最初に見た彼女の印象は、少しズブい娘だった
大外枠のゲートにすんなりと入ったは良いものの、ぼーっとしていたり、どこかを見ていたりと、レースに集中出来ていない
でも、そわそわしていたり、気持ちが高ぶっているようにも見えない。ウマ娘にしては少し落ち着き過ぎていて不思議だった
ゲートが開くが、音がし開いたのを目視してからのスタートで1歩目を踏み出したときには1バ身ほど離れていたのではないか?と思えるほど出遅れていた
私はその娘を視界の端にやり、好スタートを切っていた先頭の娘を重点的に観察する
バ群を気にしていたり、意地でも先頭を取るような仕草はなかったから、自然と頭になったのだろうと判断する
こういう娘はレースを作れるから強い
現にミドルペースではあるけど、スローに近いようなタイムで通過しそうだ
チームとしては、こういう娘は育てやすい
ある程度レースを教えれば、自分で考えれるだろうし、自力を引き上げることに集中しやすい
メモ帳に1番◎を打つ
ゆっくりと1番の娘から視線を外し、後続を観察する
大人しく1番のうしろに付けた娘と、バ群を嫌って途中からその更に後ろにつけた娘で先団が形成されている
大人しく後ろに付けた娘は、前が鬱陶しそうに感じてレースよりもイライラのほうが勝っていそうだし、その後ろの娘は逆に後ろを気にしすぎている
この二人はウチでは厳しいと感じ斜線を引く
その後ろ、1〜2バ身離れて中団を形成している先頭の娘は、よく前と後ろの間隔を調整していると感じる
脚を溜めるのと同時に、いつでも反応できるように先頭をしっかり見ている
後ろが焦れて前に出ない間隔を保ちながら出来るのはこの時期であれば凄い
後は、仕掛けのタイミング次第かなと4番に○打つ
後の中団メンバーは似たりよったりだろうか?強いて言うなら外に早めに出し、1番、4番を見ている8番の娘がいいだろうか?
とりあえず、▲を打っておく
後は、バ群に入っても落ち着いている娘に△を打って最後尾を見る
うん、厳しいな
既に、中団には追いつけているが、ペースが速い
多分バテる
そう思いながら視線を外そうとした所で止まる
あれ?意外と余裕ある?
そう思った時には、彼女はもう仕掛け始めていた
周りから失笑と共になにか言っているのが聞こえるが、私は笑えなかった
前しか見なくてもいいという心理的安心感があるからかも知れないが、中団に入った事でわかる表情の余裕さと身体の動きの軽さ
脚を溜めている段階の娘はもちろん、先団で走っている娘よりも速いペースで走っているのに一番余裕を感じている
4番を捉えようとしている頃には疲労は見え始めているが止まらない
4番がそれを見て動く
うん、反応できてる
頭の別のところで4番の評価を上げつつ、彼女を視線で追う
4番が動き始めたのを見て1番も動いた
こちらは逆に評価を下げる
明らかにリードはあるのにここで仕掛けるのは今までの作ってきた展開が無駄になる
焦っちゃったかぁと評価を少し下げメモ帳に書くが視線は彼女を捉えたまま動かない
下り切った所で1番と4番、途中からずっと見ていた9番が並ぶ
そこで私は完全に彼女に虜になっていることに気がつく
周りは少し期待しているか、ここから伸びずに落ちるよと笑っているかのどちらかまで評価が上がっているが、私はどのような結果であってもスカウトすることに決めていた
上りに入り、皆脚が止まり始めた
ここからは根性勝負だろう
後ろの子達は少しでも速く、逆に前の子達はどれだけ落とさずに走れるか
私の目が正しいのであれば、彼女なら持たせられる
1番が落ちた
やはり、ペースを守らなかったからだろう
だが、それでも離されていないのは評価出来る
4番と9番が完全に抜けて競っている
どうなるか
坂の半ばまで来たところで息を吐く
9番が少し体制が厳しくなってきた
491で決まったかな
そう思った時、9番が4番を見た
そして、4番も9番を見た
その瞬間、私の背筋に冷たいものが通ったような感覚がした
そこからは異様な光景だった
ゆっくりと9番が上がっていく
4番は必死になって、9番を見ながら食らいつく
だけど、9番は止まらない
脚を使い切ったような挙動を見せていたのに
今は凄く、レース中なのに、生き生きと、疲れなんて知らないかのように、坂を駆け上がっていた
そして我に返った時には皆ゴールした後だった
私は走った
サブトレを辞めてでも、この娘と、この娘がレース人生を終えるまで心中するために
結果から言わせてほしい
ダメだった
あれだけの感情を彼女に抱いていたはずなのに
いや、言い訳させてもらうと誰もスカウト出来なかった
出遅れていた私は彼女の元へ走ったが、先に集まっていたトレーナーが誰も話しかけていないのをラッキーだと思い、声をかけた
すると彼女は、こちらを射殺すような視線と、苦虫を噛み潰したような表情で振り返り校舎に戻ってしまった
うん、固まったよ
レース直後は気が高まりやすいとはいえ、勝ったレースで一切喜ばずに去っていくのは初めて見た
周りのトレーナー達が憐れむような視線を向けているのを感じながら、膝から崩れ落ちた
土下座するような形で固まる私を、仲のいいトレーナーが慰めてくれているのだろうか?声をかけてくるが日本語として聞き取れない
失恋ってこんな気分なんだろうか?
