長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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旅立ち

 

 

 アステルは重そうな金貨袋をテーブルの上に置いた。

 

 「一万ゴールド入ってるの」

 「うっひゃぁ!!」

 

 もろ手を上げ大袈裟に驚くマァム。

 

 「なんや? 国王様からの激励金か? 随分太っ腹やなぁ」と、シェリル。 

 

 「それもあるけど。これは前払いされた依頼の報酬」

 「やっとアリアハンは〈旅の扉〉を開放する気になったか。旅人には吉報だな」 

 

 王の英断に感心するように言うスレイ。

 

 「開放するのは私達なんだけどね」

 

 アステルは苦笑を浮かべた。

 

 「だが、近頃海の魔物が手強くなってきてるからな。特にアリアハン近海は命懸けだ。船賃もそれに見合った額になる。ロマリアまで五人となると、その一万でも足りないくらいだ」

 

 スレイの言葉にシェリルも「うんうん」と頷く。

 

 「(おか)の魔物はスライムやら一角兎(いっかくうさぎ)やら大鴉(おおがらす)やら、可愛いもんなんやけどなぁ。西大陸やポルトガ行ったら、厄介な呪文使う魔物がわんさかやで?」

 

 アリアハンに生息する魔物の強さは、諸外国のものと比べれば取るに足らないものだという話は、大陸を出た事のないアステルでも小耳に挟んでいた。

 それでも。戦いと無縁の人間にとっては、どんな魔物でも脅威である事にかわりはないが。

 

 「……それで。その〈旅の扉〉の封印を解く手掛かりはなにもないのか?」

 

 尋ねるスレイに、アステルは首を力なく横に振る。

 

 「王様が、その方法を探すのも含めての依頼だって」

 「まぁる投げ~~~!!!」

 

 マァムがぷぅと頬を膨らました。

 

 「俺が世話になってる宿屋での話なんだが」と、タイガが手を挙げた。

 

 「隣の部屋の奴がやたらうーうー唸って、煩かったから事情を聞いたんだ。そしたら、海を越えて大陸へ渡る為に〈旅の扉〉の封印を開くという〈魔法の玉〉ってやつを手に入れたそうなんだ」

 「えっ!?」

 

 アステルは思わず立ち上がる。しかしタイガは肩をすくめ、

 

 「けど、不注意で落として、爆発して大怪我をしたって」

 「えっ……」

 

 アステル、スレイ、シェリルはそのオチに思わず目が点にになる。

 

 「キャハハハハ! ドォ~ジィ~~~!!!」

 「こら。マァム」

 

 うん。ドジだ。

 でも他人の不幸事を笑っちゃいけない。タイガはマァムを嗜めた。

 

 「魔法いうより、爆薬やな。それ。ちょっと興味あるわ」

 

 未知のアイテムにシェリルはウキウキする。

 

 「けど、ただ物理的な爆発だけをする物じゃないだろ。並みの衝撃じゃ、どうにもならない封印らしいからな」

 

 スレイの言葉に、さらにワクワクしだすシェリル。

 

 「タイガ。どこで手に入れたか聞いてる? まさか、それ一個きりなんて事は……」

 

 不安気に聞くアステルに、タイガが力強く頷く。

 

 「確かレーベって名の村で作って貰ったって聞いたから大丈夫だと思うぞ?」

 

 シェリルはアリアハン大陸の地図を鞄から取り出し、テーブルに拡げた。

 

 「ここがアリアハン城下町。んで、レーベはここ。こっから西北にある村。……ここや」

 「地図で見る限りでは、徒歩で二、三日ってとこか。魔物に襲われなければの話だが」

 

 シェリルの指先を覗きこんでスレイは言う。

 

 「じゃあ、最初の目的地はレーベね。……って言っても、今日はもうお昼過ぎちゃったし、出発は明日の朝にしようか」

 「そういえば昼飯食い逸れてしまったな……」

 「お腹ぁ空いたぁ~」

 「ウチもや。ギリギリまで仕事してたさかい」

 「もしかしてスレイも?」

 

