バチンッ!!と何かが弾けたような感覚が襲い、雪走の意識は急浮上する
目の前の光景は未だ黄泉ではなかった
《あれは…!》
散乱する瓦礫の中に、馴染み深い者達が傷だらけで横たわっているのを見つける
慌てて駆け寄った雪走の脳裏に最悪の状況が過ぎったが、微かに胸が上下していることに気付いて安堵のため息をついた
だが、そんな彼らの傍を巨大な影が横切った
まるで熊のような巨体の男が静かに瓦礫の中を歩き、麦わら帽子の少年にゆっくりと近付く
《船長様!》
雪走が誰にも聞こえない叫びをあげたその時、
「“獅子歌歌”!!!!」
瞬足の一太刀が駆け、男を一瞬よろめかせた
《主様!!》
そう叫んだ雪走の声には様々な感情が混ざりあっていた
ゾロの攻撃が間に合ったことへの安堵
彼が既に限界の身体を酷使している事に対する心配
目の前にいる謎の男への純粋な恐怖
そして、それをただ傍観することしかできない自分への悔しさ
彼女の中でたくさんの感情が渦巻き、それに呼応するように拳が握られた
「……………どうしても……………!!ルフィの首を取っていくのか…………?」
ゾロの問いかけに男は「それが最大の譲歩だ」と答える
それを聞いた雪走の拳に力が籠る
「わかった……首はやるよ」
((おい待て!!))
ゾロの静かな答えに待ったをかける声があがる
それは、まだ彼の刀となって時の浅い秋水のものだった
((なにが「わかった」だ!!お前は、自分の言ったことのいm!?))
今にもゾロに掴みかかりそうな剣幕の秋水を止めたのは、鬼徹だった
((ちょっと黙ってろ))
そう言って秋水を制する彼の頬には、一筋の涙が伝っている
和道も目に涙を溜めている
鬼徹も、和道も、そして雪走も
己が主の真意を悟っていた
「ただし、身代わりの……このおれの命一つで!!勘弁して貰いてェ………!!!」
その言葉を聴いた瞬間、雪走の頬を涙が流れた
その顔には苦笑が浮かんでいる
《ええ…あなたの答えは、わかっていました…》
出会った時からゾロの大切なものはわかっていた
いつも口にするのは己の掲げる野望のみ
だが、彼の胸の中に確かにもうひとつあるもの
それは、仲間達のこと
「なあ、もうお前とのためだけには、生きられなくなっちまったよ」
いつだったか、水面を照らす月に向かってそう呟いていたのを思い出す
いつだって仲間のために最前線で戦う姿を間近で見てきたからこそ、雪走には彼の選択がすぐにわかった
直後、コックのサンジが「コイツなんかより自分の首をとっていけ」と言ったが、ゾロはそれを阻んだ
((サンジ…ゾロの選択は、俺達でも変えられねェよ))
ゾロによって再度気絶させられたサンジに、鬼徹が静かに声をかける
普段は主同様「ぐるぐる」だの「エロコック」だのとしか呼ばない鬼徹が彼の名を呼んだのは、彼なりの感謝と謝罪だったのだろうか
「後生の頼みだ」
抵抗の意思がない事の証明としてゾロは刀を放る
和道は主を見守っているが、その頬には涙の痕がある
鬼徹の目からは未だ涙が流れている
秋水も新たな主人の覚悟を目の当たりにしたことで落ち着きを取り戻していた
男はゾロの頼みを受け入れ、船長ルフィの身体から“何か”を弾き出した
「今……こいつの体から弾き飛ばした物は"痛み"だ。そして"疲労"」
男はゾロにそれを受け入れろと言う
「ただでさえ死にそうなお前がこれに耐え切る事は不可能。死に至る」
試しに一つ、とばかりにシャボン玉のように弾かれた一部がゾロに入り込む
直後、聞いた事もない主の叫びが雪走の鼓膜をつんざいた
耳を塞ぎたくなるような悲鳴が止み、ゾロがその場に崩れ落ちる
((ゾロ!!))
鬼徹は飛び出しそうになるが、なんとか踏みとどまる
「……どうだ」
「場所だけ……変えさせてくれ…」
息も絶え絶えな身体をなんとか起こし、和道達から遠ざかるゾロ
雪走はそれに一人寄り添った
耳をつんざく悲鳴からも
仲間を思う気持ちからも
少しも眼を反らさず、雪走はじっとその場で見届けた