長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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七章 傲慢なる国
エジンベアへ


 

 

 神殿を後にし、宿屋へと戻った頃にはとっぷりと陽は暮れていた。

 食堂に向かうとカンダタと双子が食事の真っ最中で、アステル達も隣のテーブルに腰を下ろして夕飯を注文する。

 彼等が食べている食事内容を見て、アステルは眉を顰める。それは彼女が昼食用に頼んでいたメニューだった。

 

 「もしかしてお昼抜きで船の整備してたんですか?」

 「おう。整備に手間取っちまってな。終わる頃に嬢ちゃん達が頼んでいた食料や水も届いたから、ついでに積み込んでた。

 ……ああ、そんな顔すんな。別に昼飯抜きだったわけじゃねぇから」

 「船に残ってた取り置きの食材と水でお昼作った」

 「作ってみんなで食べた。節約」

 

 口をもぐもぐさせながらトエルとノエルが交互に言う。

 

 「それよか、そっちはなにか収穫はあったのか?」 

 

 

* * * 

 

 

 「───次の目的地はエジンベアか。そりゃまた厄介な所に……」

 

 伝承者スラりん、最後の鍵、渇きの壺の事を話すと、カンダタは渋い顔をして、手にある骨付き羊肉に齧り付いた。

 

 「スレイもシェリルもあまりいい顔してないけど、そんなに厄介な国なの?」

 

 アステルはちらりと彼等を見ると、露骨に苦い表情を浮かべていた。

 

 「厄介な国だな。あの国は王侯貴族はもちろんの事、国民も気位が馬鹿みたいに高くてな。とにかく他国民をやたら見下す。あの国に行って、良い思いをした奴なんていないと思うぞ」

 

 スレイの言葉に、カンダタとシェリルもうんうんと頷く。

 

 「あとな。王様達の紹介状で寄港は出来るかもしれんけど、入国はすんなりいかんと思うで」

 「えっ!? 四か国の王様の紹介状だよっ!?」

 

 ───アリアハン、ロマリア、イシス、そしてポルトガ。揃いも揃った主要国の紹介状が通用しないのか。

 驚愕の声を上げるアステルに、「そんなんあの国には関係ないねん」とシェリルは片手をパタパタ振り、渋い顔で語る。

 

 「前に城の兵士用にウチの店に武具を注文した癖に、届けにいったら門前払いしよってな。十日間かけて書類のやり取りして、やっと入れた思うたら開口一番に『約束の期日も守れんのか。これだから田舎者は』や! ふざけんなっ!!

 入国の許可が降りる間、こっちはずっと港につけた船ん中で過ごしたんやでっ!

 しかもっ! 滞在中に帰りの分の食料も使ってもうたから、物価の高いあそこで補充するしかなかったんやっ!」

 

 当時の屈辱と怒りをまざまざと思い出したシェリルは、ぐいっと麦酒を仰って、ドンっ! とジョッキをテーブルに下ろす。

 

 「……天下のマクバーンだから十日間の待機で入国出来たようなもんだ。勇者御一行だからって理由じゃ、ひと月かけても入れるかどうかわかんねぇぞ?」

 

 付け加えられたカンダタの言葉にアステルは眉を顰め、それからハッとする。

 

 「………まさか、その為の《消え去り草》?」

 

 スレイも頷く。

 

 「そのまさかだろうな。いざとなったら使えって事だろう」

 「や、それは、ちょっとまずいんじゃ……」

 「忘れたのか。あのスライムは神の遣いだ。これは所謂(いわゆる)《神の思し召し》だ。気にするな」

 「ええ~~……」

 

 さも当然のように言い捨てるスレイに、アステルは口の端を引くつかせる。

 

 「……それよりも。ここからエジンベアまでの行程だが、一つ試してみたい事があるんだ」

 

 

* * * * * *

 

 

 翌日。太陽が照りつける晴れた真夏の空の下、ランシールの港からある程度離れた海上にアステル達の船は浮かんでいた。

 帆柱(マスト)に触れるアステルと彼女の手を握るスレイ、スレイはノエルを手を握っている。カンダタは舵を握り、その他は甲板で三人を囲むようにして見守っている。

 

 スレイが試みたい事。それは瞬間移動呪文(ルーラ)で船ごと目的地へ飛ぶ事だった。

 

