僕は怪人。そして君は最高のヒーローだ。   作:木偶人形

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そして始まる「(Epi/Puro)rōgu」4

 時が止まった。

 

 僕の周りに浮かぶ塵が、空気が、飛沫と化した汗が。

 冗談でも比喩でもなく実際に時が止まっている、いや正確には止まっていないのだがそれに近い現象が起きている。

 

『監視世界』の力は『観察』と『停止』『強化』の三種複合(トリプル)と呼ばれる珍しい力だ。

 それを成すためには能力同士に親和性がないといけないしそれぞれの魂玉に認められねばならない、その上それぞれを同時に受け入れ纏め上げる才能も必要だ。

 故に『監視世界』は能力評価A+という現状最大の評価を与えられている。

 その能力は、『監視世界』が見ている世界が正しくなる、噛み砕いて言えば見ることの出来る器官で見たものをその状態で()()()()というもの。

 いや、これでも言い方が悪いか.では実例として今『監視世界』やったことは目で見た状態で、そのまま目を閉じることによって閉じる寸前に固定した。その固定された世界は再び『監視世界』に観測される事でしか動き始めることが出来ない。

 片目だからこそ停滞で済んでいるがこれが両目を閉じた場合、周囲一帯の時を完全に止める事が出来ると聞いているが定かじゃない。

 だがそうなれば動けるのは時を止めた本人だけ、視界という権利を捨てて時間という圧倒的アドバンテージを得るのだ。

 

 長々しく語ったが今やられているのは片目を閉じる方だ、仲間との連携の為片目だけを閉じる方を選択したのだろう。閉じる瞬間にそこに居なかったものは空気の重さ等を感じるが実際に停滞している僕程の制限を受けるわけでは無いだろうからね。

 

「『天体視感』腕と足を撃ち抜いてくれ、入念に」

 

「オーケー、とっておきをくれてやるぜ」

 

「『光壁』は念のため周囲を壁で囲っておいてくれ」

 

「了解したわ、扉の方はもう消しちゃうわね」

 

「いやそれは……」

 

『監視世界』が僕の顔をじっと見つめる。やがて何らかの結論を出したのか『光壁』の提案を許可し出口を塞いでいた壁を消し去った。

 やっぱり大きく繊細なものほど消耗はデカイみたいだね、それも二つ以上は顕著に出るようだ。

 

 僕は頭のメモリーに新しい情報として書き込んでいく。

 情報は力だ、それに知るだけでもそこに未知の楽しさがある、故にほんの小さな情報をも拾っていく。

 

 そういえば、だけど。

 

「特製の神経阻害弾だ、生物なら相応に効くぜ?」

 

 停滞した者は思考や認識も停滞されて何も出来なくなるんだよね。

 

「なぁっ!?」

 

「動いた、バカな.」

 

 僕に『私の見る世界/Time cut off』は効いてない。

 正確には効いているけど十割十全には効いていない。

 

 元々足の遅い神経疎外弾が停滞した空間に入り更に減速した瞬間にはもう動き出す。ギリギリの回避は成功し、縛り付けられるような停滞を全身に感じながら一目散に出口を目指す。

 

 これは、これだけは賭けだった。

 僕の研究の方向性が間違っていたり、たとえ正しい効果を発揮したとしてもそれすらも上回る強度で押さえ付けられていた場合あそこで詰んでいた。

 

「何故、強度7の『監視世界』が!?」

 

「能力はね、深度が一つ変わるごとに世界が変わるといわれている。それも奇数毎に明確な差が出るんだ」

 

 勿論能力自体の格があるので一概にはそうとは言えないが、先ほども言ったように僕は賭けに勝った、運が良かったのだ。

 

 蛇の鱗は魚などの鱗とは違い、鱗も体の一部ではなく生きた組織の上に鱗がある、全身をもう一枚の皮で覆っている状態になっている。

 そして、『監視世界』の発動条件は見ること。瞳に写る対象を保存し停止させる、期間は次に目を見開いて監視が再開されるまで。

 そこで僕は一つの仮説を立てた、完全に別離した外側と中身は同一の対象として捉えられるのかどうか。

 

 結果は成功、空気や外皮の停滞した重みや抵抗は感じるけれど思考はクリーンに動くし認識に時間のずれは存在しない。

 それでも一流のヒーロー達を一度に相手取らないといけない事実は変わってないんだよね。

 更なる想定外の幸運は出口の光の壁を解除してくれたことか。

 

 やはり、風は僕に吹いている! 

