世界一特別なGⅠ制覇までのお話 ※12/10更新   作:クロカワ02

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2年間練ってたら公式が先に辿り着いちゃって笑っちゃうんすよね。
初投稿です


後編

「いやぁ、いい天気だ。レース日和だねぇ」

 

「会長、観覧席がありますが」

 

「いやいや、やっぱりレースはかぶりつきでないと!それにほら、私は注目を集めるほど有名人オーラが無いからね!」

 

「……わかりました」

 

会長は常に、会長らしい振る舞いを意図的に避けている。

 

威を示すのではなく自分を部品として学園という巨大な機構とそこに属するすべての生徒を支える一助になれたら、と彼女は言う。

 

「私は縁の下のウマ娘でいたいのさ」

 

「……」

 

「不服そうだね」

 

「あっ…いえ、決してそういう意味ではなく」

 

「ああ、わかっているよ。君が本当に抱いているのは自分が任せてもらえなかったという落胆だ。君には力不足である、と私が判断したと思っている。そうだろう?」

 

「う…」

 

「三女神に誓う。私は君に嘘をついたことはないよ。君のことは本当に優秀だと思っているし、誰より頼れる右腕だ」

 

「では、何故」

 

「役割というものがあるんだ。あくまで、凡愚たる私の決めた線引きだが」

 

「会長…?」

 

「私は凡人だ。先代に比べれば俗物もいいところで、無上の誉れ輝かしい生徒会に憧れていた君には生徒の処罰に他の生徒を恃みにする情けない女に見えるかもしれない。や、事実その通りで返す言葉もない」

 

だがね。

 

私にも役割がある。

 

「…退学にするのは正直言って簡単だが。それで済むなら最初から競技ウマ娘の誇りなどと謳いはしないよ」

 

これが良い行いだと思ってはいない。いずれ報いを受けるであろうことも承知の上で弱い私はせめて判断だけは正しく行うことにしたんだ。

 

そのためなら私は私の誇りだって捨てる。

 

良識も常識も尊厳も容赦も。

 

全ては先代たちから受け継いできたこの学園を守るために。

 

 

 

 

「ダイヤローグ。歴史を汚す彼女に、敗北より重い屈辱を」

 

 

 

「……!!」

 

「それにね、言っただろう?」

 

彼女は誰より『特別』なウマ娘なんだよ、と。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

同時刻。

 

観客席で唸っている男女が2人。

 

極めて悪目立ち。できれば身内だと思われたくない男と女筆頭こそが、主人公の身内であった。

 

「……むう」

 

「…情けない。トレーナーなら客席でそわそわするのはやめなさいな、みっともないわよ」

 

「違う!!私服の若い女が隣にいる状況に慣れていないだけだ!!」

 

「もっと情けない……」

 

「それよりツキヨ、どう思う」

 

「は?…そうね、天気良し、バ場良好、距離もコースもハルに合ってる。相手の選んだレースだけれど何一つ問題ないわ。あの子が勝つ」

 

「そうか。俺には重大な問題が2つ見える」

 

「一応聞いてあげる」

 

「1つは…枠番だ」

 

コース内では既にウマ娘たちが出走準備に入っている。

 

ゲート入りが始まった。

 

「1枠1番…ダイヤローグ」

 

赤髪の悪女はよりにもよって『そこ』にいた。

 

「偶然だとはわかっていてもこれは厳しい」

 

ハルノユメは4枠6番。14人立ての真ん中で他のウマ娘に埋もれるようにして、そしていつものように棒立ちで出走を待っている。

 

「…これは」

 

「ダイヤローグの技術は追い抜きをさせないことに特化している。奴の手脚が届くところならどこにでも暴力ギリギリの妨害を仕掛けることができるんだ。そうやって周囲を威圧してレースを自分のペースに持ち込み、勝つ。つまり」

 

「逃げに有利な最内を取ったダイヤローグは誰にも抜けないから逃げに徹するだけで負けない、と?流石に単純過ぎる。外から抜けばいいだけじゃない」

 

「いや、単純な話なんだ。ダイヤローグは単純に、強い」

 

それこそ今までも重賞で『仕事』をしてきたのだ、GⅢのレースを本気で逃げようとして逃げられない脚ではない。

 

