長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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鍵を求めて《ピラミッド》

 

 

 

 ────ドシャッ!! グシャッ!!

 

 「いたたたっ……」

 

 アステルは体を起こす。随分長い事落ちた気がしたが、何かがクッションがわりになったお陰で怪我はしていない。ぱきっと小枝を折った時の音と感触に、アステルは手元を見やる。

 

 そこには折り重なる白骨化した残骸があった。

 

 「きぃっ……!」

 「ひぎゃああああっ!!」

 

 シェリルの絶叫が空間に轟いた。

 

 悲鳴を思わず呑込み、アステルが横に目をやると、そこにいたのは頭に髑髏を乗せて腰を抜かした真っ青なシェリル。

 ……と。スレイがアステルの両脇に手を入れて立たせた。

 

 「離すぞ。立てるか?」

 「うっ……うん。なんとか」

 

 それを聞いてスレイはそっとアステルから手を離した。

 

 「マァム、シェリル! ここではふざけるな!」 

 「はぁ~~い」

 

 マァムがむすぅっと、返事する。どうやら今回は上手く着地が出来なかったようで、服が泥と蜘蛛の巣だらけだ。シェリルは「う~う~っ」と半泣き状態でタイガにすがり、タイガは苦笑して彼女の頭に乗っかっている髑髏を取ってやる。

 

 「ここは建物の一番下か?」

 「今、確かめる……フローミ」

 

 スレイは手を翳し呪文を唱えた。探知呪文フローミ。盗賊による創作呪文で、風を起こし空気の流れを感知する事によって、建物内の構造を調べられる呪文である。 

 しかし。その風が起きない。スレイは眉を寄せ、もう一度フローミを唱えた。

 

 ───やはり、風は起きない。

 

 

 「呪文が発動しない……?」

 

 スレイはアステルを見た。アステルは頷き、手を翳す。

 

 「……初等火球呪文(メラ)っ!」

 

 火の玉は現れずアステルの声が空間に響くだけだった。

 

 「ホぉイミぃ~~」

 

 マァムも軽く擦りむいた自分の手の甲に治癒呪文をかけてみるが、なにも起こらなかった。

 

 「むうううぅっ!」

 

 アステルはマァムに近付き、彼女の擦りむいた手に水筒の水を傷口にかけて綺麗にし、薬草を当て包帯で巻いてやる。

 

 「ここは魔法が使えない空間……?」

 「そうらしいな。とりあえず上に上がる階段を見つけよう」

 

 スレイの言葉に皆が頷き、腰を下ろしていた者は立ち上がった。……が。

 

 側にあった骸も次々に起き上がった。何処からともなく現れた白と紫の包帯が、骸の体に巻き付く。

 

 「ひああああっっっ!!」

 「むおうっ!!」

 

 シェリルはとっさにマァムを抱き締めた。白い包帯で包まれた死体〈ミイラ男〉と、不気味な紋様が施された紫色の包帯で包まれた死体〈マミー〉。それらが両手をさ迷わせながらこちらに近付く。

 

 「数が多い。連係で倒すぞ。アステル、剣じゃなくブーメランで戦え。マァムは鞭で奴等の足元を狙って転ばせろ。タイガとシェリルは止めを頼む」

 「わかった!」

 「はぁ~い!」

 「おう!」

 「りょ、りょ、りょ、了解」

 

 シェリルは完全に怯えていた。青ざめて震え上がってしまっている。

 

 「シェリル。あれは亡霊なんかじゃなくて、バラモスが操る魔物だ。アニマルゾンビやバリィドドッグと同じ奴等だ。必要以上に恐れるな」

 「第一、皆そばにいるから大丈夫だよ。シェリル」

 

 スレイの言葉とアステルの笑顔にシェリルは唾を飲み込んでから頷き、眉尻を上げて魔法のそろばんを強く握った。

 

 「………意外だな」

 「え?」

 

 スレイがぽつりと呟き、アステルが視線は魔物に向けたまま、疑問の声を漏らした。

 

 「アステルもこういう類いは苦手かと思ってた」

 「苦手だよ。でも、私以上に怖がってるシェリル見てたら、なんか冷静になっちゃった」

 

 「「「はっ!!」」」

 

 アステルの言葉にスレイ、タイガ、マァムは思わず声を上げて笑う。

 

 「アステルぅ~~!?」

 

 シェリルが非難の声を上げた。

 

 「くっくっ……上等だ!」

 

 スレイがニヤリとする。襲いかかってきた魔物に、スレイが刃のブーメランを投げつけ、ドラゴンテイルを振るう。アステルもすかさずブーメランで追撃する。マァムは体当たりしてくるミイラ男の攻撃を軽やかにかわし、横一列に並ぶ魔物達の足元をチェーンクロスで凪ぎ払い、転ばす。

