。

 

 「もしかして〈ガイアの剣〉の事考えとったんか?」と、シェリル。

 

 「……ああ。まさかこんな所で情報が入ってくるとは思わなかった……からな」

 

 スレイの言葉にシェリルが腕を組む。

 

 「サマンオサの勇者サイモンか……。オルテガさん一人で旅しとったんやなかったんやな。アステルはこの事知っとったんか?」

 

 アステルは首を横に振った。

 

 「父さん……知り合いは多かったみたいだけど、一緒に旅してた人の話は初めて聞いた……。母さんかお爺ちゃんなら、なにか知ってるかも「いや、すまない。今はそれよりもピラミッドだ」

 

 と、スレイは二人の会話に割って入った。

 

 「えっ? でも、気にしてたんでしょ?」

 「そうや。折角手懸り掴めたんやろ?」

 「それはそうだが……」

 

 二人に詰め寄られて、スレイは言葉を詰まらせた。その時。

 

 「……なあっ!!!」

 

 と、タイガがいきなり大きな声を上げ、三人(と、玉座の間の守衛)は竦み上がった。

 

 「なんや! いきなり!!」

 

 シェリルがぐわっとタイガに見向く。タイガは苦笑を浮かべて、

 

 「いやぁ、な? やけに静かだと思ったら、マァムがさっきからいないんだが」

 

 「「「えっ」」」

 

 「あの……」と、玉座の間の守衛が四人に声をかける。「ご一緒にいた金髪の娘さんなら、あちらに走って行かれましたよ」

 

 守衛はマァムが走って行ったという通路を指差した。

 

 「マァムったら!!」

 「一人にしたら、なにしでかすかわからへんで!!」

 

 アステルとシェリルは真っ青になって、マァムを追いかける。小さくなる二人の背中を眺めて、スレイは溜め息交りにタイガに言う。

 

 「……助かった」

 「なんの事だ? それよりも早く三人を追いかけんとな」

 

 タイガは変わらぬ笑顔で、スレイの背中を前に押し出すように叩いて、三人を追って歩き出す。結構な力で叩かれてスレイはよろけた。

 

 『オルテガが生きていたなら………この手は剣を握る事などなかったでしょうに』

 

 女王の言葉が脳裏に蘇る。それを打ち払うように頭を振ると、スレイは前を向き四人の後を追った。

 

 

 

 『まんまるボタンは不思議なボタン~~

 まんまるボタンで扉が開くぅ~~♪

 東の西から西の東へ

 西の西から東の東ぃ~~~♪♪』

 

 「この声……」とアステル。

 

 「マァムの声や。こっから聞こえるで」

 

 扉の開いた部屋の中を二人はそっと覗いた。部屋には絨毯が一枚敷かれており、積み木や木馬の揺り椅子などの玩具やクッションが散らばっている。

 床に座って子供二人と楽しそうに歌うマァムとそれを見守る年老いた侍女がいた。

 二人の視線に気付いたマァムは、

 

 「あっ、みんなぁ~~!」と手を振った。

 

 「『あっ、みんなぁ!』ちゃうわ! 一人でうろちょろすなっ!」

 「ひゃんっ!!」

 

 シェリルは部屋に入って、すかさずマァムの頭をぺしっとはたいた。

 

 「だってぇ~~! つまんなかったんだもん!」

 「マァムが迷子になってないかって、心配したのよ?」

 「むうぅぅ……ごめんなさぁいぃ」

 

 優しく諭すアステルに、マァムははたかれた頭に手をやりながら素直に謝った。

 

 「すみません。お邪魔してしまったみたいで……」

 

 謝るアステルに侍女は首を横に振る。

 

 「いいえ。御子様がたも楽しんでおられましたから」

 

 そう言って二人の子供に視線をやった。

 

 子供達は双子の男の子で、女王やカリスと同じ、黒髪に孔雀色の瞳、白い肌をしていた。

 

 「この方々はもしかして王家の……?」

 「ええ。カリス様の御子様がたですわ」

 