 

 格の話? 世間話だよ、それで相手がなにかを勘違いしてもそれは僕のせいじゃないよね。

 バレちゃったら認識を変更されて本当に停滞、停止させられてしまうかもしれないし。

 

「来るかっ、いや違う『光壁』出口を封鎖しろ!」

 

「了解っ!」

 

「やめて欲しいんだけどなぁ」

 

 ()()()()()()()()()呟きの後、『監視世界』にも聞こえるように舌打ちをする。

 これで焦って壁を張ってくれたら御の字、こちらの意図に気づいて全ての容量を防御に回してきてもそれはそれで良い。

 

「壁張り優先……なら」

 

「この距離ならかわせねぇだろ!」

 

「ならまずは『天体視感』だ」

 

 一番距離を詰めていた『天体視感』がその自慢の銃器から六つの弾丸を吐き出す。

 かわす必要はない、そのまま突き進む。

 

 そして、六つの弾丸がそれぞれ僕の人体の急所に突き刺さった。

 

「んだと!?」

 

「弾丸が貫いていない、間違いねぇこいつ……」

 

「はは、もう僕に人間が作った玩具なんか通じるとは思わないことだね」

 

 嘘だ、めちゃくちゃ痛い。

 弾丸も貫通していないだけで衝撃と痛みは十二分に効いている。

 けれどここは押しきるところ、僕が圧倒的有利だと誤認させる。

 

「っ、前に出る。『光壁』は援護を『天体視感』は通じると思った弾丸を全て使え! 最悪殺しても構わない、停滞は確かに効いている怯むな!」

 

「えっ? いや分かったわ」

 

「了解、こいつをバカにされた分、のしつけて返してやるぜ。グラスクライ(俺の銃)を嘗めんなよ」

 

 片目を閉じたままの『監視世界』がどこからともなく取り出した無骨な細身の剣を抜く。相当の業物だろう、装飾を全て廃して性能だけを切れ味と軽さ、振るいやすさを突き詰めた形をしている、予想だけどそれだけじゃなくて最新の科学の応用と補助系の『能力』によって強化されている。

 

 ()()()な刃じゃない、喰らったら死ぬな。

 

 漠然とその確信があった。アンプルで強化した『蛇鱗』は通じない。おぞましいほどの寒気が背筋を突き抜ける。

 

 当然こんな大業物を持っていてこの能力だし片目を閉じたままの訓練も積んでいるんだろう。

 だけど実践で使われたという話は殆ど聞いていない、だとしたら停滞した世界で切り捨ててきたくらいの経験しかないだろう。

 ちなみに僕は強くなるために何でもやった、だから剣の扱いも分かるし他にも色々使える。最終的にヒーローと戦う怪人として相応しいのがこの戦い方というだけだ。

 

 だから僕は素手対剣という不利すぎる条件でも戦える自信がある。

 迷い無く突き進む僕に『天体視感』と入れ替わりで『監視世界』が前に出てくる。

 

 構えをとった『監視世界』が腕を振り上げる。綺麗な無駄の無い動きだ、剣先に微塵の震えもない。

 音も無く踏み込むと同時に斬り下ろされるそれを半身になって回避を試みる。

 

 空気の切り裂かれる音、そして僅かに紅い鮮血が舞い散った。

 出所は、僕の右肩だ。

 

 かすったァ! いてぇ! 

 こ、こいつ!この剣、切れ味や能力防御特効だけじゃなくて痛覚軽減を無視して更に倍にする機能も付いてるなっ! 

 これもう剣じゃないだろ! 

 

 僕の心の絶叫を無視して更なる剣閃が迫り来る。視界の隅では装填を終えてこちらに狙いを定める『天体視感』の姿も見える。更に僕の視界から外れようとしている『光壁』が走っているのも見えた。

 

 絶体絶命、だがまだ行ける。楽勝だね! 