 「ルーラは連れていく人数が多く、物体が大きくなればなる程、理力を消耗する。

 その理力はオレが賄うから、アステルは船ごと皆を連れていくつもりで、ルーラを唱えろ」

 

 「……うまく出来るかな」

 

 理屈は解るが、自分に人を乗せた大きな船を持ち上げられるのか。

 不安げにそう漏らして項垂れるアステル。

 スレイは一旦手を離すと、彼女の頭を掻き撫でて上を向かせた。

 

 「結界呪文(トヘロス)を船全体に展開出来ただろ? あの感覚を思い出せ。お前は魔力も技術もちゃんと成長している。自信を持て」

 

 手付きは乱暴ながらも、こちらを見下ろすスレイの眼差しはまっすぐで、言い聞かせる低い声は強く心に響く。

 

 「……うん!」

 

 今度は力強く応えるアステルに、スレイは口の端を持ち上げた。

 アステルは心地よい胸の高鳴りを感じながら、スレイから帆柱へと視線を移す。

 我ながら単純だとアステルも思わずにはいられなかったが、彼が傍にいると心強くて安心する。大丈夫だと言われれば、なんでも出来る気がするから不思議だ。

 

 「ノエル。お前はあくまでも保険だ。理力が足りなくなったら、悪いが分けて貰うぞ?」

 

 供給相手は理力が豊富なマァムでも良かったのだが、彼女とは上手く連携出来ない気がしたスレイは、魔法を扱える双子の僅かではあるがトエルより理力の容量が多いノエルに頼んだ。見下ろすスレイに、ノエルは繋いだ手を握り返して頷く。

 ………ちなみに。そのマァムはというと、先程の二人のやり取りの間に割り込もうとしたが、シェリルに羽交い締めされていた。

 

 

 「目的地はポルトガの大灯台付近の海上。間違ってもポルトガの街並みや陸地をイメージするなよ」

 

 スレイの最終警告にアステルは大きく頷いた。空から船が墜ちてきたら港は大恐慌に襲われる事間違いないし、陸地に降りたりしたら言わずもがなだ。

 

 「いくよっ! みんな、どこかにしっかり掴まっててね!」

 

 初めての試みでどれだけ揺れるか検討もつかない。その言葉に皆、船縁や掴める所に掴まって体を固定する。それを確認してアステルは高らかに《力ある言葉》を言い放った。

 

 「───瞬間移動呪文(ルーラ)っ!」

 

 ごっそりと理力を奪われる感覚に襲われアステルは顔を歪めるが、だがそれは一瞬で、繋いだ大きな手から暖かな理力が流れ込み満たされる。

 アステルから発する光の膜が大きく広がり船をまるまる包み込むと、船底から風が巻き起こり、海面が大きく波立つ。

 船が宙に浮かび、そして北西の空目掛けて飛び立った。

 

 「おお~~~ぅっ!!!」

 

 耳に届いたマァムの歓声にシェリルは思わず閉じた瞼を開く。

 

 「わっ!」

 

 そして彼女も驚きの声を上げた。

 白い雲を波のように突っ切って船は大空を走る。

 しかしそれは瞬く間で。目下に見えるはポルトガの城と港街。その少し離れた岬に見えるのは目的地である大灯台。そちらに向かって降下を開始する。タイガは船縁から体を乗り出し、周辺海域を素早く見渡す。航行している船は見当たらない。

 

 「スレイ! 着地点(した)は問題ないぞっ!」

 

 タイガの声にスレイは頷いた。

 

 「アステル!」

 

 スレイはもうひと頑張りだと繋ぐ手に力を込め、理力を彼女に流し込む。

 船体を固定してゆっくりとゆっくりと下降し、着水する。船への衝撃を最小限にする為にも、常時以上に時間をかけて防壁でもある光の膜を消さなくては。

 

 「もういいぞ、嬢ちゃんっ!」

 

 カンダタが取り舵を取りながら叫ぶ。その声を聞いて、詰めてた息を吐いた。光の膜は完全に消失し、緊張の糸が切れたアステルはその場にへたり込んだ。手を繋いだままのスレイも一緒に膝をつき、彼女の顔を覗き込む。

 