 マァムが転ばした、アステルやスレイが討ち漏らした輩をタイガの鉄の爪が切り裂き、シェリルの魔法のそろばんが打ち倒していった。

 倒された魔物が石に変化するのを見て、シェリルも襲ってくるものが、魔物だと確信する。そうなると、彼女の中の恐怖が吹っ切れ、動きにいつものキレが戻った。

 

 陣形を崩さず、少しずつ移動し、たまに聖水を振りかけ魔物達を遠ざけながら、骸だらけの空間を探索する。

 

 「うっ?」

 「どうしたの? マァム?」

 

 アステルに答えず、マァムは陣形を離れ、盛り上がった骸骨の山をいきなり掘り起こし始めた。ぽんぽんぽーんっと無造作に骨を撒き散らす。

 

 「なっなにしてるんや! マァム!!」

 

 こちらにまで降ってくる骨を慌てて避けながら、シェリルが叫ぶ。

 

 「階だ~んっ、み~~っけ!!」

 「「「「えっ」」」」

 

 マァムの楽しそうな声に、アステル達は彼女に近付く。そこには地下へと続く階段があった。

 

 「いや、ウチら上に〈昇る〉階段探してるんやけど」

 「う?」

 

 シェリルはマァムに突っこみを入れる。

 

 「でも、怪しいよね」とアステル。

 

 「大事な物は建物の一番上か、下に隠してるもんだからなぁ」と、タイガ。

 

 「降りてみるか?」スレイの問いに皆頷いた。

 

 階段を降りたどり着いた空間は、上の階より空気が更に重く冷たく感じられた。

 人一人がやっと通り抜けられる程の細い通路を抜けると、大きな広間にでる。

 そこには一つの棺が安置されていた。

 スレイは後方にいるアステル達に振り返り、「開けるぞ?」と、確認する。

 アステル達は頷き、シェリルはマァムの後ろに隠れた。

 スレイが蓋をずらすと、魔物ではない一体のミイラが眠っていた。交差させたその手には、タイガが装備している鉄の爪と形状の似た、黄金に輝く豪奢な爪をしている。

 更に棺の中を調べたが、鍵らしき物は見当たらなかった。

 

 「タイガ。武闘家の武器みたいなのがあるが、貰ってくか?」

 

 スレイの言葉にタイガは棺の中を覗くが、その爪の装飾である黄金の顔と目が合うと顔をしかめる。

 

 「……確かに。鉄の爪より威力はありそうだな………別の意味でも」

 

 「ちょっと、ゴテゴテ過ぎて悪趣味よね……」と、アステル。

 

 「タイガにぃ似合わなぁ~~い」と、マァム。

 

 ────その時。

 

 『我が……宝に……触れ……馬鹿にする者に……呪』バタンッ!!!

 

 不気味な声が言い終える前に棺の蓋を三人で素早く締めた。

 

 「………なにもなかった」

 「うん。なにも聞こえなかった」

 「ハズレだな。うん」

 

 スレイ、アステル、タイガは頷き合い、不気味な声に固まるシェリルとぽけっとするマァムを抱えて地下の玄室を走り去った。

 

 ようやっと昇り階段を見つけ、上がると地上に出た。

 

 

 ────……振り出しに戻った。

 

 

* * * * *

 

 

 「今度は勝手に動き回るんじゃないぞ?」

 「はぁ~~い!」

 

 再びピラミッド内部で、スレイが半眼で念を押す。マァムは元気よく返事する。

 

 ……が、当てにならない。

 

 スレイは溜め息を吐きつつ、フローミを唱えてみた。探索の風が彼の手から放たれる。暫くするとピラミッドの内部構造が、スレイの頭の中に浮かび上がった。

 

 

 「……ここでは呪文が発動するな」

 「じゃあ、呪文が発動しないのは地下だけ?」

 「多分な」

 

 問いかけるアステルにスレイは頷いた。

 スレイを先頭にピラミッド一階を探索する。先程の落し穴に気を付け先に進む。途中襲いかかる魔物はミイラ男やマミーだけでなかった。

 

 所狭ましと群れて現れる橙色の体に緑色の長い舌を持つ巨大な蛙魔物〈大王ガマ〉はタイガの苦手な眠りの呪文ラリホーを唱えてくる。眠らされる度、マァムは覚醒呪文ザメハを唱える……のではなく、鞭で文字の如く叩き起こしては、タイガを泣かせる。

 

