宇宙空間は真っ暗。それでも星々の光や母艦の明るさで多少は見える。幼い頃、両親に連れられてコロニーと木星間の旅行に行った事を思い出しながら、果てしない宇宙を駆ける。
ガンダムは想像以上の性能だった。自身が関わるプロジェクトに必須と言われて当然と思えるモビルスーツであった。推進剤いらずの飛行機能、ガンダリウム合金を何重にも使用した超装甲に加え、人工知能を搭載した次世代モビルスーツ。その性能に驚かせながらもデブリを触れるか否かのすれすれで避けていく。
「すっげぇ!このガンダム!最っ高だ」
腰部装甲に装備された"シザー・アンカー"を射出、宇宙を優雅に舞う隕石の塊をガッチリと掴む。そのまま前方の大きな隕石にぶつけ、粉々に粉砕する。
シザーアンカーは自機の固定や敵機の捕縛に役立つ、クロスボーンガンダムX1にも搭載された装備である。パルティーダに装備されたものは、より自機の固定を安定させるために挟む力を40%増強している。
「あぁっ!あっぶねぇなぁ隕石ちゃんよォ!」
ガンダムの性能を楽しみ、これが自身に任されるとなると高揚感が高まる。
7年前に見たガンダムと木星帝国右翼の戦い。それはユートの心を復讐心からガンダムへの興味へと移らせるには十分すぎた。
復讐は意味が無いと気付かせてくれたガンダム、それに今自分が搭乗しているのは最高の気分だった。
「今なら敵が来ても大丈夫そう……いや、武装がないんだった……ははっ──」
気が大きくなった自分を一旦落ち着かせ、テスト飛行の終了を迎えようとしていたその時──
『ユート少尉、応答しろ』
「こちらユート機、テスト飛行の完了を願います」
母艦・バンガードフォースのオペレーターの声である。よく聞きなれた声なので、すぐに分かったが様子がおかしい。
『周囲の空間安定値に異常な数値が出ています。テスト飛行は中止、即座に本艦へ帰投してください』
唯ならぬ雰囲気に押され、了解、と返答。何が起きているかは一切分からないが、直感で異常さには気が付くのにそう時間はかからなかった。
「───ちょっと待て!バンガードフォース!応答願います!何かが!」
その目に異常さの正体が映る。
「何かが変なんだッーー!!」
歪み、そう表現したらいいのだろうか?宇宙が、目の前の空間が歪み出している。
周囲の隕石が空間の歪みに吸い寄せられ、瞬きをする一瞬よりも早くパッと消えてしまった。
「何ぃッ!?これは……ダメだ!!」
即座に危険を感じ、母艦へ戻ろうとしたが…。
「───ふざけんな!なんでだよ!?なんで進まねぇんだ!!」
理論上亜光速まで加速可能なミノフスキークラフトを使用しているのにも関わらず、どんどん吸い寄せられていく。しかし吸われているのは自分だけではなかった。
前方からよく見たものが接近してくる。間違いない、それはバンガードフォースだった。
「母艦もかよ畜生ッッッッッ!!」
わけの分からないものへの怒りと不安で叫んでしまった。が、もうどうしようもない。
母艦に押され、前に進むこともままならなくなってしまった。元々、前身できていなかったのだが……。
「─────ぅぁぁあああああっ!!──────────……」
────────────────────
「──ここは」
気がつくと、コックピットは真っ暗。電源が落ちているのか、もう一度立ち上げてみると動作音が鳴り正常に機能しているようだ。
何がどうなったか、そんな考えは眼下に広がった景色を見て消え去ってしまった。
「……っ地面!?ここは……どこかのコロニーか!?……いや」
目の前に広がる景色、それは先程の宇宙空間ではなく大地であった。ガンダムがしっかり地に足がついているのを確認できた。
「…海だ…………本物の…………海……それに酸素も…」
月明かりが水面に写っており、緩やかな波が反射した光をゆらゆらと揺らしている。
確認できたものから推測できるのは、地球。
なぜ地球に移動してしまったのか、理解できない事だらけだが…やるべきことはたった一つ。
「バンガードフォースは…どこだ」
状況整理が必要だが、母艦の安否が気になるばかりだ。
ミノフスキークラフトを作動させ、宙に飛び上がったその時──少し離れた場所で黒煙が立っているのを目視した。
もしかしたら母艦かもしれない、とその方向へ行ってみることにした。
「ニュースで見るより……綺麗な地球だけど…………まだ環境がいい場所があったんだな……」
確かに、荒廃が進んだ地球ではあるがそれでも自分が知っているものより比較的状態は良い。
黒煙を上げていたものの正体を確認するため近づいていく──が、それは母艦ではなかった。人型の物体──見たことの無いモビルスーツか、と細部を調べるためモニターを操作、AIに目の前の機械を調べさせていた。
結果は【unknown】。所属、形態、一切が不明であったことに加えて、装甲に使用されている金属は古いものであった。まるで地球の年代で2000〜3000年くらいの技術。
「────新しいなこの傷?」
装甲に付けられた傷はまだ新しいものであったが、それにしても奇妙であった。
「噛み跡…………?切り傷?なんだ……ビーム痕じゃないのか」
まるで巨大な宇宙怪獣にやられたような、生物がつけたと思われる傷を受け再起不能に陥っているようである。
「まぁ、気にすることじゃないか……それより母艦が心配だ………………」
その地を後にしようとしたその時、AIが生体反応をキャッチした。場所は──目の前の機体。
「なんだよ一体…………っ」
操縦桿を握り直し、警戒態勢をとる。しばらく経ち、何も進展が無いことに痺れを切らしたユートは、目の前の機体に触れることにした。
コックピットらしき胸部装甲が外れ、中に何かがいるようだった。
「──あれは…………人か!!」
判断するや、ガンダムのマニュピレーターを胸部へ移動、コックピットを降り人影の元へと向かう。
見たことないパイロットスーツ?を着用した少女だった。
「大丈夫か!おい、あんた、おい、お──い……」
声をかけたはいいものの、目の前にいる人の顔が月明かりで照らされる。目に飛び込んできた情報は正しいのかユートは一番疑っている。なぜなら──。
「リ───ヴ…………」
よく知る顔、目、鼻筋、綺麗な白い髪色、柔らかそうな頬、年齢に合わないほど妖艶な唇。
いつまでも愛でていたかった。二度と会えないと思っていた。事実、二度と会えないのだったから。
その少女は、死亡したユートの妹──リヴにそっくりであった。
キャラデザも考えています。また次回更新でお会いしましょう!