長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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追躡

 

 

 

 「あの……本当に、カンダタさん?」

 

 予想外の人物の登場にアステルは戸惑いを隠せない。

 それに、なによりも。

 

 「なんだぁ? アステル嬢ちゃん、もう俺の事忘れちまったのか? 薄情もんだなぁ」

 

 不貞腐れるように言うカンダタに、タイガが「いやいや」と手を振る。

 

 「スレイは別として。俺達があんたの素顔を見るのは、今が初めてだから」

 

 そう。彼は今、素顔を曝しているのだ。

 以前覆面で隠されていた髪は襟足まで届く長さ。そしてその色は瞳と同じ鮮やかな翠玉(エメラルド)。エルフとの混血児だと聞いてはいたが、やはり整った顔立ちをしている。細身のスレイとは種類の違う美形、いや、美丈夫、という言葉が彼には合っていた。初めて出会った時のような奇抜な格好はしておらず、鍛え抜かれたその躰に纏うのは淡茶(カーキ)色の麻の上下と、革グローブ、脛部分と靴底に鉄板の貼った丈夫そうな革のブーツ。そして左肩にショルダーガードの付いた鉄の胸当てをしている。

 

 「ああ。そういや、そうか」

 

 そう言って、カンダタがふと目の前の人物を見上げると、目を見開いたシェリルが魔法のそろばんを振り下ろし斧と交差させた格好のまま、微動だにせず固まっている。

 彼が手にある戦斧でコンコンと魔法のそろばんを叩けば、シェリルははっと我に返る。彼の腕の中にいる娘の姿を認めると、ギッと睨み、そろばんをカンダタに突き付けた。

 

 「その娘どうするつもりやっ! お前やっぱり人攫いやったんかっ!!」

 「違いますっ!!」

 「へ?」

 

 娘は慌ててカンダタを庇うように立ち上がり、シェリルは思わず一歩下がる。

 

 「この人は製造場(ここ)に入ってきた盗賊に連れていかれそうになったあたしを、助けてくれたんです!」

 

 そして彼に振り返り頭を下げた。

 

 「本当にありがとうございました……!」

 「いや。間に合ってよかった」

 

 そう返して優しく微笑むと、娘の頬がほんのりと紅く染まる。

 

 「……って、わけだ。お嬢様?」

 「お嬢様言うなっ!!!」

 

 カンダタは腰を上げ、戦斧を肩に担ぎ、人を小馬鹿にしたような笑みで彼女を見下ろす。シェリルはシェリルで今まさにカンダタをそろばんで殴りかからんと息巻く。

 

 「シェリル、シェリル」

 「落ち着け。シェリル」

 

 タイガはシェリルを羽交い締めし、アステルは「どうどう」と、シェリルの肩を宥めるように叩く。

 ギリギリと歯噛みするシェリルを二人に任せ、深い溜め息を吐いてスレイが前に出た。

 

 「遊ぶな。カンダタ」

 「よう、スレイ。元気か?」

 「……ぼちぼちだ。で、あんたはなんでここにいる?」

 「ああ……」

 

 カンダタが口を開こうとした、その時。

 

 「ぐう……っ!」

 「旦那様!?」

 

 製造場に胡椒屋の店主であり、グプタの祖父が倒れ込んできた。従業員の娘とアステル達は駆け寄る。

 

 「どうして……!マァムとグプタさんは「さ、拐われた」

 「「はっ?」」

 

 店主はアステルの言葉に被せるように答え、彼女達は思わず間の抜けた声をあげる。

 

 「あ、あっという間じゃった。娘さんを気絶させて、担いで行ってしまった。グ、グプタもそれを追って行ってしもうた……」

 「そんな……っ!」

 

 アステルとシェリルは驚愕する。遊び人とはいえ、マァムの身のこなしは常人を越える。身軽さに関しては、アステルやシェリルよりも上だ。そんなマァムを盗賊達は拐ったのだ。 

 そしてここの店に来る前に話をしていた内容を思い出してしまい、怖気立つ。

 

 「アステル嬢ちゃんにお嬢様よ」

 

 カンダタの声にアステルとシェリルは青褪めた顔を上げた。

 

 「安心しろ。みすみす逃がした訳じゃねぇ。俺の部下が張り付いてる。アジトを突き止める為にな。すぐ追うぞ」

 

 

* * * * * * *

 

 

 「お頭っ! ……と、義弟(おとうと)さんと、勇者さんがた!?」

 

 店主の老人を従業員の娘に任せ、街の外に出ると、馬に乗った複数の男達がアステル達に駆け寄ってきた。

 

