僕は怪人。そして君は最高のヒーローだ。   作:木偶人形

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Show of Immature Hero
第6話


 目覚めはいつも憂鬱で気だるげなものだ。

 知り合いの怪人が言うには蛇は変温動物だからそれが関係していると言われたが僕は蛇の怪人であって蛇ではないと否定すると大きな声で笑われたものだ。

 

 それからというもの素早く起きれるように練習しているが、いつもいつも暖かい布団に包まれてしまってしばらくを夢うつつに過ごしてしまう。

 今日もいつもと同じように布団をかぶり直そうとして......冷たい床に投げ出されている現状に気が付いた。

 

 「ぅっ」

 

 声が、出せない。痛みで視界が、思考が混乱し、まともに状況の把握すら出来ない。

 同時に、腕が、足が、焼けるような、いやそれ以上のまるで神経を一つ一つ下ろし金で擦り下ろしたかのような痛みに襲われる。

 

 「ッ!」

 

 声に出せない、出来ない悲鳴。喉が完全に潰れているのか声を出そうとすると激しい痛みに襲われる。

 脂汗が滲み出る、全身をべっとりと張り付いた服が更に冷たくなった気がした。

 

 緊急脱出装置は、転移は成功したのか?

 いや、成功している。失敗してたら死んでいるはずだ、なら成功したと考えた方が良い。周りを確認できれば一瞬で判断ができるがそれができない今、それ以外の要素で見極めるしかない。

 

 腕を、手を必死に動かす。痛みに耐えながらの緩慢な動作だったがコツンと、切り落とされて無い筈(左腕)の指先が中が詰まった容器のような物が触れる。

 アンプル、だろう。指先でそれぞれのアンプルに彫られている印を探す、この印はβで間違いない。

 近くに注射器は...手で探った限り見つからない、βアンプルに治療効果は無いが今必要なのは治療効果では無く、痛みの軽減と精神保全効果による思考の安定、戦意高揚によって全身のダメージを無視して動かせるようにする事だ。

 

 アンプルは注射器にセットしないと中身が取り出さないように成っているし丈夫に作ってある、何故かある左手で思い切り握り締めても壊れないように。

 

 要は()()できれば良いんだ。

 なりふり構っていられない。

 

 βアンプルを今できる限界まで無理矢理に振り上げ、地面に叩きつける。硬質で、甲高い音が耳を貫き頭痛が酷くなる事にも関わらず何度も何度も叩きつけようやく砕いたと確信する音がした。

 

 地面に広がるβ液を啜る。

 苦いような痛いような何とも言えない味と風味に咳き込みそうになりながらも気合いで飲み込む。

 

 経口接種は想定されていなかったからくそ不味い...今度作る時は味も美味しくしようかな。

 

 速効性の薬液が効果を表してきたのかやっとまともな思考を取り戻す。

 やっとの事で視界から得る情報を脳が正しく受け取り状況の把握が出来ていく。

 

 小さな風の音すらしない静寂、冷たいタイル張りの床...それを染めるおびただしい量の血液。

 荒々しく繰り返される呼吸音が、耳が潰れそうな程の心臓の音が、僕に未だあるを()実感させる。

 

 うん、ここは隠れ家に違いない。荒らされてもいないし...転移に成功したんだ。

 

 ゆっくりと、言うこと聞かない体を動かして池のような血溜まりから顔を上げ、悲鳴をあげる筋肉を無視して立ち上がり首を左右に動かした。

 

 複数ある様々な資料が収められた本棚、頑丈そうなテーブルに座り心地の良さそうな椅子に棚の扉ガラス越しに見える様々な実験器具、そして非常用の道具が多く詰め込まれた大きな収納箱。

 

 一見、一切扉がないこの状況からしてこの隠れ家は全くの無事のようだ、外の様子は分からないがここは安全だ。そう自覚すると、知らず知らずのうちにため息を吐き出す。

 実に三年ぶりの来訪に、もしかしたらという疑念を何処かで持っていたらしい。

 

