長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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姉妹

 

 

 「ここでね? ターンを入れたらどうかなぁ?」

 

 

 妹は地面に描きながらあたしに笑顔で問う。

 

 「いいわね。その後にステップも入れよう。手の動きはこんな感じにして……出来る?」

 

 あたしがやって見せると、妹はウンウンと笑顔で頷いた。

 

 

 部屋で妹にとっておきのレース生地を見せたら、彼女は目を輝かせた。

 

 「綺麗……! どうしたの? これ?」

 

 「この間、仕立て屋のモノゾフさんからレース生地の切れ端もらったんだ」

 

 「姉さん。姉さん。これ、丈が短くなって着れなくなった舞台衣装に縫い付けたらどうかな?」

 

 「おっ! ナイスアイデア! 流石はティー!」

 

 「母さんの誕生日、もうすぐだねぇ……」

 

 「よろこんでくれるかな?」

 

 「よろこんでくれるといいね」

 

 あたしの言葉に妹は……ティーは。

 

 

 お日様のような笑顔で頷いた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 「───大丈夫だ。魔物の気配は消えた」

 

 タイガの言葉に一同はほっと息を吐く。

 途端、下の階からバタバタバタと複数の足音が聞こえた。

 

 「女王陛下! 御無事ですか!? ……なっ!? これは一体……!!」

 

 兵士を引き連れて現れた宰相は部屋の様相に、唖然とする。女王に勇者一行、縛られた踊り子。

 そして床に伏すカリスに───剣。

 

 「わたくしもカリス様も無事です」

 

 女王は宰相に近づく。

 

 「女王様……一体なにがあったのですか?」

 「……魔族が現れました」

 「なんと!」

 

 宰相を始め兵士達がざわめく。

 

 「しかし、勇者達が異変にいち早く気付き、魔族を撃退してくれたお陰で事なきを得ました」

 

 その言葉に兵士達がおおっ! と、感嘆の声を上げる。

 

 「宰相」

 「はっ」

 

 女王の凛とした声に宰相は背筋を伸ばす。

 

 「今は祭りの前です。民にいらぬ不安や混乱を招かぬよう、この件に関しては箝口令を敷きます。皆さんもそのように。よろしいですね?」

 『はっ!!』

 

 宰相は手を胸に頷き、兵士らは敬礼した。

 

 「それと、怪我人の治療を。カリス様と……こちらの女性とアステルの手当てをお願いします」

 「はっ!」

 

 兵士が気を失っているカリスを部屋から運び出す。女王はそれを見送ると、ちらりとビビアンを見た。

 しかしなにも語らず瞳を前に向けると、宰相と共に部屋をあとにする。ビビアンは去っていく女王の後ろ姿を、ずっと見詰めていた。

 アステルがそんな二人を眺めていたら、ふいに血が流れ続けていた右手を強く持ち上げられ、悲鳴をあげた。

 

 「痛い痛いっ! ……スレイ!?」

 「───この莫迦(ばか)がっ!!」

 

 スレイの剣幕にアステルは竦み上がった。

 

 「戦う前から利き手を傷付ける奴があるかっ!!」

 

 シェリルもビビアンも兵士達もぎょっとして二人を見る。タイガだけは苦笑していた。

 救われた女王の手前、怒鳴りたかったのをずっと我慢していたのだろう。あの時、女王を止めたのがスレイではなくアステルだった事に彼も内心驚いたのだ。

 

 「あのまま、戦闘になっていたらどうする! この手でブーメランが扱えるのか!?」

 「でっ……でもっ……」

 「こんな真似しなくても、オレなら鞭で短剣のみを弾くなり対処できた」

 

 実際そうしようとしたのだが、先にアステルが躍り出てしまった。つまり一瞬とはいえ、自分より早く彼女は反応できたのだ。

 アステルの成長は嬉しい。だが、こんな風に無謀な行動をとるのなら、話は別だ。

 

 「ごっ……ごめんなさい……」

 

 しゅんと項垂れるアステルにスレイは舌打ちし、彼女を座らせて鞄から包帯と薬草を取り出し、手当てをする。

 

 「後で治癒呪文(ホイミ)する………」

 

 スレイに鋭く睨まれ、アステルは言葉を呑み込む。

 

 「嘘をつくな。だったらなんですぐ治さない? なんでピラミッドで瞬間移動呪文(ルーラ)を使わなかった? ……理力がもう殆んど残ってないんだろ」

 