 「えっと………?」

 

 どこかで会っただろうか。と、アステルは頭を傾げると、男達は苦笑する。

 

 「シャンパーニの塔であんたらに追い詰められたもんですよ」

 「……ああ!」

 

 あの時は金ピカの甲冑を纏っていたカンダタ子分達だが、今は頭のカンダタ同様、顔は隠さず、傍から見れば旅の傭兵のような軽装をしている。

 

 「話は移動しながらだ。お前ら詰めろ。こいつらにも馬をまわせ!」

 「へいっ!」

 

 子分から譲ってもらった馬二頭に、アステルとスレイ、シェリルとタイガが股がる。

 

 「お頭。奴等、東の橋を渡って行きました! 先行隊が引き続き後を追ってます!」

 「よし。行くぞ! お前らっ!!」

 『へいっ!』

 

 子分達の綺麗に揃った威勢のいい声と共に馬は地を蹴った。

 

 

 ─── 一方その頃。

 

 子分の言う先行隊は一台の幌馬車に、付かず離れず後を付けていた。

 が、いきなり馬車は停車し、男が二人降りてきた。

 こちらに気付いたかと内心焦りつつ、彼らは身を低くし、息を殺し、(やっこ)の動きを観察する。しばらくすると男達は一人の若者の両脇を持ち、引き摺るようにしながら戻ってきた。痛めつけられ、血を流し気を失う若者をぞんざいに幌の中に放り込み、男達も乗り込むと、再び馬車は動き出した。

 

 

 カンダタ一味とアステル達は猛然と馬を走らせ、橋を越え、草原を駆ける。途中小柄な魔物を何回か蹴り飛ばした気がする。先行隊は一定間隔で連絡案内係として人を残していた。

 

 そして今、連絡係の二人目を回収した所だった。

 

 「しかし、あんた達。足で追っていてよく見失わないな」と、タイガ。

 

 「先行隊には敏速強化呪文(ピオリム)が使える奴がいんすよ。それに俺らにゃ遠くを見渡せる〈鷹の目〉もあるんで。そう簡単に逃がしゃしませんぜ」

 

 カンダタ子分の一人が胸を張って言う。

 

 「成る程……ところであんた達、なんで今回は普通の格好してるんだ?」

 「ほんまや。そっちの方がよっぽど盗賊らしいんちゃうか?」

 

 タイガの後ろに乗るシェリルも突っ込む。彼らは苦笑し、カンダタにバレないように密やかに嘆息する。二人の問いに答えたのは憤るカンダタだった。

 

 「奴等名前だけでなく、俺達の格好まで真似て動き回っているらしい。おかげでこっちは表から裏まであちこちで散々いらん因縁を吹っ掛けられたっ!!」

 「それで、ポカパマズ止めちゃったんですか?」

 「言わんでくれっ! 嬢ちゃん! 俺だって辛いんだっ!!」

 

 スレイの前、彼の腕に囲われるように馬に乗るアステルの言葉に、カンダタは「くうっ!」と嘆いた。

 

 「「あの格好をねぇ」」と、タイガは困ったような笑みを浮かべ、シェリルは呆れ顔で声を揃える。

 

 〈カンダタ〉は表社会では名前のみ有名だが、裏社会では名前だけでなく、あの格好も知れ渡っている。名前を騙るのはよくある話だが、あの格好まで真似する輩は今の所スレイは見たことない。

 

 「………大もとは大した完璧主義者だな」

 

 彼は溜め息混じりでぼそっと呟いた。

 

 カンダタは歯を食い縛り、怒りの炎を眼の中に燃やして、顔をクワッと上げた。

 

 「奴等は神聖なるポカパマズをっ! そして彼の仲間を! 熱き魂を表す黄金の鎧騎士を汚したっ!! 許せんっ! 絶対に許せんっ!!」

 

 と、草むらから運悪く飛び出してきたマージマタンゴは、猛進するカンダタと彼を乗せた馬によってあえなく蹴り飛ばされた。すっ飛んでいく紫の茸を、アステルは見送る。

 

 「……って、お頭はああ言ってるんっすけど」

 「俺らは正直、あの格好せずに済んでほっとしてるんっすよ」

 「重いし、暑いし、キンキラキンで恥ずかしいし……」

 「それにお頭にも。折角男前なんだからまともな格好でいて欲しいに決まってるじゃないっすか……」

 

 後方ではカンダタには決して聞こえぬよう、子分達がボソボソとタイガとシェリルに泣き言を漏らす。

 

 「苦労してるんだなぁ」

 「わかってくれます!?」

 

