長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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アープの塔

 

 

 

 魔物に襲われ、廃墟となった賢者の隠れ里テドンに、一つの人影が空から舞い降りて来た。

 黒い修道服を纏った神父らしき男は円柱型帽子(カミラフカ)を抑えて、草一本生えていない……いや、生えない(・・・・)黒い地面に着地する。

 

 「ここは相変わらずですねぇ」

 

 細い目を更に細めて神父は溜め息混じりに呟く。

 里の中を歩きながら、辺りを見回す。

 この滅ぼされた里跡に、何かが起こっているのに神父は気付いている。

 しかし。自分達が踏み入るとまるで息を潜めるように、《死んだフリ》をする。

 

 神父は里外れへと進む。

 

 魔族の炎で焼き尽くされた森は、死したままの黒と灰色の世界。

 足元でぱきぱきと小気味良い音が鳴る。朽ちた枯れ木や炭となった木枝を踏み締めながら進む。そうして辿り着いた先は。

 

 半壊した牢獄。

 

 鉄の扉に触れると、その扉は呆気なく開いた。

 神父は牢の中へと進む。が。

 薄暗い牢の中は空っぽ。勿論誰の姿もない。

 内部で大きな爆発があったのだろう。石の壁や床は黒く煤けて、所々崩れている。

 空いた壁から、熱でへしゃげた鉄格子の窓から、にわかに光が射し込んでいた。

 

 その僅かな光の中で、賢者の証である浅葱色の聖衣をどす黒い血で染めた男が、此方を睨んで立っているのを神父は見た気がした。

 

 我が子を逃す為に救う為に。

 

 敵わないと知りながらも、それでも立ち上がり、闘うその目は、決して希望の光を失わない。

 

 ふと、それは別の男の姿とも重なった。

 

 血の繋がらぬ子を我が子と呼び、子の為にその身を犠牲にした男の姿を。

 

 神父は愉しげに笑んだ。

 

 「……本当に私は、牢に入れられる男と縁がありますねぇ」

 

 

 『───デビルウィザード様』

 

 神父の足元から伸びる影が、蝙蝠羽を生やした悪魔のへと変容する。

 

 「どうかしましたか?」

 『アリアハンの勇者が、アープの塔を目指して行動しております』

 

 「………ほう?」

 

 アープの塔。ガルナの塔と同じく、神の遺産が眠る塔。

 しかし、今はかの国の忌まわしき実験場と化している。この《影》はそこを住みかとしている。

 定期的に《かの者》の動向を報告してくれる、神父にとって可愛い(しもべ)である。

 

 『恐らくは、塔の宝を手に入れようとしているのかと』

 

 「───宝、ねぇ」

 

 目の前に、触れられる場所にありながら、我ら魔族には触れる事すら叶わない《神の遺産》。

 顎に手を当てる神父の脳裏を過ったのは三つの姿。

 

 エルフの洞窟で。海の王国で出会った勇者の後を継ぐ幼気(いたいけ)な娘。

 探し求め見つけた時には、なんの因果か勇者と共にいる我らが王の《器》。

 そして。強襲の最中に逃がした、あの男の娘。大地神ガイアの加護を受けた賢者の娘。

 

 彼女もまた、勇者の元に在った。

 

 

 「───そんな貴女なら停滞しているこの現状を、動かして下さいますかね」

 

 

 誰もいない牢の奥を見詰め、神父は薄笑いを浮かべた。 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 東大陸北部の河口を出て、西側に見える高く連なる岩山を通り過ぎた辺りで、アステル達を乗せた船は錨を下ろした。

 

 「まあ、気を付けて行ってきな」

 「頑張って」

 「待ってるから」

 

 カンダタと双子に見送られながら、アステル達は出発する。

 

 ここからは久方ぶりの陸路の旅だ。

 

 地図で見る限り、アープの塔に辿り着くまでに、幾つかの丘陵を越えなければならないようだが、それでも三日はかからないだろうとスレイは言った。

 季節は初夏に差し掛かり、気温もぐんぐん上昇する。しかしこの辺りは風がよく吹き、空気がからりとしている。ジャングルのように蒸し暑くないのが救いだった。

 