 アステルの問いかけにスレイは頷く。

 

 「昼前にアリアハンに到着して、すぐルイーダの酒場に来たからな。ここで済ませるつもりだったし」

 

 「なら、皆うちに来て」

 

 アステルはニッコリと笑い、席を立った。

 

 

* * * * * * *

 

 

 まだまだ多くの客で賑わっている酒場から、マァムの案内で裏口よりこっそり外へ出る。

 アステルの生家はルイーダの酒場を出て、通りを挟んだ向かいにある、煉瓦造り二階建ての家だった。

 

 「あらあらまあまあ。みんないらっしゃい。アステルはおかえりなさい」

 

 母エリーゼは若く美しく、アステルと並ぶとまるで姉妹のよう。アステルは顔立ちは母親似、髪の質や瞳の色は父親譲りなのだろう。娘の瞳は瑠璃色だが、彼女の瞳は海松色(モスグリーン)だった。

 茶色(ブラウン)がかった艶やかな長い黒髪は一つに束ね肩に流し、青いワンピースに白いエプロンが良く似合っている。

 

 「エリーゼさん、いつ見ても若いなぁ。成人の娘がいるやなんて思えへんわ」

 「お肌つやつやぁ~髪綺麗ぃ~! うらましいぃ~!」

 

 シェリルとマァムは感嘆の溜め息を漏らす。エリーゼはフフフッと笑い、

 

 「アステルは私が十六の時に出来た子ですからね」

 「母さんが成人したらすぐ結婚したんだよね」

 「でないと、安心して旅が出来ないって父さんがね……」

 

 玄関先で惚気だす母親をアステルは慌てて止める。

 

 「母さん、皆お昼食べてなくてお腹ペコペコなの。良いにおいしてるけど、ご飯出来てる?」

 

 そういえば香ばしいスパイスと肉の焼いた薫りが家の奥から漂っている。

 タイガの腹が 盛大に鳴り、続けてマァムのお腹が可愛いらしく鳴る。タイガは照れくさそうに頭を掻き、マァムはお腹を抱えた。

 

 「すまない……」

 「お腹ぁ~空いた~……」

 「あらあらまあまあ」

 

 エリーゼは口に手を当て、それからふわりと微笑んだ。

 

 「ごめんなさいね。勿論準備出来てるわよ」

 

 

 「───お爺ちゃん、ただいま」

 「うむ」

 

 リビングキッチンにある六人掛けのテーブルの家長席には、すでにアステルの祖父オルガが座っていた。

 

 「こんちわ~~お邪魔します大旦那」

 「おじいちゃ~~ん! こぉんにちわんっ!」

 「お邪魔します。旦那」

 「うむ、よう来たな。マァム。シェリルにタイガよ。……む? そちらさんは初めてじゃな?」

 「……はじめまして。スレイ=ヴァーリスです。お邪魔します」

 

 スレイはオルガに向かって頭を下げた。

 

 「今日知り合ったの。旅の仲間だよ」

 「ふむ。わしはアステルの祖父のオルガじゃ。これから孫を宜しく頼む」

 「さあさあ、皆さん。空いてる席に座ってくださいな」

 

 テーブルには所狭しと料理が並んでいた。

 鶏丸々一羽使ったローストチキンと大きなチーズケーキを中心に、ミートローフ、サラダ、コーンスープに、鱒の香草焼き、ガーリックの薫りが香ばしい焼きたてのバケットとふわふわのパン。ジュース、ワインも並んでいる。

 

 「ふわわわぁ~~~!」

 

 マァムは頬に手を当てて、目をキラキラ輝かす。

 

 「うひゃあ~~! エリーゼはん随分張り切らはったな! 今日はアステルの誕生日やからなぁ」

 

 「今日が誕生日?」と、スレイ。

 

 「うん。成人になったその日に、勇者になるって決めてたんだ」

 