 それも怒っている理由のひとつ。そんな状態で自ら怪我を負ったのだ。

 アステルは肩を落とし、今度こそ黙りこんだ。

 

 「……刃に毒は塗られていないとは思うが。宮殿付きの医術士にちゃんと診てもらえ。絶対だ。いいな?」

 「……はい」

 

 スレイは立ち上り、アステルを見下ろす。

 叱られた子犬のようにしょげかえる姿に、叱ったこちらの方が胸が痛む。彼はひとつ息をつくと、おもむろに彼女の頭をわしわしと掻き撫でた。

 

 「わっわっ!」

 「痕を残すな……女だろ。自分から体に傷を付けたりするな………頼むから」

 

 頭を押さえつけられて。スレイが今どんな顔をしているかアステルにはわからなかったが、最後の懇願する声音に目頭が熱くなり、自然と「ごめんなさい」と言葉がでた。

 

 「素直じゃないわね」

 

 ビビアンは困ったように笑う。

 

 「ほんまや……って、あれ? タイガは? タイガはどこ行ったんや?」

 

 はたっと気が付き、シェリルは部屋を見回したが、彼の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 「───おっそ~~いっ!!!」

 

 宮殿地下でレナが半泣きで叫ぶ。タイガは頭を掻きながら「すまんすまん」と謝りながら、レナとマァムに近づいた。

 

 「……マァムは寝てしまったか」

 

 言いながらタイガは二人を見下ろす。腰をおろしたレナの膝を枕に、マァムは健やかに寝息をたてていた。

 

 「『眠い』って言っていきなりこてんだもん。あたし一人でホントに怖かったんだからね!」

 

 ぷりぷりと怒るレナに、タイガは苦笑を浮かべる。

 

 「悪かった。……ところで王様は?」

 

 マァムを背中に担ぎながら、レナに尋ねる。

 

 「お礼言って消えちゃったよ」

 「……そうか」

 

 タイガは王の霊が浮かんでいた宝箱を暫し見詰めた。

 

 「タイガぁ~用が済んだならもうここから出ようよぉ~~」

 

 レナのぼやきにタイガは振り向き、笑い、「そうだな」と、答えた。

 

 

 

 

* * * * *  

 

 

 

 アステル達は、宮廷医術士に治癒呪文をかけてもらい、怪我の治療を終えると、ビビアンと共に宮殿離れの宿泊所に戻った。

 

 「アステル。疲れてるところ悪いんだけど……あたしの話を聞いてもらえるかしら」

 

 部屋の前でそう言うビビアンに、アステル達は目を合わせつつ了承する。

 

 「おう。おかえり」

 

 部屋の中には既にタイガが戻っていて、椅子に腰掛けていた。ベッドの中には眠るマァムがいる。

 

 「黙っていなくなったかと思ったら、部屋に戻っとったんかい」

 

 シェリルがジト目で彼を睨む。

 

 「悪い悪い。マァムとレナが気になったんでな」

 

 頭を掻きながら言うタイガ。それを聞いたビビアンは、目くじらをたてる。

 

 「レナったら! ここにいたのっ!?」

 「ああ。でも、叱らんでやってくれ。レナがマァムを見てくれてたから、俺はここを離れられたんだし」

 「そう……で、あの子は?」

 

 こめかみに手を当てて、ビビアンは溜め息まじりに聞く。

 

 「部屋に戻ったよ」

 

 タイガは苦笑して答えた。

 

 

 スレイは扉のそばの壁にもたれ、アステルとシェリルは同じベッドに並んで腰を下ろす。

 そして、ビビアンは余っているイスに腰掛け、皆を見回して言った。

 

 「みんな、今日はありがとう。おかげであたしもティーも無事だった」

 「ティー……?」

 

 首を傾げるアステルにビビアンは微笑む。

 

 「あたしや母さんはそう呼んでいた。ティーはイシス女王ティーダの幼名。彼女とあたしは父親違いの姉妹なのさ」

 

 アステル達は目を見開いた。

 

 「病気で亡くなった先王の先の子供、カロル王子の事は知ってるかい?」

 

 ビビアンの問いにアステルは頷く。

 

 ビビアンは思い出すように語り始めた。

 

