世界一特別なGⅠ制覇までのお話 ※12/10更新 作:クロカワ02
「というわけでちょっとばかり緊急事態だよ。早めに対処してもらえるとありがたい」
「はぁ」
「おっけぃ」
「なんて軽く引き受けてしまったが大丈夫なのだろうか」
「何が?」
「うむ、我らが依頼人である生徒会長は常に『形式』を重視する。『お決まり』の流れがあるのに最低限の説明もなかっただろう?」
「忙しかったとか」
「うむ、まあそれを言われると特に反論もできないのだが…毎度恒例みなさんご存知、なのに1話からカットというのはあまりにも」
「今回の相手は?」
「え?ああ、早速データが届いている。名前は…」
「エボルぅー…ラビットぉー!!こんにちは!お月様からやってきた新世紀ウマドル、エボルラビットだよ〜!!ラビって呼んでねーっ!」
……。
と、言うわけで。
とんでもない駆け足で俺たちの3年目の春は始まった。
エボルラビット。
確かにこの名前は色んな意味でヤバいかもしれない。
いや違う。今回の相手は…今までのような札付きではない。
送られてきたデータを見て驚かされた、今俺たちの目の前にいる、ハルノユメと自撮りを始めたウマ娘は、ウマドルなのだ。
「いえーいっ!」
「いえーい」
基本、競走の道を志すウマ娘は民間のクラブへの所属を通してゆくゆくはトレセン学園のトゥインクルシリーズ、あるいは地方トレセンのローカルシリーズへの出場を目指すものだが(家ぐるみでレースの振興とかを目指す金持ちの大派閥に属する人間は例外だ)、それ以外にも国内レースの道は存在するようで彼女──エボルラビットもまたそんなアマチュアリーグから極めて優秀な成績と多大な後押しを得て学園に編入した珍しいウマ娘である。
多大な、後押しを。
「えへへ〜!」
「えへへ?」
ウマドル。
かつて『完璧で究極のウマドル』と呼ばれた競走ウマ娘がたった1人で世間に根付かせた概念であり、一般的には【走って歌って踊れるウマ娘のアイドル】のことを指す。現在の学園にも現役のウマドルグループが存在するくらいに一般化した。
中には【ウマドルは言葉で語るのではなく魂で語るもの】とか強火のファンもいがちだが…とにかくエボルラビットもその内の1人で、一説にはアマチュアながらトゥインクルシリーズのスターウマ娘に匹敵するファン数を誇ると言われている。
なるほどそこまで売れていれば学園も無視できない一流アイドルだろう…実力が無いわけが無い。
実際その実力は編入試験時のデータが証明している、添えられた追記には間違いなくトゥインクルでも上澄みでありクラシックへの参加が認められないのがファンを大いに落胆させたとある。
「…んふふ」
「?」
成績、人気、実力。
その全てを吹き飛ばすほどの問題児でなければ俺も、一曲くらい買って聴いてみてもよかったと思う。
「ふひ…んへへ」
「??」
会長のデータに、曰く。
『彼女は合法違法問わずあらゆる手段で関係者に取り入り、得た支援でのし上がってきたコネの怪物である。』
「ハァ…ハァ…」
「???」
「…ん?おい待て、なんでハルノユメを吸ってる」
「はっ!!ラビはしょうきにもどった」
本当か?
エボルラビット。
俺たちが送られたデータを読み終わるのとほぼ同時にこのトレーナー室へ現れ声量マックスで名乗りを上げた彼女は既にこちらの正体と動向を掴んでいるのだろう。データ通りならもう学園内に支援者がいることになる。
一つも油断できない相手だ。こちらとしても警戒するに決まっている。
なのに。
「──エボルラビット。私とハルノユメに何の用だ」
暗躍と掌握で生きてきた女が何故、俺たちの前に姿を現した?
「……んー」
先程までのハイテンションと打って変わって彼女は視線を逸らし、困ったように頰をかく。…言葉を選んでいる?