 ……しかし暑くない訳ではないのだ。

 

 故にある厄介な魔物が現れると、皆が顔を歪め、鼻と口を覆った。

 そして今まさに、その魔物の群れとアステル達は対峙していた。

 

 

 「来るなぁ~~っ!! くっさぁ~~いっ!!!」

 

 マァムが鼻をつまみながら悲鳴をあげて、屍人の体当たりをひらりひらりと躱して距離を取った。逃げ惑う彼女だが、(はた)から見れば、余裕たっぷりにみえてしまうのが不思議だ。

 勢いあまった魔物達はぶつかり合い、べしゃりと地面に倒れる。青々と繁る草が魔物の体に触れて萎れ茶色く枯れていく。

 

 〈毒々(どくどく)ゾンビ〉。腐った死体の進化系で、猛毒で満たされた腐乱した身体は紫に染まっている。吐き出す息は毒の霧、その手に触れ傷付けられた者は、そこから移された毒によって、のたうち回り死に至るといわれている。

 スーの村の更に北にある森に大きな毒の沼があり、そこから生まれ(いづる)らしく、この地域では昼夜問わず群れて出現するので、気を付けろとスーの民から聞かされていた、要注意の魔物だった。

 (とお)もいる屍人を従えるように現れるのは二つの人影。

 

 勿論、人間ではない。

 

 笑みを浮かべた大きな面で顔を覆う人型の中級魔族〈魔巫者(シャーマン)〉。

 黒い肌の上半身と手足首に毛皮を纏い、腰簑(こしみの)を身に付けた出で立ちで、身軽に跳躍しながら、屍人と応戦していたアステルに向かって、角の生えた動物の頭蓋骨を刺した棒を振るう。

 アステルは聖剣(ゾンビキラー)で屍人を斬り伏せ、返した刃でシャーマンの攻撃を受け流す。

 シャーマンは彼女から距離を取り、素早く手にある棒を回転させて、金切り声で何かを叫ぶ。

 杖から放たれた白い光が屍人を包み込み、一瞬で癒してしまった。

 治癒の仕方から見て、恐らくは中等治癒呪文(ベホイミ)。そして治癒呪文は屍人の傷まで癒せるのかと、アステルは驚愕する。

 

 

 「それならっ! ───呪術封印呪文(マホトーン)っ!」

 

 アステルはシャーマン達に向かって剣とは逆手を翳し、呪文を唱えた。

 ヴォンっ!! という、耳鳴りのような音が辺りに響き渡り、紫の光の帯が二匹のシャーマンを縛る。

 しかし呪文を封じられたのは一匹のみ。もう一匹は身体を縛る紫の光の帯を断ち切った。

 アステルは悔しげに眉を顰める。

 しかしタイガが素早く前に飛び出す。行く先を邪魔する屍人を掻い潜り、呪文を封じられなかった方のシャーマンの顔を殴り飛ばして昏倒させた。

 動かぬ同胞にもう一匹のシャーマンが治癒呪文を唱えるが、此方は呪文封じが成功している。

 呪文が発動せず狼狽えるシャーマンの隙を突いて間合いを詰めたシェリルが、魔法のそろばんを疾風の如く鋭く突き出した。

 鳩尾に綺麗に決まった会心の一撃に、シャーマンは叫び声すら上げられずに消滅し、赤い宝石へと変化して地面に落ちる。

 タイガがもう一匹のシャーマンに止めを刺すと、残るは統率を無くした毒々ゾンビの群れのみ。

 

 「しかし、ほんま(ひっど)い臭いやなぁ。イシスで腐った死体やらミイラやら出たけど、ここまでちゃうかったで」

 「奴らが現れたピラミッドは王墓だからな。遺体が傷まない環境が整っていたからだろ」

 