 「最初の課題は終わった、次はなぜ僕が立てているか、だけど...」

 

 そう、立てているのだ。

 足を『監視世界』に切り落とされたのにも関わらず、足をその場に置いてきたのにも関わらず、だ。

 

 接種してあったアンプルの内、αとβに回復や肉体修繕効果は無いし僕の肉体にも切り落とされた手足を、治療もせず再び生やすような真似は出来ない。

 そもそも再生能力が高く僕よりも遥かに強い怪人と言えど、何もない状態で腕や足を生やすことはできない、できるのはそういう専門の能力を持った者達だけだ。

 

 「切り落とされた箇所が未だに()()()()()()()しなぁ」

 

 いや、生えてきている理由はある程度予測をつけれている。

 問題はそれに比例して僕の体がどう変わってしまったかだ。

 

 「最悪の場合能力が一切消えてしまっていることもあり得る」

 

 元々αの反動で幾らか深度が下がってしまうのも目的の範疇だったが、完全に消えてしまっては元も子もない。

 

 「能力の使用を...いやその前にエネルギーを補給しないと」

 

 怪人と呼ばれている僕達でも何も食べずに生きていけるわけではない。力を使うにはエネルギーが必要だ、能力の中には体内の物質を使って発動するモノが殆どだ、かく言う僕も『蛇鱗』を使うとき体内の物質をvis使い変換、皮膚を硬質化させる...という幾らかの段階を踏んでいる。他の能力も同じ様に何らかの物質を変換しているなどと既に幾つも検証済みだ。

 

 これは能力も完全に無から生み出している訳じゃないという世紀の大発見でもある。

 

 あの『監視世界』ですらそれは()()()()()()だろう、僕には対峙した後の今も全く理解できなかったがいつか解き明かしてみたいものだとは思う。

 

 ふらつく頭を抱えながら一頃を探り、怪神の魂玉が有ることを確認する。これが無かったらここまで来てどうすればいいのか途方にくれるところだった。

 

 「懸念事項は良し。で、非常用の道具の中に水とエネルギー補給剤があったはず...」

 

 様々な思案を脳裏に駆け巡らせながら、重い足取りで非常用の道具が詰め込まれた収納箱を開き、その中から一つ銀色の袋に包まれた長細い怪人専用のエネルギーパックを取り出し開封する。

 

 うん...腐ってないよね?

 中身を取り出して臭いを嗅いでみたが異臭はしないし大丈夫だろう。

 

 勢いよくかじりつく、ふわっと鼻を突き抜ける独特な風味と口の水分が奪われるようなパサパサ感。

 

 うん、大丈夫大丈夫。いけるいける、かなり味が薄すぎて気持ちが悪いけど......ん?

 

 「っ?...ァッ!?オェェ......」

 

 み、水を!

 

 同じく非常用の収納箱に入っていた水袋を取り出し口をすすぐ。地面が汚れることもお構いなしに水を口に残るエネルギーパックと共にぺっと吐き出す。

 

 クソッ、危ない......もう少しで飲み込んでしまう所だった...

 

 少量で大量のエネルギーを補給できるこの怪人の非常食とも言えるエネルギーパックは少しの分量で満足できるように味がかなり濃く設定してある、そして怪人も食事をするのでこれしか食べれない状況に追い込まれた時も士気をできるだけ落とさないように、怪人好みになるように濃く設定してあったのだ。

 それにも関わらず薄く感じたということは、つまり僕の今の体にこのエネルギーパックは合っていない可能性が高い。

 そして僕はこのエネルギーパックの開発者だ、怪人以外の生物がこれを食べた時、どう感じるか、効果はどうなるのかと実験を重ねている。

 

 怪人の体質的問題でエネルギーパックが食べられない場合、それは味が濃すぎて食べれないから。

 怪人の体調的問題でエネルギーパック食べられない場合、それは臭いがキツく感じて食べられないから。

 魚や虫や鳥の場合は、食料とみなされる事がそもそも無かった。

 

 ならば薄く感じて食べられない、美味しくないと感じた場合は?