 「あたしの父と母、そしてカロル王子は身分は違えど、幼馴染みといえる関係だったんだ。

 父と母が結婚してあたしが生まれて。……王子はあたしの事を可愛がってくれたよ。宮殿を抜け出しては、あたしに会いに来てくれてね。街で『王子様』なんて呼んだら大騒ぎになるから、あたしは彼を『おじさん』って呼んでいた。

 父さんと母さん、おじさんに守られ愛されて、なに不自由なく幸せな日々を送っていた。でもそれは突然終わった」

 

 ビビアンはゆっくり目蓋を閉じた。

 

 「───父がね。死んだの。

 父は考古学者でね。遺跡調査中に魔物に襲われて……遺体すら残らなかった。 

 あたしはあの頃まだ五歳で、大人達が父が死んだといっても理解できなかった。名前だけが刻まれた墓石を見ても、なんの感慨も湧かなかった」

 

 悲しげに笑うビビアン。

 

 アステルは、視線を自分の膝にやり、両手を握りこんだ。彼女の脳裏に浮かぶのは、父オルテガの葬儀風景。父の生前着ていた服だけが入った棺の上に花を供え、埋葬される様を涙を流す事なく、ただぼんやりと眺めていた。 

 あの時のあの行為を。当時八歳の彼女もいつまでも理解する事が出来なかった。 

 

 「……父がいなくなった事を受け入れられず、抜殻みたいになったあたし達母子を支えてくれたのは、おじさんだった」

 

 再び語り始めたビビアンに、アステルははっとし顔を上げた。

 

 「政務の合間を縫ってしょっちゅうあたし達に顔出しに来てくれた。お菓子や食べ物を持ってきて、辛抱強く話しかけてくれた。その日に起こった出来事や、父さんに教わった歴史の話を、面白おかしく話して笑わしてくれて。力付けてくれて。 

 おじさんのおかげで、少しずつ日常を取り戻し始めた頃、母さんが身籠ってる事がわかった」

 

 ビビアンはふっと笑う。

 

 「子供だったからね。単純に妹か弟が出来るってあたしははしゃいでたよ。でも、生まれた子供の肌は白く、瞳は孔雀色……おじさんとまるっきり一緒だった。

 その事で母さん達を責める気持ちは、今でも湧かない。きっと父さんだって、相手がおじさんなら許してくれる。そう信じてる。

 でも何故かおじさんはこの子は……ティーダは、父さんの忘れ形見だと。自分が父親だと名乗る事はなかった。

 本当の事を話してくれても、あたしはおじさんを責めたりしないのにってずっと思ってた……」

 

 そこまで話すと、ふいにビビアンはタイガに視線を向け、それからアステルを見た。

 

 「あたしがその額冠(サークレット)の意味を知っていたのは、おじさんから勇者オルテガの話を聞いていたからだよ」 

 「え!?」

 

 アステルは瑠璃の玉が填まった額冠(サークレット)に手をやり、驚きの声を上げた。タイガはいつかの驚きと違和感の〈答え〉はこれだったのかと、心うちで一人納得する。

 

 「おじさんは二人の勇者の謁見の場に立ち会った事を、楽しそうにあたし達に話してくれた。黒髪に青い瞳の勇者オルテガは陽気で気さくな男で、一方茶髪に翠の瞳の勇者サイモンは真面目でちょっと頭の固い感じの男。

 オルテガにはティーと同じ年頃の、サイモンにはあたしと同じ年頃の子供がいて話が弾んだって。その時に勇者達は力強く笑って言ったそうだよ。

 『子供達の自由な未来の為にも、魔王を一日も早く倒さなきゃ』ってね」

 

 アステルは目を伏せ、服の上から父と母を結ぶ指輪をぎゅっと握りしめた。彼女の隣に座るシェリルがアステルの肩を抱く。

 

 「話終えたおじさんは、あたし達を優しく見下ろして、ぽつりと言ったんだ。

 『私もお前達には自由であってほしい』って……それで、わかったんだ。

 あたしもその頃には十四になってたからね。王族のいざこざってのが、なんとなく理解できた。

 おじさんはティーを、それに巻き込みたくなかったんだって。今のこの生活を壊さないように守ってくれてるんだって。 

 けど、ある日を境におじさんはパタリとあたし達に会いに来なくなった。おかしく思いつつも、仕事が忙しいんだろうと納得させていた。

 