 はにかんで頬を薄紅に染めるアステル。

 

 「ほれ、皆ちゃっちゃとグラス持って! 大旦那とタイガとエリーゼはんはワインで良いな。スレイもイケる口か?」

 「ああ。もらう」

 「マァムはジュースぅ!!!」

 「はいはい。ちゃんと用意してありますよ」

 「アステルも大人になったんだ。一杯試してみるか?」

 

 タイガがワインを差し出す。

 

 「えーと……それじゃあ、一杯だけ」

 

 「皆、準備いいな? ……ほんじゃ、アステル十六歳の誕生日おめっとうさん!!」

 「お~めでとうぅ!!! アステルぅ!!!」

 

 シェリルとマァムの音頭に皆高くグラスを掲げた。

 

 

 

 

 「───う?」

 

 幼い頃、父から貰ったシロクマのぬいぐるみと目が合った。アステルは自室のベッドの中にいた。添い寝するようにころりと横になってたシロクマを抱き上げ、枕脇の定位置に座らせて辺りを見回す。

 すっかり日は落ち、窓の外の三日月がこちらを覗き込んでいた。

 首を傾げ自分を見やる。マントとチュニックは脱いで洋服かけにきちんと掛けられ、今は寝巻姿だ。咽の乾きを強く感じ、ベッドから降りると机の上にはちゃんと水差しとグラスが用意されていた。咽が潤ったら、頭がはっきりしてきた。

 アステルは二階にある自室から出ると、丁度ベランダから鍵のかかった窓を音をたてずに開け、家に侵入しようとする影が見えた。泥棒かと思いきや、それはスレイだった。

 スレイの方も、すぐアステルの視線に気づく。

 

 「目が覚めたのか? アステル」

 「何してるの? スレイ」

 

 不審な行動をしてるスレイに、アステルは思わず半眼で問い返す。

 

 「ちょっと用事があったから出掛けてた」

 「玄関から出たら良いのに。泥棒みたいだったよ」

 「起こすのがしのびなくてな。……ところでなにがあったかちゃんと覚えてるか?」

 「え」

 

 含笑いを浮かべるスレイにたじろぎつつ、アステルは記憶が曖昧になる前までを思い起こした。

 

 

 皆が祝ってくれた。暖かく会話も弾んだ。

 母エリーゼが腕を振るったアステルの好物ばかりの御馳走と、初めて飲んだお酒は堪らなく美味しく、一杯だけのつもりが、あの後、何杯もおかわりをしてしまった。

 気がつけばすっかり日は暮れ、エリーゼはタイガとスレイに今夜は泊まるよう勧めたが、タイガは宿でも送別会を開いてくれるらしいから戻ると言い、そしてスレイにおそらく宿は満室だから、ここで世話になると良いと勧めたのだ。

 そうして彼は、お腹いっぱいになって眠ってしまったマァムを、ついでに酒場まで送ると背負い宿に戻った。

 シェリルもここに泊まりたいと懇願したが、エリーゼに「今夜は家族の元に帰りなさい」とにっこり笑顔で言われて、しぶしぶ帰っていった。

 

 

 (そうだ。スレイと皆が帰るのを見送った後、急に目が回って、力抜けて……)

 

 その後の記憶が全くなく、アステルは両頬を手で押さえた。

 

 「酔っても顔にでないんだな。いきなりぶっ倒れるから流石にびびった」

 「……私、倒れたの?」

 「いや、ちゃんと支えた。痛い所はないだろ? で、潰れたお前を部屋まで運んだ。着替えさせたのはお袋さんだ」

 

 彼を見上げていたアステルの青ざめた顔が、羞恥でみるみる赤く染まる。その様が面白かったのかスレイはくつくつと笑った。

 

 「ご、御迷惑おかけしました」

 「いいや? 旅立ちの前にいい勉強になったんじゃないか?」

 「もうお酒飲まない」

 