 双子はキョトンとアステルとシェリルを見、それからマァムにすがりつき「鬼ごっこしよう?」と二人で手をひいた。

 マァムが鬼になって、「待て待てぇ~~!」と二人を追いかけ回す。子供達はきゃっきゃっと部屋をはしゃぎ回った。

 

 「貴女は……アリアハンの勇者様ですね?」

 「どうしてそれを?」

 「アリアハンの勇者、オルテガ様と同じいでたちをされていますからね。ひと目ですが、そのお姿を見た事がございます」

 

 驚くアステルに、侍女は懐かしそうに語った。

 

 「おお。ここにいたか」

 「あっ! タイガぁ~~!」

 

 追い付いて部屋に入ってきたタイガに、マァムが飛び付いた。

 

 マァムやタイガが双子の遊び相手をしている間、アステル、シェリル、スレイは玉座の間で起こった事を年老いた侍女に話した。

 

 

 「───そうですか。そんな事が」

 

 侍女は深く溜め息を吐いた。

 

 「あの、カリス様は女王様を……その、目の敵……に、されているように私には思えました。何故なんですか?」

 

 躊躇いがちに問うアステルに、侍女は頷いた。

 

 「カリス様にはカロル様という兄君がおられたのです。ところが、王位に就く前にカロル様は流行り病でお亡くなりになられました。カロル様は生前、妻を娶る事を頑なに拒み、御子様はおられなかった。

 次の王はカリス様だろうと誰もが思っていました。カリス様御自身でもそう思ってらっしゃったでしょうね………ですが。

 先代はある日突然、カロル様の御子だと幼かったティーダ様……女王様を宮殿に連れてこられ、自分の後継ぎとして育て始めたのです」

 

 「え……?」

 「不義の子ってやつやな」

 

 戸惑うアステルに、シェリルが耳元でそっと囁く。 

 カリスにとっては憎らしい事この上ないだろう。

 父王はわざわざ外で生まれ育った、上の子の娘を探し出し、女王として教育してまで、自分を認めず後を譲らなかった。

 おまえは(ファラオ)に相応しくないと言われたも同然だ。

 

 「そりゃ、カリス様も女王様を嫌うわけやな。」

 

 女王にはなにも罪はないが。

 

 シェリルの言葉に侍女は頷いた。

 

 

 『まんまるボタンは不思議なボタン~~

 まんまるボタンで扉が開くぅ~~♪

 東の西から西の東へ

 西の西から東の東ぃ~~~♪♪』

 

 暗い空気がマァムと双子達の明るい歌声で取り払われた。

 

 「……変わった歌ですね」アステルは苦笑した。

 

 「王族に伝わる童歌(わらべうた)ですわ。なんでもピラミッドの秘密が隠されているとか……でも、なんの事やらわたくしにはさっぱり」

 

 

 侍女は頬に手を当てて、首を傾げた。

 

 

* * * * * *

 

 

 アステル達が宮殿を出ると、太陽が西へと傾きつつあった。

 ピラミッド探索に向けての消耗品の買い出しを手分けして素早く済ませ、ついでに夕食も屋台で済ませて、モッカーナ劇団の馬車に戻った頃には、すっかり日も暮れていた。

 

 「それは、大変な事になりましたなぁ。よかったら我々の馬車を一台お貸ししましょうか?」

 

 馬車の中でピラミッドに行く事になった経緯を聞き、モッカーナはそう申し出てくれた。

 

 「ありがとうございます。でも、ここからピラミッドまでは、徒歩でも一日もかからないそうなので歩いて行きます。帰りは瞬間移動呪文(ルーラ)かキメラの翼で帰りたいので……」と、アステル。

 

 「ふむ……確かに。帰りの事を考えたらその方が楽か」

 

 顎を撫でながらモッカーナは言った。

 

 「また戻って来るんでしょ?」と、レナが胡座をかいて体を左右に揺らしながら聞く。

 

 「〈魔法の鍵〉を宮殿に持って行かなあかんからな」と、シェリル。

 

