長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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魔法の玉

 

 

 「────てりゃあああっ!」

 

 アステルの鋼の剣が突進してきた額に角がある兎〈一角兎(いっかくうさぎ)〉を切り裂く。返す刃でこちらに鋭い嘴を突き出そうとしていた人の丈程の〈大鴉(おおがらす)〉の首を切り落とした。

 息をつくアステルの隙をついて、青いジェル状の雫型の魔物〈スライム〉達が群れをなして彼女の顔目掛け一斉に飛び掛かる。

 しかし、スレイの投げた刃のブーメランが、スライム達を全て真っ二つにし、弧を描いて彼の手元に戻って来る。

 スレイはアステルの傍に駆け寄り、彼女の背後に回った。

 

 「油断するな」

 「あ、ありがとう」

 

 左手のブーメランの刃で飛び掛かってきた一角兎の喉を掻き破り、右手にある竜を模した鞭ドラゴンテイルで背後から襲ってきた〈大蟻食(おおありくい)〉の群れを一気に凪ぎ払う。

 

 「うおおおおっ!」

 

 タイガはこちらを捕らえようとして伸ばした大蟻食の長い舌を逆に掴み取り、その巨体を鉄球のように振り回して、魔物の群れ目掛けてぶん投げる。すぐ横に飛び、狼狽えたスライム達を手に嵌めた鉄の爪で素早く切り裂いていく。

 

 「はあっ!」

 

 飛んで来た仲間に怯み、目を回す大蟻食達をシェリルの鉄の槍が繰り出す鋭い突きがすかさず止めを刺した。

 

 「みぃんなぁ~がぁんばぁ~~」

 

 襲って来る魔物の攻撃を踊りながら躱し、ひたすらエールを贈るマァム。極たまに、棘の鞭をさながら小道具のリボンの様に魔物に振るう。

 倒れた魔物はどんな原理か塵となり風に浚われる。地面に残るのは様々な色をした宝石の原石の様な物。

 

 

 周囲に魔物の気配がなくなったのを確認して、アステルは剣を鞘に納めた。

 

 「魔物って不思議だね。死んじゃうと石になっちゃうし」

 「……これは仮説だが」

 

 アステルの呟きにスレイはブーメランと鞭を手早く仕舞いながら答えた。

 

 「魔王バラモスの魔力を浴びて凶暴化した魔物達は、死んだ時その魔力が結晶化すると言われてる。結晶が大きければ大きいほどバラモスの恩恵を受けた魔物だって話だ」

 「魔王が現れる前は死体が残ってたって話だから、凶暴化にも魔物の体を作り替える絡繰りがあるんだろうなぁ」

 

 タイガが懐から革の袋を取り出しながら言う。

 

 「シェリルぅ~~なにしてんのぉ?」

 「なにって、石拾うてんに決まってんやろ。これ売ったら旅費の足しになるしな」

 

 言いながらシェリルは、せっせと地面に転がる原石を、革で出来た袋に詰め込む。

 

 「えっ?! バラモスの魔力の結晶だよ? 大丈夫かな?」

 

 慌てるアステルにスレイが淡々と答える。

 

 「バラモスが現れてそれなりに経つが、今のところ実害はない。それにこいつは研磨したら、値の張る宝石として取り扱われる」

 

 そして彼も地面の石を拾い始めた。

 

 「旅人や流れ戦士は、こうやって魔物を倒して、石に変えて、大きな国で換金して生計を立てるのが基本だ」

 

 タイガがアステルとマァムにも革の袋を手渡す。

 

 「でも、油断しちゃ駄目だぞ。こうしてる所を狙う魔物もいるからな。迅速に回収。これも基本だぞ」

 「はあ……」

 「はぁい!」

 

 (まだまだ知らなかった事がいっぱいだ)

 

 アリアハンを出て太陽が真上に差し掛かる頃、アステル達は魔物の群れに、初めて襲われた。しかし旅人として熟練された三人の前では、敵ではなかった。アステルが魔物二匹を倒してる間に、彼らはその倍以上の魔物を倒している。

 

 (私も早く追い付かなきゃ……)

 

 アステルが無意識に唇を噛み締めると、マァムが横から顔を覗き込んだ。

 

 「まぁだまだ、こぉれからぁ……だよ?」

 

 ニッコリ頬笑むマァムに、アステルは一瞬だけ眉を下げ、次には笑って頷く。

 