 ぽつりと漏らした少女の決意に、スレイは吹き出し、肩を震わせた。

 

 「……で! スレイはこんな時間にどこに出掛けてたの?」

 

 いつまで笑ってるんだと言わんばかりに眦を上げるアステルに、スレイは軽く咳払いをする。

 

 「ああ。盗賊ギルドで買い物してた。この時間にしか開いてないんだ。アステル、手を出せ」

 

 言われたまま差し出すと、スレイは白いふわふわした毛玉の飾りを置いた。

 

 「〈うさぎのしっぽ〉……って、待て待て。本当に兎からもぎ取った尻尾じゃないから捨てるな」

 

 思わず放り投げようとしたアステルの手を、スレイははしっと掴む。

 

 「そうなんだ。紛らわしい名前」

 

 アステルは改めてもふもふと握りながらそれを眺める。

 

 「幸運の御守って西大陸の娘達の間で、流行ってるって聞いたんだが。アリアハンではないのか?」

 

 アステルは頷き、雪のように白く、そして柔らかい手触りを熱心に楽しんでいる。

 

 「私は初めて見るけど……」

 

 頬を染めふわりと微笑むアステルに、スレイはぼそりと呟く。

 

 「そういう所も変わらないな」

 「? なんか言った?」

 

 アステルの質問には答えず、スレイは柔らかく笑った。

 

 「……やる。誕生日プレゼントだ。ソイツに護って貰え」

 「え?」

 「じゃあ、オレも休ませてもらう。おやすみ」 

 

 思わぬ贈り物に呆気に取られるアステルをベランダに残し、用意された部屋にスレイは戻る。

 

 「えっ? ちょっ、ありがとう!」

 

 片手を振って応え、彼は用意された部屋に消えた。

 アステルは手の中にある〈うさぎのしっぽ〉に付いてるリングを持ち上げて、掲げ見る。夜空を背景にゆらゆらと左右に揺れる、白いふわふわ。

 

 「幸運の御守り……か。可愛い」

 

 どこにつけようかなと、アステルは微笑んだ。

 

 

* * * * * * *

 

 

 薄暗く、夜が明けきらぬ時分にアリアハン一の豪邸から出かける娘の姿があった。

 

 「ほな、行ってくるでぇ~~」

 「待たんかい! シェリル! 話はまだ終わっとらん!」

 

 足早に歩く娘シェリルを、父エルトン=マクバーンはその恰幅の良い体と後ろ髪の三つ編みを揺らしながら、追いかけた。

 

 「お前と勇者殿の為にわざわざバハラタ行きの商船の出航を、今日に延ばしたんやで! なのに、急に乗らんって……!」

 

 シェリルはぶすっとエルトンに振り返る。

 

 「だぁかぁらぁ! 昨日から言ぅとるやん。王様から〈旅の扉〉復活の命令承けたから予定変更になったって。親父は王様に歯向かえゆうんか?」

 「せやけどなぁ! こんなに早よう別れるやなんて! わしはお前が心配なんや! わしが目離した隙に、お前の姉リシェルみたいにお前がなるんやないかと心配で、心配で!! 名前か!? 似た名前つけたんがあかんかったんか!? あの頃は可愛いらし思うて、付けたんや~~っ!!!」

 「いや、姉貴みたくはならんから。ウチ堅実に生きたいし」

 「魔王退治に行くんの何処が堅実やぁ~!」

 

 半眼できっぱりとそれを否定するシェリルに、エルトンは泣き叫ぶ。

 

 「ま、ま、ま……とりあえずはこのアリアハンとロマリア周辺うろうろするだけなんやから。船旅より全然安全やん」

 「そやけど……そやけどなぁ~!」

 「ちゃんとポルトガの実家にも寄るから。───……多分」

 「多分やない! 絶対や!! 死んだおっかさんにも約束しぃや!!!」

 「わぁったから! もおっ! 遅刻するさかい行くで!!」

 

