世界一特別なGⅠ制覇までのお話 ※12/10更新 作:クロカワ02
後日談、というか今回のオチ。
「エボルラビットは骨折したよ」
「うえぇ!?」
熱狂と情熱の三番勝負決着から2週間後。
生徒会室へ呼び出された俺とハルノユメに対して会長は全ての事情を詳らかに語ってくれた。
あの戦いの裏で学園の存亡がかかったとんでもないやりとりが行われていたことに俺は心の底から驚いた(ハルノユメはそうでもなかった)が、その後おまけのように付け加えられた「骨折」の一言で俺の心の底の深さは更新されてしまった(ハルノユメはそうでもないようだった)。
「ついさっき連絡が入ってねぇ。トレーナーにカメラ持たせて動画配信しながら練習に励んでいたそうだが、コメントに応えて走りながらファンサした拍子につまづいてぶっ飛んだそうだよ。幸い怪我人は彼女1人、設備の故障なし、彼女が顔面から着地して滑った芝は10mほどめくれたって」
「顔か……心配だがまあ鼻くらいなら」
「いや、折れたのは脚だよ」
「大事故じゃないか!?」
「ふっ。君は我が学園のにっくき大敵を随分心配するんだね?」
「あっ、いや、えっと」
「いじめないで。そういうところも、トレーナーの良いところだから」
「おやおや。まあそれには同意見だ、話を進めよう……と言っても残ってるのはオチと与太話くらいだがね」
怪我の程度はギャグみたいな絵面に対して相当重いようで、脛骨がぽっきり折れて全治3ヶ月、完全復帰まで長くて半年かかる。つまり期待されていた秋は絶望的だ、と。
「……あの勝負のせいだと、もしかして勘違いしたりしてないかな?」
「そこまでは思わないが……」
「が?」
「……クラシック級とシニア級の本格的な合流は秋だ。なのに春の段階で見られるもんじゃないレベルの、良い勝負だったとは思っていた」
「そうかい。私もだ。ハルノユメは?」
「いいレースだったよ。約束した通り」
「そうかいそうかい。……さて、残るは与太話なんだが、もうちょっと付き合ってくれたまえ。答え合わせをしたくてね」
「と言うと?」
「エボルラビットは何故ハルノユメを選んだのか」
「……」
「彼女の調査を進めながらずーっと気になっていたんだよ。ここまでの道のりを最高効率で進んできたあのエンターテイナーがどうして利益の少ない強敵を選んだのか」
「それは……俺たちも考えたんだが、思うに」
「私は気付いたんだ。逆だったんじゃないか、とね」
「俺の番じゃなかった……」
「彼女、最初からハルノユメを目指してたんじゃないかなぁ。最高効率で、跳ぶように」
「……実のところ、そう考えれば繋がることもあるという話は俺たちもしたんだ。いや、あんまり考えたくはないが……あの強火ウマッターアカウントとか」
「?ま、あくまで与太話だよ。真偽も何もない、あの時の勝負で終わった話さ。……そういうことにしておかないと、今回はあまりに騒ぎが大きすぎた」
できればもう忘れたいねぇ……と。
理事会の半数以上が入れ替わり、なんとか逮捕者が出なかったので超ラッキーだと語ったその顔はとてつもなく疲れていた。
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エボルラビット
当時、姉のネームバリューで注目されていたハルノユメの無表情ダブルピースに心の底から惚れた女がいた。デビューしたばかりのちみっちゃいウマ娘にマスコミが貼り付けた「国民的妹」のレッテルを憤死せんばかりに憎悪しながら「おみあしぺろぺろしたいお」とつぶやいていた女がいた。
世間の人間のいったい何人があの脚の価値を知るのか。
推さねばならぬ。
小さな身体に詰まったその可能性とつややかなあんよを。
女は引きこもりをやめ家を出た。全ては推しを応援するため。ハルノユメが出走する競バ場へ出向き最前列でその勝利を願い、ハルノユメを評価するワードを聞くたび腕組みで頷く。ライブでは公式グッズで完全武装して涙を流しながらペンライトを振った。
女は容姿がコンプレックスだった。誰もが無条件で彼女を愛してやまないこの世界がいやでいやで、見た目ではない自分だけの輝きを見出してくれないなら願い下げだと切り捨てたこともあった。
だがいたのだ!この世界で容姿以上に自らの脚で輝く天使が!
かくして女はマイエンジェルが引退する前に至近距離でぺろぺろすべく走り出した。色々あった過去のことはもう忘れた。
彼女の名前はエボルラビット。天使に手を伸ばすため使い詰めにした脚が折れた、墜落するイカロスでもあるが満足そうだ。
天上天下唯彼独尊。今はただ、ハルノユメだけが心地良い。
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「天然で残忍だねぇ……ろくに後ろも見なかったくせに「いい勝負だった」なんて。いや、余裕が無かったのかな?なんにせよさすがハルノユメ。今回の一件で火の点いた子もいるみたいだし、これからも頑張ってもらうとしよう」