 「うん」

 

 (……そうだ。始まったばかりなんだ)

 

 アステルは気を取り直し、石を拾う。

 

 

 その日、団体で魔物が襲い掛かってきたのはこれ一度だけだった。後は小数や単体での奇襲。アリアハンは元々魔物による被害は少ない。

 しかし油断していると、先の様に大群に襲われ、命を落とす事にも繋がる。

 

 

 

* * * * * * 

 

 

 

 「───そうだな。例えばスライムなんかは、魔物の中では一番弱小だが、団体で顔を狙われた時なんかは怖いぞ」

 

 アリアハン大陸で唯一海で隔てられた陸地を繋ぐ橋、ナジミ大橋に辿り着けた所で、一行は夜営の準備を始めた。

 スレイは掘り竃を作りながら言う。

 

 「私も顔狙われた」

 「奴らの手だからな。スライムが顔に貼り付いたら最期。取ろうと藻掻いてるうちに窒息死だ。奴らはそうして人を喰らうんだ」

 

 アステルはさっと血が引いた。

 

 「一匹、一匹が弱くても徒党を組めば脅威になる。動きを攪乱(かくらん)させるか、一気に掃討できる武器か呪文で倒す……」

 

 と、そこでスレイは少し考え、作業の手を止める。傍らの自分の荷袋を探り出し、アステルにブーメランを差し出した。スレイが使っている刃が付いてるのと違い、動物の骨で出来たよく見掛ける形の物だった。

 

 「これ?」

 「オレのお古だが、ちゃんと手入れはしてる。これをやる」

 「私に使えるかな……?」

 

 アステルは持ち上げて掲げてみる。案外軽い。

 

 「使えるように練習すればいい」

 

 再び作業を始めるスレイ。

 

 「練習ぐらい付き合う」

 

 「薪」と手を差し出され、アステルは慌てて薪をスレイに手渡した。

 

 「なんか、この間からもらってばっかりでゴメン」

 「べつに謝ることじゃない。旅の仲間は一蓮托生だ。仲間内での武具の譲り合いは当然の事だろ?」

 「そっか。でもありがとう!」

 

 アステルがブーメランを抱き締め頬笑むと、スレイは顔を反らした。

 

 「そやで~~! 旅の仲間は一蓮托生や~~!!」

 「イチゴ蓮根たくあん生姜やぁ~~!!」

 「ハハハ! 上手いぞ。マァム」

 

 沢まで水を汲みに行っていたシェリル、マァム、タイガが戻って来た。

 

 「スレイ自分、珍しい武器めっちゃ持ったはるけど、どこのルートなん? そのドラゴンテイルも刃のブーメランも、アサシンダガーも、毒針もみーんな非売品やん!独り占め反対っ!」

 「はぁんたぁーい!」

 

 拳を空へ突き出し、声高に叫ぶシェリル。その真似をするマァム。

 

 「非売品なのに名前を知ってるのは流石だな。けど、これらをオレ以外で扱える奴がいるか?」

 「うっっっ!」

 

 ズザッと後退るシェリル。

 

 「あと、マァム。その棘の鞭は誰から貰ったかもう忘れたのか?」

 「うっっっ!」

 

 ズザッと後退るマァム。

 

 「『うっっっ! 』……って、マァムあんたっ! まさか!!」

 「うん。マァムの鞭、出発前にスレイがくれたの」

 

 アステルが言うと、口笛を吹いて誤魔化すマァム。シェリルはばっとタイガを見た。タイガはへらっとし、

 

 「俺の鉄の爪は自前だ。シェリルはのけ者になんかされてないぞぉ」

 「これはあるコレクターから、物々交換したものだ。金では買えない」

 

 スレイは溜め息混じりに言う。

 

 「こげな貴重なもんと、何を交換するんや?」

 

 すると、スレイはまた荷袋の中から小袋を取り直し、中身を見せた。

 

 「なんや、これ? ゴールド貨幣やない……メダル……?」

 「名前はない。強いて言うなら〈小さなメダル〉だな。世界に百十枚あると云われていて、それを全部集めようとしている人物がいるんだ」

 「こんなん、偽造されたら……」

 「コレクターの目を甘く見るな。偽物なんか掴ませたらとんでもない目に合うぞ。こいつは遺跡や洞窟に落ちてるかと思ったら、宝箱の中に大切に仕舞われてたりもする。街中でも時々見掛ける時がある」

