長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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荒ぶる魔力 千早振る聖力①

 

 

 ───時は一旦、アステル達が殺人鬼と遭遇する少し前まで遡る。

 薄暗い牢獄の中で、治癒の呪文の白い光が辺りを照らす。マァムはエルトンの治療を続けるシスターの手を、胡乱な目で見つめていた。

 

 「どうかしましたか?」

 

 首を傾げるシスターに、マァムも首を傾げて尋ねる。

 

 「なんでぇ、ずぅっとホイミかけてるのかなぁって。もうとっくにぃ治っ……」

 

 てるのに』と続くはずの言葉を、シスターの細く長い人差指がマァムの桃色の唇を軽く押さえて止めた。エルトンは慌てて目玉だけ動かし盗賊達を盗み見る。しかし彼等は酒に酔いしれ、雑談に夢中で今のは聞こえていなかったようだ。

 ほっと息を吐くエルトンに、微笑むシスター。マァムは先程とは逆の方向に頭を傾げた。

 

 「これはここを出る為の作戦です」

 「ここを出る為の作戦」

 

 密やかに言うシスターに、マァムも声を潜めおうむ返しする。

 

 「ですから、秘密です」

 「秘密」

 

 瞳がきらんと輝くマァムに、シスターはくすりっと笑う。……と、彼女はマァムの背中に差さる不気味な杖の存在に気付いた。

 

 「あなた……」

 「マァムだよぅ」

 「マァムさん。あなたの背中にある杖は、もしや……」

 「ぬ? ……ポルトガのぉ王さまから貰ったぁ、魔封じの杖だよぅ。鋼の鞭は取られちゃったけどぉ、なんでかこれだけは取られなかったのぉ」

 

 シスターに負けじとマァムもひそひそと話す。

 

 修行の地ダーマ神殿にある歴史書にて、この杖の存在とその効果を知っている。この杖は使用者に危害は加えない。しかし、その見た目の悍ましさからか、盗賊達は触れる事に臆したのだろう。

 臆病なくせにふんぞり反っている彼等を見て彼女は薄く笑った。

 

 「……ですが、これもまた神のお導き」

 「ふえ?」

 「突破口が見えました」

 

 マァムとエルトンは顔を見合わせた。

 

 

 「うっ……」

 

 「グプタっ!? しっかりして! グプタっ!!」

 

 身動ぎしだしたグプタに、タニアは慌てて呼び掛ける。やがてその瞼はゆっくりと開かれ、涙を浮かべながらも安堵して微笑む恋人の顔が映りこむと、彼はカッと目を見開いた。

 

 「タニア……っ?」

 

 起き上がり、彼女に手を伸ばそうとするも、できない。改めて自身を見下ろすと、手足が縄で固く縛られている事に漸く気づいた。

 

 「これは……!」

 「あ~~っ! グプタが起きたぁ~っ!」

 

 明るいその声に目線を遣ると、同じく拘束されたマァム。その姿を見て途切れる前の記憶が覚醒する。

 

 「……そうだ。僕は君を追って……途中で奴らに見つかって……」

 「……気ぃついたか? グプタ君」

 「エルトンさん! 御無事で……」

 

 グプタが叫ぼうとした その時。 

 頭上からドスンっ! という、音と衝撃がこの地下空間に響き渡る。囚われた娘達は悲鳴を上げて身を寄せ合い、残る者達は眉根を寄せ、落ちてくる砂ぼこりを気にも止めず、天井を見詰める。

 やがて揺れは治まり、その後に聞こえたのは獣のような、雄叫び。

 

 「アイツら、この洞窟壊しちまわねぇだろうな……」

 

 見張りの盗賊達も酒を呑む手を止めて、おっかなびっくり天井を見上げている。

 

 「……始まったようですね」

 

 静かにそう呟くシスターに、エルトンは頷く。

 

 「では、こちらも始めましょうか」

 

 シスターの頭に被るベールが風に揺れた。

 

 「───バギ」

 

 ぼそりと呟いた初等真空呪文は、牢屋の中に小さな風を巻き起こす。微妙に調整された鎌鼬(かまいたち)は、囚われた者達を縛る縄だけを切り落とした。

 

 「てめぇ! なにしてやがる!」

 