 「絶対やで~~~っ! 」と、叫ぶ父の声を背にシェリルは溜め息を吐きながら、歩いた。

 

 (……近所の皆さん朝っぱらからうるさぁしてすんません……)

 

 心の中で近隣住民に謝罪するシェリルの耳に、咽の奥で笑う声が入ってきた。

 

 「タイガ……」

 「くくっ……おはよう。すまんな。立ち聞きするつもりはなかったんだが」

 「おはよーさん。……えーよ。別にもう」

 

 街路樹の影から現れた旅の同行者の男に、シェリルは溜め息交りで挨拶を交わす。

 彼に近寄ると、強い酒の匂いがした。

 

 「なんや? めっちゃ酒の匂い残っとるやんか。あの後もまた飲んだんか?」

 「宿の連中が壮行会を開いてくれたんだ。タダ酒は呑める時に、呑んでおかんと損だろう?」

 

 大満足な笑顔のタイガに、シェリルは肩を落とし恨めしげに彼を見上げた。

 

 「ええなぁ。ウチは昨日からあの調子や。しまいにゃアリアハンの武具店任せんと、さっさと嫁に出しゃ良かったとか言いおるし」

 「親父さんの心配も仕方ないだろう。それだけ娘のシェリルが可愛いんだ」

 

 タイガの言葉に「いや」と、首を振りシェリルは大きな溜め息を吐く。

 

 「……そやないねん。ウチ姉貴がおってん。五年前に家の船一(そう)ちょろまかして、ウチと同じように見聞の旅に出て───……そして」

 

 目を伏せるシェリルにタイガは笑顔を潜め、気遣うような視線をやる。

 

 

 「海賊になってもうた」

 「───……って、は? 海賊?」

 

 「だから姉貴の皺寄せが全部ウチに来たんや。姉貴と比べたら見聞のついでに魔王退治の旅、んでゆくゆくはウチ自身の商会持ちたいなんて夢、可愛らしいもんや」

 

 ぷりぷりと怒って歩くシェリル。

 別にシェリルが悪いわけではない。彼女の人生なんだから。……しかし。

 可愛い娘の一人は海賊になり、もう一人は魔王退治に旅立つ。

 事情は違えどアステルとマァムの家族も同じなんだが。先程みっともなく泣き叫んで、失いたくないと旅立つなと懇願していた父親が、タイガは少しだけ憐れに感じた。

 

 「シェリルには姉さんの他に兄弟はいるのか?」

 「なんや? 急に。兄貴ならおんで。出来が良くてな。親父の後継も兄貴や」

 

 兄貴おらへんかったら、ウチもこんな勝手出来へんかったやろうなぁ。兄貴には感謝してるわぁ。

 そんな親の心子知らずなシェリルの発言を聞き流しながら、せめて兄さんは親父さんの味方であって欲しいなとか勝手な事を願うタイガだった。

 

 

 「けど、〈旅の扉〉使えそうで良かったわ。親父の力には極力頼りたぁなかったし。ウチの旅の目的に反する事やからな。

 それに旅慣れしてるタイガとスレイがサポートする言うても、アリアハンから出た事ない、アステルやマァムをいきなり船旅や西大陸へ旅させんのは、気が引けてたし……」

 「もしかしたら、王様も同じ事を考えてたかもしれんな。〈魔法の玉〉の情報も案外あっさり見つかったし」

 「いや、〈魔法の玉〉に関しては、タイガの人付合いの良さが功を奏したんやと思うけど。……ウチもそう思う。

 オルテガはんと王様は君主、臣下の間柄やけど親友同然の付き合いやったらしいし。その娘のアステルまで同じ末路、辿らせるわけにはいかん思うたんやろ。

 ……まあ。ウチがそうさせへんけどな!!」

 

 言ってシェリルは背中に携えた鉄の槍を、勇ましく振り翳した。

 

 

* * * * * *

 

 

 待ち合わせ場所の街門に辿り着くと、自宅がここから近いアステル、スレイ、マァムはすでにそこにいた。見送りにはエリーゼ、オルガ、ルイーダがいた。

 

