長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA 作:ちこちろん
「うわっと!!」
シェリルは落ちた地面に危うく足を取られる所だった。マァムは不安定な足場で踊って遊んでいる。
「ボロボロやなぁ。あっちこっち陥落しとるで」
「ここも古代大戦以前からある遺跡だからな。イシスの遺跡が確か幾千年も前のもののはずだから、同じくらい経ってるんじゃないのか?」
スレイは洞窟の壁に手をやり、呟く。
「そう思うと、さっきのあの爆発でよくこの洞窟が崩れなかったな。……こらマァム。危ないぞ」
「ひゃんっ!」
と、遊ぶマァムを引き寄せるタイガ。
「……王様ここを使うつもりでいたし、まずは修繕しなきゃね」
アステルは足を踏み外さないよう慎重に歩く。
「それと……」
タイガがマァムを離し、鉄の爪の手首のベルトを締める。アステル、シェリル、スレイもそれぞれ武器を抜き放ち、構える。
「魔物退治もかな」
アリアハン平地にいた
「こいつら今までどうやって生きてたんや」
「食糧ならあるよ……だってこいつら蟻食だもん」
「そやったな。でも、蟻だけ食ってたわりに、でかくなったんちゃう?」
「ずっと闇の中にいたせいで、魔性が強くなって進化したのかもな……!」
〈
まず、スレイの投げたアサシンダガーが的確にお化け蟻食の急所を捉えた。魔物は悲鳴をあげて塵となる。
「デカイだけで急所は大蟻食と変わらないぞ」
スレイの言葉にアステルは鋼の剣をシェリルは鉄の槍を深々とそこに刺す。タイガも長い舌を掻い潜り懐に入り込むと急所を拳で一突きした。
進化したというスレイの言葉はあながち間違っていないのかもしれない。
次に現れたのは体毛が紫色になった
一角兎ならとアステルはブーメランで一掃しようと構えた。一角兎がキキィーー!と甲高く鳴いた。するとどうだろう。
戦闘中だというのに堪えがたい眠気が襲う。タイガとシェリルが倒れこんでしまう。アステルとマァムには呪文の効きが悪かったらしい。しかし思わず呆気に取られる。
「ラリホー……か!」
スレイは鞭本体の棘棘しい部分を握り締め、痛みでなんとか眠気を堪えた。
「一角兎が呪文!?」
シェリルを狙う紫兎の角をアステルは剣でへし折って倒す。睡気誘発呪文ラリホーを連発する一角兎の進化型〈アルミラージ〉三匹が、眠るタイガとそれを起こそうとするマァムを狙って額の角を突き出し突進する。スレイはドラゴンテイルでアルミラージを弾き飛ばし、陥没し底が見えない穴へと落とす。
「マァム! 棘の鞭を使ってタイガを起こせ! アステルもシェリルを叩き起こせ!」
「ふえええ!? そんなぁ怒られるぅぅ!!」
「オレが怒られるから! いいからやれ!」
騒ぎを聞きつけたか、
「ごめぇぇん!! タイガぁ~~!」
ビシンッ!
「いてっ!!!」
マァムの棘の鞭がタイガの背中を打つ。タイガが目覚めた。
「ごめんね! 後でホイミするから!!」
アステルもシェリルの頬を結構な力でひっぱたく。
「ったぁぁ!?」
シェリルが目覚めた。
「ごめんねっ! ごめんねっ! ごめんねぇ!!!」
ビシッ! バシッ! ビシッ! バシッ!
マァムは尚もタイガを鞭で打つ。
「ちょっ! 待っ! 痛てっ! 起きた! 起きたから!! こらっ! わかっててやってるだろう! マァム!!」
「スレイがぁ! 怒られるからぁ! いくらでもぅ殴れってぇ! だからぁ許してぇ!!」
「待て! マァム! どさくさに紛れて悪戯する奴がいるかっ!!」
スレイも怒りで完全に眠気が醒める。
「なにやってんのや……」
「シェリル! 後ろ! 後ろっ!!!」
三人のコントをジト目で眺めるシェリルにアステルが叫ぶ。
「なんや。アステルまで……ひゃあぁぁぁっ!!!」
シェリルの後ろには人の丈をはるかに越える大きい芋虫。〈キャタピラー〉。キャタピラーは団子虫のように丸まって、転がりながらシェリルとアステルに突進してくる。
二人は慌てて横に跳んでかわすと、キャタピラーは団子のまま壁に激突し、めり込む。ぼこんっと壁から出てきた所をシェリルは鉄の槍で貫かんと突き出す。が。
「いっ!!」
キャタピラーの表皮は硬く槍を弾いた。アステルも跳躍し、剣を振り下ろすが手が痺れるだけであまり手応えがない。
「かっ……たあ……!」
キャタピラーは丸くなった体を元に戻すと、尻を高く反り上げる。そのまま尻を左右にふりふりしだした。すると、体がオレンジ色に発光しだした。
「────なんだ?」
