長篇ドラゴンクエストⅢ ASTEL・SAGA   作:ちこちろん

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蘇る笑顔

 

 

 ───昼過ぎに海峡を抜け、暫く進むと陸地に集落の影が見えた。おそらくあれがムオル村なのだろう。

 

 海底神殿侵入の為に(はしけ)を失ったので、このまま船で接岸出来るか不安だったが問題はなさそうだ。

 アステルは望遠鏡を覗く。村の桟橋では接近する船に気付いた村民達が、警戒しているのか右往左往していた。

 

 (……あまり余所の船の行き来がない村なのかな?)

 

 驚かせたり、怖がらせたくはない。

 カンダタはムオルを知っているようだし彼に指示を仰いで上陸しようと、アステルは艦橋へと上った。……が。

 

 「あれ?」

 「……カンダタなら着替えに行ってる」

 

 つい先程まで舵を握っていたカンダタの姿が見当たらない。代わりをスレイが務めていた。

 「着替え?」と問い返すアステルに、スレイはうんざりとした顔で振り返る。そして盛大な溜め息を吐かれた。

 

 「え? な、なに?」

 

 知らぬうちに何か仕出かしてしまったのだろうか? と、たじろぐアステルだったが、「お前のせいじゃない」と言われて取り敢えずはほっとする。

 

 「……じゃあ、どうしたの?」

 「……言っただろ。カンダタが着替えに行った(・・・・・・・)って」

 

 アステルが小首を傾げた次の瞬間。

 

 「───ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 つんざくようなシェリルの悲鳴が艦橋まで届いた。アステルは肩を跳ね上げ、スレイは再度大きな溜め息をついた。

 

 

 「な、な、な、な、っっ!!!」

 

 シェリルは化け物を見たかの如く嫌悪感を露にして仰け反り、着替えを終えた(・・・・・・・)カンダタを指差して、二の句を告げられず震えていた。

 

 「どうしたの!? シェリル……」

 

 艦橋から甲板に降りたアステルは、視界に飛び込んできたカンダタの姿に目を丸くする。

 

 「ヘンタイさぁん! 再びぃ~~っ!」

 「……その格好を誇りに思ってるのは知ってるが、流石にここでは風邪ひくぞ」

 「わはははっ! この格好は常に俺を熱くさせるっ! この程度の寒さ屁でもねぇぜっ!!」

 

 マァムがうげ~っとジト目になり、タイガは苦笑を浮かべてカンダタに忠告するが、彼は笑ってそれらをいなす。

 カンダタは緑色の覆面マントを被った、ビキニパンツ姿になっていた。

 それはアステルの父オルテガが、カンダタに語り聞かせた英雄ポカパマズの姿だ。

 肌を刺すような冷たい横風が吹いた。彼のマントがはためき、裸胸と素肌が露になる。

 ……今は懐かしさよりも、寒々しさを感じてアステルは眉を下げた。

 だが本当に寒さを感じていないのか、カンダタは戦斧を手に色んなポーズを決めて見せてくる。

 彼の傍らにいた双子達は頬を紅潮させて、「カッコいい! カッコいい!」「ポカパマズ! ポカパマズ!」ときゃっきゃっとはしゃいでいた。

 ……と。音もなくカンダタの背後に回ったシェリルが、魔法のそろばんを大きく振りかぶった。気配を察したカンダタが、間一髪斧でそれを弾く。

 

 「………ははっ! 今の一撃はなかなかヤバかったぞ!」

 

 焦るカンダタに仕留め損ねたシェリルは舌打ちした。

 

 「そんな格好しとるからなぁ? てっきり寒中水泳でもしとうなったんかと思ってなぁ」

 

 「遠慮せんとき。今すぐ氷海ん中にぶっ飛ばしたるさかい」と、魔法のそろばんを素振りしながらシェリルはカンダタに詰め寄る。

 珍しくシェリルの気迫に押され気味のカンダタは、アステルがいるのに気付いて、逃げるようにこちらにやって来た。

 

 「嬢ちゃん! どうだ懐かしいだろぉっ!」

 「はぁ。……でもなんで今ポカパマズの格好を? 風邪ひいちゃいますよ?」

 「安心しろ! 俺は風邪なんかひいた事ねぇ!」

 「……馬鹿やからな」

 

 わはははっ! と、高笑いするカンダタに、シェリルがぼそりと呟いた。

 

 「それにこの格好でいる方が、ムオルの奴らには警戒されねぇんだよ」

 「はあ~?」

 