どれだけ卑劣だろうが必要なものは持っているのだ。

 

「GⅠ級ってこと。でも、それを言うならハルだって格が違うでしょう」

 

「勿論だ。ハルノユメはいまいち迫力に欠けるがお前たちの姉が出したレコードを塗り替えての皐月賞ウマ娘。…まあ、その後は仕事のせいで実力に合ったレースにも出られずここまで来ているが。正面から戦って負けるとは思わん」

 

「その上で何か問題があると言うの?」

 

「……ハルノユメ。脱力系でエコサイズなボディで意外とよく食う全然エコじゃないあいつは誰より特別なウマ娘だ。それは誰より俺が断言する。年中白衣の怪しいトレーナーより、妹の話なのにやたらと主張の強い黒い姉より、読み切りなのにやたらと重い使命感を見せてくる生徒会長より、割とマジでどうしようもない悪党ウマ娘より、俺の愛バこそ特別であると。いずれ来たる約束のウマ娘であると断言できる。だが」

 

「…だが?」

 

 

 

「作戦を…一度も教えてくれなかった」

 

 

 

「…トレーナーなのに?」

 

「なのにだ。あいつには何か考えがあるらしいが聞いても答えてくれなかった!こっそり何かやっていたようだが…お前、作戦について聞いているか?」

 

「姉だもの。勿論聞いてるわ」

 

「嘘をつくなぁ!!目が泳いでるぞ!!」

 

「はぁ!?トレーナーのくせに黙秘されてる方が問題でしょう!!」

 

「大体お前なんだその派手なゴス和服ファッションは!!愛知だぞここは!!」

 

「愛知で和風ロリータ着て何が悪いのよ!!」

 

『さあ一斉にスタートしました!先頭を伺うのは1枠1番ダイヤローグ。勢いよく飛び出していきました。全体は抑え目か、1番ダイヤローグが先頭に立ちました』

 

 

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「やはりこうなるか…会長、このままでは」

 

「まあ見ているといい。私が思う通りなら…既に仕掛けは終わっている」

 

「え?」

 

「さあ、来たぞ」

 

『控えるバ群から6番ハルノユメが前に出た。先頭へ向けてスピードを上げていきます』

 

「仕掛けるつもりか!?バカな、ダイヤローグに近付けば…!」

 

 

 

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(怖いもの知らずかよ!なら、お望み通りくれてやる…!)

 

 

 

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「当てに来るぞ!」

 

「ハル!」

 

 

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『……。…改めて先頭から見ていきましょう。ここで先頭は1番ダイヤローグと6番ハルノユメ。2人が並ぶ形です』

 

 

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(当たった!だが、引かない!?いや…)

 

(こいつ…『抜かない』つもりか!?)

 

 

─────────────────────

 

 

「作戦…そういう、ことか」

 

「……?わざと横へ並んで何をするつもりなの?」

 

 

─────────────────────

 

 

「ハルノユメ…!相手が何をしでかすのかわからないのに、このまま真横で2000m走り切るとでも…!?」

 

「逆だよ。これでダイヤローグは何もできなくなった」

 

説明しよう。

 

「ダイヤローグの『O.C.mine』は相手を引かせるか、大外を回らせて消耗を強いることを前提にしている。引くどころか相手から突っ込んでくれば、どうなると思う」

 

「今のように、事故を装って手を当てるくらいはするのでは?」

 

「できないんだよ。だって、これは『仕事』じゃない。見たまえ、彼女は既にミスを犯した」

 

真っ先に先頭に立ってしまったことが、最大のミスなのだ。

 

「そもそも勝ちに来ているレースでケチをつけられるような行為はやりにくいし、先頭という目立つ場所で、故意であろうとそうでなかろうと仮に事故が起きてしまえばその起点になった自分が悪い意味で注目されてしまう。今回のように後続がほとんどまとまった状態では尚更。ハルノユメが転びでもしたら最悪全員巻き込む大事故だよ」

 

「なっ…ちょっ、ちょっと待ってください!まさか彼女は、わざと…!?」

 

「いやいや。さすがにそこまで身体を張りはしないよ。……多分ね。だから彼女の狙いはダイヤローグに自分の今と今後を天秤にかけさせること。そうやってイライラしているうちにほら、レースは進んでいく」