 シェリルが鼻を押さえてぼやき、スレイは辟易と答えると、中等氷刃呪文(ヒャダルコ)を放つ。

 氷の刃は屍人の胸に突き刺さり、そこから腐敗して溶けた皮膚をみるみる間に凍てつかせる。

 氷結した五匹の毒々ゾンビをタイガとシェリルが次々に叩き割った。 

 と、残りの毒々ゾンビ達は彼女達に向かって、一斉に息を吐き出した。

 息というものは不可視の筈なのに、屍人(しびと)の唾液と共に吐き出した息は、薄茶色の霧となり辺りに重く漂い留まる。

 

 「ぐっ!」

 「うえっ!」

 

 タイガとシェリルは慌てて息を止めて霧を振り払うも、目を閉じる事は叶わない。強い刺激に目は染み、生理的に涙が滲む。

 二人はたまらず後方へと下がるが、毒々ゾンビの群れは毒霧を吐き出し続けながら、その距離を詰めてくる。

 とてもじゃないが、近寄って攻撃など出来ない。と。

 

 「───解毒呪文(キアリー)!」

 「───キィアリィぃ~~っ!」

 

 スレイとマァムが唱えた解毒呪文が、タイガとシェリルを蝕もうとする毒素を、素早く消し去った。

 

 「───初等真空呪文(バギ)っ!」

 

 更にスレイが放った真空の刃が毒霧を吹き飛ばし、ついでに屍人を怯ませた。

 

 「───中等閃光呪文(ベギラマ)っ!!」

 

 アステルが追い撃ちで閃光呪文を放つ。屍人は炎の中で悶えるも、まだ此方に向かって手を伸ばし歩を進めるのに、アステルは顔を顰めた。

 

 (火力が足りない……!)

 

 支援しようとスレイが手を伸ばしたが、逸早くマァムがアステルの隣に立ち、背中に携えた杖を引き抜く。

 手の中でくるりと回して、格好良く敵に突き付けた。

 それは愛用の魔封じの杖ではない。

 先端に古代(ルーン)文字がびっしりと刻まれた黄金の円盤と、その上に足を掛け翼を広げる緑竜の像が付いている───〈(いかずち)の杖〉と呼ばれる雷神の力が宿る杖。

 渇きの壺と同じくスーの村に伝わる宝で、長から譲り受けたそれを、マァムは華麗に振り翳した。

 

 「これでもぉ、喰らえぇぇ~~!」

 

 円盤の中心に填まった青玉が輝き、竜の(あぎと)から雷が(ほとばし)り、電撃が魔物の群れに直撃する。

 目映い光が消え、燻る地面に残ったのは、無数の鈍く輝く黒い宝石のみだった。

 

 「凄い……」

 

 アステルが呆然と呟き、マァムはえっへんと豊満な胸を反らした。

 

 

 

 辺りに魔物の気配が無くなったのを確認して、アステル達は武器を納めて息を()いた。

  

 「……やっぱ、マァムが魔法具を使うと威力が跳ね上がんねんなぁ」

 

 宝石を回収しながら、シェリルはマァムとその手にある杖を眺める。

 雷の杖は魔封じの杖と並ぶ伝説の杖のひとつで、文献では中等閃光呪文(ベギラマ)相当の威力の閃光を放つと謂われているが、あれはまるで名の由来通りの《雷光》だ。

 それにアステルの中等閃光呪文(ベギラマ)と比べると、その威力は杖の方に軍配が上がる。

 しかしそれはマァムが使えばの話。

 アステルやスレイが試しに杖を使ってみたが、あのような威力は発揮できなかった。

 

 「魔封じの杖かて、一度も敵の呪文を封じ損ねた事ないし。一体なんでやろ……。魔力でいえば、スレイかて強力な筈やのに」

 「相性の問題だろ」

 

 素っ気なく答えるスレイに、「そんなもんなんか?」と、シェリルは頭を傾げながら、宝石を納めた麻袋の口をキュッと締める。

 

 ……無論、本当の理由は違う。スレイはマァムに視線を遣りながら推測する。

 

 (神族が神器や神器を基に造られた魔法具を扱えば、引き出せる威力が人間(ひと)と違うのは当然の事だ)

 

 恐らく身体の持ち主であるマァム=ノーランの人格では、あれ程の威力は引き出せないだろう。

 