 疑いの眼差しを止めぬシェリルに「いいから黙って見とけ」と、カンダタは覆面越しにウィンクする。

 そうこう言ってる間に、桟橋はもう目の前だ。

 武器代わりだろう(もり)を手にする村の男衆に、カンダタは船から身を乗り出して手を大きく振った。

 

 「やめんかっ! ビビらせるだけ「待って! 見てシェリル!」

 

 シェリルが再度カンダタに魔法のそろばんを振り上げたが、アステルに止められた。

 不服そうに手を止めたシェリルが桟橋に視線を遣ると、カンダタの姿を目にした村民は構えていた得物を下ろし、なんと此方に向かって手を振り返していた。

 

 「……どうなっとるんや」

 「な? 言った通りだろ?」

 

 得意気に胸を張るカンダタに、シェリルは信じられないとばかりに頭を振った。

 

 

 

 

 「懐かしい格好をしとる奴がいるかと思えば。……お前か、カンダタ」

 

 桟橋で出迎えていた村民の中から前に出た老人がにこにこと笑い掛けてくるのに、「よう! まだ生きてたか。爺さん」と覆面を剥いだカンダタが笑顔で応えた。

 

 「その昔、ポカパマズに憧れた悪ガキどもが、こぞって真似ておったからのう。家のシーツやカーテンをこっそり持ち出して、目出しの二つ穴を開けて被って遊んどったのぅ」

 

 「その後かかあにバレて(ケツ)叩かれて、次の日には風邪をひくってのがお約束じゃったのう」と、呵呵(かか)っと笑う老人にアステルは苦笑する。

 

 ………それにしても。まさか。

 

 「カンダタさん……ここのポカパマズって、まさか」

 

 横から恐る恐る尋ねるアステルを見て、老人は目を丸くした。

 

 「……その目の色。お前さん……もしやポカパマズの親戚かなにかかい?」

 「え?」

 「爺さん。親戚もなにもこの嬢ちゃんはポカパマズの娘だ」

 

 『『『なんだってぇ!!?』』』

 

 滅多にお目にかかれない、立派な外洋船を見学していた村人達……主に年若い男達が一斉に声を上げ、こぞってアステルの元に移動した。

 

 「あー、本当だ。この不思議な青い目はポカパマズのだ」

 「マジか。『俺の娘は世界一かわいいぞ! だが嫁にはやらんっ!』って……。ポカパマズの親馬鹿発言かと思ってたが……」

 「本当にかわいいし」

 「うん。普通にかわいい」

 「いや、めっちゃかわいいだろ」

 「娘さん、母さん似で良かったなぁ」

 

 どう対応すれば良いかわからず、狼狽えるアステルの後ろで、スレイが苛立たしげに舌打ちをしてるのをシェリルは見た。

 

 「───一体なんの騒ぎだい?」

 

 その声は騒ぎを聞き付け走ってやってきたのか、息を切らせた青年のものだった。

 淡い金髪に中肉中背の青年は、大きな鞄を袈裟懸けに引っ掛けていた。

 

 「おっ! ポポタじゃねぇかっ!」

 「え、カンダタ!? 何年ぶり……ってか、相変わらずその格好してんのな」

 

 旧友の姿を目にした青年……ポポタはぱっと笑顔になるも、直ぐ様呆れたように半眼になった。

 

 「言うじゃねぇか。昔は俺よりもポカパマズになりきって、粋がってたくせによぉ」

 「ガキの頃の話すんな。ポカパマズは憧れの英雄のままだけど、成人して結婚した今となっちゃあ、その格好は流石にもう出来ねぇよ」

 「なにをぅ! だったらポカパマズ……オルテガさんはどうなるっ!」

 「凄いよなぁ。オルテガさん。色んな意味であの人は英雄だよ。……カンダタ。おまえもついでにな」

 

 当時の彼の年齢に近付くにつれ、強くそう感じると遠い目で話すポポタに、村の若衆はうんうんと同意する。

 アステルは恥ずかしさのあまり、顔を隠してその場に小さく踞っていた。

 

 (父さん……ポカパマズは嫌いじゃないよ? でも流石にこんな寒い地域であの格好はやめて欲しかったよ……)

 

 「嬢ちゃん、嬢ちゃん」

 

 ちょいちょいとカンダタが呼ぶので渋々とアステルは顔を上げた。

 

 「コイツはポポタ。森で倒れてたオルテガさんを見つけた命の恩人だ。

 ポポタ、この嬢ちゃんはオルテガさんの娘のアステルだ」

 「えっ!」

 「え」

 

 アステルは慌てて立ち上がり、驚くポポタに向き直ると深々とお辞儀をする。

 

 「その節は父がお世話になりました!」

 「あ、いやいや。わんぱく坊主がたまたま家の手伝いが嫌で逃げ出した時に、たまたま森で見つけただけだから」

 