 

 

─────────────────────

 

 

『第2コーナーを回って先頭は変わらず1番ダイヤローグとその外ハルノユメ。1番人気ハルノユメはここにいます』

 

 

─────────────────────

 

 

(こいつ、狂ってやがる。アタシが癇癪起こせば最悪死ぬんだぞ)

 

(当たるか当たらないかの距離を一歩も離れやしねぇ。ついてくるだけの実力はある、か)

 

(だが、こいつが完璧に合わせてくるおかげでペースを完全に握ってるのはアタシだ)

 

(後ろの連中もアタシらが何を起こすかそわそわしてやがる、ビビってるうちは一生前に出られねぇ)

 

(なら結論は簡単。最後の直線で)

 

(こいつを置き去りにしてやるだけだ)

 

 

─────────────────────

 

 

「…また顔に当てたわね。ちょこちょこといやらしい」

 

「怒り狂うかと思っていたが。冷静だな」

 

「ええ。今は溜めておいて後で思い切り叩き込んでやりに行くつもりよ」

 

「だろうと思った。…俺の予想が正しければ、お前が出るまでもなくダイヤローグは再起不能になるぞ」

 

「…は?」

 

「そして作戦を話さなかった理由もわかった。…さあ、決着だ」

 

 

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『さあ第4コーナーに入った!ここからスパート、一気にレースが動きます。ここから誰が抜け出すのか』

 

『先頭はダイヤローグとハルノユメ!』

 

─────────────────────

 

 

(我慢させやがって…だが、これでおしま──)

 

『おぉっと!』

 

(───あ?)

 

 

─────────────────────

 

 

『ここで後続集団が一斉に襲いかかった!溜めた脚を解放して一気に先頭へ迫っていく!』

 

『コーナーを超えて最終直線!!一気に先頭が入れ替わっていく!!』

 

 

─────────────────────

 

 

(…なんだ!?何が起きてる!?)

 

(息が合いすぎだろ!?まるで、全員最初から『ここだけ』を狙っていたのかのような───)

 

(───そう、なのか?)

 

 

─────────────────────

 

 

次々に後続が前に出ていく。

 

まるで、『安全圏を最初から知っているかのように』。

 

『仕掛け時を最初から聞いていたかのように』。

 

『道中を冷静に、脚を溜める差し、追い込みを得意とするウマ娘ばかりが集まったかのように』。

 

すいすいと、ダイヤローグの外を塞ぐハルノユメの外を最短距離で抜けていく──!

 

「ハルノユメが狙っていたのは、これだ」

 

『根回し』。

 

自分が厄介者を抑えるという条件で結ばれた共闘。

 

あるいは、かつて悪女の害を被った者や近しい者を寄せて集めた復讐の淑女同盟。

 

「自分以外の出走ウマ娘を全員選抜し、契約を持ちかけ、『ダイヤローグを自分ごと全員に抜かせる』ことを対価とした、世界一最低の談合だ…!!」

 

 

────────────────

 

 

「そんな…!これが…まとなレースで許される筈が──!」

 

「最初からまともなレースじゃないことを、私たちは知っていたはずだよ。…しかし全く、派手にやってくれた。後ろの者からしたら最初から知った上で力を温存して前を警戒せず走れるならそれはもう障害ですらない。適当にペースを合わせてついていくだけとなると大袈裟に言えば歩いているのとそう変わらない。ダイヤローグが外から抑え込みやすい内枠だったのも怪しく見えてくるというものだよ。だが、これでやっと彼女の計画の全貌が見えたわけだ」

 

「妨害を得意とするダイヤローグのレースを、最初から最後まで『妨害』してみせた。…自分の勝利を捨ててまで…!」

 

「そう。ただ打ち負かすだけでは足りないと思ったから、ハルノユメに依頼したんだ。しかしこれはもはや公開処刑と言っていい、彼女も相当頭に来ていたんだね。ああ見えて、レースに対しては熱い子だから」

 

「……会長。あなたはハルノユメと、どういう関係なのですか」

 

「うん?そうだね、私の頼みなら自ら戦績に傷をつけてくれる大の親友…などでは決して無い」

 

彼女は姉君たちのような最強でもなければ完璧でもない。

 

「言うなれば──学園のブランドを清く保つための掃除屋。彼女は理事会(がくえん)が入学させた特別な生徒なんだよ」

 

──────────────────────

 

「ふざけるなァッ!!こんなっ、こんなバカなことが罷り通るのかよ!!?」

 

(まだだ、まだ間に合う!一つでも前へ…!)