 ……数日後、カロル王子の国葬が行われるって御触れがあるまで、ずっと。

 

 それから一年後、あたし達の家に先代の王様が訪れた。ティーダを王族に迎え入れ、次期イシス女王として育てたいって。そしてティーは、宮殿へと連れていかれたんだ」

 

 ビビアンはひとつ息をつき、窓の外に視線をやった。

 

 

* * * * * * 

 

 

 「邪魔したね」

 

 部屋の扉の前で、アステルは首を振る。

 

 「いえ。私も父さんとサイモンさんの事が、少しわかって嬉しかったから……」

 

 その言葉にビビアンは柔らかく微笑む。

 

 「明日、ここを発つのかい?」

 「ええ。女王様との謁見が済み次第、出発しようと思ってます」

 「出発前に声をかけておくれね。皆……特にレナは。あんた達の事を見送りたいだろうしね」

 「はい!」

 

 アステルは笑顔で返事した。

 

 

 

 ビビアンはアステル達と別れた後、自室に戻らず、宮殿の中庭へと足を運んだ。

 床に座り、立てた膝に頬杖をついて、星々が映りこむ池の水面をぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 「───姉さん?」

 

 

 どれだけの時間そうしてたであろう。

 

 その声に顔をあげ、隣に視線をやると、イシス女王ティーダが微笑んでいた。ビビアンははじめ瞳を見開いて驚いたが、その後ニヤリと笑う。

 

 「こんな時間にこんな所で女王様が一人で出歩いていいのかい?」

 「ええ。怒られます。だからこっそり抜け出して来ました」

 

 女王もいたずらっぽく笑い、ドレスのまま床に腰をおろした。ビビアンはふふっと笑い、そして空を見上げた。

 

 「そういう所、おじさんと似てるわ」

 「……はい」 

 「今までね。あんたは流れる血のせいで家族から引き裂かれて、女王なんかさせられてる……なんて、思ってたんだ。……アステルに、出会うまでは」

 

 女王は静かな口調のビビアンを見た。

 

 「けど、言われたんだよ。あの子は義務や血の(しがらみ)に縛られて勇者をやってるんじゃないって。……ティーも、そうなのかい?」

 

 まっすぐ見つめ問いかけるビビアンに、女王は。

 

 ───ティーダは。

 

 姉の目を見つめたまま、しっかりと頷く。

 

 「わたくしはわたくし達を生み育んだこの国を愛してます。わたくし達を愛してくれた父さん達、母さん、お祖父様が眠るこの地を守りたい。女王として。……それは紛れもない、わたくしの意志です」

 

 二人は暫く見つめあう。

 

 先に視線を反らしたのはビビアンだった。目を伏せ、しかしその口元は笑みを深くしていた。

 

 立ちあがり、のびをして。そして、言った。

 

 「ここはね。この中庭はおじさんのお気に入りだったの。ここの池でよく遊んでもらったわ。父さんと母さんに見守られて。……あと、こっそり覗いてた先王様にもね?」

 

 ティーダはきょとんとし、それから口元に手をやり、くすくすと笑う。

 

 「お祖父様らしい」

 

 踊り子ビビアンは妹に手を差し出す。

 

 「踊ろっか? ここでならきっと、みんな見てくれる」

 

 女王ティーダは目元に涙を浮かべながらも、姉の手を取り立ち上がる。

 

 「あの舞。覚えてる?」

 

 「忘れるわけ……ありません。あの舞いはわたくしと姉さんを繋ぐ絆ですから。だから、少しだけ怒ってます。他の人と踊ったりして」

 

 ふくれっ面を見せる妹に、姉は苦笑いする。

 

 「ごめんごめん。でも、あんたの誕生祭にはとびっきりの踊りを披露するよ。今のあたしが踊れる最高の舞をね!」

 

 

 姉妹は満天の下、舞う。

 

 

 月が静かにそれを見下ろしていた。

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 「───昨晩はありがとう。アステル」 

 

 玉座の間でイシス女王ティーダは笑顔でアステル達を迎え入れた。アステル達は女王の手前で膝をついた。

 

 「女王様。カリス様は……?」

 「カリス様は今朝がた目覚めました。……ですが、なにも覚えていないようなのです」

 「え?」

 

 アステル達は驚き、目を見開く。

 