 顔を上げたアステルと目が合い、ポポタは空色の瞳を細めて朗らかに笑った。

 

 

* * * 

 

 

 あの後、アステル達はポポタの自宅に歓迎された。今回はカンダタと双子も一緒だ。

 薬師の母を持ち、彼自身も薬師であるその家の室内には、至る所に幾つもの様々な薬草束が天井から吊り下げられ、乾燥させている。棚には所狭しと薬瓶が並べられており、まるで診療所のような独特の香りが充満していた。

 

 「一応言っておくけど。ポカパマズ……いや、オルテガさんはカンダタ(コイツ)みたいに外であの格好を披露してた訳じゃないからね。

 あの頃のオルテガさんはふた月もの間、ベッドから離れられなくて、世話になってたこの家の子供のおれの相手をしてくれてたの」

 「あ、そうなんですね」

 

 ポポタのフォローに、アステルはほんの少しだけ気持ちが浮上した。

 

 「狭い所でごめんなさいねぇ」

 「いえ、こちらこそ大勢で押し掛けてすみません」

 

 申し訳なさげに眉を下げて皆にスープの入ったカップを配る壮年の女性は、ポポタの母親のリーズだ。

 アステル達は居間兼作業場といった部屋に案内されているが、人数分の椅子はなく、椅子は女性優先で男達は動物の毛が織り込まれた敷物の上に腰を下ろしていた。

 

 「ヌーク草のスープよ。……あっ! 後から辛さで来るから慣れてない人が一気に飲むと噎せるわ。ゆっくり飲んでね!」

 

 渡されてすぐカップを呷ってしまったカンダタを見たリーズは、アステル達が口を付ける前に慌てて言葉を付け加える。

 

 「美味し……あ、後から辛さが」

 「うん。癖になる辛味だな」

 「ピリうまピリうまぁ~~!」

 「……なんや体が熱くなってきたな」

 「ポカポカする」

 「ぬくぬくする」

 「ヌーク草には即効性の強い発熱作用があるんだ。雪解けの夏のこの時期にしか取れない、この地方じゃ必需品となる香草(ハーブ)で、乾燥させて細かくしたのを料理に混ぜるんだよ」

 「へぇ~!」

 

 ポポタが鞄の中から採取したばかりの赤い葉を取り出してシェリルに見せてやると、シェリルは興味深げに手に取り眺めた。

 そうしてる彼女の隣の席にリーズは腰を掛ける。

 

 「さっきの話の続きなんだけどね。

 この子が調子に乗って村の子供達にポカ……いえ、オルテガさんの事を言い回って自慢するもんだから、皆がうちに押し掛けてきて、いっぺんに広まっちゃったのよ。

 オルテガさんもベッドの上でノリノリでポカパマズの格好をして英雄譚を語り出すもんだから、子供達に大ウケしてね。

 それで子供達にとってオルテガさんは《ポカパマズ》って認識されちゃったの。子供達に釣られて大人の私達までもね」

 

 クスクスと笑うリーズに、アステルはくすぐったくなる。

 

 (父さん、話上手だったからなぁ)

 

 年に数回帰ってくる父は土産を手に、アステルに旅で見聞きした事を面白おかしく話してくれていた。

 アステルを飽きさせる事なく、己の冒険を話す父はどこか詩人めいていた。

 カンダタやムオルの人々の知る《ポカパマズの冒険》だって、実は父オルテガが考えたお話だ。

 

 (うん。父さんって耳辺りのいい声してたし、剣を握ってなかったら詩人や作家に向いてたのかも……)

 

 亡くなった人はまず声から忘れられるとどこかで聞いた事があるが、オルテガの声は不思議とアステルの記憶に残っていた。

 

 「閉鎖的なこの村で、大人子供に関わらず余所者のオルテガさんが歓迎されたのは、彼の恵まれた人徳ゆえだと思うわ」

 

 アステルの手に手を重ねてリーズは笑い掛ける。

 その面差しにアステルは母エリーゼを重ね見てしまい、言葉に詰まってしまった。

 

 「……そうそう。アステルちゃん。コイツ、おれがオルテガさんの命の恩人って言ってたけど」

 

 そう言ってポポタはカンダタを横目で見る。

 

