ワンライ! 一時間小説の残骸   作:蒼井魚

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お題:つらい・不必要・灰皿

 つらい、雰囲気に押しつぶされて死にそう。

 豪華な装飾品やら刀やらが飾り付けられた組長室。そこに座らせられ渋い表情をしているのが俺だ……。

 死んだ親父がヤクザで組長だと聞かされていたが、葬式の後に……誘拐じゃない……?

 いやいや、そんなことはない。絶対にない! お袋と俺は親父とは離反してるんだ、極道の道に引きずり込まれることなんてないだろう……。

 

「使い込まれてるなぁ……」

 

 ヤニの汚れでガラスの色を失った灰皿、葬式の遺影でだけみた存在が使っていた一品か……。

 父親がいなくて色々と敬遠された人生……二十五年……。

 中学で荒れて、高校は最底辺で……大学なんて考えてなかった……。

 ポケットの中から煙草を取り出して備え付けられているマッチで火を灯す。

 紫煙をくぐらせて落ち着かない体を強引に落ち着かせる。

 

「若……お久しぶりです……」

 

 ようやくの来客に煙草を揉み消す。

 お久しぶり? いや、確かにお久しぶりなのか――毎年お中元を届けてくれていた人だ。

 そうか、親父はなんやかんやで一応は父親としての何かを見せたかったのか。

 

「……顔を上げてください。自分は二十代の若造です」

「そんなことはできません! 自分達は親父に世話されてこの世界で生き残れました!!」

 

 若頭が頭を下げたまま語ってくれた。

 親父の遺書で若頭さんを組長に任命しているが、息子が真っ当な職業についていないのであれば、組で仕事を斡旋してくれないかと書いていたらしい。

 真っ当な仕事かわからないが、高校を卒業して溶接の資格をとってそれなりの給料は貰っているし、ヤンキーをやっていた頃の金髪、それもすっかり黒髪に戻っている。現状、仕事はそれなりと言えるだろう。

 

「自分は生活に困ってはいません。このままカタギの世界で普通の人生を」

「親父の遺書には、息子の手取りが『120万』以下なら頼むって」

「120万!? いや、一流企業の役員クラスの賃金ですよそれ!」

「え? 暴対法で厳しいですが、親父の成功であっし達は月収……ではありやせんが、月300万、上納金100万は収めてますぜ」

 

 えぇ……親父ってどんな仕事してんだよ……。

 あ、ヤクザか。

 って!? 暴対法が出来てヤクザのしのぎって本当に厳しい状態じゃないのかよ!

 ま、まさか……この組は違法ドラッグとかいうのを……?

 

「親父がはじめたキャラクタービジネス、こいつが願掛組の一番の収益ですわ」

「バローキッピー!? あの有名なパロ―キッピーってこの組発祥なの!!」

 

 女の子向けの猫をモチーフとした可愛らしいキャラクターパローキッピー!? それのデザインを担当したのが親父だと力説してくる! 信じられるわけないだろ!! って、え……シャンリオの契約書をだしてきたよ……。

 まじ?

 

「親父は絵本作家も兼任してまして……ヤクザが描いたキャラクターを使う企業に脅しをかけて……」

「いや!? 俺の想像してた親父の仕事、それの斜め上行きすぎだろ!」

「これが親父の最後のキャラクターです……」

「くまポン!? 熊本の代表的ゆるきゃらも親父作かよ!!」

 

 丁寧に書かれた当時の熊本知事からの口止めの一筆……くまポンまで……。

 で、でも、これだけ有名所があれば組は安泰だろ、脅しのお金とは言えど、違法ドラッグよりは多分マシ……!

 

「若! 親父の血液が入っているなら若にはデザイナーのセンスがある筈です!!」

「ヤクザがなんでデザイナー欲しがってるの!?」

「自分! 美大出てるのにデザインの発想が皆無なんです!!」

「だからなんでキャラクタービジネスしてるの!? 本当にヤクザなの……」

 

 半ば無理矢理にヤクザ? というよりはキャラクタービジネスをしている反社に入ってしまった。

 

【一ヶ月後】

 

「ミーティングをはじめるぞ!」

「「「「「ウッス!」」」」」

 

 何故かデザイナーの卵という名のヤクザを集めて会議を開始する。

 もう結構染められちまったよ……てか、親父のデザインセンス凄すぎだろ……!