 「マァム………」

 「スレイ。あのおふざけは叱らんでええんか?」

 「愛の鞭、らしいからな。嫌なら少しは眠りの耐性をつけるしかないな」

 「スレイ……」

 「鬼や……」

 

 厭らしい目つき、人を小馬鹿にしたように笑って舌を出す〈笑い袋〉は幻惑呪文マヌーサや呪術封印呪文マホトーン、防禦強化呪文スクルト、遅緩呪文ボミオス、極めつけが治癒呪文ホイミまで唱える。とっとと倒そうにも、アステルの攻撃呪文が全く効かない上、物理攻撃もすばしっこく動き回り回避しする。こちらを見て高らかに笑い声を上げる様は、アステル達を大いに苛立たせた。

 

 「───……初等閃光呪文(ギラ)ッ!!」

 

 アステルの掌から閃光が発せられ、ミイラ男が呼び出した〈腐った死体〉達……名の通り、目玉が飛び出し、皮膚がどろどろに溶け腐り、腐臭漂わせる屍人の魔物を炎が焼き尽くした。地底湖の洞窟で妖しい影を倒した呪文、ベギラマの一階級下の閃光呪文である。

 腐った死体達を倒し終え、アステルは額の汗を拭う。

 

 「アステル。まだここは一階だ。理力の配分に気を付けろ」

 「うん」

 

 アステルはスレイに頷く。

 

 「おっ! 宝箱があんで!!」

 「小ぃさなメダルかなぁ~~?」

 

 宝箱に向かってシェリルとマァムが駆けてく。スレイはその宝箱を見、サアッと青ざめた。

 

 「待て! 触るな! そいつは〈人喰い箱〉だっ!!」

 「え?」

 

 シェリルが宝箱に触れたその瞬間。宝箱はかぱぁっと大きく口を開ける。獲物を定める目玉、鋭い牙が現れ、箱の中から長い舌が二人の体を絡めようと伸びた。

 しかし、間一髪。タイガが二人の体に覆い被さり伏せる。人喰い箱は舌のみを収納し、がちんっと空気を()んだ。

 今度はアステルに狙いを定め、足のない箱のくせに、信じられない跳躍力を見せて飛び掛かる。アステルは立ち向かわんと剣を構えるが、スレイに強く腕を引かれる。

 

 「えっ!?」

 

 その拍子に手放してしまった鋼の剣を、人喰い箱は舌に捕え、なんと噛み砕いてしまった。

 

 「ああ~~っ!!」

 

 思わず人喰い箱に、捕まれてない方の手を伸ばすアステル。そんなアステルの腰に素早く手を伸ばし、スレイは小脇に挟むように持ち上げた。

 

 「きゃあっ!!」

 「タイガ!!」

 

 羞恥で赤くなるアステルを無視して、スレイはタイガに叫ぶ。彼もシェリルとマァム二人を両脇に挟んで持ち上げた。

 

 「ひゃあっ!?」

 「むおっ?」

 

 二人も短い悲鳴を上げる。

 

 「逃げるぞっっ!!」

 

 スレイとタイガは脇目もふらず逃げ出した。しかし人喰い箱はがちんがちんと歯を鳴らして、執拗に追いかけてくる。背後から容赦なく襲いかかる人喰い箱を娘達を抱えたまま、器用にかわしながら逃げるスレイとタイガ。

 

 「うっ……酔うっ」

 「キャハハハハ!!」

 

 タイガに担がれながら、シェリルは口元を手で押え青くなり、マァムは楽しげに笑い声を上げる。

 

 「スッ……スレイ! 自分で走れるっ!」

 「黙れっ! 舌を噛むぞっ!」

 

 スレイはアステルの頭を空いてる手で押さえつけ、しゃがみこんだ。人喰い箱はスレイの頭上をすり抜け、壁に食らい付く。

 

 ガリィッ!! と、壁は抉られた。

 

 「ひゃっ!」

 

 スレイはアステルを今度は肩に担ぎ、立ち上り走る。人喰い箱は地面に着地し、プッと食んだ石くずを吐き出し、再び追い掛けてくる。

 

 「奴の牙と舌に捕らえられたら、一発即死だっ! 剣みたいになりたくないなら黙ってろ!!」

 「………っ!」

 

 アステルは彼の背の衣をわし掴んで押し黙る。これほど切羽詰まった彼を見るのは、妖しい影以来だった。

 

 「……っ!」

 

 スレイは短く唸って止まった。この先はあの落し穴だった。タイガが振り返ると、退路を絶った人喰い箱の血走った目が笑った気がした。

 

 スレイはちらりと落し穴を見た。

 

 (……わざと落ちるか? )

 

 だが、床が閉まる前に人喰い箱も追いかけてきたら?