そのまま少し悩んだ後、おずおずと口を開いた。
「…あのねっ。ラビはアイドルだから、ファンのためならホントじゃないコトも言うんでしょって思うかもしれないけどねっ。これから言うことだけは信じてほしーのっ」
きゅ、とハルノユメの手を握りながら前置きして。
「私ねっ、ハルノユメちゃんのコト、すーーーっごくカワイイと思ってるから!!」
と。
たっぷり溜めをつけて、頬を染めて、まるでファンのように……生粋のヴィランらしからぬ顔で、エボルラビットはそう言った。
「ハルノユメちゃんはすっごくカワイイの!!身長もお顔もちっちゃくてカワイイしライブの時表情豊かでカワイイし最近は脚がすっごくイイ!胸もお尻も比較的あってメリハリボディって言うか、見た目のロリ感に対して成熟してるって言うか、勝負服で大胆に出してるナマ脚がオトナっぽくなっててすっごくえっち!!」
「なるほど」
なるほどってお前。
「でもでもハルノユメちゃんは去年の菊花賞以来大きなレースに出ないし最近の成績を理由にもう終わってる扱いする人も多くて悲しいって言うか勝手に言うなって言うかっ!つまりっ!ハルノユメちゃんをもっともっと推すためにっ!ラビの思う最カワであるハルノユメちゃんのカワイイにっ!これまで磨き上げてきたラビのカワイイで挑戦しようってゆー企画なのっ!名付けてっ!」
「名付けて?……えっ、俺!?…ら、『ラビ×ハルベストマッチコラボ企画!トレセン最カワ三番勝負!』」
「わお。咄嗟に振ったのにすごいアドリブ力」
「ふっ。これでも有能トレーナーなのでね」
「うんうんじゃそれで行くねっ。で、勝負の内容なんだけどっ」
もっと評価しろ!
「任せるよ」
「いいのっ?へへへ、実は考えてきてますっ」
「有能アイドルだ」
「持ち込み企画だからねっ、気合入ってますっ!」
まず1戦目、自己紹介ととびっきりのネタでみんなのハートを掴んじゃえ!動画配信!
2戦目、魅せつけろ、トレセン最カワの意地とパフォ!路上ライブ!
3戦目、やっぱりウマ娘ならこれは外せない!GⅠ争奪ガチレース!
「ちなみにレースで勝ったら他2つ負けてても逆転勝利だよっ」
「……三番勝負なのにいいのか、それで?」
「企画だからねっ、面白ければおっけーっ!以上この3つでトレセン最カワを決めるよっ!いいイベントにしよーねっ!ハルノユメちゃんっ!」
……ろくにモノローグを挟む間もなく、ウサギと言うよりは嵐のように吹き荒れてエボルラビットは去っていった。
あっという間に廊下の角へ消えていくカチューシャの兎耳を見送る。
「……ハルノユメ、どう思う?」
「ウマッターでエゴサしたらさっきの褒め言葉と同じようなウマートが1番上に出てきた」
そうか、なら間違いない。
「明らかに罠だな。しかし会長はヤツを負かせと言っている」
「うん、やるよ」
「……まあ、そうするしかないな」
「それに」
「ん?」
「最後の、レースで勝てば逆転勝利ってルール。僕向けのハンデじゃないと思う。…例え他2つ落としても、レースは負けないって意味だ」
「ふむ。…実際強敵だろうな、何せ彼女はクラシック級にして学園認定の固有スキルの持ち主。『革命のムーンサルト』は伊達じゃないだろう」
「……前から思ってたけど、その二つ名どこから出てくるの?」
「ふっ…毎度俺が考えている」
「素晴らしい。一流のセンス」
「はっはっは。褒めるのは俺の仕事だぞハルノユメ!さあ、いつも通り紅茶を片手に作戦会議といこう!」
「…………」
「…ああ、副会長。おかえり、彼女たちの様子はどうだった?」
「いつも通りに能天気でした。それより会長、そろそろお休みになっては」
「そう言ってもらうのは…ふぅ…今週何度目かな。ふふ、ハルノユメたちが無事なら私の仕事はきちんと果たせているということだ」
「会長…!」
「いやはや。私は、私たちは彼女を侮っていた。…外部に情報を漏らしてはならない。学園の現状を外に握られるわけにはいかない。私ごときが身体を張って時間が稼げるならたかが数日の不眠…いや、凡人たる私には耐えられなかったから結構居眠りしてるけど…それでも」
「……」
「人に言えるものかよ──エボルラビットは既に理事会の半数近くを掌握し、学園は創設以来最大の危機を迎えているだなんて」