4
強襲揚陸艇からゾロゾロと地獄に向かって突撃していく兵士達。
ノルマンディー上陸作戦が約百年前の出来事、連合国と枢軸国の戦いで行われた大規模な上陸作戦。
それの再来と後世の教科書に載せられるかもしれない……。
遺伝子変更された超兵士、動物の力を使った一種の人体兵器と表現できるそれは日本国の五島列島を制圧した。
自分も粗悪なアサルトライフルを手に全速力で飛び出した――
1
特別な感情もなくお昼のニュースを眺める。
『クローン人間とはどんな存在なんですか』
テレビのコメンテーターが専門家に説明を求めているクローン人間。大昔には人権の兼ね合いで人間のクローンを作ることは禁止されていたが、今の人口減少、第三次世界大戦の後遺症で世界人口が教科書に書かれてあった70億人から30億人になったのは生まれる前の話し。
現状はこの広い地球に少ない人間が生きていて、そして発達した民主主義では豊かな国では食糧危機が多発している。理由? そんなの農業をする人間が絶滅寸前ってだけさ。
一次産業、人間がやりたがらない職業筆頭候補、それに土地を所有していないと満足に収穫もできない。こういう歪さが資本主義の悪い部分だと思う。
『では、クローン人間の現物を見てもらいましょう。こちらは日本で作られた最初のクローンの画像です』
テレビに映し出される少女に目を疑った。
少女には猫耳が生えていて、人間的な耳がある部分には髪の毛が生えている。創作物に出てくる猫娘そのもの、これがクローン?
頭の中にある知的好奇心がクローン人間と呼ばれている少女に惹かれていく。
その後も獣耳をした少年少女達の画像と専門家の討論が繰り広げらた。
番組が終わった時には世の中は不思議と何度も頷く。
人間とクローンの見分けを付ける為に生殖能力が高い生き物の遺伝子を人為的に移し、その中には猫や犬も含まれるという。もちろん生殖能力も備わっており、仮説では動物のように5~6頭の赤子を産むことは出来ないが、高確率で双子が生まれるらしい。
国の方針としてクローンに関しては人間と同じ人権を与え、職業に関しては一次産業に絞らせる。二十年後程度には正しく人間としてクローンの名前は捨てるらしい。
「世にも奇妙な物語だな……現実だけど……」
男子高校生としてはクローンというより異世界の種族として見えた。
それにしても……最初の写真の子は可愛かった……。
2
学校でもクローン人間のことは昼休みなどで多く語られていた。
人工減少に伴って1クラスの人数は20人いるかどうかだが、共通の話題があれば男女構わず盛り上がる。
俺もその輪の中に入ってクローンの話しに花を咲かせる。
多少の気持ち悪いという声はあるのだが、概ね美男美女のケモミミ人間に関しては好意的な意見が飛び交い、これをクローンと呼んでいいのかという道徳的な雰囲気に呑まれていく。
確かに理解できる。俺みたいな高校生が生まれる前、第三次世界大戦は核兵器を使わない戦争、どの国も世界の崩壊を恐れて核の使用をしなかった。
そして第二次世界大戦のような戦車戦、航空戦、歩兵戦、連合軍と共産軍の戦いによって多くの場所で命が散り、クラスの中には親が戦争で死んだという奴も何人かいる。
「でも、クローンと言ったら普通の人間だと思ってたけど……ケモミミとはなぁ……」
「可愛い子ばっかりだしクローンとは思えないよなぁ」
大前提は出産する子供の多さを重視しているが、裏の前提はクローンだと一目でわかり、そして差別の対象にならないような工夫なのだろうか?