 半泣きの子分達に、タイガは優しい笑みを浮かべてうんうんと頷いた。

 

 そんな子分達の嘆きに気付かず、少し落ち着きを取り戻したカンダタは、再び語り始める。

 

 「〈ポルトガの勇者〉が討伐に乗り出したって聞いたから、なら任せとこうと思ってたのによ。あちらさん、それどころじゃなくなったらしくてな。

 ………それによくよく聞けば人攫いの奴等、あの巨悪国家とつるんでるらしいじゃねぇか」

 

 カンダタの持つ手綱がギシッと鳴った。

 

 「俺の名を騙ってあの国とだと? ……胸くそ悪い」

 

 舌打ち混じりの呟きに、スレイは目を眇める。

 

 「巨悪国家って、……サマンオサの事ですか?」

 

 アステルは問うがカンダタはそれには答えず、「そんな事より」と、逆に尋ね返してきた。

 

 「お前さんらは? あの店には偶然居合わせちまったのか?」

 

 「偶然と言えば偶然だが……」と、スレイ。

 

 「その〈ポルトガの勇者〉の代わりにアステルが盗賊討伐を依頼された」

 

 それを聞いたカンダタは複雑そうに顔を歪める。

 

 「おいおい。アステル嬢ちゃんは魔王退治の旅の途中だろ……。王族ってのは〈勇者〉を便利屋かなんかと勘違いしてんじゃねぇのか?」

 

 スレイもこれには同感だとばかりに深く溜め息を吐いた。

 

 「でも。知ってしまった以上、放っておくなんて出来ません」

 

 そう力強く言うアステルに、カンダタは楽しげに口の端を持ち上げた。

 

 「そういう所は親父さんそっくりなんだなぁ。あの人も『後悔するのは嫌だ』って、よく人助けをしてたわ」

 

 (そういえば)

 

 カンダタはオルテガとサイモンを知っているのだ。こんな事態でなければもっと彼らの話を聞けたのに。

 アステルは思わず唇を噛んだ。

 

 「しっかし。じゃあ、〈ポルトガの勇者〉が魔物の呪いにやられちまったって噂は本当だったか」

 「魔物やない! 魔族にやっ!!」

 

 激しくいきり立ったシェリルに、カンダタは怪訝な目で後方にいる彼女に振り返る。そんな彼にアステルは眉を下げた。

 

 「〈ポルトガの勇者〉はシェリルの幼馴染みなんです。……だから」

 

 「……そうか」と、カンダタは慮るような眼差しをシェリルに向けた。

 

 「無神経な事言って悪かったな」

 「へっ?」

 

 素直に謝るカンダタが予想外だったのか、シェリルは目を丸くする。それから慌ててフンッとそっぽを向いた。

 

 「私達〈ポルトガの勇者〉カルロスさんの呪いを受けたタイミングと、今回の騒動のタイミングが重なってるのが、気になってるんです。もしかしたら、エルフの里の時みたいに魔王の手先が関与してるんじゃないかって」

 「成る程な。まあ、それに関しちゃ奴等を縛り上げればわかる話だな」

 

 カンダタの言葉にアステルも頷いた。

 

 

 森の手前で三人目の連絡係がこちらに手を振っていた。馬を走らせたまま擦れ違い様に、子分の一人が連絡係の伸ばした手を掴む。馬上へと引き上げられた連絡係は素早く馬に股がった。カンダタは目線は前のまま、追い上げ、並走する連絡係に尋ねる。

 

 「奴等の動きは?」

 「へい。こちらの動きには気づいてません。ただ、途中で堅気っぽい男を捕まえて、連れて行きやした。そいつ、恐らく奴等の後を付けていたんだろうと……」

 「グプタだ!」

 

 タイガが叫ぶ。

 

 「拐われた仲間の嬢ちゃんを追っかけて行った奴か」

 

 カンダタにタイガは頷く。

 

 「あと、彼の婚約者も奴等に拐われている。その時にシェリルの親父さんも一緒にな」

 

 腹に回されたシェリルの手に力が籠ったのを、タイガは感じた。

 

 

 

* * * * * * *

 

 

 

 「ふんにゅ……」

 

 頬に当たる冷たく固い感触に、顔をしかめ、マァムはゆっくりと瞼を上げた。

 

 「……んにゅ? にゅわっ!!」

 

 起き上がろうとして、後ろ手に両手足を縄で固く縛られている事に気付く。しかも腰帯に差した魔封じの杖が背中でつっかえて体が起こせない。鋼の鞭はどうやら取り上げられたようだ。

