才能というのは、なんとも理不尽なものである。大抵の事は努力次第でどうにかなるかもしれないが、容姿や身長など努力ではどうにもならないことがある。この世界に住む人はそれを受け入れ、個性として受け入れる。
才能による壁が当然のように存在し、努力ではどうにもならないものがある。持つものと持たざる者、この世界ではそれがハッキリと分かれている。
「才能....か。」日本防衛高等学校の門の前、曇り空の下で1人の青年が呟いた言葉は空に呑まれる。
青年の名前は「西条 信」 才能に恵まれなかった者。
才能というものが特別秀でた能力を指すのならこの男も恵まれていると言えるだろう。しかし、この世の中で才能とは即ち龍子能力のことを指す。
龍子とは大気にあるもの、それを操ることにより人間は進化してきた。龍災害と呼ばれる未知の怪物に、年々増える犯罪に、対処するため、龍子を扱うことは一般的なものになっている。
龍子能力とは龍子を変換する能力のことで、普通、火や水を出したり、身体強化に使ったり、戦いの場においては様々な活用法がある。龍子は酸素のようなもので、ずっと使い続けることは出来ず、長時間使うには相当な訓練が必要である。
龍子能力は使えるもの、使えないものがいるが使えるものは皆身体強化、物質生成、回復など1人で様々なことが出来る。
だが、この男、信はこの常識が外れていると言っていいだろう。
日本防衛高等学校、龍災害という怪物が街中に出没するというものに対処する「龍兵」を育てるために国が設立した教育機関、一般的な教養はもちろんの事、生徒の戦闘能力は高く、一般の龍兵と同程度の戦闘能力を持つという、エリート中のエリート高校。
そんな学校に、異端児とも言える存在が入学しようとしていた。
入試では、学力テストでは満点。しかし、龍子能力では最低点をたたき出し、学校中で話題になった男。西条 信は、重い足取りで入学式の席に向かっていた。
ああ、俺はこの学校で上手くやって行けるのだろうか。入学式も始まっていないのに、そんなことを考えてしまう。
人を助けたくて龍兵を目指しているし、本気で龍兵になりたいとも思っているが、入試でみた同級生たちの圧倒的な力に俺は自信をなくしている。
ああ、やめろ、くそみてえな気分になる。そう心の中で毒づき、入学式が始まる5分前に席に座る。
「すいません、隣いいですか?」隣からそんな声が聞こえて見上げると、1人の少女が立っていた。美少女、そんな言葉がまさに似合うような顔、髪は茶髪じみていて、ポニーテールにしている、スタイルもとてもよく、周りの男の視線を釘付けにしている。
「ああ、いいですよ」特に断る理由もないのでそう答え、入学式に向けて気持ちを切り替えようとするが、隣からの視線が気になって仕方がない。
「どうかしましたか?」同級生に敬語というのもどうかと思うが、人見知りな自分は敬語で話してしまう。
「いえ.........なんでもありません」
俺はなにかしてしまっただろうか、そんなことを考えている間に、入学式が始まる。
「はあ、大丈夫かな」
私、木下 日向は龍兵を目指していて、そのために入学した日本防衛高等学校の入学式に向かっている。
龍兵は命をかける仕事だからと両親に猛反対されたが、それでも私は諦めることが出来なかった。入試に向けてもう勉強したし、元から龍子能力は高かったから自信もあったんだけど、今年の入学生は色々すごいと聞く。名門 大谷家から双子の姉妹が入学してくると聞くし、他にも名家の人が揃っている。
私はそんな名家の出でもないから、とても緊張している。
そんな時は、あの男の人を思い出す。龍災害に巻き込まれて、目の前に怪物が現れた時、私を背中で守りながら命懸けで私を守ってくれた人。私が10歳の時、あの人は大体今の私と同い年くらいだから、龍兵になれば会えるかもしれない、そんな淡い期待を抱いている。
入学式の現場に到着すると、席は埋まっていて、最後列しか空いていないことに気づいた。隣にはもう人が座っているからと、念の為に声を掛けると、その男の人は気だるげに了承してくれた。
その男の人、私の隣に座っている人は、身長は180はあるだろう背丈で、髪は短髪、顔は切れ長の目が印象的なイケメンだった。周りの女子から注がれる視線にも気づかないような素振りで椅子に深く腰をかけている。
私はその人の容姿よりも、記憶の中の男の人にとても似ていることが気がかりであった。お兄さんでもいるのかな?そんなことを考えながら心臓はバクバクいっている。6年だ、6年間もの間憧れていた男の人の手がかりになるかもしれない人がいる、それだけの事で私の頭はパニックになる。
入学式が終わり、席を立つと、隣の美少女が「すいません、名前聞いてもいいですか?」と言う。
「西条、西条 信です」
突然のことに驚きながらもそう答える。
「変な事聞いてすいませんが、お兄さんいらっしゃいますか?」
そんなことを突然聞かれる。
「いえ、姉と妹なら」
「そう、ですか」
そんな会話をしたあと、彼女は失礼しますと言って立ち去ってしまう。
いったいなんだったんだろうか。