 

 『へえ~~!』

 

 一同が声をあげる。

 

 「俺もこれからは、注意して探してみるから、またメダルが集まったら、俺に合いそうな武器調達してくれないか? 武闘家の武器って少ないんだよ」

 「わかった」

 「タイガ、抜け駆けせこっ! ウチもっ! ウチも頼んますっっ! スレイは~~ん!!」

 「わかった、わかった」

 

 夕食は干し肉とチーズを炙り、パンを焼いた。汲んできた水を沸かし、アステルの母エリーゼ特製の疲れに効く茶葉で、茶を淹れほっこりとする。交代で睡眠を取り、そして夜が明けたと同時に竃を片付け出発した。

 昨日と違い魔物との遭遇は少なく、順調に距離を稼げ、日が暮れる前に一行は目的地レーベに辿り着けた。

 

 

* * * * * *

 

 

 そう遠い昔の話ではない。アリアハン大陸には集落があちこちに点在していた。しかしバラモスの出現、魔物の凶暴化に伴い、魔物に襲われ壊滅する集落が相次ぐ。

 王は城下以外に暮らす民を一ヶ所に固め、王国兵士を駐在させる事で民を守った。それがここレーベである。

 

 アステル達は先に宿の部屋を取ると、〈魔法の玉〉を求めて村を回った。途中、大きな岩を前に、うんうん唸る若者と出会う。

 

 「どうしましたか?」

 

 声をかけるアステルに、若者は汗を拭いながら、振り返った。

 

 「ハアハア……旅人さんかい? いやぁね。ちょっとここに畑を作ろうと土地を耕してたんだがね。この大きな岩が……ん~~っ!!!」

 

 若者は真っ赤な顔をして岩を押すが、びくともしない。

 

 「駄目だ~……」

 「どこまで動かせばいいんだ?」

 

 タイガが肩を大きく回しながら、進み出た。

 

 「え……? えっと、そこの木の側まで」

 「よしっ!!」

 

 タイガは岩に両手を付くと、一気に指定された木の側まで押しやる。

 

 『おお~~っ!!!』

 

 若者とアステル達は歓声をあげ、拍手する。

 

 「凄い! なんて力だ!!」

 「うん。凄いよ! タイガ!」

 「お安い御用さ」

 

 タイガはけろりとして笑った。

 

 「いや、その素晴しい力、必ず役に立つ日が来ますよ」

 

 「あ~~っ!」と、急にマァムが叫んだ。

 

 「な、なんや! マァム、ビビるやんか!」

 

 シェリルの非難もどこ吹く風、マァムはしゃがみこみ岩があった地面を石で掘り出す。

 

 「ちぃさなぁメダルみ~っけ!」

 「へっ!?」

 

 マァムは泥のこびり付いたメダルをスレイに手渡す。スレイは手拭いで泥を拭き取り眺め、目を丸くした。

 

 「ああ……間違いない。〈小さなメダル〉だ」

 「よく見つけたなぁ。マァム」

 「えっへん!」

 

 褒めるタイガに、マァムは得意気に胸を仰け反らせた。

 

 「いや、タイガの手柄やろ」

 

 呆れるシェリルに、タイガは首を横に振る。

 

 「いや? 俺じゃ見つけられなかった。マァムの手柄だよ」

 「やぁっぱり、えっへん!」

 

 「早速良い事があったようですね」

 「あのこれ、貰ってもいいですか?」

 

 躊躇いがちに伺うアステルに、若者は笑いかける。

 

 「構いませんよ。持って行って下さい。ぼくには必要ない物のようですから。あの岩を壊す為に、〈魔法の玉〉を使う事考えたら……あれ、便利なんだけど恐いんだよ」

 「〈魔法の玉〉!?」

 

 アステルは思わず叫ぶ。

 

 「ああ、旅人さんも〈魔法の玉〉を求めて、ここへ来たんですね」

 

 若者は心得顔で頷くと、大きな池の(ほとり)に建つ二階建ての赤い屋根の家を指差す。

 

 「あそこに住む爺さんが〈魔法の玉〉を作ってますよ」

 

 若者に礼を言い、アステル達は教えてもらった家に向かった。

 

 

 「御免くださーい」

 

 アステルは扉の前に立ち、ノッカーを叩く。応答がない。再度ノッカーを叩いた。しかし、扉が開く気配はなかった。

 

 「留守かな……?」

 