 盗賊達が牢屋の異変に気づき、慌てて立ち上がる。

 

 「落ち着け。牢の中なら問題ない。あの鉄格子は、あらゆる呪文を跳ね返す呪術反射呪文(マホカンタ)の魔力が込められた特注品らしいからな」

 

 古株の盗賊が言う。この牢獄の洞窟の最下層の牢屋は恐らく、そういった呪文を扱える厄介な罪人の為に造られたのだろう。

 

 「こちらや鉄格子に呪文を唱えようものなら、そのまま奴らに跳ね返るだけだ」

 

 それを聞いた若い新入り盗賊はひゅうっと息を吐き、冷や汗をぬぐうと鉄格子に近付いた。

 

 「びびらせやがって。無駄な足掻きだったようだ………なぁああああっ!?」

 

 鉄格子越しにぬっと現れた小さな骸骨と目が合い、新入りは情けない悲鳴を上げ、尻餅をついた。

 骸骨の飾りの付いた杖を持つ娘は、悪戯が成功したとばかりに満面の笑みを浮かべる。先端の骸骨も馬鹿にするようにカッカッカッと顎を鳴らして嗤っていた。

 

 「てっ、てめえっ!!!」

 「いっくよぅ~~~っ!!」

 

 ───マァムは大きく杖を振りかざし

 

 「そぉぉぉれっ!!!」

 

 ───下ろした。

 

 骸骨は妖しい霧を吐き出す。呪文を無効化する霧は空間を充満し、そして消える。

 間をおいて甲高い金属音が地下空間に響き渡った。

 

 「なっ、なんだっ! この音はっ!? お前一体なにしやがった!??」

 

 にっこりと微笑んだマァムは盗賊達の問いには答えず、すっと横にずれる。その後ろには手を交差させ、瞼を閉じたシスターの姿。彼女は瞼を上げると、ばっと(かいな)を広げると共に、高らかに叫んだ。

 

 

 「───中等真空呪文(バギマ)っ!!!」

 

 

 先程とは比べようのない大きな鎌鼬が、鉄格子をバラバラに切り裂く。

 

 「なっ、なにぃっ!?」

 

 カラ、カランと、音をたてて落ちる鉄格子の破片。大きく空いた隙間から、二つの影が飛び出す。  

 マァムが杖で殴り、エルトンが体当たりをかます。見張りの盗賊四人のうち、二人はあっという間に失神させられた。

 

 「おいっ! なんであの娘は杖を持ってるんだ!? なんで武器を全部取り上げてない!?」

 「いや、その、あの杖、気味が悪くて……まさか、あんな力があるなんて……」

 

 流石に動揺する古株盗賊に、新入り盗賊もしどろもどろ答える。

 

 「賭けでした」

 

 二人の言い合いを凛とした声が遮る。

 

 「唱える呪文が効かない。ならば、道具の呪文効果でなら看破できるのでは、と」

 

 シスターはゆっくりと鉄格子をくぐり、震え上がる二人の盗賊の前に立つ。

 

 「安心してください。わたくしは人に攻撃呪文を向けた事は一度もございません」

 

 彼女は穏やかに微笑んで、手を翳す。

 

 「睡眠誘発呪文(ラリホー)

 

 抗いがたい眠気が二人を襲う。

 

 「使……ってんじゃ、ねーか……」

 

 古株盗賊が悔しげに言い残し、先に眠りに落ちた新入り盗賊の上に被さって鼾をかきだす。

 それを見てシスターはくすりと笑った。

 

 「使ってはいませんよ? 人に攻撃呪文は。……戦闘補助呪文は別ですけどね」

 

 

 「じゃああたしぃ、ちょっくらアステルんとこ行ってくるぅ~~!」

 「ちょっ、待ち! マァムちゃんっ!!」

 

 グプタと共にその場にあった縄で気絶する盗賊達を縛るエルトンは慌てて止めたが、ぴょんぴょん跳ねて立ち去るマァム。

 その後ろ姿をシスターは見送る。

 

 (……そう、賭けでした)

 

 呪文効果のある魔道具。その魔力を最大限引き出せるのは、やはり強い魔力を備えた持ち手あってこそ。ここは偉大なるダーマ、その出身の魔術士の力を借りて造られたと云われる洞窟。