 「記憶だけでなく、気力や感情の起伏もなくしてしまわれているようです。宮廷魔術師の話では恐らく憑かれた魔物が抜けた際に、魔族の糧という負の感情を根こそぎ奪われた影響ではないかと。

 ……しかし、時間はかかりますが、回復しないものではないとも言っていました」

 「そうですか……」

 

 それを聞きアステルはほっと息をつく。女王はおだやかな表情で頷いた。

 

 「ところで……アステルは今日にでもイシスを発つと聞きましたが……」

 「はい。瞬間移動呪文(ルーラ)でロマリアへと戻り、ポルトガに向けて旅を続けます」

 

 それを聞き、女王は一瞬だけ寂しげな顔をしたが、すぐ毅然とした表情に戻った。

 

 「そうですか……寂しくなりますが、引き留めるわけにもいきませんからね。……宰相、あれをアステルへ」

 「はっ」

 

 宰相は一振りの美しい剣を、アステルの前に差し出した。

 それは聖なる十字を象った剣だった。銀に輝く刀身(ブレード)(フラー)にも十字を象った金の飾りが施されている。青い宝石の填まった黄金の(ガード)に、鮮やかな青の握り(グリップ)柄頭(ポメル)にも黄金の十字架。

 

 「こいつはゾンビキラーや……!」

 

 シェリルが思わず声に出す。

 

 「そうです。悪霊や屍人を祓う力を宿した聖剣といわれています。アステル。お礼のしるしに受け取ってください」

 

 アステルは恭しく剣を受け取る。刀身は今まで使っていた鋼の剣より長く幅広だが、見た目よりずっと軽い。

 

 「その剣が貴女を守り、勝利に導く事を祈っています」

 「ありがとうございます。大切に使います……あの」

 「どうしました?」

 「あの……ビビアン……」

 

 アステルが躊躇いつつも、言いかけたその時。女王は笑みを湛えたまま、口元に人差し指を立てる。

 

 「わたくし達は離れていても、ここで繋がっています。だから、大丈夫」

 

 女王は手を胸に当ててにっこりと、今まで見た中で一番美しく、微笑んだ。それがなぜかとても嬉しくて、アステルも笑顔になる。

 

 「目的を全うした暁には、またイシスにいらしてくださいね。今度は勇者としてでなく、わたくしの友として。その日が来るのをいつまでも待っています」

 「はい!」

 

 勇者と女王と呼ばれる少女達は笑い合った。

 

 

* * * * * * *

 

 

 宮殿離れの宿泊所前の庭で、アステル達はモッカーナ劇団の皆と別れの挨拶を交わしていた。

 

 「やだ~~っ!! もうっ!! なんで、 祭りが終わるまでここにいないのぉ~~!?」

 「レナ。我が儘言わないの」

 

 泣き叫ぶレナの頭をビビアンが小突く。

 

 「だって、だって~~! せっかく友達になれたのにぃ~~~!」

 「むおっ!」

 「うおっ!」

 「きゃっ!」

 

 レナは両手いっぱい広げて、三人娘を抱き締める。三人はそれぞれレナに頬擦りし、頭を撫で、背中をポンポンとたたいた。

 

 「我々とは目的そのものが違うんだ。仕方無い」

 

 モッカーナがレナの肩に手をかける。

 

 「……だが、同じ旅の身の上だ。縁があればまた逢えるさ」

 

 そう言って、アステルに手を差し出す。

 

 「短い間でしたが、お世話になりました。ありがとう……勇者さん」

 「モッカーナさん。こちらこそ色々ありがとうございました」

 

 アステルはその手をとり、固く握手を交わす。

 

 「旅の無事と成功を祈っています」

 「お互いにな」

 

 モッカーナはにっこりと笑った。

 

 レナが我慢ならず、最後にもう一度マァムの首っ玉にかじりつき、そっと呟く。

 

 「マァム。……どっちのマァムもあたしの友達だからね?」

 

 マァムは目を二、三度瞬きし、それから満面の笑みを浮かべた。

 レナが離れ、後ろに下がったのを確認し、アステル達は手を繋ぐ。 

 

 「モッカーナさん!ビビアンさん!レナ! 楽団の皆さん!お元気でっ!! ───瞬間移動呪文(ルーラ)!!」

 

 

 視界が上昇する。

 

 

 見下ろすと、地上でレナがいつまでも手を振っていた。

 

 

 

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