 「本当の恩人は《世界樹の葉》を持って来たコイツだからな」

 「え」

 「そうね。あの時のオルテガさんの全身火傷(やけど)はうちの手持ちの薬草でどうにかなるようなものではなかったもの。

 カンダタくんとボルガさんがあの日、薬草を卸しにムオルに来なかったら……確実に助からなかったわ」

 「ボルガさん?」

 「俺の親父の事だ。盗賊を引退した親父はこっから北にある世界樹の大森林に住んでんだ。そこで取れた薬草をここに卸しに来てたんだよ」

 「そういや、なんでか予定より早く薬草を卸しにきてくれたよな?」

 「なんとなくだ。行かなきゃいけねぇ気がしてよ。親父に話してみたら『おめえがそう言うなら、ちぃと()ええが行くか』ってなった」

 

 鼻の頭を掻きながら答えるカンダタに、オレの時と同じやつかと、スレイはこっそりと思い出す。

 

 ───奴等(・・)から逃げ出した時の事を。

 

 常闇の森をさ迷い、木の(うろ)の中で声を殺し、身を小さくして隠れていた幼いスレイを、カンダタが見つけ、連れ出し、彼の養父に保護された。

 (のち)に何故あそこにいるのがわかったのかとスレイが尋ねると、今と同じように『なんとなく』と、平然と答えたのだ。

 苦い過去を思い出し、溜め息を誤魔化すように、スレイは手にある湯気立つカップに息を吹き掛ける。

 

 「俺の親父は頭固くて誰とでも打ち解けるような(たち)じゃねぇんだが、オルテガさんと話してくうちにあの人の事、凄く気に入りだしてよ。

 オルテガさんの体が癒えて、ここを発つって時に親父がオルテガさんに声を掛けたんだよ。

 『お前、どんな嵐にも負けん船とそれを造った強くて格好いい元盗賊のこの俺、オマケにやたら勘がいいガキいらねぇか?』……ってな」

 

 「船を造った……って、親父さんは船大工か何かなのか?」と、タイガ。

 

 「まあな。親父は船に限らず、色んなもんが造れる。なんてったってドワーフだからな。木工大工ならお手のもんだ」

 「あんたドワーフとエルフの混血やったん?」

 「違う。親父は育ての親だ。血は繋がらねぇ」

 

 「あ、スレイが前に言ってた知り合いのドワーフって……」と、アステル。

 

 「ああ。カンダタの養父で、オレに盗賊の技法を叩き込んだ師匠の事だ」

 

 だからスレイはあんなにドワーフに詳しかったのねと、アステルは納得した。

 

 「始めオルテガさんは断ろうとしたよ。

 けど、俺の『自由に出来る船とそれを任せられる船員は必要だろ』の一言で折れた。

 定期船で陸を繋ぎ渡る旅にも限界はあるし、好き好んで魔王のお膝元に行こうとする船乗りなんざ、そうそういねぇからな」

 「それで父さんは、カンダタさんとカンダタさんのお父さんとで旅を始めたんですね」

 「いつか親父にも会ってやってくれ。オルテガさんの事も……ついでにスレイの恥ずかしい昔話の一つや二つも聞ける筈だからよ!」

 

 スレイは口に含んだスープを盛大に吹き出し、悲鳴と笑い声があがった。

 

 

 「───あ、」

 

 と、思い出したように声を上げ、ポポタは部屋を出る。

 小走りで戻ってきた時には、その手に木の筒らしきものと黒鋼の兜が乗っていた。それらはアステルに見覚えのある品だった。

 

 「これ……」

 「わかるかい? これはオルテガさんがムオルを旅立った時に、おれに残してくれたものだ」

 

 アステルは木の筒のようなものを手にする。それは水鉄砲だった。

 夏の日に父が自分と幼馴染みのアニーの分と二つ作ってくれて、これで水の掛け合いっこをしながら遊んだものだ。

 

 「うわぁ。……懐かしい」

 「オルテガさんが作ってくれたんだ。俺と同じくらいの歳の奴らは全員持ってる。みんなオルテガさんのお手製だ」

 「へえ……ようできとるやん。オルテガさんって器用なんやな?」

 「……うん」

 

 覗き込むシェリルに、アステルは微笑む。

 

 「オルテガさんはポポタや子供達の相手をしながら、故郷に残してきた娘さんと奥さんを思い出して話をしてくれたわ」

 「……お袋、それ聞いてオルテガさんの事諦めたんだよな」

 「おだまり」

 

 リーズは余計な事を言う息子の後ろ頭を素早く、しかし強かに(はた)く。

 アステルの笑みは引き攣ってしまう。

 あの父に限って不貞などあり得ないと信じるも、面白い話ではない。

 

 双子達が水鉄砲に注目しているのに気付いたアステルはそれを渡してやると、二人は楽しげにいじくり始めた。

 今度は焼き焦げ、熱でひしゃげた跡のある兜を持ち上げる。

 左右にある勇ましさを表したような一対の角は片方が欠けていた。額に填まっている紅玉(ルビー)の玉にも亀裂が入っている。

 兜は父の戦いの凄まじさを物語っているようで、アステルは眉を寄せた。

 

 「それね。お袋や皆はもう使えないから捨てたか置いてったんだろって言うけど、おれはお礼に置いていったんだって思ってるんだ」

 

 叩かれた頭を擦りながら苦笑交じりに言うポポタ。

 ふと。兜の内側を覗き込めば名前が彫られているのをアステルは見つけた。

 

 (───ガーディ……?)