 

「最初に現状のゆるキャラは飽和状態だ! 親父が残したデザインは秀逸だが、現状のゆるキャラ戦国時代の終焉によって需要が無くなっている!!」

「「「「「ま、まじですか……」」」」」

「だからこそ、俺はこの半年で新しい体制を整えようと思う。現状は紙とペンでデザインを決めていた! だが、現代はデジタル!! パソコンで絵を描く時代だ!!」

「「「「「おー!!」」」」」

 

 親父の遺産で贅沢に購入したパソコンと液タブ、ペンタブレット、もちろん参考書と有料イラストソフトも全台に装備されている! なんでヤクザの事務所が漫画家かイラストレーター事務所になってるのかまったくわからん! でも、この組にはデザイナー(ヤクザ)しかいない!!

 

「君達は親父が認めたヤクザだ! 日陰者でもイラストを描ける!!」

「「「「「ウッス!」」」」」

「わからん者は参考書を確かめてデジタルイラストに挑め!!」

「「「「「うおぉおおおおお!!」」」」」

 

 威勢だけはヤクザなのだが、席に着くとコワモテのイラストレーターの誕生……。

 俺も多少の才能があるのか、萌えキャライラストの参考書を読みながらペンタブレットでイラストを描いていく。あ、楽しい……。

 

【三ヶ月後】

 

「諸君、全員がピッキーシブのアカウントは作っているな?」

「「「「「ウッス!」」」」」

「諸君のイラストは全員が個性的だ! それを売るぞ!!」

「「「「えっ?」」」」」

 

 願掛組のデザイナー(ヤクザ)が驚愕の表情を見せる。

 現状は親父の闇の著作権で黒字経営だが、このままだと先細りに陥る。だからこそ、組員の描いているイラストを売るという選択肢を取る! そして俺のイラストが閲覧3000人にいった!!

 

「ピッキーシブにはファンボックスという機能がある! そこでは有料会員にだけしか見れないイラストを投稿することが出来る!! そして、松竹梅という金額設定ができる! 一番下のクラスでもファンボックスイラストは見れるが、高い金額を設定する投げ銭機能もあるのだ!!」

「「「「「す、すげー……」」」」」

「諸君のイラストはプロ並み……いや! プロの域に達している! 今後はファンボックスを軸に筆が早い者にはライトノベルの挿絵なども担当してもらう! 君達の活躍を楽しみにしているぞ!!」

 

 組員すべてが納得して松竹梅でファンボックス設定を実施、エロ系が描ける組員達は高い収益を達成していった。

 

【半年後】

 

「若! このライブ2Dってソフト凄いっす!! イラストがアニメのように動きます!!」

「ん? 最近流行りのバーチャルユーチューバーとかいうのが使っているソフトだな……」

 

 若頭がライブ2Dイラストを見せた。

 ふむふむ、最初の頃は3DCGが一般的だったが……現状はライブ2Dというソフトが主流!?

 そうか! これもしのぎになる!!

 

「諸君! 学生の娘がいる者はいるか!?」

「じ、自分は高校生の娘が……」

「自分は小学生っす!」

「今年中学生になったばかりです」

「娘じゃないですが、キャバクラに若い子が来てます!!」

「バーチャルユーチューバーを作るぞ!! 時代は動くイラストじゃい!!」

 

 そして組員達は新しいしのぎ、バーチャルユーチューバーを手に入れた。

 そして、俺のファンボックスで一万円程稼げた……他の組員は三十万くらい稼いでいるのだが……。

 つらい。

 

【一年後】

 

「若! うちの娘が日本一のバーチャルユーチューバーの称号を貰ったっす!!」

「うむ、投げ銭二億……頭おかしいだろ……」

「うちの娘だって定期的に数千万の投げ銭貰ってます!!」

「うん……色々とすごい……」

 

 組員達の努力によって親父のキャラクタービジネスの頃より組の収益は安定、それどころか鰻登りしている。だが、俺は本当に必要なのか? だって、俺のイラスト……ぜんぜん売れない……。

 

「あの、若……」

「どうしたんだ?」

「うちの組には男性バーチャルユーチューバーがいません! だから……」

「ま、まて! 俺は確かに若いが!?」

 

 信じられないくらい丁寧に描かれたキャラクター、このキャラクター……!

 組の公式サイトを確認してみると俺のペンネームがVCと書かれている!?

 

「若、おねがいしやす!! 男も描きたいっす!!」

「えぇ……」

 

【配信】

 

「どうもー新人の願掛タイゾウでーす(涙)」

 

 つらい、なにをやらされてるんだろ……。

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