 百年以上経った今も衰える事なく宿した鉄格子の魔力を、いとも容易く打ち破るあの魔力。

 

 (……いいえ、彼女のあれは)

 

 

 「……聖力」

 

 

 

* * * * * *

 

 

  

 「アイツらをこんな短時間で倒しちまうたぁ、大したもんだぜ」

 

 地下へと続くであろう階段から、黄金の甲冑を纏う手下を十人程率いて現れた偽者のカンダタは、芝居がかった態度で一行を称賛する。殺人鬼と同じ格好をし、手には斧をもった大男。

 違う箇所をあげるとすれば、彼らより奇抜な色を纏い、そして彼らにはなかった〈理性〉が見えるところか。

 

 「その格好で好き放題してやがるのは、てめぇか」

 

 カンダタの低く轟くような声に、大男はくくくっと押し嗤う。

 

 「……拐った娘の話では、〈白銀の疾風〉と〈アリアハンの勇者〉が助けに来るとか言ってたが、まさか〈本物のカンダタ〉まで現れるとはなぁ」

 

 〈本物のカンダタ〉

 

 素顔の彼を見てそう言った大男に、カンダタとスレイは眉をひそめた。拐った娘という言葉にアステルはゾンビキラーを、シェリルは魔法のそろばんを大男に向けて構える。

 

 「マァムは、拐った人達はどこですか?」

 「無事なんやろうなっ! 傷ひとつでも付けてたら容赦せぇへんでっ!!」

 「勇ましい嬢ちゃん達だな。安心しな、娘達は無事だ。大事な商品だからな。あとついでに拐った野郎共は多少は傷ついちゃいるが、死んでねぇよ」

 

 シェリルの武器(そろばん)を持つ手が怒りに震え、そろばんの珠がカチカチと鳴る。

 

 「……ところで、アステルってのはどいつだ?」

 

 「私です」

 

 凛然たる態度で返事をしたアステルに、大男は覆面の二つ穴から覗く榛色の目を丸くし、それからハハハハッ! と大声で笑いだした。

 

 「名前だけじゃ男か女かわからんかったが、まさかこんな小娘が勇者とはなぁ」

 「……私も質問があります」

 「どうぞ?」

 「あの人型の魔物達は一体なに? どうしてあなた達は彼らを操れるの?」

 「奴らはお得意先から押し付けられた、()る大陸で(いくさ)用に調教された人型の魔物だ。俺も詳しくは知らんが、自分より弱い魔物なら従わせる事が出来るってんで番犬代わりに引き受けた。基本飼い主に牙は向けねぇよう仕付けられてんだが、定期的にエサや娯楽を与えんと暴走する。

 そろそろその時期だと思ってた所にあんた達が来た……ってわけだ」

 

 (あの狂気を治める為のエサと娯楽)

 

 惨殺されたという集落の話を思い出し、胸苦しさと表現し難い怒りが込み上げる。アステルはまなじりを上げ、目の前の大男を睨んだ。

 

 「そのお得意先は人だけじゃなく、魔物まで売り買いしてるって言うの?」

 「そう珍しい話じゃないだろう? ロマリアじゃあ、魔物達を飼い慣らせて賭け事に使ってる。そんなにあの魔物と俺達の取引先の事が知りたいなら、拐った娘達と一緒にあんたも連れてってやってもいいぜ? ……勇者さんよ」

 

 そう言いながら偽カンダタは、アステルを爪先から顔まで、ゆっくりと舐めまわすような目で眺める。

 

 「幼いが見目は好い。男をまだ知らんのなら尚の事いい。きっとあちらさんにも喜ばれるだろうよ」

 

 向けられ慣れない色情を帯びた視線が気持ち悪く、アステルは顔をしかめる。ふいに彼女の目の前に見慣れた黒い背中が現れ、その露骨な視線を遮った。

 アステルを守るように前に立つスレイに、大男は「おっ?」と、面白げに声を漏らす。

 

 「まさかてめぇが〈アリアハンの勇者〉の旅の供をしてるたぁなぁ。一番有り得ねえ組み合わせだろう? ……スレイ=ヴァーリス」

 

 (有り得ないってどういう意味?)