 「大丈夫か?」

 「……うん。スレイこそ」

 

 精神的にはくたくただが、理力は全く減っていない。彼からかなり理力を貰った気がする。

 アステルはのろのろと顔を上げたが、スレイの表情からは疲労の色は見られなかった。

 

 「オレは平気だ。理力も消費したのは三分の一くらいだな」

 

 「うそ」

 

 驚きを通り越して呆れてしまう。

 魔法発動中に理力を絶えず供給し続けて、更には空っぽになったアステルの理力を満たして、まだ余力があるなんて。

 

 「……今度から《船ごとルーラ》はスレイがやって」

 「悪いな。ルーラはまだまだ使い熟せなくてな」

 

 口を尖らすアステルに対し、いけしゃあしゃあと言ってのけるスレイ。と。

 

 「出番、なかった」

 

 言い合う二人の間にしゃがみこんで、ノエルはどこかふて腐れたように言う。どうやら手伝う気満々だったらしい。

 二人は顔を見合せる。アステルは苦笑し、スレイは少年の白髪をくしゃりと掻き撫でて宥めた。

 その手に冷たい水滴がぽつりと落ちる。スレイが、釣られてアステルとノエルが顔を上げると、高く澄んだ夏空は雫を落とす冬の曇天、焼けるような暑気は湿度を伴う肌寒い空気へと変化していた。

 

 

 船の進路をポルトガへと向ける。入港すると、一行は市場へと向かった。

 エジンベアに向かうその前に、防寒具や冬服が必要不可欠だったからだ。

 ランシールは真夏だったが、西大陸は冬真っ只中。ポルトガはまだ肌寒い冷たい雨が降る程度で、重ね着して外套を羽織ればどうにかなるが、エジンベアはそうはいかない。あそこは地理的に寒さが最も厳しい時季だ。テドンに向けて出発した時期に購入が難しかった冬物衣類も、今ならどの服屋にも並べられている。

 世界を回るならば必要となるだろうそれを各々厳選して購入し、船に持ち帰ると再び海へと戻った。

 

 

* * * * * *

 

 

 船はポルトガをやや西側に北上する。エジンベアに近付くにつれ気温は下がり、風に雪が混じる。

 エジンベアの島陰が見えるまで、ひと月はかからなかった。

 

 「さっむぅ~~いぃ!!」

 

 毛皮の外套(コート)を着込んだマァムは楽しげに雪がちらつく灰色の空に両手を伸ばして、甲板をくるくると舞い駆け回る。その様はさながら雪に喜ぶ子犬のよう。

 

 「マァム! ちゃんと帽子も被らないと濡れちゃうよ」

 「はぁ~い!」

 

 アステルに呼ばれてマァムは嬉々として駆け寄る。アステルはマァムの長い金髪を結い上げ、お団子にしてコートとお揃いの毛皮の帽子の中に納めるようにして被せた。

 皆それぞれポルトガで購入した防寒具に身を包んでいる。温暖な気候にいた日が長かった分、この気温の高低差はさすがに堪えた。

 アステルは魔法の鎧の上に纏う外套(マント)を前を引き寄せ、吹き付ける刺すような寒風から身を守る。外套(マント)は普段の紫紺のそれではなく、毛皮で出来た頭巾(フード)付きの外套(マント)だ。

 吐く息は真っ白。これまでの旅で初めて冬を体感しているのではないだろうか。

 

 (ここまではっきりと寒いって感じたのは、イシスや砂漠で過ごした夜くらいかも……)

 

 あの時も冬季だったが、夜間は極寒ではあるものの昼間は夏と変わらぬ厳しい暑さで、冬の旅をしていたような気にはならなかった。

 そんな事を振り返っていると、背後の船室への扉が開いた。この場にいないのはスレイとカンダタとノエルの三人。入国前に必要な準備があるとの事で、舵取りはタイガが代わりに行っている。

 

 「………うぇ?!」

 

 現れた三人の姿を目にして、アステルは驚きのあまり変な声が出た。その声にシェリルとマァムも振り返り、彼等を見て目を丸くさせた。

 

 「スレイ……カンダタさんもノエルも、どうしたの? それ……」

 

 三人の髪と瞳が、見事な黒色に変じている。瞳は勿論の事、髪も染め粉で染めたのとはまるで違う、生まれついてのもののように全く違和感がない。

 