 

 「おお……目ぇ覚めたか? マァムちゃん」

 「む……?」

 

 寝転んだまま、目線を声のした方に遣ると、壮年の男がほっとした表情でマァムを見ている。恰幅の良い体型に、額はつるりとしているが、後ろ髪は長く三つ編みしている特徴ある髪型。優しげに細める瞳は茶色(ブラウン)。彼も同じように拘束されている。

 マァムは彼を知っていた。何故なら。

 

 「シェリルのぉパパァ~~っ!」

 

 ぱっと瞳を輝かせ、マァムはうごうごと体を捩らせる。起き上がりたい、が、出来ない。はっと気がつき、マァムは寝転んだままコロコロとシェリルのパパ……エルトン=マクバーンの傍まで転がっていった。

 

 「大丈夫か?」

 「うんっ! でもぅ、パパのが血が出てるぅ……」

 

 エルトンの米神から顎に沿った血の痕に、マァムは「むぅ」と、顔を顰める。

 

 「ああ、大丈夫や。もう止まっとるからな。それよかマァムちゃんがここにおるっちゅう事は、うちのシェリルも近くにおるんか?」

 

 「うんっ! ……って、あれ?ここぉどこぉ?」

 

 マァムはきょときょとと目玉を動かす。

 一本の蝋燭の明りが辺りを照らす、そこは牢獄だった。マァムとエルトンの他に十人前後の娘達と、そして。

 

 「あぁ~~っ! グプタ~~っ!」

 

 傷だらけのグプタが縛られ寝転がされていた。気を失っていて、マァムの声に反応しない。

 

 「……あなた、彼を知ってるの?」

 「ふえ?」

 

 グプタのすぐそばに座る淡い栗色の髪の女性が、泣き腫らしたのであろう赤い目でマァムを見ていた。

 彼女は……他の女性達も。後ろ手に縛られてはいるものの、マァム、エルトン、グプタのように足までは拘束されていない。

 

 「うん。タイガのぉおしりあいぃ」

 「タイガ……? え? もしかして、あの、タイガ?!」

 

 驚き瞠目する女性に、「うん。たぁぶん、そのタイガぁ」と、マァムは寝転んだまま頷く。

 

 「あたしはぁ遊び人マァムだよぅ。あなたどなたぁ?」

 「あ、あたしはタニア。彼……グプタの婚約者なの」

 

 そう言ってタニアは殴られて腫れ上がり、血が乾きこびりつき始めたグプタの顔を、切なげに見詰める。

 

 「こんな……酷いっ、グプタ……!」

 

 触れたくても触れられない。そのもどかしさにタニアは泣き出してしまった。

 

 「むぅ~~……」

 

 寝転がったまま、眉根を寄せ唸るマァム。

 鉄格子の先にあるたった一つの扉が開いた。娘達は悲鳴をあげて身を寄せ合う。

 

 「おうおう。こりゃ意外と粒揃いじゃねぇか」

 

 現れた黄金の甲冑姿の盗賊達は、兜から覗く目元を厭らしくにやにやさせながらながら、牢獄の中にいる娘達を吟味するように眺める。その中に男二人が紛れ込んでいるのに、彼等の中で一際体が大きく、熊のような男が首を傾げた。

 

 「なんで野郎なんて浚ってきてやがる?」

 「へい。このおっさん、あのマクバーンでしたので……別口で金蔓になるかと……」

 「ほぉう……?」

 

 大男の覆面の二つ穴から覗く目玉が、大きく見開かれた。

 

 「ええ加減この縄ほどかんかいっ!」

 「いいや、駄目だ。あんたは油断ならねぇ。

 ただの金持ちデブかと思いきや、まさか武闘家崩れとはな。あんたが仲間を次々にのしてくれたお陰で、予定の半分も娘を拐えなかったんだからな」

 「世界を股に掛けるマクバーン商会の商人は戦えるんが必須条件や! その会長のワシが戦えへんわけなかろうが!」

 「そうだ、おっさん。その肩書きのおかげで命拾いしてる事を自覚しな。……五体満足で帰されたけりゃな」

 

 エルトンが悔しげにぎりりっと歯を食い縛るのを見て、盗賊達はせせら笑う。

 

 「ポルトガ王や副会長の息子から、身代金をたんまりせびってやらぁ」

 

 「むぅ? 変態さぁん?」

 