 

 単純に勇者と盗賊が旅を共にしているのがおかしいと言いたいのか。

 アステルは心うちで首を傾げると、

 

 「っ……!?」

 

 ピリッ、と頬を切るような冷気を感じた。

 アステルは思わず頬に手を当てすぐ目の前の背中を見た。しかし彼からは特段変わった様子は見られず、その一瞬の出来事は自分以外は誰も、気配に聡いタイガですら気付いていないようだった。

 

 (気のせい………?)

 

 「……通り名はともかく」と、スレイ。

 

 「オレやカンダタの素性や素顔を知っている奴は仲間を除いてほぼいない。……それを知っているお前は何者だ」

 

 苛立ち常時より一段低いその声でスレイが問いつめるも、大男は余裕綽々、両手をあげて大袈裟に溜め息を吐く素振りをしてみせる。

 

 「まあ確かに。……本物を目の前にして、こんな格好を何時までもしてちゃ滑稽だよなぁ」

 

 そう言って大男は自ら覆面マントをむしり取り、床に落とした。スレイは琥珀の瞳を見開き、息を呑む。

 現れたのは頭部の左右を丸刈りにし、中央部分だけ髪を残してる独特な髪型。眉を剃り落とした厳ついその顔の肌も青く染められ、不健康な紫色の唇が弧を描いた。

 

 「……てめぇ、シュウか?」

 

 カンダタが訝しげに眉を寄せてそう呟き、その名を聞いたカンダタ子分達はざわつく。

 

 「あんたに一番に気付いてもらえるだなんて、感激だぜ。お頭」

 

 シュウと呼ばれた男は、感情の籠っていない声で言った。

 

 「シュウ?」

 

 タイガがその名を呟くと、彼の傍にいた少し年嵩のいったカンダタ子分が渋い顔で説明する。

 

 「カンダタ盗賊団の一員だった男でやす。

 ……けんど、五年前に仲間を売って飛び出したっきり、行方知れずになってたんでやすが、まさかお頭の名を騙って暗躍してるたぁ……」

 

 「仲間を……?」とアステル。

 

 年嵩のいった盗賊は目線だけちらりと彼女の傍に立つ銀髪の青年に向け、再び前にいる大男に戻す。

 

 「……それより。あの変わりよう尋常じゃねぇですぜ」

 「というと?」

 「シュウはもっと穏やかな顔付きで、背丈はあったがモヤシみたいにヒョロヒョロで戦う力もありゃしない。うちにいた時はもっぱら裏方の雑用ばっかやってやした」

 「嘘やんっ!」

 

 シェリルが思わず突っ込む。それもそのはず。彼女が指差す筋骨粒々の厳つい大男は、どこからどう見ても穏やか・モヤシなどという表現からはかけ離れている。

 

 「……だから、みな驚いとるんですよ」

 

 溜め息交りに子分は言った。

 

 「シュウ」

 

 カンダタが大男に声をかける。

 

 「お前、その姿は一体どうした?」

 「あんたから切り捨てられた事で得られた姿ですよ」

 

 そう言いながら、巨大な斧を片手で軽く振り回して、その怪力をカンダタや元仲間達に誇示して見せる。

 

 「この姿で動けばいつかあんたがやって来ると思ってた。あんなに尽くした俺をあっさり切り捨てたあんたを見返してやる為に……そして」

 

 くるくると回していた斧の柄をがしっと掴み、視線を横にずらしてスレイを睨む。

 

 「切り捨てる原因となったてめえに復讐する為になぁ!」

 

 手にある斧をスレイ目掛けて真っ直ぐに投げ放った。スレイは後ろにいるアステルをタイガの方へ突き飛ばし、自らも横へ飛んで避ける。

 放物線を描いて再び襲ってくる斧を今度はしゃがんで避ける。ぱしっと斧を受け止めたのは、スレイとの間合いを一気に詰めたシュウだった。シュウが斧を振り翳す。

 スレイは腰ベルトに納まるドラゴンテイルを抜き出して、シュウの足首目掛けて凪ぎ払うと、シュウはそれを跳躍してかわした。

 その間にスレイは体勢を立て直し鞭を二撃、三撃と振るう。シュウはそれを全て斧で弾く。その背後に回るのはカンダタ。

 肩目掛けて振り下ろした戦斧を、シュウは振り向き様に受け止める。

 ガンッと交差する重い金属音が広い空間に鳴り響いた。

 