 「魔法薬で変えた」と、スレイは最近肩まで伸びた髪の一房を摘まんだ。

 

 「俺達の色は珍しいからな。変に興味持たれて絡まれても面倒くせぇ」

 

 そうぼやくように言うのは翠緑の髪と瞳が黒く染まったカンダタ。その傍のノエルも白髪と紫色の瞳が同様に黒く染まっている。駆け寄り片割れをまじまじと見詰める黒髪のトエル。双子だけあって髪の色が揃うと、もはや瞳の色でしか見分けがつかない。

 

 「そこまでしなくちゃいけないの?」

 「……一度元の髪と目の色であの国に入ったら、捕まって閉じ込められた。オレの姿を見て、気に入ったから手元に置いときたいとかほざく貴族がいてな」

 「………え」

 

 温度のないスレイの言葉に、アステルは怪談でも聞いたかのようにゾッとした。

 

 「安心しな嬢ちゃん。すぐに助けに行ったからよ。

 閉鎖されたあの国は目新しい物や珍しい物に目が無い。それは物でも動物でも人間でもな。特に貴族なんかは手段を選ばず手に入れたがるし、民も何も知らない他国民を騙して捕えて貴族に売り飛ばそうとする」

 「そんなの犯罪……人身売買なんじゃ……」

 「エジンベアでは人身売買も奴隷も合法だ。法はエジンベアに住む奴等の為にあって、他所から来た奴等の安全なんて知ったこっちゃねぇんだ」

 

 アステルは嫌悪感を隠す事なく、顔を顰めた。エジンベアは想像以上に危険な国だった。

 

 「だから自衛の為に極力目立たないようにする必要がある。……なのにこいつは入国前にあんだけ薬を飲めって言ったのに聞かねぇしよ。あん時はちぃとばかし灸を据えた」

 

 カンダタの言葉尻に、危険性を理解しようとしない昔のスレイを敢えて窮地に追いやった事がわかった。スレイは舌打ちをする。

 

 「………ガキの頃の話だ」

 「どうして薬を飲まなかったの?」

 「………すごくまずかった。うがい何回もしたのに、まだ味が残ってる」

 

 アステルの疑問に対し、スレイの代弁をするかのようにノエルが薬の味を嘆いた。

 

 (不味くて飲みたくなかったのね……)

 

 アステルは苦笑して、腰ポーチから手作りの飴玉を取り出す。ノエルに手渡すと目を輝かせて口の中に放り込んだ。

 

 「あ~~っ! アステルぅ! あたしもぉ~!」

 「………!」

 「お、いいな。嬢ちゃん俺にもくれ」

 

 アステルはマァムと欲しそうに目で訴えるトエル、カンダタに飴玉を手渡す。

 

 「スレイも食べる?」

 

 飴玉を差し出すと、スレイは顰めっ面のまま受け取って口に含んだ。暫くして表情が少し和らいだので、アステルは小さく笑みを浮かべる。檸檬(レモン)味の飴玉はちゃんと口直しになったようだ。

 

 「……うまいな。もしかしてこれも作ったのか?」

 「うん」

 

 「凄いな。お前料理で店が出来るんじゃないのか」

 

 (───あれ?)

 

 褒めるスレイの細められた黒い瞳に、アステルは嬉しさ以上の切なさと懐かしさに襲われた。

 外套を整える振りをして、とくとくと騒ぎ出す胸に手を当て小首を傾げる。

 

 「しっかし、そんなけったいな効果の薬、聞いた事あらへんで」

 「盗賊に伝わる変装用の薬だからな。闇ルートでしか手に入らねぇ」

 

 カンダタがその薬を懐から取り出してシェリルに見せてやる。小瓶に入った黒い丸薬をシェリルは興味津々に眺めて、きつく閉められた蓋を開けた。途端、漂ってきた独特の匂いに顔を歪めた。薬のような、香辛料のような。けれど絶対に苦いもしくは不味いであろうと確信できる匂いに、シェリルは直ぐ様蓋をする。

 

 「うへぇ……で、効果はどんくらいなん? 染まる色は黒だけなんか?」

 「こいつ一粒飲んだら、大体ひと月くらいはこのまんまだ。色は黒しかしらねぇな。無難な色だしな」

 「材料はなんやろか……この独特の匂いは多分……」

 