 先ずはこの剣の処理だ、これは気合いとかそんなんで防げる代物ではない。

 

 だから、こうする。

 

「獲ったッ」

 

「足で……無茶苦茶を!」

 

 うるせぇその剣の方が無茶苦茶だよ。剣を足で思い切り横合いから左足で蹴り飛ばす、剣筋が綺麗だけど綺麗すぎて素直だから出来ると思ってたよ。残った足を更に踏みしめて剣を蹴り飛ばす際に僅かに曲げていた余裕を使い、足裏で『監視世界』に叩き込む。

 だが、この硬い感触は防がれたか。

 

「助かった『光壁』」

 

『光壁』からの返事はない、声で位置がバレるのを嫌がったか。

 硬直は一瞬にも満たない、足裏に感じる光の壁を踏み台にして飛び上がり飛び蹴りの要領で再度の追撃を試みる。

 だが、直撃する寸でのところでの発砲音、同時に六発の弾丸が僕の体に突き刺さる。

 

 それに逆らわず吹き飛ばされることで無理矢理に『監視世界』から距離を離す。弾丸はいくつかは弾くことが出来たが、二発ほど鱗を砕かれてしまった。衝撃の質からして先端を平たくした打撃の性質を持つ弾丸を使ったようだ。

 いやそんなもの乱戦中に撃ち込むなよと。外すことはあり得ないという自信から来るものだろうが。

 

 だがお陰で目的の距離を稼ぐことができた。しつこく出口を目指すことによって目的は脱出だと信じ込ませることも出来ただろう。

 

 証拠に三人は追撃を仕掛けてこずこちらの出方を伺っている。

 

 ちらりと三人を視界から外さずに戦っている『鱗人』を伺う。

『巨人』を相手にしている方はもう限界か、体を構成する物質を留めることが出来ていない。

『身体加速』の方は腕一つ持っていかれているが直ぐに消滅しそうというほどでもない。

 

 予想以上の戦果だ。僕の予想では最低でも一体は落ちているものと考えていたからだ。この状況に持ち込んだ時点でもう一体の方も瀕死か消滅済みに成っていると考えていた。

 

「オーダー『離脱(帰ってこい)』」

 

「!」

 

「なぁっ! 逃げやがったぁ!?」

 

 命令を出した瞬間脇目もふらずこちらに駆けてきた二体を出迎える。

 ヒーロー達も不可思議な指示を出した意味を図りかねて動かない、動けないでいる。

 あ、『巨人』が突撃してきそうだおいバカやめろ。だが寸でで隣に移動した『身体加速』に止められる。

 ふぅ、セーフ。この状況で一番不味いのは全員で仕掛けられることだ、慎重そうで思慮深い『監視世界』にそんな指示を出せるとは思わない。

 

 よくやった、お前達は休んでくれ。

 二体の『鱗人』を融解させコアである黒い鱗を回収する。

 

 未だに真意を掴めず警戒しているヒーロー達に見せびらかすように懐から一つの装置を取り出した。

 掴みやすい筒状の棒の上に赤いボタンが取り付けられているそれは悪の研究者が必ず用意すると言ってもいい一種の花形。絶対に必要だと我が王を説き伏せ無理矢理付けた、今日に至るまで一切「使うこと無いだろうなぁ」と薄々思っていた最期の装置! 

 

「……?っ!しまっ、『身体加速』『光壁』! やつを止めろッッ」

 

「ハァッ!」

 

「え!?」

 

 動けたのは『身体加速』だけ、『光壁』は意図を図りかねた分だけ初動を遅らせてしまう。

 

 間に合う可能性が合ったのは『光壁』だけ、いくら速くとも『身体加速』では止められない。

 気付いた一瞬で指示を出したのは流石だ、僕では出来ない、やるなら事前に打ち合わせが必要だ。だけどそれは僕だけじゃない、一瞬で、一言で意思を伝えることは無理なんだ。

 

 だから止められない、間に合わない。

 

 いつもなら間に合うのだろう、その『監視世界(世界を止める力)』の力で、いつもならまずその状況に持ち込まないのだろうその優れた思慮と慎重さで。

 

 だが今は、この時だけは僕の勝ち。

 

 準備は整っている、この位置も最高だ。強化された『蛇鱗』に戦闘開始前に起動した、というより解除した安全装置。

 

 悪の科学者、秘密基地、最後の抵抗、これ見よがしなスイッチ。

 ここまでくれば誰でも分かるだろう。

 

 そう僕は……

 

「やつは、この施設ごと自爆するつもりだ!」

 

「さぁ! 最大最高のショウダウンだァッ!」

 

 自らの手でこの組織を終わらせる。

 

 最高の気分と共にスイッチを押し込んだ。

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