 

 (あの空間で、治癒呪文なしでこいつと戦うなんて自殺行為だ)

 

 人喰い箱は彼に結論を出す時間など与えない。大きく跳躍し、襲いかかってきた。

 

 

 「───ふんっ!」

 「!?」

 

 突然、アステルは背筋を使って上半身をぐんっと起こす。慌てたスレイは咄嗟に彼女の膝裏に回していた腕に力を込めてしまう。

 

 「えっ!? ……わわわっ!」

 「なっ!? ……うぷっ!?」

 

 降りるつもりだったのに、足を固定されて降りられなかったアステルの上半身は、ぐらりと傾ぐ。両手をばたつかせた彼女は慌てて彼の頭にしがみついた。服と鎖帷子(くさりかたびら)越しではあるものの、確かな()()()()を顔に押し付けられ、そんな場合ではないのにスレイはびしりっと固まってしまう。

 彼の動揺など露知らず、アステルは前を向くと目前に迫った人喰い箱を指差し、

 

 「睡気誘発呪文(ラリホー)っ!!」

 

 〈力ある言葉〉を言い放った。

 

 

 ────ガタッガタンッ!!

 

 人喰い箱は、ダラリと伸びた舌を挟んだ状態で口を閉めて動かなくなった。よく見ると箱は上下に静かに動いている。

 

 「……眠ってる……のか?」

 

 タイガの言葉にアステルに頭を抱き付かれたままのスレイははっと我に返り、彼女を顔から引き剥がし、有無を言わさず、その細い胴体を再び肩に担ぐ。腰にあるドラゴンテイルを取り出し、振るう。鞭はまるで生きているように人喰い箱に巻きつく。それを片腕の力のみで持ち上げ、

 

 「───りゃぁっ!!!」

 

 滅多に発する事のない掛け声と共に、落し穴のある床に叩き付けた。

 

 かちりっとあの音がなる。

 

 スレイは直ぐ様ドラゴンテイルを(たわ)ませて、手元に戻す。それと同時に床が抜け、人喰い箱は暗闇に吸い込まれ、暫くすると穴は閉じ床は元に戻った。

 

 タイガはふぅ~~……と息を吐き、シェリルとマァムを地面に下ろす。

 

 「ちょぉっと、やばかったなぁぁ……」

 

 ははは……っと、タイガが乾いた声で笑う。

 スレイはアステルを抱えたまま、その場に座り込んだ。銀色の前髪をくしゃりと掴んで顔を伏せる。どくどくと忙しなく鳴る鼓動は危機的状況だったせい……だけではきっと、ない。

 

 (まずい)

 

 顔の熱がなかなか冷めてくれない。

 

 「ス……スレイ? あの……離……」

 「疲れた。……少し黙ってくれ」

 

 

 思っていた以上に低く冷たく出てしまった己の声に、アステルがびくりっと体を竦ませたのが伝わった。

 

 申し訳なく思いつつも、今はまだ。

 

 彼女を離してこの顔を見られるわけにはいかなかった。

 

 

* * * * *

 

 

 《宝箱に無闇に触らない》

 

 禁止事項にあらたに含められた。

 ピラミッド二階は人一人しか通れない通路が続いた。そんな狭い通路でも魔物達は綺麗に縦一列になって襲いかかってくるものだから、溜め息しかでない。いつも笑顔のタイガも、なんだかその笑顔がいつも以上に怖い。こんなに狭く天井も低かったら、鞭やブーメランは振るえない。シェリルの魔法のそろばんも突き攻撃のみだ。

 先頭のスレイはアサシンダガーに武器を持ち換え、後方はタイガが守る。その間でアステルが呪文攻撃、シェリルとマァムは聖水を振り撒き、魔物がこれ以上寄ってこないよう撤した。

 

 「聖水、大活躍やな……」

 

 シェリルがぼやくように呟いた。

 

 

 そして、ピラミッド三階に辿り着く。

 

 一行の前に巨大な石の扉が立ちはだかる。怪力のタイガが押してみるが、びくともしない。

 

 「ははは。やっぱり無理だな」

 「なにか仕掛けを解かないと開かないか……」

 

 スレイが扉に触れる。

 

 「スレイ。こっちにボタンが四つある」

 

 スレイとタイガが振り返ると、アステル、シェリル、マァムが四つの丸いボタンの前に立っていた。

 

 「無造作に押しても駄目だろうな。……マァム、絶対に押すんじゃないぞ?」

 「わかってまぁすっ! ……ぽちっとな」

 

 「「「「あっ」」」」

 