 「あたし達も宴に合わせて明日から宮殿でお世話になるから、あちらで会えるかもね」

 

 ビビアンの言葉にレナが「やった!」と、マァムの手を取って踊り出した。

 

 「ねえねえ! 女王様ってどんな感じのひと!? 噂通りの魔王も跪く美人!?」

 

 レナはマァムの手を掴んだまま、意気込んでアステル達に尋ねた。

 

 「魔王が跪くかどぉかはわからんけど、めちゃくちゃ綺麗なお方やったで。なぁ? アステル?」

 「うん。凄く綺麗に笑う方で、優しくて素敵だった……」

 

 そこまで答えて、アステルははっと気付いた。

 

 (女王様……明後日、十七になるけど、今は私と同じ歳……!)

 

 大人っぽい体形やら、雰囲気やら、振舞いやら。比べるのもおこがましいが、アステルはがくりと項垂れた。

 

 「おおうっ!?」

 「どないしたー? アステル」

 「アステルぅ?」

 「大丈夫?アステル」

 

 レナ、シェリル、マァム、最後にビビアンがアステルを囲み声をかける。

 

 「な……なんでもないです」

 

 ふと、顔を上げると心配げにのぞきこむ、ビビアンと目が合った。

 

 (………あ、)

 

 「……本当に大丈夫? アステル」

 

 ビビアンが訝しげに見るので、アステルは慌てて首を縦に振る。

 ビビアンの肌は褐色。瞳は漆黒。髪は同じ漆黒だが、彼女にはうねりがみられる。

 

 けれどその面立ちは。

 

 さっきの自分を労るあの表情は。

 

 女王様……ビビアンさんと似てるんだ。

 

 

 「………でも、どうして?」

 

 彼女の呟きに答える者は誰もいない。

 

 

* * * * * *

 

 

 夜半過ぎ。アステル達はイシスを出発した。聖水をかぶり、魔物の出現を少しでも減らす。月の光のもと、砂の大海に足跡を残しながらアステル達は歩を進める。太陽が昇る前にピラミッドに少しでも近付けるように。

 その甲斐あって、太陽が昇り本格的に気温が上がる前に巨大な四角錐状の建造物《ピラミッド》と呼ばれる王墓に到着した。

 

 その大きさ、高さに一行は圧倒された。近くで見るとピラミッドは、切り出した大小の石を積み上げて出来ているらしい。

 

 「これは凄いな。何千年も前にこれを人が造り上げたのか……こんなに巨大な遺跡が今も機能しているのか……」

 

 興味深げにブロックに触れ、眺めるスレイの様子にアステルは内心ほっとしていた。

 イシスでの謁見から何故かはわからないが、彼がどこか落ち込んでいるようにアステルには感じられた。しかし今のスレイはいつものスレイだ。

 

 一行は中へと入る。入り口は暗かったが中に進むにつれて、視界が困らない程度に仄かに明るくなる。どうやら内部の石材は、暗闇で光を放つ素材らしい。

 

 「……涼しい」アステルが呟く。

 

 ピラミッド内は太陽の光が完全に遮断され、涼しい。それに一番ホッとしているのは、やはりスレイだった。

 

 「なんかウチ、涼しい通り越して寒いんやけど……」

 

 シェリルはぶるりと震え二の腕を擦った。

 

 「あ~~! もぉしかしてぇ~~シェリルぅ怖いんだぁ~~」

 「そっ……そんな事あらへん!」

 

 ニヤニヤ笑うマァムに、シェリルは腕を組んでふんっと鼻で笑う。顔は真っ青だが。小刻みに体が震えているが。

 

 「シェリルはぁお化けがぁ怖いんだぁ~~!」

 「マァ~~ム~~っ!!」

 

 追い掛けるシェリルの手を、マァムは踊るステップに合わせながら避ける。

 

 「やめ……っ!」

 

 スレイが叫ぶも、既に遅く。

 

 かちりっと嫌な予感のする音を耳にした途端

 

 

 ───足元の床が抜けた。

 

  

 

 

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