 「おはよう、シェリル、タイガ」

 「おっはぁ~~っ!」

 「おはよう」

 「おはよう!」

 「おはよーさん」

 

 皆が揃った。それは出発の時を意味する。

 

 「マァム」

 

 ルイーダが両手を広げる。マァムがその腕の中に飛び込むと、力一杯抱き締めた。

 

 「ママぁ~~……」

 「なんて声出してんだい。お前は元気と明るさと面白さが取り柄の遊び人だろ? アステルや仲間が落ち込む事があれば、お前が元気づけてやるんだよ?」

 「はぁ~~いっ!」

 

 先程の涙声はどこにやったやら。

 切り替え早く手を上げて返事するマァムにルイーダは苦笑し、愛娘のその額にキスをした。

 

 「アステルとマァムは旅に慣れとらん。お主達、しばし二人を教え導いてくれ。宜しく頼む」

 

 オルガはタイガ、スレイ、シェリルの前に立ち頭を下げた。

 

 「大船に乗ったつもりで任しといて!」

 

 胸を張るシェリル。タイガとスレイも力強く頷いた。

 

 

 「アステル。これを。遅くなっちゃったけど誕生日プレゼントよ」

 

 エリーゼの差し出された手の上にあるのは、薄紅色の宝石の填まった銀の指輪。それに鎖を通したものだった。それを見てアステルは驚く。

 

 「これ……! 父さんとの結婚指輪じゃない!」

 「ただの指輪じゃないわ。〈命の指輪〉といって、癒しの奇跡を秘めてるの。母さんが若さを保ってられるのは実はこれのお陰なの。……なんてね?」

 

 ぺろっと舌を出しおどけて見せるエリーゼ。しかしアステルには笑えなかった。父に貰ったこの指輪を母がどれだけ大切にしてたか、幼い頃から見ていて知っていた。

 今にも泣き出しそうな娘にエリーゼは強く微笑む。

 

 「受け取りなさい。母さんと父さんの想いが必ずアステルを守るから」

 「母さん……!」

 

 熱くなった目頭をぐいっと拭い、アステルは指輪を受け取るとそれを首に掛け、襟の中へと大切にしまう。そして母を抱き締めた。母は娘の背中をぽんぽんと、優しく叩く。

 

 「いってきます……!」

 「はい。いってらっしゃい」

 

 

 アステルはエリーゼを離し、祖父オルガを見た。祖父はもうなにも語らず、ただ真っ直ぐにアステルを見つめ、頷いた。

 外套(マント)を翻し、黙ってずっと見守ってくれた門兵に、一礼する。

 門兵は心得顔で街門を開く合図のトランペットを高らかに吹く。

 それに合わせもう一人の門兵が門を開く大きなレバーを引いた。

 大きな音をたて開いた門の外は、どこまでも広がる大草原。

 背後から朝日が昇り、辺りは明るく鮮明になる。

 アステルが歩み出す。続けてマァム、シェリル、タイガ。最後にスレイ。

 

 しかし。スレイはアステル達に気付かれぬよう、背後を振り返りエリーゼとオルガに向かって深く頭を下げた。

 突然の彼の行動に驚く二人だが、スレイは頭を上げると、さっと四人の後を追った。

 

 「あの子と知り合いなのかい? なんか意味ありげだったけど……」

 

 ルイーダが二人に尋ねる。しかしオルガは思い当たらなくて首を横に振る。

 

 「エリーゼ、お主は覚えがあるか?」

 「いえ……でも。今の感じ……初めて見た気がしませんわ」

 

 

 王城のバルコニーから王はトランペットの音を聞いた。オルテガが旅立った時の背中が脳裏に浮かぶ。それとだぶるように、昨日見た小さな少女の後ろ姿が浮かんだ。

 

 「アステルよ。お前は必ず戻って来るのじゃぞ……」

 

 

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