 首を傾げ、躊躇うようにたどたどしく問うマァムに、盗賊達の笑い声がピタリと止んだ。

 彼女の目の前にいる盗賊達は、以前出会った盗賊カンダタとその子分達と全く同じ格好をしている。

 しかし、このカンダタはあの時より体が一回り大きく、剥き出しの肌は何故か染料かなにかで真っ青に染めている。そして覆面やビキニパンツの色はどぎついピンク色。

 

 マァムは「ふむ」と、納得したように大きく頷く。

 

 「変態さぁんを上回る、スッゴォい変態さぁんキタァ~~っ!!」

 「こっ、このアマっ! 天下の大盗賊カンダタ様に向かって、なんて口ききやがるっ!!」

 

 甲冑姿の盗賊……偽カンダタ子分が慌てて怒鳴るが、それに怯む事なくマァムは目を釣り上げた。

 

 「あなた達はぁ、アステルとぉスレイにぃ優しいぃ変態さぁんとぉそのお仲間さんじゃぁないよぅ!

 本物の変態さぁん達はぁ、こぉんな悪い事しないもぉん!あなた達はぁただのぉすっごくカッコ悪い、スッゴォい変態さぁんだよぅ!!」

 

 〈変態〉を連呼するマァムに、偽カンダタ子分達は兜の下で口の端をひきつらせる。

 

 「このアマ、自分の立場わかってんのか?」

 「頭足りてないのか?」

 「……なら。調教が必要だろうなぁ」

 

 マァムを見る子分達の目が卑猥に歪みだした。

 

 「頭。これだけ娘を取っ捕まえたんだ。この失礼な女は俺らでやっちまって、別口の娼館にでも売りましょうや」

 

 偽カンダタの返事を待たずに、子分の一人が鉄格子の扉を開けて中に入った。鼻口から吐き出される息は荒く、マァムは「おえっ」と嫌悪感を露にして見せる。

 

 「いつまでその強がりが続くか、楽しみだぜ……」

 

 マァムのしなやかな肢体にいかがわしい手が触れられる直前、エルトンは身体を拘束されながらも、その間に倒れこんで割って入った。

 

 「邪魔だ、どけっ!!」

 「がっっ!」

 「パパぁっ!!」

 「キャアアッ!!」

 

 盗賊がエルトンの顎を蹴りあげ、マァムと娘達が悲鳴をあげた。

 

 「お前ら、待て」

 

 偽カンダタの轟くような低い声が部屋に響き渡り、子分達はびくりっと肩を大きく竦めた。前に進み出て、鉄格子越しにマァムを見下ろす。

 

 「……嬢ちゃんよ。今、スレイって言ったか? そいつぁまさか、銀髪の盗賊か?」

 

 マァムは頭を傾げる。

 

 「スレイ、知ってんのぉ?」

 

 偽カンダタは、にたりと嗤った。

 

 「ああ。とぉ~てもよく知ってるぜ。そいつはお前のなんなんだ?」

 「旅のぉ仲間だよぅ!」

 「ほぉ? で、そいつはお前を助けにここにやって来るか?」

 「むぅ? スレイだけじゃないよぅ。アステルもぉ、きっとあたしの事助けに来てくれるもん!」

 「……アステル? さっきも言ってたな。誰だ? そいつは」

 「聞いて驚けぇ! アステルはねぇ、アリアハンの勇者なんだよぅ!」

 

 縛られ転がされた状態で、自慢げにえっへんと胸を張るマァム。

 

 「マっ……マァムちゃん! あかんっ!」

 

 これ以上彼女を喋らせてはいけない。顎の痛みに顔を顰めながらも、エルトンは叫んだ。それにマァムは頭を傾げつつも、大人しく口をつぐんだ。

 

 しかし、偽カンダタは殊更優しい声音で「そうかい。そいつはすげぇな」と言い、立ち上がると牢に背を向けた。

 

 「……おい」

 「へっ……へいっ!?」

 

 擦れ違い様に放たれた強圧的な声に、彼の一番近くにいた子分は慌てて返事する。

 

 「アイツらを洞窟内に解き放て」

 「へ……? あ、アイツらをですかい?!」

 

 偽カンダタの命令にぎょっとする。

 

 「……そろそろ血肉を求めて騒ぎ出す頃合いだ。 

 〈白銀の疾風〉様と、〈アリアハンの勇者〉様とやらが相手なら充分満足するだろうさ。

 それとお前ら。あちらさんは一人でも多くの生娘を御所望だ。死にたくなけりゃ女には手は出すなよ」

 

 子分達に念押し、偽カンダタは一人、牢の空間から出た。

 

 その眼は好戦的にぎらぎらと燃え、覆面で隠れた口元は不敵に弧を描いていた。

 

 

 

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