 (神鳥(ラーミア)の魂に、神器である雷の杖は呼応しているんだ)

 

 過去にエルフ族にしか扱えない筈の神器、〈夢見る紅玉(ルビー)〉をマァムが手にした時のように。

 紅玉(ルビー)を介して、実体のない魔族を拘束し、弱体化させたあの(わざ)も、エルフや人間には不可能な事だったのだ。

 

 (思えばあの時から、神鳥の力の片鱗を見せていたんだな)

 

 

 「助かったよ。ありがとう、マァム」

 「えへへぇ~~」

 

 アステルに頭を優しく撫でられ、えへらえへらとご満悦のマァムは、スレイと視線がばちっと合う。彼女はふふんっと鼻で嗤い、それに対してスレイは目を鋭く細める。

 アステルを挟んで激しく火花を散らす二人に、シェリルは呆れ顔になり、タイガは苦笑を浮かべた。

 

 「……なんかこの流れ、もうお約束になっとらんか」

 「ハハハ……」

 

 エジンベアを訪れて以来、アステルへの庇護欲がより増したスレイと、アステルを取られまいと奮闘するマァム。

 アステルを賭けた二人の対立を前に、シェリルは溜め息を吐き、タイガは空笑った。 

 

 

 

 目的地であるアープの塔は、陸路の旅を再開してから、二日目の夕暮れ時に到着した。

 その日のうちの塔攻略は諦め、アステル達は塔の近くで野営の準備をする。

 茜差す空を背景に見上げた塔の高さは、ナジミの塔とシャンパーニの塔の丁度中間くらいか。

 ガルナの塔と比べれば、遥かに低い。

 最近、登る塔の高さがどんどん高くなる傾向にあったので、アステルがほっと安堵の息を吐いていたのを、スレイは見逃さなかった。

 

 ───しかし。塔の中に、彼女にとって過酷な試練が待ち構えている事を、この時はまだ知る(よし)もなかった。

 

 

 

* * * * * 

 

 

 

 夜が明けて。一行はアープの塔内部へと進む。

 古びた石塔の正面入り口は門で閉ざされてはおらず、解放されている。入ってみて判明したが、左右にも入り口があり、そちらにも門はない。

 だだっ広いエントランスの中央には、二本の鮮やかな青大理石の柱を中心に、周りを四本の白大理石の柱が囲っている。柱の足元は古代(ルーン)文字が刻まれたパネルが敷き詰められており、結界陣のようにも見えた。

 

 そしてその奥には固く閉ざされた大扉があった。

 

 「ここは魔法の鍵で開きそうだな」

 

 鉄扉の鍵穴を調べたスレイが振り返ると、アステルは一つ頷いて、腰ポーチから銀色に輝く魔法の鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。

 先頭に立ったタイガが押すと、解錠された扉は重い音をたてて開いた。

 と、そこに開いた扉の隙間を潜るようにして、此方へと飛び出してきたのは十羽余りの鳥の魔物。

 一見、巨大な鷲の首だけが動いているように見えるが、喉元から丈夫な腿と鋭い鉤爪を持った足が生えている。

 ガルナの塔で遭遇した〈大嘴(おおくちばし)〉の色違い。密林地帯(ジャングル)で見掛けた色鮮やかな鳥達のように、この大鷲の首は、鮮やかな碧色をしている。大嘴の進化系〈アカイライ〉だ。

 

 「いきなりのお出ましやなっ!」

 

 シェリルは魔法のそろばんを構える。アカイライは各々標的を定めると、敏捷な動きで襲い掛かって来た。

 先ずはマァムが狙われた。飛び上がり、その鋭い鉤爪で柔らかな身体を地面に押さえ込もうとするも、彼女は身軽に避けて不敵に笑む。……しかし。

 

 「うひゃぁ!?」

 

 思っていた以上の追撃の早さに、身構える事すら叶わず、流石のマァムも泡を食う。

 だが、〈星降る腕輪〉の敏捷効果のお陰でタイガはアカイライの動きよりも早く、彼女の元へ駆け付ける。風神の盾で突き出された嘴を弾き飛ばした。

 