 アステルが仲間達に振り返る。すると「うちになにかようかのう?」と、家の裏手から、老婆が現れた。

 

 「あの……こちらで〈魔法の玉〉が頂けると聞いて来たんですが……私達、〈旅の扉〉の封印を解く為にそれが必要なんです」

 

 アステルの言葉を聞いて、老婆は頭を振り溜め息混じりに呟く。

 

 「またかい。どうして若者は外の世界に出たがるのかね……」

 「おばあちゃん。これはアリアハン王の命令でもあるんや。〈魔法の玉〉ウチらに譲ってくれへんか?」

 

 シェリルの言葉に老婆はまた頭を横に振る。

 

 「〈魔法の玉〉を作ったのはうちの爺さんじゃ。でも、今はこの通り閉じ籠って研究に没頭しておる。ワシを追い出してな。家の中にある食料が無くなるまで出てくるつもりはないじゃろう。……お陰でワシは息子夫婦の家に居候じゃ」

 

 「研究?」と、スレイ。

 

 「人伝で〈旅の扉〉の封印を解きに行った若者が大怪我を負ったと聞いてな。もっと安全に作動出来るようにならないか研究しておる」

 

 (───あ~~……)

 

 一同はタイガ以外、顔も見た事ないドジな旅人を思い出した。

 

 「旦那さんにお話だけでもさせてもらえませんか?」

 「すまんのう。この家の鍵と鍵穴は爺さん特製のモノでの。ただ一つの鍵は中にいる爺さんが持っとる」

 「スレイ、盗賊やろ? なんとかならへんのか?」

 

 スレイは鍵穴を覗きこみ、腰ポケットから針金を出し、鍵穴に差し込み少しいじってみる。が、眉間に皺を寄せ、すぐやめた。

 

 「悪いが、これはオレの技術じゃ無理だ。婆さんの言う通り一般的な鍵穴じゃない」

 「諦め早っ!! もっと気張らんかい!」

 「無理なもんは無理。恐らくオレより高い技術を持つ盗賊……バコタぐらいの腕前がないとこの鍵穴を開けるのは無理だと思う。……いっそ扉壊したほうが早い」

 「なに物騒な事言ってんだい。この兄ちゃんは。うちの家の扉壊さんどくれよ」

 

 真顔で声低く呟くスレイに、老婆が顰めっ面で突っ込む。

 

 「え~と……ちなみに家の中の食料は……?」

 「全部保存の効くものじゃから、あと一週間、いや、二週間はもつかのう」

 

 老婆の返事にアステルは項垂れた。

 

 「〈盗賊の鍵〉……」

 

 スレイがぽつりと呟く。「スレイ?」と、アステル。

 

 「さっき言った盗賊バコタが作った鍵だ。そいつはどんな鍵穴にも対応出来るように出来てるらしい。それなら或いは……壊す以外の方法なら開けてもいいんだな?」

 

 老婆はこくりと頷いた。

 

 「それはどこにあるんや?」

 「盗賊ギルドで聞いた話では、バコタはナジミの塔に住む賢者の宝を狙って、塔に侵入したものの、返り討ちに遭い王城に投獄されたと。その時、賢者はアリアハン国王から、〈盗賊の鍵〉を管理するよう頼まれたとか……」

 

 シェリルは地図を広げた。皆がそれを覗く。

 

 「ナジミの塔……ああ、ナジミ大橋から見えた小島に建つ見張り塔の事やな。けど、陸繋がりやないで。船借りて行くしかないやん」

 「じゃあ、一旦アリアハンに戻るしかないね」

 

 溜め息混じりのアステルの言葉に、老婆は「いんや」と口を挟んだ。

 

 「このレーベから南に下りたら……ほれ、この地図のここの洞窟印じゃな。ここ岬の洞窟はナジミの塔と繋がっておるぞ。あの塔は昔も今も、アリアハン王国の兵の修練場として使われとるからの」

 

 老婆は地図を覗きこみ、そこを指差した。

 

 

 アステル達は老婆に礼を言って別れると、宿屋に戻って一晩過ごし、翌日には岬の洞窟へと向かった。 

 

 







作中で出てくる宝石モンスターのネタ元はアニメDQ《アベル伝説》です。今でも大好きな作品です。モンスターからお金を稼げる理由はこれが一番しっくりくるので、いつもDQ3をプレイする時はこんな感じで想像してます。
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