 

 「オイオイッ!!そんな事ってありえるのか!?」

 

 その場合に適合するのはたった一例だけ。

 

 「僕は人間に成ってしまっているのか?」

 

 人間が食べた時に感じる感覚のみがこのエネルギーパックを薄いと感じるのだ。飲み込んだ場合も消化できずに長期間の間体調を崩す。

 

 本当に、本当に僕は人間に成ってしまったのか、そんな事が有り得て良いのか?

 

 「いや違う、本当に純度100の人間ならかじった瞬間に戻すレベルで体がこいつを拒否するはずだ...不味すぎて」

 

 ならばどういうことだ?

 ......分からない、情報の整理が必要だ。

 

 まず、原因となる可能性をあげていく。

 

 「あの『監視世界』の剣の攻撃を受けたから」

 

 違う気がする、そもそも斬られた瞬間に入り込む毒を仕込めるなら他のモノにするだろう。

 

 「大量出血で怪人の因子が殆ど抜けたから?」

 

 違う、そんなもので抜けるのならまず怪人は産まれてきてすらいない。

 

 「...δアンプルの副作用?あの状態になってから使用したケースが存在しなかったから見つかって無い副作用はあり得るかもしれないけど」

 

 違う...とは言い切れない、δアンプルは簡単に言えば体内を作り替える薬だ、それも人間に近づけるように。

 だが、ナノマシンで取り込んだ元の細胞から情報を抽出して、それを元に怪人に戻れるように調整をしてあったはずだ。でなければそんなもの実用段階まで持ってこれるわけがない。

 

 あ......もしかして、元となる肉体が足りなかったのか?それかナノマシンが元々入力してあった人間の情報から肉体を作るために手足を生やしてその時点でエネルギーが尽きてしまったのか?

 

 ならば苦し紛れだが何とか手足がある現状にも説明がつく。

 

 「あぁ、自分の身体なのに理解しきれていないのがもどかしいなぁ」

 

 僕の身体は隅々に至るまで既に調べ尽くした、だからこそ限界が分かるし自分に適応するアンプルシリーズ何て物も作れたんだ。

 αとβは全ての怪人人間に適応するように改良できたけどδだけは無理だったんだよね、前提条件から何まできつすぎる。

 

 ともかく、血液検査もできない今は取り敢えず暫定人間でやっていくしかない。

 

 「となると...非常食はすべて全滅な訳だけど」

 

 外に、出なければいけない訳で。

 

 「一応お金は有るんだけどな...」

 

 他の問題が多すぎるんだよなぁ、そういえば今の姿はどうなってるんだろう?

 

 疑問に思い、棚のガラスに反射した僕の姿を目に写す。

 

 そこには酷く疲れた様子の目付きの悪い青年が立っていた。

 

 「外見はクリアっと」

 

 今にも死にそうな顔色だが人間の姿だ。問題無い。

 

 血まみれの服?全裸よりはマシでこれだけ赤かったらそういう服だと勘違いされ...たらいいなぁ。

 

 外見notクリアでした。

 

 「いや、服はこれしかないクリアでごり押ししよう」

 

 次に土地勘...これは流石に大丈夫、なら次は...無理だ悩んでいたら無限に出てくる。時には思い切りも必要だ、食べるものが無い上に周囲の状況を確認するためにはどうせ外に出ないといけないしね。

 

 「最低限の護衛と護身道具だけ考えようか...あぁ、本当にやることは山積みだなぁ、ははは!」

 

 色々と問題しかない現状に、僕はどうやって再び這い上がり光の前に立ち塞がるかという問題に楽しみを見出だしてしまっていた。

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