 一方、シュウの後ろに控えていた黄金達も動き出し、頭領の因縁の対決を邪魔させまいと、アステルや子分達に襲い掛かる。

 剣が、鞭が、投擲が、交差し火花を散らす。

 

 「───防禦衰退呪文(ルカナン)!」

 

 青の光がアステル達にまとわりつく。黄金甲冑の一人が唱えたそれは、集団の守りの力を著しく低下させる呪文。

 この呪文を受けた者はちょっとした軽傷も重傷へと転じてしまう。

 

 「こいつっ!」

 

 シェリルは術者の腹に、魔法のそろばんを打ちすえ黙らせた。が。

 

 「───中等治癒呪文(ベホイミ)!!」

 

 別の黄金甲冑が唱えた治癒呪文の白い光が、動かなくなった黄金甲冑を包み込む。光が止むと負傷した甲冑はなにもなかったかのようにむくりと起き上がった。

 

 「ベホイミまで!?」と、アステル。

 

 更に別の方向からもルカナン、ベホイミの呪文を発する声と光。

 

 「まさか、こいつら全員呪文が使えるんかいなっ!?」

 「アステル、シェリル、この呪文は厄介だ。敵の頭はスレイとカンダタに任せて、俺達は盗賊達と協力して甲冑達を先に倒そう」

 

 タイガの言葉にアステルとシェリルは頷いた。

 

 カンダタとシュウの戦斧での拮抗した戦いは続く。度重なる打ち合いで、カンダタはニヤリと笑った。

 

 「俺の攻撃を避けずに真っ向から受け止めるたぁ、そこは誉めてやらぁ」

 「そりゃ光栄ですぜ。……お頭」

 

 ────〈お頭〉。その言葉にカンダタは渋面を浮かべる。

 シュウはカンダタの腹目掛けて蹴りをはなつ。彼はそれを後ろに跳んで避けると、入れ替わってスレイが飛び出す。左手にアサシンダガー、右手の刃のブーメランも短剣のように扱う。両手の武器を素早く巧みに繰り出し、斧を振り上げる隙を与えない。

 

 「相変わらず、器用な奴だなぁ。スレイ」

 

 気安く呼ばれ、スレイは怪訝な面持ちで榛色の目を見た。

 

 「そういえば、さっきのツラは傑作だったなぁ。そんなに大事か? 〈アリアハンの勇者〉の娘が。なぁ? スレイ?」

 「……黙れ」

 

 低く短い声の中に、明らかな苛立ちを見つけると、シュウは嗤う。

 

 「健気だよなぁ。父の遺志を継ぎ、女の身で魔王討伐の旅たぁ。泣かせるよなぁ? あんなに可愛い顔してんのによぉ」

 「黙れと言ってる!」

 

 スレイはアサシンダガーを、シュウの斧を持つ手首目掛けて閃かせる。

 

 「偉そうに指図してんじゃねぇよ。誰のせいで今あの娘が〈勇者〉やってんだよ?

 ……世界と勇者を裏切った大罪人の……」

 

 最後に低く、周りが聞き取れぬ程低く囁いたその言葉に、スレイの切れ長の瞳はこれでもかという程大きく張り、完全に動きを止めた。

 シュウはほくそ笑み、斧で棒立ちしている彼の持つアサシンダガーと刃のブーメランを弾いた。

 

 「スレイっ!? 何してやがるっ!!」

 

 カンダタが叫び、走る。その声のただならぬ雰囲気にアステルも、シェリルも、タイガも、子分達もそちらを見た。

 

 「……良い事思い付いたぜ? 安心しな。あの娘の魔王討伐の旅はここで終わりだ。てめえを殺った後は、あの娘は俺がよぉく可愛がってやるよ。

 手元に置いて死ぬまでな」

 

 シュウは硬直する銀色の頭に斧を振りおろす。

 

 「スレイッ!!!」

 

 

 アステルの悲鳴が洞窟内に響き渡った。

 

 

 

 

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