 「速い、なっ!」

 

 瞬く間に再行動をする魔鳥の疾速の動きに、アステル達は苦戦を強いられる。

 突然距離を取った一羽のアカイライに、スレイが目を眇めると、魔鳥の持ち上げられた嘴が淡く輝き、

 

 「───クエエエエエっ!!」

 

 鳴き声と共にそれ(・・)は放たれる。スレイは瞠目して、一歩前に出てルーンスタッフを掲げた。

 

 「───初等真空呪文(バギ)っ!」

 

 目の前の魔鳥が放つ真空の刃を、スレイは同様の真空呪文を放って相殺させる。

 しかし次の瞬間には、呪文を唱えた魔鳥は目の前に移動していて、鋭い嘴を此方へと突き出しに掛かっていた。

 ぎりぎりの所で躱して、スレイは舌打ちをする。

 この魔物、いちいち行動が速い。

 この速さに付いてこれてるのは、星降る腕輪の恩恵を得ているタイガと、元盗賊の身軽で素早く動けるスレイのみだ。

 辛うじて付いてこれているアステルとシェリルは次第に翻弄され、繰り出される鋭い嘴と鉤爪に、傷を負い始めている。

 なら。と、スレイはルーンスタッフを掲げた。

 

 「───敏速強化呪文(ピオリム)っ!!」

 

 アステル達の身体に白い光が灯る。すると身体がぐんっと軽くなった。

 アカイライが攻撃を繰り出すよりも早く、そろばんを振り下ろせたシェリルは目を丸くして、それからニッと笑った。

 

 「こりゃ、ええわっ!!」

 

 アステルもアカイライが接近して嘴を繰り出すそれよりも早く移動して、下段から剣を喉元目掛けて突き刺すと、アカイライは宝石となって床に落ちた。

 何も施されなくても素早かったタイガはというと、神懸かったかのように目にも止まらぬ蹴りと拳を繰り出し、次々と魔鳥を宝石へと変えていく。

 残り三羽となったアカイライは接近は危険と判断し、距離を取って呪文攻撃へと切り替える。

 

 「マァム! 魔封じの杖でコイツらの呪文を封じ込めろ!」

 「つ~~ん」

 「お願い! マァム!」

 「らじゃ~~♪」

 

 スレイの指示にマァムは膨れっ面でそっぽ向くも、アステルのお願いには笑顔で素直に応える。

 

 「そぉぉぉれぇぇっ!」

 

 マァムが魔封じの杖を掲げると、先端の骸骨がカカッと笑い、紫の霧を吐き出してアカイライ達の呪文を封じる。

 そこにアステル、シェリル、タイガが敵に向かって走った。

 形勢は一気に逆転し、アカイライの群れは全て碧色の宝石と化して床に転がった。

 

 

 「大したお出迎えやったなぁ」

 

 シェリルは手早く宝石を拾い終えると、立ち上がった。その傍らでマァムが治癒呪文を彼女にかけている。

 

 「……しかし。この魔物は一体全体何処から侵入してきたんだ?」

 

 扉向こうの窓が一切ない空間を見回しながら、首を捻るタイガ。

 

 「元からここに住み着いていた所を、閉じ込められたのか?」

 

 スレイは扉に手を当て、床の埃具合を確認して眉を顰めた。

 

 「この扉……閉ざされたのは昔の話じゃない。つい最近まで誰かが出入りしていたように見える」

 

 「誰か……って、」

 

 自身の切り傷に治癒呪文をかけながら尋ねるアステルに、それはわからないとスレイは首を横に振った。

 

 「ただ、ここもガルナの塔のように、神器を納める聖域ではなくなったと見て間違いないだろうな」

 

 スレイの言葉に一行は気を引き締めて、扉の奥へと進む。

 

 

 誰もいなくなったエントランスの壁に、背に羽を生やした悪魔のような黒い影が突如として伸びた。

 影はそのまま一行を追うように、音もなく塔の内部へと消えた。

  

 

 

 

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