未だ恋人すらできていない私は、意中のウマ娘すら振り向かせることが出来ないのだろうか?
涙が溢れてきた
そこで私は担がれ、チームで借りているトレーナー室に寝かされた
何事かとたむろしていたチームのウマ娘達を追い出してくれ、一人にしてくれたことは感謝してもしきれない
涙を流し切るように泣いた後、決心した
チーム抜けて彼女に土下座してでも専属トレーナーにしてもらおうと
リーダーと呼んでるトレーナーが帰ってきた
リーダーは私を見ると一言、申次だけ持って来いと言って私を追い出した
出し切ったと思った涙が更に漏れ出て、頭を深々と下げた
トレーナーとして、この学園に来てからずっとお世話になり、認めてもらえたのかわからないが、独立をすんなりとさせて貰えた事が嬉しかったし、感慨深く、まだここでやりたいと思えた程に
だけど、そんな気持ちよりも彼女に対する思いの方が勝っていた
私は、借りているアパートに急いで戻った
そして、担当していたトレーニングや雑務などの資料作りを始めた
幸いにも、メモ帳を纏めるだけで済んだから1晩で終わった
データの入ったUSBとノートを持って、早朝、門が開くと同時に入る
鍵を借りに管理室に向かうと、返却されていないと言われもしかしてと思い、トレーナー室に向かうと、扉の外に椅子を出し、そこに腰掛けているリーダーの姿があった
声をかけようとすると急に立ち上がり、USBとノートを引ったくられ、トレーナー室に入った
口数の少ないトレーナーではあったが、流石に困惑していると、少し経った後に、顔だけを出して頑張れよと言ったあと、扉がまた閉められた
もしかして色々気を使ってくれたのかなと思い、また、深々と頭を下げた後、その場を離れて校門に向かった
顔だけしか知らない彼女を探すなら、もう出待ちしか無い
そう思っていた私は登校しているウマ娘達に怪訝な顔をされながらも待つ
そして、登校時間ギリギリになって彼女は現れた
最初に見たぼーっとしているような感じではなく、レース後のあの険しい表情でもない
明るそうな顔に、少し陰りがあるが、全く印象の違う彼女だったが、間違い無い
どうやって声をかけるか
全く考えていなかった
少しテンパる私の前を彼女が通ろうとしたとき、声が出ていた
結局、あの後悶々として眠れなかった
切り替えって難しいね…と思いながら登校時間ギリギリに学校に向かう
とりあえず、ホクトちゃんとコウちゃんに謝って、コウちゃんの結果聞きたいなぁ
そんな事を考えていると、校門の前に変な女性が立っていた
何も言われないところを見るとトレーナーかな?しかし、この時間まで誰を待ってるんだろ?
気性難のウマ娘のトレーナーでその娘を待ってたり?
まあそんなことをするくらいなら迎えに行くかぁとどうでもいいことを考えながら、目の前を通り過ぎようとしたとき呼び止められる
私?何事?と思いながらそちらを向くと、挙動不審になった女性が、慌てながら何かを言おうとしている
落ち着いてくださいと言おうとしたときに、急に動きが止まる
愉快な人なのかな?そう思ったところでゆっくりと言葉が紡がれる
聞き間違いだろうか?
最初はそう思った
聞き返すと、顔を真っ赤にして頷かれた
いやいやいやいやいや
おかしい
うん、おかしい
どう解釈しようが、この状況を考え、相手に確認を取った上で頷かれてる
「私と付き合ってください」
…いや、寝不足の朝にはカロリーが高すぎるよ?!
内容がほぼ進展せずに3話目は流石になぁと思った結果、長くなりました
まあ他の方の物語だと普通以下くらいなんですが…
視点の切り替えが分かりにくかったらすみません