確かに犬や猫を好む人間は多い。俺もペットを欲しいと思ったことがある。
それの延長線としてケモミミクローンを投入し、差別という永遠の課題をどうにか工夫しようとしているのだろう。
昼休みを終わらせるチャイムが鳴り響いた。
この場にいる全員が話し足りないという表情で自分の席に戻っていく。
自分達は進んだ文明の犠牲者なのかもしれない。進んだ文明は時に大切な産業を捨ててしまう。
3
高校を卒業して防衛大学に入学した。
最初の頃は航空自衛隊を目指して勉強や訓練の日々だったが、視力が足りなかったらしく、それなら陸上自衛隊に絞って軍人としての道を選ぶ。
大戦の影響で軍属を目指す人間は非常に少なく、防衛大学に入学する人間は少ない。それでいて偏差値も高い。
親からの反対も確かにあったが、確固たる意志で軍人という道を目指した。
――クローンが反乱を起こした。
頭の中から消えていたクローンの存在、新聞で軽く書かれていた農産物の豊作はクローんではなく、女神男神達の功績だとか……そんな認識しかなかった……。
戦争の影響で軍属の人数は絞られる。この時、俺は決断の権限すら無かった。
決意とは何か、命令とは何か、人を殺すことは何か、
何も知らない人間が戦地に向かう心構えが出来るのか……。
当たり前が崩れるのは一瞬だと理解した瞬間だ。
4
学徒兵に近い人間に支給された何年も前に使われなくなった89式小銃、訓練で着ていた戦闘服は淀んだ雲と白波の水滴で肌寒さを感じさせる。
乗っているのは揚陸艇、この時代でも海岸線に乗り込むのはこれしかない。それか空挺、訓練をした人間は空からの攻略を試みているらしい。
揚陸艇に乗っている戦闘員の表情は堅いものだ。その中で老兵と呼ばれる類の軍人は何度も「また戦いか」そう呟いて鋭い瞳を地面に向けて威圧感を醸し出している。
これは正しい戦闘なのか? クローンという存在を作り出した人間の大罪なのではないか、そう心の中がグチャグチャになって表現を拒む。
潮風の香りに血液の香りが漂う。
――戦地が近い。
これから起こる戦闘は正しい戦闘なのか?
混乱の中で自分を制御しようと深呼吸を繰り返すと隣の兵が肩を叩く。
「大丈夫、相手は現代の武装を――」
頭部が弾け、顔に鮮血の化粧が……。
老兵が全員に向けて頭を下げろと叫んで全員が恐怖の感情に震えながら静かに射線に入らないように席の下に潜るように腰掛ける。
「鹵獲されてるのか、最初の空挺が作戦失敗だとは聞かされていたが……」
過呼吸を整える為に指に噛みつき現実逃避という兵士としては最低の選択を許さない。自分は兵士、敵に仲間が殺されるのは……当たり前なんだ……。
乱れた呼吸が落ち着きを取り戻す。
狙撃された兵、その見開いた目を右手で閉じる。自分は学生兵で……この人とは語ったことはないが……戦友なんだ!
揚陸艇が大きく揺れてポイントに到達したことを示す。
強襲揚陸艇からゾロゾロと地獄に向かって突撃していく兵士達。
ノルマンディー上陸作戦が約百年前の出来事、連合国と枢軸国の戦いで行われた大規模な上陸作戦。
それの再来と後世の教科書に載せられるかもしれない……。
遺伝子変更された超兵士、動物の力を使った一種の人体兵器と表現できるそれは日本国の五島列島を制圧した。
自分も粗悪なアサルトライフルを手に全速力で飛び出した――
「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
クローン……いや、獣人が狂気に顔を含ませて二丁拳銃で迫る兵士達の顔面に鉛玉を放つ。上陸した兵士達は力なく砂浜に倒れ込み死後の痙攣を何度も繰り返している。そして……動かなくなった……。
体中から怒りに似た感情が巡りこの異質な状況を受け入れていく。
「さて……次はおまえだ!」
標的にされた瞬間にスモークを炊いて推定の場所にセミオートで弾を撃ち出す。
武器鹵獲されているのならスモークの量も多いだろうに……。
「ぐっ! ががが……!!」
一発がヒットしたのか獣人の苦痛の断末魔が聞こえる。
これを逃したら増援がくると踏んでスモークの煙たさを押し殺して獣人に向かって突撃する。左太ももに鮮血を滴らせる獣人に銃剣を突き刺す。
正しく心臓を貫いた感覚がある……心臓でなくても肺に刺さった筈だ……!
「弟! 貴様!!」
他の隊員と戦闘していた獣人が怒りに支配された表情で飛んでくる。
記憶、そう記憶。
――最初に見たクローンの一人だ。