或る刀の一生   作:kiramaru

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前回の後書き追記にも書きましたが、あれこれ言いつつ最初の予定に立ち返りました。
言ってることがコロコロ変わってしまい、本当にすみません。m(_ _)m
今回はエニエスロビーでのあの瞬間と、その後のウォーターセブンです。


突然の終わり

((きっと楽しいよ))

そう言った彼女の笑顔は、つい昨日の事のように覚えている

それなのに、自分はなんと呆気ないのだろうか

 

仲間を取り戻すために突入した司法の島・エニエスロビー

そこで発令されたバスターコールを受けて攻め込んできた海兵に、ゾロは雪走で斬りかかる

すると、海兵は少しも驚くことなく自身に向かってきた刀身を素手で受け止めると、雪走の刀身は一瞬にして赤茶に錆びて砕け散った

己が本体が瞬く間に消え去ったことに、雪走は目を見開く

彼女が折れた瞬間、ゾロの愕然としたと同時に悲嘆にもくれたような瞳が、雪走の黒壇の双眼に焼き付いた

 

((雪走!!))

鬼徹から驚愕と悲嘆の混じったような叫びがあがる

どんな戦闘でも高揚と歓喜を感じていた彼が、初めて動揺に声を震わせた瞬間だった

《鬼徹、集中なさい》

雪走の魂は消えそうな意識の中で声をかけるが、うまく伝わらない

その直後、((鬼徹!!))という和道の叫びに彼はやっと我に返り、戦場に向き直った

既にゾロは冷静に戦闘を続行している

今は自身と仲間の命がかかった戦いの最中、刀の一本を失ったところで動揺している場合ではない

《そう…それで、良いのです…》

雪走はふわりと微笑み、そのまま意識を手放した

 

*****

 

《ここは…?》

気がつくと、目の前には瓦礫の散乱する海辺が広がっていた

ここが黄泉なのだろうか、と雪走は一瞬考えたが、すぐに黄泉ではないことに気付いた

目の前に、己が主人と仲間達がいたからだ

《主様》

雪走はゾロの隣にそっと腰を下ろす

当然ながら、彼がそれに気付くことはない

彼の手にはほんの少しだけ刀身を残した雪走の本体が握られており、少し離れた場所では和道と鬼徹が無言で海を眺めていた

 

《私は…》

雪走は自分の掌を見つめる

既に本体は修復不可能な程に損壊し、魂との繋がりはない

本体である刀身が破壊されてしまえば自分もこの世から消えるものと思っていたが、存外刀の魂というものは丈夫らしい

いや、と雪走は首をふって苦笑した

《今の私は、ただの未練がましい亡霊です》

 

あの日、自身を連れ出してくれたゾロのために生き、ゾロのために戦い、ゾロのために死にたい

あの狭い蔵の中で一生を終えるくらいなら、文字通りこの身が朽ち果てようとも構わない

あの頃抱いていた思いに嘘はなかった

だがそれでも、世界の半分も巡ることなくあのような場所で終わってしまうことなど、予想も望みもしていなかった

 

「……“雪走”…」

ゾロの唇が微かに動き、死した愛刀の名を呼ぶ

「悪かったな……」

《いいえ、主様と皆様がご無事で何よりですわ》

嘆くでもない、叫ぶでもない静かな呼び掛けに、雪走は応える

聞こえないと知りながら、届かないと理解しながらも、それでも彼女は応えた

 

数日後、ゾロと仲間達は新たな船に乗ってウォーターセブンを後にした

抜け殻となった雪走の本体は、未だ彼の腰に提げられている

《刀である私のことなど、所詮“物”だと割り切ってしまえば良いのです》

普段の斜に構えた態度とは裏腹に情の深い彼には、到底できない事だとは雪走も理解していた

それでも、どこまでも敬愛する主と仲間達には、そのような事で立ち止まってほしくはなかった

 

《さて、いったいどんな刀が私の後釜として座るのでしょう》

新たな仲間の加入と離脱していた仲間の帰還を祝う宴の様子を眺めながら、亡霊となった雪走はふわりと思案する

ゾロは三刀流の剣士だが、刀が二振しかない現在の状況ではその力を最大限発揮できないだろう

もちろんその事は和道達も理解していた

 

((三刀流の剣士が刀二本しかないなんて、キまらねェだろ))

((それは、そうだけど…))

((俺達は新しいメンバーを迎えてゾロを世界一の大剣豪にする。それが、残されたモンの責務ってやつだろ))

特に雪走とは「同期」ともいえる鬼徹は、普段の飄々とした態度から想像もつかないような真面目な発言をしていた(直後に和道にからかわれていたが)

悲しいけれど、寂しいけれど

空席が出来てしまったのなら、新たな刀へ移ろい行くのが定め

《次は、私より強くて頑丈な方だと良いですね》

そう呟くと、雪走はそっと目を閉じた

 




次回、リューマ戦になります。
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