 ガコンッと足元が開き、五人は穴の中に吸い込まれた。

 

 

 

 「「押すな言うてん(と言ってる)のに、なんで押すん()っ!?」」

 

 シェリルとスレイがマァムに怒鳴る。

 

 「だぁってぇ~~っ! 押すな押すなって言われたら押すのがぁ、遊び人なんだもぉ~んっ!!」

 

 「「屁理屈を言うなっっっ!!」」

 

 きゃあっと、マァムはアステルの背中に隠れた。

 

 「まっ……真下の階に落ちただけで済んで、良かったね……ね?」

 

 再び、ピラミッド三階へ。

 

 「私思ったんだけど、この丸いボタンってイシス王家に伝わる童歌の事なんじゃないかな?」

 「ああ! まんまるボタンとかゆうやつか! マァム、なんやったっけ? 覚えとるやろ?」

 

 アステルの言葉にシェリルは手を叩き、マァムに問いかける。

 

 「つ~ん」

 「……って、マァム?」

 

 シェリルがマァムの顔を覗きこむ。しかし拗ねたマァムはアステルの背中に隠れてシェリルから顔を背ける。

 

 「ふ~ん!」

 「マァム~~っ!!!」

 「マァム、機嫌直して教えて? ね?」

 

 三人娘のやりとりにスレイは額に手を当てて溜め息を吐く。

 

 「まんまるボタンは不思議なボタン~~

 まんまるボタンで扉が開く~~~♪

 東の西から西の東へ

 西の西から東の東~~~♪♪」

 

 低くて良く通る声が空間に響き渡る。アステル達は目を丸くして、声の主を凝視した。

 

 「………だったよな? マァム」

 

 タイガがにかっと笑う。マァムは目をキラキラさせてタイガに抱きついた。

 

 「タイガ、お歌じょうずぅ~~!!」

 「マァムほどじゃないけどな」

 

 「本当に……吃驚した……」

 「ほんまや。めっちゃ歌うまい………意外」

 

 スレイも思わずこくりと頷いた。

 

 アステル達が歌詞の通り、東西に配置するボタンを押すと重い音をたてて、石の扉が天井へと引き上がり、窪みへと全て収納された。

 扉の先は玄室だったが、棺の台の窪みに石で出来た小さな箱が収まっていた。スレイ一人で前へ進み、アステル達はなにか起きた時の為に玄室の外に控え、彼を見守る。小箱を開くと小さな空色の石が一つ填まった銀色の鍵が入っていた。鍵を手にアステル達の元に注意深く戻る。玄室から出たスレイは、安堵の息を漏らすアステルに鍵を手渡した。

 

 「これが……魔法の鍵?」

 「きれぇ~~い!」

 「ウチにも見せて。……こりゃ、純銀ちゃうな。魔法の鉱物ミスリル銀で出来とる。填まってる石もただの飾り石じゃなさそうや」

 「この先にも扉があるぞ。早速使ってみたらどうだ?」

 

 タイガが大きな鉄製の扉を指差した。

 

 アステルは鍵穴に魔法の鍵を差し込み回した。ガシャンと鍵が開く音が響く。タイガが扉を押すと更に上に昇る階段があった。階段を上がり進むと更に扉。それも魔法の鍵で開いた。

 扉の先はまた玄室。いくつもの棺が並ぶ部屋中央には、金色のファラオ像が立っていた。その周囲には宝箱がこれ見よがしに並ぶ。

 

 開けたら間違いなくなにかが出てきそうだ。

 

 アステル達はそれを見てげんなりとし、宝箱をスルーした。

 

 階段を昇り、扉が開け、階段を昇り……。

 

 そしてついに最終地点のピラミッド頂上に辿り着いた。

 

 

 「わあ……!」

 

 空は紺、紫、茜色のグラデーション。今まさに金色の夕陽が砂丘の更に向こうの山々に沈もうとしていた。

 

 「綺麗………」

 

 アステル達は感嘆の声を上げる。頂上は外へと繋がっていた。

 

 「空気がうまいぃ~~風が気持ちいいわぁ~~……」

 「生き返るなぁ……」

 

 皆腰を下ろし、暫く夕陽を眺めていた。

 

 「あ~~~っ!!!」

 

 と、いきなりマァムが叫んだ。

 

 「なっなんやっ!!」

 「魔物っ!?」

 

 アステル達は慌てて立ち上り武器を構える。

 

 

 「小さなメダルみぃ~~っけ!」

 

 

 マァムが誇らしげにメダルを掲げ、アステル達はこけそうになる。

 

 

 メダルは夕陽の光を浴びて金色に輝いていた。

 

 

 

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