 

「だめ」

 

「アァ!?」

 

「行かせない」

 

(こいつさらに寄せてきやがった!?)

 

「やり過ぎだ!!てめぇ失格食らってもいいのか!?」

 

(……いや、いいのか)

 

(こいつのバックにいるのが)

 

(そういう存在なら)

 

(最初から……)

 

「───────くっそがぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

─────────────────────

 

 

「おかえり!!!よくやった、ハルノユメ」

 

「ただいま。宣言通り泣かしてきたよ」

 

「全く派手に叩きのめしたものだ!お前の罠にハマって実力にも知名度にもケチがついたダイヤローグは二度と『商売』ができない。無事依頼達成だな」

 

「うん。…ねぇ、トレーナー」

 

「んー?なんだぁ?打ち上げの話かぁ?フフフ…このマッドサイエンティストレーナーにぬかりはなぁい!!!ツキヨに脅されてひつまぶしの名店を予や」

 

「トレーナーはさ…嫌いじゃない?僕みたいな、勝手に1着になったり13着になったりするような子」

 

「……ふむ。そうだな…そんなこと、考えたこともなかった。ああいや違うぞ?お前のことをなんとも思ってないという意味じゃなくてだな…そんな顔するなって。

 

そうだな…今回のレースは出走ウマ娘の中で悪質な取引が行われたとして没収となった。何も知らず先頭で果敢に競っていたダイヤローグ、ハルノユメ以外の全員に長期の出走停止処分。これも理事会の仕込みか。お前のことだ、彼女らは納得ずくなんだろう?

 

何が言いたいのかと言うと…あー。なんと言うか…そう。私はほら、マッドサイエンティストレーナーだからな。私の異次元レベルの頭脳は既に、お前の知らないお前の未来を知っているんだ。マッドサイエンティストレーナーだから。

 

正しくは、過去を知っている。前世、と言っていいのかはわからんが……。

 

俺は元々、競馬に興味なんてなかった。子供の頃父親が熱心にテレビを見ていたがそれだけだ、積み重なった競馬新聞は開いてみても面白くなかったしな」

 

「……?」

 

「だから知ってたのはトップジョッキーと過去の名馬をほんの一頭か二頭。だから今でも信じられないんだ、こんな世界に来て何年もトレーナーとして過ごしてるなんて」

 

「……」

 

「きっかけはな、お前だったんだ。たまたま見かけたテレビのニュース…『日本で初めて凱旋門賞を勝った馬、ハルノユメ』ってさ。別段目立つ毛色でもないのに、その後流れた映像で全部持ってかれた。走る距離もわからない素人がだぞ?そんなヤツが何に惹かれたんだろうな!…一番は、ゴールかなぁ。黒い帽子にモノクロチェックの勝負服、靡くたてがみと尻尾が……あっ」

 

「……」

 

「いや…待て!違うんだハルノユメ、今の話は」

 

「つまり」

 

「つまりだな!そう夢!夢なんだ!」

 

「それくらい僕に凱旋門賞、取ってほしいんだね」

 

「……ああ。変な夢を見るくらい俺は信じてるんだ、ハルノユメ。

 

 お前がいずれ、凱旋門賞を勝つ未来を」

 

「そっか。運命、感じちゃったんだね」

 

じゃあ、行こうか。フランス。

 

 

 

 

この後、彼女らは多くの強敵と出会い、打倒し、時に打倒されながらも立ち上がって…遂には約束の舞台に辿り着く。

 

パリはロンシャンの舞台で『至上皇帝(インペラトール)』を討ち倒すその日まで…あと一年。

 

そう──これは、やがて世界一特別になる、現状世界一最低なウマ娘の、世界一特別なGⅠ制覇までのお話。




とにかく書き終わらないといけない。何故なら連載版のオチまで頭の中で全部考えちゃったから。いつになるかは未定です tipsをお待ちください
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