鞭で傷だらけになったタイガが目を見張る。戦っていた目の前の蠍蜂や人面蝶の群れが一斉にオレンジ色に発光しだしたのだ。
スレイはそれを見て血の気が引く。これは先程、魔術師にかけて貰った呪文の光と同じ。アステルもそれに気づく。
───個々の防禦力を強化する呪文。
「魔物にスクルトがかかってる!!」
マァムな棘の鞭を振るうが、蠍蜂達は平気な顔をしている。
「はええ?」
そして、蠍蜂皆が皆、針のついた尻尾を振りかざしマァムを射さんと襲い掛かってきた。
「はええええええええっ!!!」
蠍蜂はマァムを追い回す。防禦力が上がった蠍蜂にとって、たたでさえ非力なマァムの振るう鞭はもはや体を掻かれる程度の刺激でしかなかった。
そんなマァムを庇いながら蠍蜂を撃破するタイガ。スレイの攻撃もまだ効いていた。人面蝶を全て倒し、今もなお呪文を唱え続けている発生元に走る。
キャタピラーはシェリルを弾き飛ばし、アステルにのし掛かっていた。キャタピラーの牙を剣で抑えている。
「くぅ……!」
カチカチとアステルの顔にキャタピラーの牙が迫る。そこへスレイが渾身の力をこめ、ドラゴンテイルでキャタピラー打つ。ドラゴンテイルの攻撃力がキャタピラーの表皮の防禦力に勝った。傷を受けたキャタピラーが、慌ててアステルから離れ、今度はスレイに攻撃を定める。
「アステル! 剣でかなわないなら呪文だろう!」
スレイが叫び、アステルははっとし、手を翳す。
「メラっ! メラっ!! メラっ!!!」
アステルの手のひらから放たれた三つの火球がスレイが傷つけた箇所に上手く直撃する。キャタピラーは声をあげ、燃え尽くされる。
そして地面に少し大きめの原石が落ちた。
キャタピラーの消滅を確認した途端、魔物達が撤退していく。
どうやら、この洞窟の主たる魔物だったらしい。
辺りが静まると皆、その場に腰を下ろして大きく息を吐いた。
* * * * * * *
マァムの回復呪文で傷を癒し、(もちろんその後マァムはタイガとスレイにしっかりお説教された)アステル達は洞窟の探索を続ける。
洞窟は所々で道が陥没しており、その度に遠回りを余儀無くされる。途切れてない道を探し、慎重に足を進め、そうして下へと降る階段に辿り着く。
下に降りると三股の回廊にでた。
それぞれに鍵のかかった大きな扉が行く手を阻む。アステルが〈盗賊の鍵〉を使うと、呆気なく開いた。ここでも全部の扉を開き、中を確認する。二つは行き止まり。残りの一つが〈旅の扉〉の部屋だった。
「これが〈旅の扉〉……?」
部屋の中は青の光に包まれていた。光っているのは小さな泉。水面は渦巻いていて、まるで底にある栓かなにかを抜いたよう。しかし水はいつまでも無くなる事はなかった。
アステルは膝をついてそれに触れた。……濡れない。
「えっと……これからどうするの?」
「じゃぁぁぁんぷ!!!」
バッシャーーーーーーン!!!
マァムが泉に沈んだ。アステルの目が点になり、そして顔が青ざめる。
「マァム!? どうしよう!! 上がってこな……」
「じゃぁぁぁぁんっ!!」
「きゃあっ!!!」
バッシャーーーーーーン!!!
「遊び人マァム、参、上っ!!!」
飛び出た勢いのまま空中で一回転して着地し、びしっとポーズをキメるマァムの頭をシェリルがはたく。
「遊ぶな」
「やぁん! シェリルが打ったあ! ママにもぉ打たれた事ないのにぃ~~」
「……まあ、見ての通り飛び込むんだ。それと、これは本物の水じゃないから息は止めなくていいぞ?」と、苦笑のタイガ。
「飛び込んだ先はロマリア大陸だ」
スレイが腰を抜かすアステルの手を取り立たせた。
「タイガとスレイはやっぱり使った事あるんだね」
「ああ。修行地の中にこれがあった」
「随分昔になるが旅の移動でな」
「なあなあ、アステル。ウチらも早く入ろう?」
さっきから出たり入ったりを繰り返すマァムをシェリルはチラチラ見ている。
「そうだね!行こうか!」
「やほう!」
アステルの返事にシェリルが〈旅の扉〉に駆け出す。
「シェリル! 転移先で撥ね飛ばされる感覚があるから、足元気を付けるんだぞーー!」
タイガは叫んだが、シェリルはすでに飛び込んでいた。
「聞こえたかな……」
タイガも後を追って〈旅の扉〉に飛び込んだ。
「じゃあ、先に行かせてもらうな」
「あ、うん。どうぞ」
スレイが〈旅の扉〉に飛び込む。
残されたアステルは〈旅の扉〉に入ろうとして、踏みとどまった。
顔を上げ、背後を振り返る。
「……いってきます」
服の中にある指輪に手を当てアステルは〈旅の扉〉へと飛び込んだ。