 

 

 『───こいつはグロリア、こいつはヴァン、こいつはゲニウス……』

 

 幼いアステルの前に広げられる父の装備品。その一つ一つの名前を上げながら、父は愛おしそうに手入れをする。

 

 『みーんなにおなまえあるの?』

 『そうだぞぉ。こいつらは父さんと共に戦ってくれる戦友だからな。

 ……それでこいつはガーディだ! 武具屋のトーマスさんと息子のロディが造ってくれた兜なんだ!』

 

 そう言って兜を被って歯を出して笑う、在りし日のオルテガの顔がはっきりと思い出され、目頭が熱くなる。

 

 

 

 「アステル?」

 

 名を呼ばれてアステルははっとした。兜を抱えて俯き、深い呼吸を繰り返す。

 

 「だ、大丈夫! なんでもない!」

 

 なんとか涙を溢さずに済んだアステルは、顔を上げて笑みを浮かべた。

 

 「ポポタさんの言う通りです。

 父さんはこの兜を忘れたり捨てたりなんかしない。ポポタさんにあげたんです。きっと大事にしてくれるってわかってたから」

 

 差し出された兜にポポタは目を張り、そして笑みを深めた。

 

 「アステルちゃん、その兜はあんたに返すよ。いや、あんたが持つべきだ」

 「え?」

 

 頭を傾げるアステルに、ポポタは眉を下げた。リーズも悲しげな笑みを浮かべている。

 

 「オルテガさん、亡くなったんだろ? 」

 

 今度はアステルの方が目を見開いた。

 

 「遺体も帰ってこなかったって聞いた。ならせめて、これだけでも家族の元に帰るべきだ」

 「どうしてそれを……」

 「おいおい。こんな辺境の村にもオルテガさんの訃報が伝わってんのかよ」

 

 驚くアステルとカンダタに、ポポタはふと笑う。

 

 「実はおれの嫁さんがアリアハン出身でさ。子供の頃にここに移住して来たんだ。

 あいつにポカパマズの事を話したら、真っ青になって、それで話してくれた」

 

 そこでポポタは表情を引き締めてこちらを見てくるので、アステルも思わず居住まいを正す。

 

 「アステルちゃん……実はおれの嫁さん」

 「───お義母さん、ただいま戻りました」

 

 ポポタの言葉を遮ったのは、若い女性の声だった。扉が開く音に続いてパタパタとこちらの部屋へと近付く軽い足音。

 

 「ポポタ帰ってたのね……あら? お客様……」

 

 現れたのはアステルと同世代の娘だった。

 細く小柄で可愛らしい顔立ちをした娘で、唾の広い帽子を取ると鮮やかな赤毛が現れる。長い髪を二つに分け、三つ編みにして下げていた。

 白い肌をしており、寒さで薄紅に染まった頬と鼻梁に散らばるそばかすが目立つ。

 

 鼻の頭のそばかすをいつも気にしていた幼馴染みがアステルには、いた。

 

 娘もまた瞳を見開いて、アステルの姿に見入っていた。まるで記憶の中の人物と照らし合わせるように。

 

 その時間は長くはかからなかった。

 

 

 

 「……アニー?」

 「アステル……?」

 

 

 それは九年ぶりとなる幼馴染みとの再会だった。

 

 

 

 









当物語のポポタは大人設定です。
ゲーム上ではポポタは明らかに16歳の勇者より年下の子供設定で描かれていますが、これってちょっとムリがあるのでは……と。
SFC版オープニング画面を見る限り、オルテガ訃報を受けたのは勇者が恐らく10歳前後の頃。(勇者としての特訓スタートを考えてもそれくらいの歳なのでは)
けどそれ以前に少年ポポタは村を抜け出して、森で瀕死状態のオルテガを助けてるんですよね。
村を抜け出して遊ぶくらいだから、ドラクエ5主人公を例にしても最低でも6歳くらいでないと無理なのでは。
ならポポタは勇者より年上……最低でも同い年くらいでないとお話が成り立たないのでは……と思ったのです 
ですので当物語のポポタは年齢を19歳に設定しました。
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