 珍しくシェリルが喧嘩腰にならないでカンダタと接している。新しいアイテムを前にして、商人魂の方が優先されたらしい。

 

 (私が飲めば目の色が黒くなるだけなのね)

 

 あまり大きな変化でもないが、それはそれで見てみたいかも。アステルは隣にいるスレイの横顔を改めて見上げた。

 繻子(しゅす)のような艶やかな白銀の髪は、闇夜の漆黒に染まっている。琥珀色の瞳もまるで黒水晶(モリオン)のような綺麗な色だ。

 

 その色を目にして。

 

 アステルの脳裏に唐突に浮かんで現れたのは、幼い頃に出逢った少年の姿。

 

 

 夏の日の薄暗い薪小屋での出逢い。互いに助け、助けられて。ほんの僅かな時間言葉を交わし合っただけなのに、別れ際は酷く離れがたくて。

 

 傍にいて欲しいと願った少年の姿を。

 

 名前を尋ねても教えてもらえなくて、もう二度と会えないと言われてショックで、寂しくて悲しくて、泣いてしまった。

 

 『六年後の春にアリアハンに来て』と願った。

 

 再会を期待してなかったと言えば嘘になる。

 出立を春が終わるまで待とうかと思った時さえあった。

 

 しかし時が流れて成長して、無茶を言ってしまったとちゃんと理解している。再会が果たされなかった事については気にしては……いない。いないのだ。

 

 今はただ、彼が健やかである事を祈るだけ。

 

 残念ながら顔立ちはぼんやりとしか思い出せないが、少年の……『お兄さん』の色ははっきりと覚えている。

 

 ───漆黒の髪に黒水晶のような綺麗な瞳だった。

 

 

 「───? 何だ?」

 

 此方を見上げたまま静止しているアステルの頭を、スレイは怪訝な顔で軽く小突く。

 

 「……っ! な、なんでもない!」

 

 ハッと我に返ったアステルは慌てて目を逸らした。後ろめたさのようなものを感じてしまったのは何故だろう。

 それを見ていたカンダタはニヤリとした。

 

 「ははーん。さては嬢ちゃん、コイツに見惚れてたな? 嬢ちゃんの好みは黒髪黒目の男か?」

 「へっ!?」

 

 カンダタの言葉にアステルは肩を跳ね上げる。それを見たシェリルも「おっ?」となった。

 

 「そうなんか? ……にしてはタイガには全然そんな風にならんやん」

 「え、ち、違、」

 「あいつはまたタイプが違うだろ。嬢ちゃんはコイツの見た目で黒髪黒目がいいんだ。そうだろ?」

 「ち、違うのっ! そうじゃ、そんなんじゃなくてねっ!?」

 

 反論したいのに、うまく言葉が出てこない。おまけに顔まで熱くなってくる。混乱するアステルの背中にマァムが嫉妬たっぷりの顔で勢い良くしがみついてきた。

 倒れそうになるのをぐっと堪えて、それからアステルはぶすっと顔を上げた。

 

 「そ、そうじゃなくて。昔知り合った人の事思い出して。その人と同じ色だったから懐かしいなって……」

 「で、そいつは嬢ちゃんの初恋だったと?」

 「そぅ……だ、だから違うってばっ! もうっ! カンダタさん、しつこいっ!!」

 

 アステルは背中にマァムをくっ付けたまま、揶揄うカンダタをぽかぽかと叩く。

 船橋からタイガが「なんだ~っ? 楽しそうだなぁ?」と、声をかけるのにアステルが「なんでもないから!」と声を荒げる。

 

 「聞いたか~? 今のあんたアステルの初恋相手に似とるんやて」

 

 「知るか」

 

 悪戯めいた笑みを浮かべるシェリルを、スレイは素っ気なくあしらった。

 

 

 









ゲームでルーラ移動すると当たり前のように付いてくる船。当物語にそんな便利機能はありません。
【瞬間移動呪文】と書いて【ルーラ】と読んでおりますが、フッと消えてパッと目的地に到着するよくある瞬間移動ではなく、高速飛行移動して目的地に到着するという感じで描いています。
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